ツール・ド・フランス2019直前コラム<4>盟友フルームを欠き、スイスで落車リタイアしたゲラント・トーマスは総合2連覇できるか?

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
  • 一覧

 昨年のツール・ド・フランスは、ゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)の総合優勝により幕を閉じた。大会中にはチームメイトにして絶対的エースであるクリストファー・フルーム(イギリス)との関係性が大きく取り沙汰されたが、結果的にはダブルエース戦略がピタりとハマって、トーマス総合優勝、フルーム総合3位という圧倒的な戦績を残すことができた。しかし、今年はそのフルームがクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ期間中の落車により全身骨折の重傷を負い、ツール欠場となった。果たして、トーマスは総合2連覇できるのだろうか。

昨年は初の総合優勝を飾ったゲラント・トーマス。しかし、今年は決して順調ではないシーズンを送っているが、果たして総合2連覇を飾ることはできるのか Photo: Yuzuru SUNADA

チームメイトの悲劇に加え、トーマスも負傷

 トーマスは当初の予定どおり、ツール・ド・スイスに出場。ところが、第4ステージ中に落車に巻き込まれ地面に叩きつけられてしまう。こめかみ部分に裂傷を負う怪我を負った、つまり頭部へのダメージがあったことが確認されたため、その場でリタイアを余儀なくされた。

 幸いにもトーマスは軽傷との診断結果だった。フルームに続いて、トーマスまでもが落車負傷によりツール欠場となると、新スポンサーを迎えて初めてのツールを迎えるチームにとって計り知れない痛手を被るところだった。数日の安静の後、ツールに向けてトレーニングを再開した。

 しかし、ツール・ド・スイスの難関山岳ステージを前にしてリタイアとなったことで、レーススピードで山岳を走る機会を失ったことは、コンディションを調整する上でマイナスポイントになるだろうとの指摘が相次いでいる。

今年のツール・ド・ロマンディでは総合3位となったゲラント・トーマス Photo: STIEHL / SUNADA

 これは筆者の見立てであるが、トーマスに関してはその心配は当たらないのではないかと考えている。その理由の一つはフルームの調整方法にある。

 昨年ジロ・デ・イタリアを制したフルームの調整方法を見ていると、実戦で激しく追い込むような走りを一切することなく、むしろトレーニングで自分を激しく追い込む走りをしていた。ジロまでのレースでの最高成績はツアー・オブ・ジ・アルプスの総合4位。一方で1月中旬に南アフリカにて、アップダウンのある271.65kmを平均時速44.8kmで走破する凄まじい強度でのトレーニングを行い、その走行データを公開していた。

 したがって、フルームはレースではなくトレーニングを通じて、しっかりとコンディションを整え、レースには別の目的(例えば集団内での位置取りの連携など)を持って参戦してのではないかと思われる。

 トーマスもツール・ド・ロマンディで総合3位に入ったものの、今シーズンは勝利などの目立った結果は残していない。にもかかわらず、「今年のトーマスは調子が良い」という評判が立っている。筆者にはトーマスがフルームと同様に、レースではなくトレーニングによってコンディションを高めることに成功しているのではないかと考える。

 ならば、スイスの後半ステージを欠場しても、ツールまでの時間を使って、トレーニングによりコンディション調整することは十分可能ではないだろうか。

ベルナルとの協調体制が鍵を握る

 フルームの不在はあまりにも大きな損失だが、エガン・ベルナル(コロンビア)がツールに間に合ったことがとても大きい。今年4月下旬のトレーニング中に落車して鎖骨を骨折し、総合エースとして臨むはずだったジロ・デ・イタリアを欠場。結果的に休息をとることができ、ツール前哨戦のツール・ド・スイスで総合優勝を飾るなど、非常に良い状態に仕上がっている。

 当のベルナルは「ツールではトーマスを助ける。自分よりトーマスの調子が良ければね」という主旨の発言をしており、状況次第では自ら総合優勝を狙う可能性もある。という状況は昨年のフルームとトーマスの置かれていた状況に似ている。当時もトーマスは「このチームのリーダーはフルーム」と度々発言していたが、最終的にフルームのGOサインもあって、トーマスがエースとして総合優勝を狙うよう役割をスイッチしていた。

フルーム(左)とトーマス(右)の間には、周囲が騒ぐような険悪なムードは一切なく、目的は「チーム」の勝利という点で一致していた Photo: Yuzuru SUNADA
昨年のツールでは、エガン・ベルナルが山岳アシストとして献身的な働きを見せていた Photo: Yuzuru SUNADA

 それにベルナルはとても性格が良いとの評判だ。自らの野心を燃やして、トーマスを出し抜くような真似をすることは考えにくい。昨年大会もマイヨブランの有力候補だったにもかかわらず、ジャージには全く興味を示さず、フルームとトーマスのアシストとして役割を全うしていた。エースはトーマス、セカンドエースがベルナルというダブルエースの強みを生かしたレース戦略が成り立つことだろう。

 さらに2人を支えるアシスト陣も非常に強力だ。特に前半戦の鍵を握るチームタイムトライアルで好タイムを期待できる、屈指のタイムトライアリストたちがロースター入りを果たした。加えて、大人数の逃げを追うような厳しい集団コントロールをこなし、連日のハードワークにも耐えられるタフな人材揃いである。

 イネオスの強固なチーム力に加え、ダブルエース戦略が機能すると、他のライバルチームはなかなか手出しすることが難しいように思える。

トラブル回避が優勝への絶対条件

 とはいえ、2人には弱点が存在する。それは、落車が多いことだ。

 トーマスは2017年のジロ・デ・イタリア第9ステージで落車に巻き込まれ、膝を負傷しリタイア。同年のツール・ド・フランス第9ステージでも落車に巻き込まれ、鎖骨を骨折してリタイア。2019年のツール・ド・スイスでも前述したように落車に巻き込まれてリタイアとなった。

 ベルナルも2018年のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ第6ステージで落車に巻き込まれ、鎖骨を骨折してリタイア。同年のクラシカ・サンセバスティアンで落車して鼻骨などを骨折してリタイア。2019年4月にも前述したようにトレーニング中の落車により鎖骨を骨折している。

2017年ジロ・デ・イタリア第9ステージで落車に巻き込まれ、遅れてフィニッシュしたゲラント・トーマスの姿 Photo: Yuzuru SUNADA
落車負傷から復帰したレースで、好成績を残すエガン・ベルナル。写真は総合優勝した2018年ツール・ド・ロマンディにて Photo: Yuzuru SUNADA

 不思議と目の前の選手が落車して、直後を走っていたトーマスやベルナルはどうすることもできずに地面に叩きつけられるケースが多く、一言でいえば不運がちである。ただ、トーマスもベルナルも昨年のツールはほぼノートラブルで3週間を走り切った。対策できる問題であるのか定かではないが、イネオスにとって2人のコンディション以上に、まずトラブルを避ける走りが重要となりそうだ。

 掲題の「トーマスは総合2連覇できるのだろうか」という問いに対する答えは、イエスでもありノーでもあると思う。ノーというのはベルナルが総合優勝する可能性を指している。少なくとも今年のマイヨジョーヌ争いはイネオスを中心に展開されていくだろう。

 逆にここまで突出した優勝候補であると、ライバルチームのマークはいつも以上に厳しくなることだろう。他のチームがどのような戦略でイネオスの牙城を崩しにかかるのかが、今大会最大の注目ポイントだ。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

ツール・ド・フランス2019 ツール2019・コラム

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載