パワートレーニングに目覚めた可憐女子私はこうして富士ヒル女王になりました 2018年大会優勝・ますこさんインタビュー<後編>

by 大澤昌弘 / Masahiro OSAWA
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 2018年6月開催の「富士の国やまなし Mt.富士ヒルクライム」(以下、富士ヒル)に初出場して女子総合で優勝、2019年大会は女子選抜クラスで2位になった増田菜穂子さん(通称:ますこさん)。前編ではロードバイクを始めてから、わずか1年あまりで富士ヒル女王になるまでをお伝えした。短期間でのビッグタイトルの獲得。才能がそうさせたと思う人がいそうだが、詳しく聞くと印象は大きく変わるはずだ。

ロードバイクを始めて1年あまりで富士ヒル女王になった増田菜穂子さん。これまでにやってきたことを詳しく聞くと彼女への印象は大きく変わる Photo: Masahiro OSAWA

現実逃避へ

―今回の富士ヒルに向けてどんなことに取り組みましたか?

 優勝してしまったら周囲の反応が変わってプレッシャーは感じていました。土日の練習に加えて平日はローラー練習も取り入れたりしたんですけど、実は2018年の12月から1月までまったく自転車に乗らなくなっちゃったんです。

 そうしたら、悲しくなるくらいFTP(※)が下がってしまって、去年は200W以上あったんですけど、一気に170Wくらいまで下がってしまいました。6月には富士ヒルに出るのはわかっていたんですけど…。

※FTPは1時間継続して出し続けられる最大パワーのこと

―乗らない間は何をしていたんですか?

 友達と海外旅行に行ったりしていました。おいしいものを食べたら、体重も増えちゃって、体力もすごい落ちたので、自分で何やっているんだろうという感じでした。「乗らなきゃ」と思っていたんですけど。「そこまで突き詰めてやる必要あるのかな」という悪魔な自分もいたりして…。

 実は今回の富士ヒル前も、身近な人には「タイム出ないっすね」「去年の自分のよりダメですね」と言って逃げ道を作っていたことがありました。そういうことを言っていると本当にダメなように思えてきちゃって、自分のなかでもダメなのかなと…。

 プレッシャーに弱いというか、現実逃避しやすいというか、もともとレース志向ではないので、モチベーションを保てないというか、周囲がわーっと盛り上がって、自分の成長に停滞期があったりすると、自分のなかでは「頑張りたいけどこれ以上はできないよ」という冷めた気持ちもありましたね。なので、モチベーションがずっと高かったわけではありません。

今年のレースに向けて一時期は目標を見失いかけたと話す増田さん Photo: Masahiro OSAWA

可憐女子、パワトレに目覚める

―いつからローラーを使って練習していましたか?

 今年1月にパワートレーニングのセミナーを受講してから、頑張らないとタイムも出ないとわかりました。乗らないとどんどんCTL(※)が下がることがわかっちゃうんです。それが気になってしまって、ローラーの練習は疲労が残る感じがしてあまり好きではないんですけど、今年の2月からは月曜から木曜までで最低2回、平日にローラーに乗ってしっかりと練習するようにしました。

※CTLは過去42日間に渡って積み上げてきたトレーニングの効果を示す値

 平日は疲れていても、ローラーを使ってスイートスポット(※)で20分は乗ることにして、調子よければ時間を延ばして40分乗るようにしていました。ウォーミングアップに5分あてて、最後は3分クールダウンして終わりという感じです。

※SST(スイートスポット)はFTPの9割前後の領域のこと

―パワートレーニングに必要な数値管理もしていたんですね。

 兄から必要なデータ入力できるファイルをもらいました。数値を入れて自分の状態を確認しています。CTLが100あるとレースにねじ込んでいけると聞いていたので、100以上になるようにしました。その数値は土日で頑張らないと達成できないので、雨が降ると悲しくなっちゃいますよね。いつもの130kmコースにいけばTSS(※)は200を超えます。レース1カ月前の5月のゴールデンウィークでそこからさらにプラスして、CTLを上げた感じですね。

※TSSはトレーニングによって体にかかった負荷を示す値でトレーニング・ストレス・スコアと呼ばれる。TSSを稼がなければCTLは上がらない

2月下旬から3月末までのトレーニングデータ 画像提供:増田菜穂子さん
4月から5月初頭までのトレーニングデータ 画像提供:増田菜穂子さん

―社会人だとCTL100を維持するのは難しいですよね。かなりの努力を要すると思います。TSSもすごいです。土曜にTSSを200稼いだら、日曜は乗るのもつらいと思いますし、1日にTSS400とかヤバいですね。

 土曜は追い込むんですけど、日曜に追い込めばいいのでやりすぎないようにしていました。日曜に追い込めばいいので。土曜は白石峠とほかの峠を上ってくるだけでいいかなと。

 TSSを多く稼いだのは、峠の反復練習をしていたのもありますね。富士ヒル前は、本番に近い勾配の峠で練習していました。埼玉に定峰峠、裏定峰と言われる5kmほどの峠道があって、短いので5往復くらいしていました。そのうち飽きてくるんですけど、1本目より2本目を速く上るとか、何分台のタイムが出なかったら帰ってはいけないとか、マイルールを決めて、ゲーム感覚を取り入れるというか、それをいかに達成するかに燃えていました。一番多い時で6往復したのかな…。

富士ヒル直前には本番のコースを何度も試走したという 画像提供:増田菜穂子さん

―TSS400稼いだときは一人で練習していたんですよね?

 「定峰峠を5往復しましょうよ」とは言いづらいですね。なので、チーム錬を途中で離脱させてもらって、定峰峠をおかわり錬したりしていました。なので帰りは一人です。

―定峰峠からの帰路はかなり距離があります。帰りの体力を考えてしまいそうですが、それでも峠の往復をするのがすごいと思います。

 逆にその日に出し切らないと夜になって後悔するんですよ。あそこで踏めたじゃんと。それに、行きと帰りはどれだけゆっくりでもいいんですよ。なので平地は激遅です。いろんな人に抜かれていくので、ゆるポタをしていると思われているはずです。

 ちなみに、一度大きな失敗をしたことがあって、ハンガーノックで倒れてしまったことがあります。自分では大丈夫だと思っていたんですけど、自宅まであと数キロというところで、ブレーキもかけられない、ビンディングも外せない、体が動かない、ガードレールにぶつかって止まるということがありました。コテンと転んで30分本当に動けなくて、助けを呼びたくてもスマホも取り出せない状態でした。

練習帰りにハンガーノックで倒れたこともあるという Photo: Masahiro OSAWA

 転んだところがたまたま土手だったので、傍から見たら、空を見上げながら休んでいる、ちょっと変わった女の子くらいに見えたんだと思います。みんなチラッと見てくれるんですけど…、あのときは本当につらかったですね。ちゃんと補給はしないといけないなと思います。

タイムトライアルからレースへ変わったヒルクライム

―今年の富士ヒルは1時間10分49秒、主催者選抜クラス女子で2位。前回タイムの1時間12分44と比べて2分ほど速くなりました。この結果をどう見ていますか?

 昨年はウェーブ方式でのスタート。そのほうがスピードの速い男子の集団に入りやすいので、タイムは伸びやすいと言われています。今年は女子選抜クラスでのスタートなので、そもそもの戦い方が違っていました。今年はタイムよりも、いかに上位にいけるかを狙っていました。今年はトップの選手に付いていくことだけを考えて、手元のタイムが見えていませんでした。なので、タイムが伸びたのは驚きでした。

2019年は愛車を赤のフォーカスに乗り換えて出場。赤がマイカラーだそう 画像提供:増田菜穂子さん

―レースになると、ヒルクライムといえど出力の上げ下げが出てきます。SSTだけではなく負荷の高い練習も必要になってきますね。

 そこは課題ですね。一定強度で走り続けるのは得意なんですが、スピードの上げ下げがあるとついていけなくなってしまうんですよ。今回も最後にトップの選手に引き離されて、そのパワーの領域の練習ができていなことに気づいて、もう無理だと気持ちが切れてしまいました。これからは、いろいろなチームの練習に混ぜてもらっていく必要があるのかなと思っています。

日焼けは絶対にしない主義

-機材へのこだわりはありますか?

とある日の練習姿。日焼けは絶対にしない主義 画像提供:増田菜穂子さん

 軽いものがいい、と思ってスプロケットをアルテグラからデュラエースに変えたり、チューボリートという軽量チューブを取り入れたり、駆動系を良くしようと思ってビッグプーリーを取り付けたりしました。ワイズロードのメカニックさんからいろいろと教えてもらって、財布と相談しながら変えている感じです。

 ただ、見た目も重要だなと思っていて、赤を取り入れたいという理由だけで、パイオニアのパワーメーターの送信機(いわゆる“おにぎり”)を取り付けちゃいました。

 あと、機材ではないのですが、自分は日焼けしないことに頑張っています。レース以外では素肌を出さないようにしていて、マスクもつけたりしています。最近は赤いフォーカスに乗っていることを知っている人もいて、路上ですれ違っただけでも、SNSでコメントをもらえることもありますが、わからないかもしれないですね。

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