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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<298>ツール前哨戦終了! ベルナル、バルベルデら復調組が本番へ明るい兆し

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ツール・ド・フランス開幕まで約1週間となり、各地で開催されてきた「ツール前哨戦」はひと段落。フランスで開催されたクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、同時期にアルプスの山々をめぐったツール・ド・スイスと、前哨戦とされる中でも特に格式の高い2レースでツール本番での活躍が期待される選手たちの動向がおおむね見えてきた。さらに、ドーフィネ、スイス以外のレースでも調子を上げてきた選手たちが充実ぶりをアピール。今回はビッグネームを中心に、ツール本番へ明るい兆しを見せる選手たちの動きを確認してみよう。

ツール・ド・フランス前哨戦がひと段落。ツール・ド・スイスはエガン・ベルナルが山岳で圧倒的な力を見せて個人総合優勝を果たした(写真は第7ステージ) =2019年6月21日 Photo: Tour de Suisse

ベルナルはトーマスとの共闘に向け着々

 6月23日まで開催されたツール・ド・スイスは、Cyclistでのレースリポートの通りエガン・ベルナル(コロンビア、チーム イネオス)が快勝。チームはクリストファー・フルーム(イギリス)がドーフィネ期間中の落車負傷、さらにスイスではフルームとならぶスーパーエースのゲラント・トーマス(イギリス)までもが第4ステージでの落車で離脱するなど、不安要素が次々と降りかかったが、この2人に続く若きエースが暗雲を振り払う働きを見せた。

ツール・ド・スイスを制したエガン・ベルナル(中央)。個人総合2位のローハン・デニス(左)との総合タイム差19秒だが、実際はそれ以上に力の差があると言えそうだ =ツール・ド・スイス2019第9ステージ、2019年6月23日 Photo: Tour de Suisse

 もっとも、ベルナルも5月に開催されたジロ・デ・イタリアの直前に落車し負傷。1カ月以上戦線を離脱していながら、復帰戦となったスイスで早速の好走である。今大会の最終ステージでは個人総合2位のローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ)をしっかりとチェックしタイムを失わないことを最優先したが、超級山岳フィニッシュだった第7ステージで圧勝するなど、デニスとの最終的な総合タイム差19秒以上にライバルたちとの力の差があることを証明したといえそうだ。

 今大会はけがからの復帰初戦であったと同時に、当初はトーマスのアシストとしての参戦だった。山岳勝負が本格化する前にトーマスが大会を去ったことも関係しているとはいえ、役割をシフトして力を発揮すべきステージで結果を残したあたりは、やはり並の選手ではないということだろう。

リーダージャージで個人タイムトライアルを走るエガン・ベルナル。タイムトライアル能力の向上はグランツールを戦ううえで大きなアドバンテージとなる =ツール・ド・スイス第8ステージ、2019年6月22日 Photo: STIEHL / SUNADA

 加えて、このスイスでは個人タイムトライアルでも上々の走りを見せた。9.5kmと短かった第1ステージではトップだったデニスから23秒の遅れを喫したが、総合争いへの影響も予想されていた第8ステージ(19.2km)では遅れを最小限にとどめ、着用していたリーダージャージのキープに成功するなど、TT巧者たちとそん色のない走りを見せた。昨年の国内選手権で優勝するなど決して苦手にしている分野ではないが、ステージレースでの総合成績において大きなウエイトを占めるタイムトライアルで一定の走りを見せた点も、間近に迫るツールに限らず将来的にもライバルに対して脅威をもたらすものとなっていくはずだ。

 スイスでの全9ステージを通して、ここまでの走りを見せられると、「仮にトーマスが落車していなくても…」と思ってしまいそうなところだが、そのあたりはツールで明確になることだろう。トーマスの負傷は大きなものではなく、すでにツールに向けて調整を再開。ベルナルもスイスを走り終えてのインタビューで「ツールではトーマスを支える」と明言。フルームを欠く今回、押しも押されもせぬエースの個人総合2連覇に向け、最善を尽くすとしている。

 ただ、アシストの任務について、「トーマスが自分より好調であれば」との一言を付け加えることも忘れていない。ということは、ベルナル自身がトーマスより状態が良いと判断できれば、勝負にいく可能性もあるということか。戦線復帰へ急ピッチで仕上げてきたこともあり、突如の息切れや重要局面を前に調子のピークがすぎてしまわないかなど、気になる部分もあるが、本人のアシスト発言はさておいて、ツール本番は総合エースの1人としてトーマスとの共闘となりそうだ。

サガン、ヴィヴィアーニらもツールへ向け準備万端

 スイスは大会中盤戦まではスプリンターが主役を張った。前回のこのコーナーで「マイヨヴェール前哨戦」と書いたが、このジャージを争うツールのポイント賞も楽しみが膨らんでいる。

ツール・ド・スイス前半戦を盛り上げたペテル・サガン。最終的にポイント賞を獲得。ツール・ド・フランスに弾みとなる走りを見せた =ツール・ド・スイス2019第3ステージ、2019年6月17日 Photo: Tour de Suisse

 今大会でポイント賞3連覇を達成したペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)。今回は個人TTで争われた第1ステージでの7位を皮切りに、第2ステージ以降は4日間連続してトップ3フィニッシュ。個人総合でも3日間首位を走るなど、“ツール・ド・スイスの顔”にふさわしい活躍ぶり。彼にとって、スイスのポイント賞はツールに通ずるものとなっているが、今年もツール開幕までの残り数日間でさらに仕上げていくことだろう。

 ステージ勝利数ではサガンを上回ったエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)も、未勝利に終わったジロの雪辱を期してツールにピークを持っていく。ヴィヴィアーニ自身の勝負強さもさることながら、圧巻だったのは最終局面までの流れを構築したリードアウトマンたちの働き。ツール本番では誰がヴィヴィアーニのお膳立てをすることになるのか興味深いところ。きっと、卓越したスプリントトレインが7月にも見られることだろう。

エリア・ヴィヴィアーニも好調をアピール。ツール・ド・スイスでステージ2勝を挙げた =ツール・ド・スイス2019第6ステージ、2019年6月20日 Photo: Tour de Suisse

 この2人に続いたマイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム サンウェブ)も調子を上げてきている様子。今大会は第9ステージを出走せずに離脱したが、山岳ステージで無理する必要がないとの判断によるもので、コンディション調整を優先。フィニッシュ前でのスピードはもちろんだが、「上れるスプリンター」の1人として、サガンに対峙できる力があることは明白。チームは総合エースのトム・デュムラン(オランダ)がけがの回復に専念するためツール回避を表明。狙いが自らのスプリント一択になったことも追い風にしたいところ。

 今年のツールはマイヨヴェールとならび、第1ステージでの優勝もスプリンターにとって大きな目標となる。すでにヴィヴィアーニがステージ優勝で大会最初のマイヨジョーヌ着用を目指すと宣言するなど、好調なスピードマンたちの視野に確実に入ってきている。サガンらと同様にスイスを走ったアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAE・チーム エミレーツ)なども含め、大会前半から中盤までを彩った選手たちがツールでマイヨジョーヌ着用なるかも見ものだ。

ツール・ド・スイス第4ステージでのスプリント。ツール・ド・フランス本番でも熱い勝負が期待される =2019年6月18日 Photo: Tour de Suisse

バルベルデ、ウランも復調 オランダではスプリンター決戦も

 ドーフィネやスイスに注目が集まった“ツールへの道”だが、別のレースで脚試しをした選手たちも数多い。注目ライダーたちの動向を押さえておこう。

アレハンドロ・バルベルデが戦列に復帰。ルート・ドクシタニー第1ステージを制すると、そのまま最後までリーダージャージを守り抜いた =2019年6月20日 Photo: Aubin Lipke / La Route d'Occitanie

 まず、6月20日から23日までフランスで開催された、ルート・ドクシタニー(UCIヨーロッパツアー2.1)では、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)が個人総合優勝。この大会は昨年まで「ルート・ド・スッド」の名で知られたピレネー山脈を舞台とするステージレース。

 バルベルデは、リエージュ~バストーニュ~リエージュを控えた4月下旬に落車で腰を負傷。リエージュこそ出走したものの、けがの具合が思わしくなく、しばしレースから離れていた。その復帰戦となったこの大会では、第1ステージを制すると最後までリーダージャージをキープ。第3ステージでは頂上フィニッシュが設定され、スタート前までは「難関ステージでジャージを守るのは不可能だと思う」と述べていたが、ふたを開けてみるとトップと同タイムのステージ2位。個人総合優勝を決定的にする走りだった。

 ツールに向けては、ナイロ・キンタナ(コロンビア)とミケル・ランダ(スペイン)の両エースを支えると宣言。モビスター チームと言えば、ジロでのリチャル・カラパス(エクアドル)の個人総合優勝が記憶に新しいが、勢いそのままにツールへ挑むチームにあって、バルベルデの復帰は確実にプラスへと働くだろう。

 また、このレースではリゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト)も個人総合3位とまとめている。ウランも3月のパリ~ニースでの落車で戦線を離脱していたが、5月に復帰してツールへの調整を本格化。その過程で臨んだレースでまずまずの走りを見せている。ツールのマイヨジョーヌ争いに名乗りを挙げたと言ってもよさそうだ。

スプリンターではディラン・フルーネウェーヘンも好調。地元オランダで開催されたZLMツールでステージ2勝を挙げた(写真は第1ステージ) Photo: George Deswijzen

 6月19日から23日まで行われたZLMツール(UCIヨーロッパツアー2.1)では、地元オランダの雄、ユンボ・ヴィスマが限りなくベストメンバーに近い形で出場。絶対的なエーススプリンターのディラン・フルーネウェーヘン(オランダ)も参戦し、レースを盛り上げている。

 そのフルーネウェーヘンは第1ステージと第2ステージを連勝。両日とも完全フラットに近いレイアウトでの戦いだったが、ライバルを寄せ付けず。同様にスプリント勝負となった第5ステージでは、カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)が制しており、前述したサガンらスイス組のスプリンターとならび、ツールに向けて気炎を揚げている。

 なお、個人総合ではマイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)が優勝。ユンボ・ヴィスマはトップ10に4人を送り込み、地元レースに花を添えている。

今週の爆走ライダー−マイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ステージレースでの総合成績、そしてスプリントと強化に成功し、トップチームの一角としてふさわしい強さを発揮するユンボ・ヴィスマ。その中にあって、目下売り出し中の平地系スペシャリスト。今シーズンはステージレースでも個人総合を2度制し、元来得意としてきたクラシックレースにとどまらない幅のある戦いぶり。直近では、強力メンバーで臨んだZLMツールで頂点に立った。

プロデビュー以来平地系のスペシャリストとして鳴らすマイク・テウニッセンだが、かつてはシクロクロスで各年代のトップを走った経験の持ち主 =UCIシクロクロスワールドカップ2010-2011第5戦カルムトハウト、2010年12月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 現在のトップライダーの多くに違わず、シクロクロスをバックボーンとする。アンダー23カテゴリー時代の2013年には世界選手権でも優勝したほどの実力者だったが、やがて「得意としていたスプリントで勝ち目が減っている」との理由でロードへの完全転向を決意。それこそ当時は順風満帆だったキャリアに初めてとなる挫折を味わったが、ロードにおける自らの可能性を実感し、潔く転向を決意したあたりに彼の個性があるといえるそうだ。

 以来、ロットNL・ユンボ(現ユンボ・ヴィスマ)、チーム サンウェブと所属したが、今年はプロデビューしたときのチームへ出戻り。首脳陣から課せられたミッションは北のクラシックでの結果とスプリントトレインの統率役。4月にはパリ~ルーベで7位となり、スプリントにおいてもフルーネウェーヘンを再三勝利に導くなど、評価をしっかり高めている。ツールのメンバー入りも決まり、ZLMツールのタイトルを引っ提げて本番を迎えることになる。

 そのZLMツールでは、最終ステージに自らのリーダージャージキープをアシスト陣が優先したためフルーネウェーヘンが3位に沈んだことを悔やんだ。自分の勝利より仲間を思う一面を見るに、きっと心優しきキャラクターなのだろう。

 2年ぶり出場となるツールへは、彼の大応援団が開幕地・ブリュッセルに集まる予定なのだとか。フルーネウェーヘンを第1ステージ勝利に導くことで、サポーターの応援に報いるつもりだ。

ZLMツールでキャリア2度目の個人総合優勝を果たしたマイク・テウニッセン(中央)。出場が決まっているツール・ド・フランスではディラン・フルーネウェーヘン(左から2人目)をスプリント勝利に導く重責を担う Photo: Kempenfoto.nl
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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