ツール・ド・フランス2019直前コラム<6>史上最多7度目のマイヨヴェール獲得を狙うサガンは、いったい何が凄いのか?

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 前人未到の世界選手権3連覇、史上最多タイとなる6度のマイヨヴェール獲得など、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)は生ける伝説といっても過言ではない記録を打ち立てている。しかもまだ29歳ながら、通算112勝を飾っており、これから迎える円熟期にいったいどのような進化を遂げるのか楽しみな選手である。今回は、改めてサガンの何が凄いのか解説したいと思う。

史上最多7度目のマイヨヴェールを狙うペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA

ほぼ半数のステージがサガン向き

 サガンの凄さを知るために、サガンがツール・ド・フランスでタイムトライアルを除いたステージでトップ10に入った回数を調べてみた。サガンは過去7年ツールに出場しており、トップ10は66回入っている。1大会あたり9.4回という計算だ。ほぼ半数のステージを上位でフィニッシュできることが、サガンの強みである。

 例えば2018年の第2ステージでは、落車が多発する混沌とした展開だったことを差し引いても、通常の平坦ステージの集団スプリントでステージ優勝を飾っている。その前日の集団スプリントでは2位に入るなど、名だたるピュアスプリンターと対等に渡り合っていた。

 そして、何よりもそういったピュアスプリンターが生き残ることができないような上りスプリントにおいて、無類の強さを誇る。昨年のツール第5ステージのフィニッシュ地点は、ラスト1kmから平均勾配4.8%の上りとなっていた。さらに道中も無数のアップダウンが待ち受けており、ピュアスプリンターたちは早々に脱落していたなかで、サガンは最後の上りスプリントで圧勝した。

上りスプリントはペテル・サガンが一番得意とする局面だ Photo: Yuzuru SUNADA

 2016年の第9ステージではマイヨヴェール獲得のために、1級山岳を2つ越えた先の中間スプリントポイントで先頭通過を果たすなど、難関山岳を越えていくことができる。2015年ツアー・オブ・カリフォルニアでは標高1964m地点へフィニッシュする本格的な山岳コースを含むステージレースだったにもかかわらず、サガンは総合優勝した。

 バイクコントロールにも長けており、高速ダウンヒル、ウィリー走行、両手放しウィリー、階段をロードバイクで上るといった、もはやレースと関係のない曲芸のようなテクニックも持ち合わせている。

 サガンの脚質は一言でいえば「上れるスプリンター」ではあるが、その一言では説明できないような展開でサガンを勝利を収めているのだ。

無敵の乳酸除去能力

 これだけの走りを可能としている理由の一つが、サガンの体質にある。それは、乳酸除去能力が人の何倍も高いことだ。筋肉に乳酸が溜まりにくいために、他の選手より疲れづらく、インターバルのかかる走りをしても身体への負荷を少なくできるのである。

ダウンヒルを得意とするペテル・サガン =写真はツール・ド・フランス2016 第9ステージにて Photo: Yuzuru SUNADA

 かつて所属していたリクイガス時代の監督を務めていたパオロ・スロンゴ氏によると、「一般的な選手が最大出力を維持できる2倍の時間を、ペテル(サガン)は保つことができる」とのことだ。

 そのため、サガンは集団スプリントにおける常套手段であるリードアウトを使ったスプリントをあまりやらない。基本的にはマークしたライバル選手の背後について、その場面場面に応じてポジションを変えてスプリントに挑むスタイルを好む。

 リードアウトを務めるアシストに守られながら好位置をキープする方法に比べて、自ら脚を使ってポジションをキープするため、一般的には消耗が激しくなりがちだ。しかし、サガンは消耗してもすぐに乳酸が除去され、リードアウトに守られたライバルスプリンターたちと、消耗具合にさほど差がない状態でスプリントに挑むことができるのだ。

2016年のロンド・ファン・フラーンデレンを制したペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA

 この体質は、集団スプリントよりもアップダウンの激しい丘陵ステージで絶大な効果を発揮する。前述した2018年の第5ステージでは、終盤に登坂距離が2〜3kmで平均勾配が6〜7%の上り区間が3つ登場する。一つ一つの難易度はそこまで高くないが、断続的に登場することで、上りが苦手なスプリンターは消耗に消耗を重ねて、集団から脱落してしまう。

 しかし、サガンは上りきってから、次の上りが登場するまでの間に、乳酸が除去され、フレッシュな脚で上りをこなせる。そうして、スプリンターが普通は生き残れないような最終局面で、平坦ステージの集団スプリントで勝てるような脚を持った選手がスプリントしてくるのだから、勝ち目がないだろう。

シクロクロスとMTBで鍛えた技術

 そして、サガンを支えるもう一つ重要な要素がバイクコントロール技術である。

 サガンの自転車選手としてのキャリアの始まりはロードレースではなく、シクロクロスとマウンテンバイクだった。2008年にはマウンテンバイク世界選手権クロスカントリー・ジュニアカテゴリーで優勝、シクロクロス世界選手権ジュニアで2位という実績を残した。

サガンは2012年の第1ステージで、ツール初勝利を飾った。当時22歳の若さ Photo: Yuzuru SUNADA

 サガン自身も「若い選手にとってマウンテンバイクやシクロクロスで技術を身につけることが大事」と語っているように、これらの競技を通して、自在にバイクを操る技術を習得したのだ。

 高速でダウンヒルをこなすこと以外に、集団スプリントのように選手と選手が密集した場面でも巧みなバイクコントロールを見せ、隙間を縫うような走りだったり、先行する選手の付き位置から離れないよう、スプリントしながらでも急激な進路変更もできたりと、卓越したバランス感覚を幾度となく披露している。

 一見無茶に思えるライン取りも、サガンにとっては普通のこと。リードアウトに失敗して埋もれるくらいなら、自分で位置取りをした方がいいというスタイルは、なかなか真似できるものではないだろう。

 ただし、それが仇となったケースも少なくない。2017年第4ステージのスプリントでは斜行・接触によって、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)を落車させたとして、失格処分が下されたこともあった。(※実際には接触はなかったともいわれている)

昨年大会の終盤は落車負傷に苦しんだペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA

 2018年第17ステージでは、得意のはずのダウンヒルで落車。どうにか最終ステージまで完走したものの、一時はタイムアウトによる失格が危ぶまれるほどのダメージを受けてしまった。

 そういったミスも目立つが、言い換えれば改善点であり、伸びしろであるともいえよう。乳酸除去能力とジュニア時代に培った技術が下支えとなり、サガンは今日まで112もの勝利を積み上げてきた。

 今年のツールは7つの平坦ステージに加えて、サガン向きの丘陵ステージもいくつか見られる。果たしてサガンは何勝あげることができるのか、注目して見ていきたい。

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