自転車ライター・米山一輝さんの目新城幸也はなぜ全日本で敗れたのか 入部正太朗を倒せなかった「2つの仮説」

by 米山一輝 / Ikki YONEYAMA
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 富士スピードウェイで行われた全日本選手権ロード、最終日に行われた男子エリートのレースは、入部正太朗(シマノレーシング)が新城幸也(バーレーン・メリダ)をマッチスプリントで下して初優勝を飾った。新城は負けてなお強烈な印象を残したが、それでも必勝を期したレースで3度目の全日本戴冠をあと一歩で逃すことになった。勝負を分けたポイントは一体どこにあったのだろうか。

入部正太朗(シマノレーシング)の後塵を拝してのフィニッシュとなった新城幸也(バーレーン・メリダ) Photo: Shusaku MATSUO

別府・新城そろい踏みに“切実な事情”

 今年の全日本ロードは、新城と別府史之(トレック・セガフレード)の両UCIワールドチーム選手が、2011年大会以来となる、8年ぶりにそろい踏みしたこともあって、例年以上の熱戦となった。筆者は現地の取材をバックアップする役割でネット経由の映像観戦をしていたが、お世辞にも上等とは言えない現地映像からでも、手に汗握る攻防が魂を揺さぶり、ゴール後は興奮で手が震えるほどだった。

個人タイムトライルにも出場し、大会を通してモチベーションの高さを示した新城幸也(バーレーン・メリダ) Photo: Shusaku MATSUO

 選手として走りある程度以上のレベルにあるのであれば、全日本のタイトルは是が非でも欲しいタイトルであり勲章だ。しかし新城と別府に関して言えば今年、全く違った切実な意味合いをもって帰国参戦したことは想像に難くない。近年、相次ぐけがやワールドツアーの出場選手枠減少により、ビッグレースに以前ほどの出場機会を得られなくなっている両者にとって、日の丸のチャンピオンジャージはチームへの大きな出場アピールになるのだ。

新城と同様に単騎戦となり苦戦した別府史之(トレック・セガフレード) Photo: Shusaku MATSUO

 さらに両者は東京五輪の代表選考ポイント争いにおいて、シーズン前半のけがから出遅れており、逆転に向けて少しでも大きなレースに出場していかなくてはならない。時差を越えての単騎参戦で不利かつ両者ともけが明けでベストの状態ではないなか、あえての出場を選んだのだ。

正しく勝った入部

 レースは残り3周、19周目に入ったところで、入部と新城を含む4人の先頭集団が形成された。すぐに1人が脱落して新城、入部、横塚浩平(チームUKYO)の3人に、最終的に先頭は入部と新城の2人に絞られ、ゴール勝負で入部が勝利を収めた。

なぜ格上の新城幸也(バーレーン・メリダ)は入部正太朗(シマノレーシング)に負けたのか Photo: Shusaku MATSUO

 しかし、ゴールに至る道中で走りが、一部で物議を醸しているらしい。逃げが始まってからの集団先頭を、映像で見る限り半分以上強力に引き続けた新城に対し、入部は先頭交代の順番は守ったものの、ゴールに向けて余力を残しながら“ほどほどの”先頭けん引にとどまっていた。ここで力を貯めた入部がスプリントで勝ったのはフェアではない、というのだ。

中盤は厳しい表情を見せた入部正太朗(シマノレーシング)だったが、粘りの走りで最終局面を迎えた Photo: Shusaku MATSUO

 筆者はこの批判は見当外れだと考える。レースとは勝利を目指すものであり、ましてや全日本だ。入部が格上の新城に対して唯一勝ちを狙える戦い方がスプリント勝負だった。新城もスプリント力のある選手だが、得意とするのはある程度人数のいる集団でスピードが上がってのスプリントで、ごく少人数での対決型スプリントでは、チャンスがありながら勝ちを逃す場面も過去幾度か見られていた。

 一方の入部は少人数の逃げからのスプリントを、自らの勝ちパターンとして持っている選手だ。トラック競技の経験もあり、マッチスプリントにおける引き出しも多い。ゴール勝負まで行けば勝てる可能性が高いのであれば、入部が取るべき行動は、集団から千切られず、後続から追い付かれない範囲で、可能な限り力を貯めながらスプリントに備えて立ち回ることだ。そして入部は、自らの役割を完璧に実行して勝利した。

無策だった新城

 一方で新城の走りは、筆者には無策に映った。入部をゴールまで連れて行けば、新城といえども勝てる可能性は決して高くない。ワールドツアー選手としてのプライドと、強い勝ち方を志向して先頭を長くけん引したというが、一方でライバルをいかに打ち負かして優勝するかという、明確なプランが見て取れなかったのだ。プライドのために勝ちを逃すほど、現在の新城に余裕があるとは思えない。

単騎で挑んだ新城幸也(バーレーン・メリダ) Photo: Shusaku MATSUO

 実は筆者は、先頭3人の逃げ切りが濃厚になった残り2周半の時点で、90パーセント新城が優勝すると見ていた。新城が勝つシナリオも明確だった。残り1周半を切った段階で、新城が長い上りでアタック、横塚は脱落し、入部は最初はこれを追うものの、延々と続くハイペースに半周後ついに根負けして遅れてしまう…というもの。単純な1対1の追いかけっこに持ち込めば、両者の地力の差は明らかだ。

 だが新城は、2人を引き連れたままラスト2周の周回を終え、最終周へと入った。後半の上りでようやく新城がアタックをして横塚を振り落としたものの、入部が反応して付くと、ペースを落としてしまった。残り1kmで再びペースアップをしたが、入部を振り切るには明らかに残り距離が少なすぎた。

なぜ新城は勝てなかったのか

 なぜ新城は入部を倒せなかったのか? 2つの仮説が浮かんだ。

 ひとつは、新城が入部の脚質をよく知らなかったのではという点だ。新城より5歳年下の入部がプロ入りした時、新城はすでにヨーロッパプロとなり、国内選手との接点はほぼジャパンカップやツアー・オブ・ジャパンのみとなっていた。その中でも新城と入部が、実際に勝ち負けを賭して戦ったケースはなく、新城が入部の強み・弱みを把握していなかった可能性はあるだろう。マッチスプリントでの不利が明らかなのであれば、もう少し違った攻撃もあったかもしれない。

ラスト2周回、ペースを上げる新城幸也(バーレーン・メリダ) Photo: Shusaku MATSUO

 そしてもうひとつは、実はもう新城に脚が残っていなかったのではという考えだ。忘れそうになるが新城は今年、キャリア最悪だったというけがで3カ月欠場し復帰した直後だ。そもそも全日本に出場できただけでも奇跡的だったという。万全ではないコンディションで、しかも根本的に不利な単騎参戦。レース前半から危険な動きを自らさばいての終盤である。

 最終的な先頭集団が形成された際、新城は一番最後に単騎で追い付いてきた。この際の勢いが入部らに比べて明らかに弱く、この時点で新城は少なからず消耗していることをうかがわせた。この直前の周回で新城は小石祐馬(チームUKYO)、小林海(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)と強力な先行集団を形成していた。勝負を決めかねない逃げに、メイン集団に残された有力選手が自ら決死の追走でこれを潰したが、この動きで先行、追走ともに多くの有力選手は決定的なダメージを負っていた可能性が高い。ここに続いた決定的なアタック、新城は何とか先頭に合流したが、他の有力選手はそもそも動くことすらできなかったのだ。

数的有利な国内チームが積極的に仕掛ける Photo: Shusaku MATSUO
国内の有力チームは人数を揃えて日本一を決める大一番に挑んだ Photo: Shusaku MATSUO

いまだ埋まらない欧州との差

 最終的な逃げの中で新城は積極的に先頭を引いていた。余力が無いのに先頭を一番引けるというのも変な話ではあるが、これがツール・ド・フランス7回を始めとするグランツールに過去11回出場し、全てで完走を果たしている新城の底力なのだろう。つまり、余力の無い状態でも走り続けられる速度域がとても高いということだ。その新城の引きにより、追走は振り切られてしまった。新城幸也という選手の強さの一端を、具体的に見ることができた瞬間だった。

口を結び2位でフィニッシュした新城幸也(バーレーン・メリダ) Photo: Shusaku MATSUO

 別府、新城の参戦で盛り上がりを見せた今年の全日本だが、両者に続くワールドツアー選手を生み出せていない現実は、今回改めて浮き彫りになったと言えるかもしれない。レース後に新城は「国内選手は決して弱くありません。パワーだけだと僕たちと変わらない選手もいます」と語ったが、本場欧州で戦うワールドツアー選手の、フィジカルテストの数値を超えた「強さの差」を感じさせたレースだった。

 別府、新城が30代後半という大ベテランの領域となった現在、改めてその強さの要素を知り、日本人選手はそれらをクリアーしていくことが求められている。残された時間は決して多くはない。

米山一輝(よねやま・いっき)

元ロードレース選手の自転車ライター。15年ほど国内トップカテゴリーで走り、トップ選手に千切られる日々を送りながら、たまにJBCFレースや国内UCIレースや全日本選手権TTなどで、2位とか3位とか4位とか5位とかの微妙な成績をいくつか収めたこともある。

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