福光俊介の「週刊サイクルワールド」<299>国内選手権ウィークが終了! 主要国のロード・TT各チャンピオンを総まとめ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 6月30日の全日本選手権ロードレースでは大熱戦が展開され、新チャンピオンの誕生に沸いたが、日本にとどまらず世界各国でも同時期にロードレースの国内選手権が開催されていた。その年の王者を決める年に1度のビッグレースを制することで、1年間、自国の国旗やカラーをあしらったチャンピオンジャージを着用し、レースに出場する権利が与えられる。2019年シーズンのロード王者は誰か、主要国を中心にチャンピオンを一覧としてまとめていく。

各国で国内選手権が開催され、2019年のチャンピオンが次々誕生。スペインでは世界王者のアレハンドロ・バルベルデ(中央)が3回目の優勝を飾った Photo: Photo Gomez Sport

会心の逃げ切り、劇的幕切れと各地でドラマ

 2019年シーズンのロード国内選手権は、UCI(国際自転車競技連合)の規定に沿って6月最終日曜(今年は6月30日)を基本として、その前の数日間も含めたレース日程が各地で組まれた。

 国内選手権を制すると、勝者だけが着用できるスペシャルジャージ(ナショナルチャンピオンジャージ)を翌年の同大会まで、おおよそ1年間にわたって着用する義務が発生する。どれだけの実績や経験を積み重ねていても、年に1人しか戴冠できないその頂に到達することは至難の業。毎年のように優勝候補に挙げられながら、チャンピオンジャージ獲得がかなわないままキャリアを終える選手も数多い。

スペイン選手権で主導権を握るモビスター チームの隊列 Photo: Photo Gomez Sport

 UCIワールドツアーでは基本、1チームあたり7選手、グランツールであれば8選手が出走するが、国内選手権ロードレースはチームの出走人数に上限はない。したがって、自国選手をメインに編成するUCIワールドチームや同プロコンチネンタルチームには、20人近い陣容でタイトルを目指すといった、スタート時点で他を“圧倒”する状況が生まれていることも。今年であれば、ベルギー選手権でロット・スーダルが19選手、フランス選手権ではアージェードゥーゼール ラモンディアールが18選手を送り込んでいる。

 そうした中で誕生した各国のチャンピオンたち。主要国を中心に見ていこう。

 6月30日、他国に先駆けて勝者が決まったのがスペイン。世界王者の証であるマイヨアルカンシエルを着用するアレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム)が、ルイスレオン・サンチェス(アスタナ プロチーム)とのマッチスプリントに勝ち、3度目の国内タイトルを獲得した。終盤に2人の争いとなってからは、バルベルデがサンチェスの動きを完全にホールド。フィニッシュ前150mからスプリントを仕掛けての貫録勝ちをみせた。これで、同国のチャンピオンジャージ着用の権利を得たが、ひとまずは9月下旬に開催されるロード世界選手権まで、マイヨアルカンシエルを優先して着続ける。

 スプリンターによる争いになったオランダは、気鋭のスピードマン、ファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ)が快勝した。ドゥクーニンク・クイックステップといえば、プロトン随一のスプリントトレインを誇るが、今回のヤコブセンは実質単騎で局面を打開。同国が誇るトップスプリンターのディラン・フルーネウェーヘン(ユンボ・ヴィスマ)が欠場していたとはいえ、価値あるタイトル獲得としている。

イタリア選手権ではダヴィデ・フォルモロが鮮やかな逃げ切り。35kmを独走した © BORA - hansgrohe / Bettiniphoto

 一方、単独逃げ切りを決めたのは、イタリアでのダヴィデ・フォルモロ(ボーラ・ハンスグローエ)。残り35kmで1人飛び出すと、最後の最後まで後続の追い上げをかわし、2位に27秒差をつけてフィニッシュへ。メイン集団では、スプリンターやアタッカーが追撃のチャンスを図ったが、勢いづいていたフォルモロまでは届かず。

 フォルモロにとどまらず、ボーラ・ハンスグローエは今年、「チャンピオンジャージコレクター」の趣きに。ドイツではマキシミリアン・シャフマンを筆頭に表彰台を独占したほか、オーストリアでは期待のクライマーであるパトリック・コンラッドが圧勝。エーススプリンターの1人であるサム・ベネットはアイルランドを制し、スロバキアではユライ・サガンが勝っている。個人タイムトライアルのタイトルを獲ったマチェイ・ボドナル(ポーランド)を含め、実に6つのチャンピオンジャージを獲得している。

一時は引退を考えるほど悩んでいたというワレン・バルギル。起死回生の勝利はフランス選手権でのものとなった Photo: Team Arkéa - Samsic

 劇的な幕切れとなったのはフランス。レース後半に形成された先頭グループから、さらに9人が抜け出し、そのまま優勝争いへ。最終局面にかけてアタックの応酬となるが、最後まで決定打は生まれず、生き残った7選手によるスプリント勝負に。これを制したのは、クライマーのワレン・バルギル(アルケア・サムシック)だった。

 スピードに長けた選手が控えていたうえ、複数メンバーを前方に送り込んだコフィディス ソリュシオンクレディ勢の存在など、一見不利な状況に見られたバルギルだったが、最後は小集団後方からの一気の伸びでトップへと躍り出た。かつては総合系ライダーとして大きな期待をかけられていたが、ここ数年は落車負傷や不調もあり、思うようなシーズンを送ることができずにいた。今年のボルタ・ア・カタルーニャでの落車リタイアがさらなる追い打ちとなり、一時は引退も考えたというが、家族やチームの励ましに背中を押されて戦線復帰をした先に、フランス国旗をあしらった3色のチャンピオンジャージがあった。

 このレースでは、優勝争いを演じた9人のうち、UCIワールドチーム勢は5位となったヴァランタン・マデュア(グルパマ・エフデジ)ただ1人(ほか8人は同プロコンチネンタルチーム所属)と、上位カテゴリーのチームが完全に後塵を拝する結果となっているのも特徴的。前述した、18人出走のアージェードゥーゼール ラモンディアールにいたっては、追撃ムードが高まっていた矢先に主力選手を落車で失うなど、厳しい結果に。負傷者の続出に、間近に控えたツール・ド・フランスのメンバー変更を余儀なくされるなど、アクシデントが尾を引くものとなってしまった。

ジャイアントキリングが起きたベルギー。シクロクロッサーのトム・メルリエが混戦を制した Photo: Photo News

 ベルギーでは、大番狂わせ“ジャイアントキリング”が発生。スプリントで決したレースは、UCIワールドチーム勢を徹底マークしたティム・メルリエ(コレンドン・サーカス)が強豪を撃破した。コレンドン・サーカスといえば、シクロクロス世界王者のマチュー・ファンデルプール(オランダ)がロードでもその力を見せつけているが、メルリエもシクロクロスでは同国トップライダーの1人。ロードシーズン途中の5月にチーム加入したばかりだが、改めてシクロクロッサーの能力の高さを証明する結果となった。なお、メルリエはレース後、ロード、シクロクロスともに注力していくことを明言している。

 そのほか、イギリスではベン・スウィフト(チーム イネオス)、デンマークではミケル・モルコフ(ドゥクーニンク・クイックステップ)、アメリカではアレックス・ハウズ(EFエデュケーションファースト)、ルクセンブルクではボブ・ユンゲルス(ドゥクーニンク・クイックステップ)といった具合に、実力者が自国でしっかりと勝ち名乗りを挙げている。

ファンアールト、ポガチャルらがTTでも真価を発揮

 ロードレースでは各地でさまざまなドラマが見られたが、個人タイムトライアルでも新チャンピオンが誕生するなど、興味深い結果となっている。

ベルギーのタイムトライアル王者に輝いたワウト・ファンアールト。快進撃が続く Photo: Team Jumbo-Visma

 バックボーンのシクロクロスのみならず、ロードレースでも次々タイトルを獲得しているワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)はベルギー選手権初優勝。イヴ・ランパールト(ドゥクーニンク・クイックステップ)やヴィクトール・カンペナールツ(ロット・スーダル)といったスペシャリストたちを退けてみせた。

 イタリアではフィリッポ・ガンナ(チーム イネオス)が初優勝。フランスはバンジャマン・トマ(グルパマ・エフデジ)が初の国内タイトルを獲得。オランダでは、TTスペシャリストのヨス・ファンエムデン(ユンボ・ヴィスマ)が意外にも初のチャンピオンジャージ。活躍が目覚ましいタデイ・ポガチャル(UAE・チーム エミレーツ)は、スロベニア選手権を制した。

 ヨナタン・カストロビエホ(スペイン、チーム イネオス)やトニー・マルティン(ドイツ、ユンボ・ヴィスマ)といった実力者も健在。マルティンはスタート直後にメカトラブルに見舞われながらも、その後立て直してトップタイムをマークした。

 ロード・個人タイムトライアルとも、チャンピオンジャージ着用の初お目見えがツールとなる選手も多くなりそう。その姿に自然と期待が高まってくる。

主要国国内選手権者一覧

 表記はロードレース/個人タイムトライアルの順。

【イタリア】 ダヴィデ・フォルモロ(ボーラ・ハンスグローエ)/フィリッポ・ガンナ(チーム イネオス)
【オランダ】 ファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ)/ヨス・ファンエムデン(ユンボ・ヴィスマ)
【ベルギー】 ティム・メルリエ(コレンドン・サーカス)/ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)
【スペイン】 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム)/ヨナタン・カストロビエホ(チーム イネオス)
【フランス】 ワレン・バルギル(アルケア・サムシック)/バンジャマン・トマ(グルパマ・エフデジ)
【イギリス】 ベン・スウィフト(チーム イネオス)/アレックス・ダウセット(カチューシャ・アルペシン)
【デンマーク】 ミケル・モルコフ(ドゥクーニンク・クイックステップ)/カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)
【ドイツ】 マキシミリアン・シャフマン(ボーラ・ハンスグローエ)/トニー・マルティン(ユンボ・ヴィスマ)
【スロベニア】ドメン・ノヴァク(バーレーン・メリダ)/タデイ・ポガチャル(UAE・チーム エミレーツ)
【ノルウェー】 アムントグレンダール・ヤンセン(ユンボ・ヴィスマ)/アンドレアス・レクネッスンド(ウノ・X ノルウェジアンデベロップメントチーム)
【ポーランド】 ミカル・パルタ(CCCデベロップメントチーム)/マチェイ・ボドナル(ボーラ・ハンスグローエ)
【スロバキア】 ユライ・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)/ヤンアンドレイ・カリー(デュクラ・バンスカ・ビストリカ)
【アメリカ】 アレックス・ハウズ(EFエデュケーションファースト)/イアン・ガリソン(ハーゲンスバーマン・アクション)
【アイルランド】 サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)/ライアン・マレン(トレック・セガフレード)
【ロシア】 アレクサンドル・フラソフ(ガズプロム・ルスヴェロ)/アルテム・オヴェチキン(トレンガヌ.INC・TSGサイクリングチーム)
【スイス】 セバスティアン・ライヒェンバッハ(グルパマ・エフデジ)/シュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ)
【オーストリア】 パトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ)/マティアス・ブランドル(イスラエルサイクリングアカデミー)
【ポルトガル】 ホセ・メンデス(スポルティングクルブ・デ・ポルトガル)/ジョアン・アルメイダ(ハーゲンスバーマン・アクション)
【チェコ】 フランティセク・シスル(エルコフ・アーサー)/ヤン・バルタ(エルコフ・アーサー)
【ルクセンブルク】 ボブ・ユンゲルス(ドゥクーニンク・クイックステップ)/ボブ・ユンゲルス(ドゥクーニンク・クイックステップ)
【カナダ】アダム・ドヴォス(ラリー・UHCサイクリング)/ロブ・ブリットン(ラリー・UHCサイクリング)
【カザフスタン】アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ プロチーム)/アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ プロチーム)
【エストニア】アロ・ヤキン(サンミッシェル・オーベル93)/レイン・タラマエ(トタル・ディレクトエネルジー)
【ラトビア】トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード)/クリスツ・ニーランズ(イスラエルサイクリングアカデミー)
【ウクライナ】アンドリー・クリク(シェンツェン・シャイデシェンサイクリングチーム)/マーク・パデュン(バーレーン・メリダ)
【スウェーデン】ルーカス・エリクソン(リワル・レディーネス)/未実施
【リトアニア】 ラムナス・ナヴァルダウスカス(デルコ・マルセイユプロヴァンス)/ゲディミナス・バグドナス(アージェードゥーゼール ラモンディアル)
【エリトリア】ナトナエル・ベルハネ(コフィディス ソリュシオンクレディ)/アマヌエル・ゲブレイグザブハイアー(ディメンションデータ)
【エチオピア】ネガシ・アブレハ/スガブ・グルマイ(ミッチェルトン・スコット)
【ベネズエラ】ヘスス・ヴィレガス/オールイス・アウラール(マトリックスパワータグ)
【日本】 入部正太朗(シマノレーシング)/増田成幸(宇都宮ブリッツェン)

今週の爆走ライダー−セース・ボル(オランダ、チーム サンウェブ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 けがからの回復途上にあるトム・デュムラン(オランダ)を欠いてツール・ド・フランスに臨むこととなったチーム サンウェブ。マイケル・マシューズ(オーストラリア)でのスプリントが第一のミッションに据えるにあたり、若きスピードマンの成長が戦いのプランをクリアにさせている。23歳、プロ1年目のセース・ボルは好調さが買われ、マシューズを支える役割に任命された。

プロ1年目、23歳のセース・ボル。すでに勝利を挙げ、スプリンターとして着実に成長している =ツアー・ダウンアンダー2019チームプレゼンテーション、2019年1月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 同国の名門、ラボバンクの下部組織で走り続け、チーム消滅後も自国で走りを磨いてきた。昨年、トレーニー(研修生)として現チームに加入。晴れて正式契約となった今年は、3月以降、上位進出を連発している。

 その名が轟いたのは、やはりツアー・オブ・カリフォルニア第7ステージでのスプリント勝利だ。ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)らを破っての勝利は、チームはもとより、世界的に実力と将来性を誇示するには最高の形になった。

 プロ初年度から結果を残しているとはいえ、決して順調にキャリアを送ってきたわけではない。2017年には落車による脳震盪の影響が長く残り、レース数も出走レース数が激減。完全復活まで約1年を要した苦労を若くして経験している。

 とはいえ、意外と早くつかんだ大舞台への切符。まずはマシューズの発射台を務めることになるが、状況次第では自らが勝負に出ることも考えられる。スプリントでの争いになった国内選手権では5位とまずまずの結果。育成時代のチームメートであるヤコブセンに負けたのが悔しいが、持っているものは出すことができた。

 194cmとプロトンでも屈指の大きな体躯と、ここ一番でのスピード。ひと波乱起こしそうな雰囲気は、ツール開幕とともにきっと誰もが気づくことだろう。

ツアー・オブ・カリフォルニア第7ステージで強敵を破って優勝したセース・ボル。世界にその名を轟かせた瞬間だった =2019年5月18日 Photo: GIBSON / SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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