安全も音質も妥協しないケンウッドのウェアラブルワイヤレススピーカー「CAX-NS1BT」は自転車に“音楽革命”をもたらすのか?

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 『Cyclist』で紹介し、反響が寄せられたケンウッドのウェアラブルワイヤレススピーカー「CAX-NS1BT」。首にかけて音楽を楽しむ新スタイルのオーディオ機器だ。自転車用に開発されたものではないが、周囲の環境音も聞こえるという特徴から、早くもサイクリストたちの間で「サイクリング中でも安全に音楽を楽しむことができる」との口コミが広がっている。サイクリング中の音楽鑑賞は、音質よりも安全性が求められるが、果たしてどんな構造をもって「安全に楽しめる」というのか。編集部記者によるインプレッションを行うとともに、「CAX-NS1BT」の仕組みや特徴をケンウッドの担当者、薛(せつ)遼太さんに伺った。

ケンウッドのウェアラブルワイヤレススピーカー「CAX-NS1BT」は自転車に音楽革命をもたらすか? Photo: Kenta SAWANO

透明な音のカーテンに包み込まれる感覚

 事前情報なしで本音の「CAX-NS1BT」の使用感を試すべく、インタビュー前にまず編集部内でインプレッションを行ってみた。第一印象は「軽い」。首にかけたことを忘れるほどの軽さで、頭に載せたアイウェアと同じく外すのを忘れそうだと感じた。そして何より、首にかけるだけという手軽さがいい。「聴く」ための機器は、イヤホンでない場合でも耳周りで使用する場合が多いが、このウェアラブルワイヤレススピーカーはヘルメットやアイウェアとも干渉することがない。

カラーはブラックとホワイトの2色展開 ©JVCKENWOOD
重量88gと、着けていることを忘れそうな軽さ Photo: Kenta SAWANO

 そして肝心な音質と聞こえ方はどうだろうか。スマートフォンとBluetoothで接続し、再生ボタンを押すと、今まで聞いたことのないようなサウンドが首元から湧き上がってきた。

 イヤホンのダイレクト感とも、スピーカーから流れてくる大きな音とも違う、繊細ながらもクリアな音質。辺りの風景が清涼感のある景色に変わり、まるで四方を透明な音のカーテンに包み込まれているような感覚だ。バリアではなく、「カーテン」と表現したのは“風通し”を感じたからだ。閉ざされた空間ではなく、周囲の環境音もクリアに聴こえる。だからといって周囲の雑音に溶け込むことはない。

鳥の声や風の音などと一緒に音楽を楽しめる Photo: Kenta SAWANO

 こんな開放的な設計で周囲への「音漏れ」は大丈夫なのか? 個人差はあるが、一般的に爆音でなく小さくもない“適度な音量”に設定し、編集部内で周囲の人に音の聴こえ方を確認すると「聴こえるが、電車内で大きな音で聴いているイヤホンから少し音漏れしている感じ」との返答。

 逆に、「CAX-NS1BT」を周りの編集部員に試用してもらうと「こんなに音が出ていたとは思わなかった」という反応が返ってきた。内向きに配されたスピーカーによって、装着している人としていない人ではだいぶ聴こえ方が異なるようだ。自宅以外の屋内で、他人に迷惑をかけたくない場合は音量に注意したり、使用を控えた方が良さそうだが、屋外での自転車走行時ならば、その程度の音漏れは周囲の雑音にかき消され、走り去る中で消え去ってしまうだろう。

周囲で鳴っている音楽を聞き流す感覚

 環境音を認識できることと周囲に迷惑をかけないということが確認された次は、いよいよ装着しての実走。このウェアラブルワイヤレススピーカーはイヤホンと違って耳を塞がないが、走行中の音楽への“気のとられ方”はどうかを確認した。

周囲の環境音もしっかり聞こえる上に、音楽を聞いているようにも見えない Photo: Kenta SAWANO

 その結果は、まず環境音を認識する上ではまったく支障はない。むしろ室内使用時よりも外の大きな環境音に溶け込んだ印象だが、その中においても明らかに雑音の中でクリアなサウンドが引き立つ。それは音楽を聴くという没入感ではなく、環境音の中に流れている音楽を聴き流す感覚。例えるなら車内でラジオを聴きながら運転している感覚に近いものだった。

ポイントは音の特性を利用したスピーカーの配置

─周りの環境音も聴こえるのに音楽もクリアに聴こえて、とても不思議な感覚でした。この音はどのようにして生まれるのですか?

JVCケンウッド営業企画グループの薛(せつ)遼太さん Photo: Shusaku MATSUO

:裏表に配された4つのスピーカーに理由があります。表部分の2つのメインスピーカーは中高域の音を担当し、裏にある2つの「パッシブラジエーター」は中低域の音を担当しています。音の特性として、高い音ほど「指向性」という、いわゆる音が進む方向性が強くなります。そのような音の特性を利用し、表のメインスピーカーは中高域の音をしっかりと届けるために装着時に耳に向くように配置されています。

内側に向いた中高域の音を出すメインスピーカーと、下側に配された中低域を増強する「パッシブラジエーター」。この配置のバランスが、環境音をシャットダウンせず、かつ包まれるような新感覚のサウンドを作り出す ©JVCKENWOOD

 その逆で、中低域は指向性が非常に弱いので、どこで鳴っているかが人間の耳では判別しにくく、どこで鳴らしても高音に引っ張られ、高音と同じような位置で鳴っているように聴こえるという特性があります。なので高域さえしっかり耳に届ければ、それに低域も付随するので、包まれるような一体感をもった音を作り出すことが出来ます。音像や音の定位感(※)をしっかり認識しながらも、低域の音も漂うようになっているので、周りの音を塞がない。そのバランスを音の出し方で作り出しています。

※音像:オーディオ機器で音楽等を再生した場合に、その場所にあたかも音を発する人や楽器の姿形が見えるように再現する様子。定位:音像の配置関係が左右以外にも遠近方向に渡って表現される様子

─環境音を聴こえるようにするために、そのような構造を採用したのですか?

:その通りです。極端な話、これが上下逆だったら低域のボコボコとした音だけが聴こえてしまい、高域の音は耳には届きません。低域には「マスキング効果」といって、より周囲の音を遮る特性があります。つまり、低域がダイレクトに聴こえてしまう仕組みは周りの音をシャットダウンすることになります。

下側に配された「パッシブラジエーター」 Photo: Shusaku MATSUO

 この構造自体は新しい技術ではなく、すでに当社のカーオーディオにも採用されています。「ツイーター」という高音域を担当するスピーカーはクルマのダッシュボードに、中低域を担当する「ウーファー」はドア付近で鳴るように配置すると、自然と音像が高域に引っ張られます。そうすると、まるでボーカリストが目の前で歌っているようなサウンドを再現できます。そういった当社が培ってきたノウハウが、このウェアラブルスピーカーにも生かされています。

家の外での使用を想定した商品バランス

─88gという軽量性もとても快適で、着けているのを忘れるほどでした。

:私もよく忘れます(笑)。業界でもトップクラスの軽量性ですが、これは何を優先するかによって差がつく部分でもあります。他ブランドは概ね200~300g台の商品が多く、より低音を出すために、より大きなボディ、スピーカー、マグネット等を搭載しています。マグネットを大きくすれば、もちろんその分重量は増すことになります。

首元から肩へかけてのフォルムに対応するアーチ状の設計。首元にあたる部分は極力ストレスがないように細く作り、かつ素材を代えて柔軟性ももたせている(写真は柔軟性を示すために広げた状態) Photo: Shusaku MATSUO

 他商品の多くの場合、ご家庭で迫力あるサウンドを楽しむといった用途をもともとのコンセプトとしています。一方で我々は「耳を塞がない」というスタイルを維持しながら、家という場所に縛られるような用途だけでなく、車内での利用やアウトドア等の用途でもより使いやすくするにはどうしたら良いかを考えました。そのためには、一日中身につけていてもまったく気にならない程度に軽量化する必要があると考えました。

 とはいえ、低音感やしっかりとした高域再生にはこだわりをもって、限られたボディで最大限実現するために先述したノウハウを注ぎ込み、最終的に重量・音質ともに最適なバランスを完成させることができました。さらにはパーツの軽量化がコスト面でも有利に働き、結果的に他社と比べて価格を大幅に抑えることができました。

─一方でバッテリー持続時間は20時間と他商品を引き離す“持ち”ですね。

:その点も「家の中に縛られない」というコンセプトに基づいたものです。アウトドアでは長時間にわたって電源確保が難しくなることが想定されますよね。「1日中つけていても大丈夫」といえるように軽量化したのですから、それと矛盾しないためにも一日中使えるバッテリーも必然と考えました。

─アウトドア仕様という点では防水機能も気になるところです。

:商品開発を進める中で防水機能は当然視野に入れていた部分ですが、コストの兼ね合いもあり、当初はカー用品としての機能を重視しようということで一旦防水機能は据え置いた経緯があります。ただ、おかげさまでユーザーはアウトドア等様々なシーンで広がっているので、防水に対応した商品は引き続き検討課題として研究を進めています。いかに音質を損なわず、機能を付与できるかが今後の課題です。

そもそも車内で使用するハンズフリー通話用の「ヘッドセット」の代わりに、片耳を塞がずに安全に使用できるアイテムとして登場した「CAX-NS1BT」。環境音とサウンドを両立する特性が評価され、カー用品にとどまらず、サイクリングやウォーキング等でもユーザーが広がっているという Photo: Shusaku MATSUO

音楽と自然音を両立するという「新感覚」

─実際に使用した感想は、これなら自転車でも安全に音楽を楽しめると思いました。

:自転車で使用する場合、「耳を塞がない」ということが安全面での絶対条件です。ただ、それは当然のことであって、それ以上にサイクリストの方々が求めるのは風の音など自然で鳴っている音も楽しむことだと思います。

プライベートではバンド活動もしているという根っからの音楽・音響好きである薛さんをして「何かをしながら音楽を楽しむにはちょうどよい音」だという Photo: Shusaku MATSUO

 本来ある自然の音と音楽が双方を邪魔せずに共存できる。これは安全性とはまた違う別の切り口で、このウェアラブルワイヤレススピーカーだからこそ実現できるメリットだと考えています。音楽と自然音の「どちらか」ではなく「どちらも」楽しめる、そういう意味での「新感覚」を提供したいと思います。音を体験してみたいという方は、ぜひお近くのカー用品店で試してみてください。

◇         ◇

 いつもと同じように安全に通勤し、かつ好きな音楽を聴きながら走ると、いつもの通勤経路もまた違って見えるから不思議なもの。風切り音もそれほど音響の妨げにはならなかったので、今度は1人でロングライドをするシーンで活用してみたい。防水機能はないので、雨天時や大量の汗をかくようなトレーニングライドには不向きかもしれないが、晴れの日の自転車通勤やサイクリングを楽しみたい場合は、安全に心地よく彩りを添えてくれそうだ。

 環境音もしっかり認識できて、かつ音質も妥協しないケンウッドの「CAX-NS1BT」。音楽の聴き方はそれぞれで、「どんな形であっても音楽を聴きながら自転車に乗れない」という人もいるかもしれないが、「自転車+音楽」の組み合わせを模索していた人には、このウェアラブルワイヤレススピーカーは新たな選択肢となりそうだ。

※ライド中の音量は、周囲の音が聞こえる程度で使用してください。周囲の音が聞こえない状態でライドすると事故の原因となることがあります。

■KENWOOD「CAX-NS1BT」
通信方式:Bluetooth 標準規格Ver.4.1
出力/最大通信距離:Bluetooth 標準規格Power Class2/約10m(目安)
電源:DC3.7V、内蔵リチウムポリマー充電池
電池持続時間:約20時間(使用条件により異なる)
充電時間:約3時間
質量:約88g
付属品:充電用USBケーブル
対応コーデック:SBC、Qualcomm aptX audio
カラー:ブラック、ホワイト
税込価格:オープン価格(実勢価格1万5000円前後)

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