可憐女子、ヒルクライムにハマる私はこうして富士ヒル女王になりました 2018年大会優勝・ますこさんインタビュー<前編>

by 大澤昌弘 / Masahiro OSAWA
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 2018年6月開催の「富士の国やまなし Mt.富士ヒルクライム」(以下、富士ヒル)に初出場で女子総合優勝、2019年大会は女子選抜クラスで2位になった増田菜穂子さん(通称:ますこさん)。中学、高校時代は演劇部、短大時代は料理研究部に所属、運動とは縁のない青春時代を過ごしながら、ロードバイクを始めてわずか1年ほどで富士ヒル女王の座についた26歳の彼女。ロードバイクやヒルクライムとの出会い、そして富士ヒル女王になるまでに一体何があったのか。ますこさんに話を伺った。

中学・高校時代は演劇部、短大時代は料理研究部に所属していた増田菜穂子さん。ロードバイクを始めて1年余りで富士ヒル女王に。短期間で成果を収めた秘密はどこに? Photo: Masahiro OSAWA

ロードバイクにのめり込む可憐女子

―ロードバイクに乗り始めたきっかけは?

初めて買ったロードバイクはメリダのスクルトゥーラ410 画像提供::増田菜穂子さん

 私にはロードレースをやっている兄がいて、私のことを運動不足だと見ていたのか、兄から家にあるローラー台に「乗ってみる?」と言われて、30分ほど漕いでみたんです。2017年2月のことですね。

 そうしたら、滝のように出る汗や、心臓がどきどきする感じがとても新鮮でした。今までにない感覚を味わってから、自転車に興味を持って、兄についていってアルミのロードバイクを買いました。納車まで2カ月かかると言われたので、実際に乗り始めたのは、2017年4月からです。

 乗り始めた頃は、荒川サイクリングロードを走っていたんですけど、最初は全然スピードも出ないし、風も強いし、思ったよりもツライな…と。兄が一度だけサイクリングに付き合ってくれたとき、私がすごく遅くて、物足りないと思われたのか「次から自分一人で行ってね」と言われたくらいです。時速20kmも出ていなかったと思うので仕方ないんですけど、それ以降は一人で走っていました。

―嫌になりませんでしたか?

 颯爽と走るみんなの姿を見て、自分もそうなりたいと思って練習したんですよ。もともと負けず嫌いなので、週末は同じルートを毎週走っていました。4月に乗り始めて、その年の10月くらいまでずっと一人で走っていました。走行ログをSTRAVAにアップロードすると、コメントがもらえるようになって「一緒に走りませんか?」といったお誘いをもらえるようになって、仲間の輪が徐々に広まった感じです。

―自転車ショップのワイズロードのチームメンバーになっていますが、最初は入っていなかったということですか?

 兄から「ある程度走れないとチームに入ってもついていけない」と言われて、ビビってました。だから、ある程度走れるようになろうと思って毎週末サイクリングロードを走っていました。今考えると、よく飽きなかったなと。がむしゃらでしたね。

両親からは「危ないからやめなさい」

―ヒルクライムとの出会いは?

 乗り始めて半年経って、仲間と走ったときに、ひどい落車をしてしまったんです。仲間の後輪に前輪を当ててしまって、結構なスピードで落ちてしまいました。顔をアスファルトで引きずって、手も指の骨が見えるほどの傷も負ってしまうひどい怪我でした。医者からは元には戻らないなんて言われたくらいで…。

大怪我で両親からは辞めるように諭されつつも「一度感じた風は忘れられない」と増田さん Photo: Masahiro OSAWA

 そんな経験をしたら、両親からは「もうロードバイクには乗るな」と。そう言われたんですけど、結構乗れるようになっていたので「やめられないな」と思っていました。今考えると本当に何を言っているのか、という感じなんですけど、一度感じた風は忘れられなくなってしまって…。兄やサイクリング仲間からは山を上るだけだったら、落車しても大きなけがにはならないと聞いて、親を説得してまた自転車に乗り始めました。

―初めての峠はどうでしたか?

飽きることなく上り続けた白石峠。勾配だけではなく休みどころがないところがキツイとも言われる 画像提供:増田菜穂子さん

 初めて上ったのが埼玉県にある白石峠(約6.4km、平均勾配8%強)でした。兄に連れられて行ったのですが、上りがきつくて自分は途中で足をついてしまいました。兄は先に行ってしまうし、坂道への苦手意識が生まれてしまいました。

 けれど、毎週土曜日に白石峠を上るワイズロードの練習会があることを知って、そこに参加させてもらううちにヒルクライムにどんどんハマってしまったんです。その頃はただ山に登るのが好きという感じで、誰かと競いたいとは思っていませんでした。

―どこにハマりました?

 毎回行くたびに何秒かタイムが縮まったんですよ。どんどんタイムが縮まって、周りも「このままやれば速くなれるんじゃない?」と、もてはやしてくれて、「やればできるかもしれない」「タイム縮まっちゃうかも」と自分の気持ちもだんだんののってきちゃったんです。メンバーには年上の人が多いので、練習でアドバイスしてくれたり、並走してくれたり、仲間の存在は大きいかったですね。

 それから、白石峠の登頂タイムが30分を切ると「足がある人」という情報を見たのも大きかったです。何とか30分を切りたいな目標を達成したい気持ちが強くなって、走っていくうちに30分を切れるようになると、次はSTRAVA上の白石峠のQOM(クイーン・オブ・マウンテン=山岳女王)をとりたいなと思うようになって…。そうなると、土曜日だけで物足りなくなって、日曜日は一人で行くようになりました。毎週土日は同じ場所にいくようになりました。日曜日は制約なく一人でいろんなところを上れたので楽しかったです。

-土曜・日曜ともに往復130kmの道のりですよね。なぜそんなに頑張るのですか?

 白石峠のQOMを絶対取りたいなと。めちゃくちゃ負けず嫌いなので、目標があると頑張れて楽しくなっちゃうんですよ。

目標があると頑張れてしまうという Photo: Masahiro OSAWA

負けず嫌いが生んだミラクル

―どんどん速くなって富士ヒルで挑戦してみようと思ったわけですか?

 レースには興味がなかったので、そういうわけではないです。実は2018年の富士ヒルも「イベントに連れて行ってあげるよ」という人がたまたまいたから、エントリーしたという感じです。初めてだったので「ブロンズ(※1)を取りたい、できればシルバー(※2)に近いブロンズにしたい」とは思っていましたが…。

※1:1時間30分以内でのゴール ※2:1時間15分以内でのゴール

―で、初出場で1時間12分。優勝してしまった?

 そうなんです。メンバーも驚いちゃって…。でも、そんな感じだったんです。周りも自分もビックリという感じで…。

初出場の富士ヒルで女子総合優勝に 画像提供:増田菜穂子さん

―白石峠が練習コースだったそうですが、同じ坂を上っていると見えてくるものはありますか?

 同じ峠を何度も走ると攻めのポイントもわかってきます。ずっと走っていると得意な斜度、苦手な斜度がわかってくるので、苦手なところであきらめずにいかにパワーを持続させるのかを意識しないとタイムが伸びないことに気づきました。どの区間でも、パワーウェイトレシオ(PWR ※出力を体重で割った値)でいうところの4倍で踏み続けるようにするとタイムが伸びました。

 同じ峠だとペース配分も考えられるようになります。どこでパワーを出すべきかが見えてきます。白石峠では、3つの区間に分けて考えます。最初の区間は勾配がきついので、なるべくPWR4倍以上のパワーで上り、次に比較的緩くなる区間で、PWRが4倍を下回ってしまうことが多いので、なるべく4倍に近づくように頑張ります。最後は斜面が序盤ほどはないにせよ、きつくなります。全体を通じてPWRが4倍になるようにこなしていく感じです。

―パワーメーターはいつから使い始めましたか

 2018年2月にチームメンバーが使っていたLOOK 695を購入しました。そこにパワーメーターの「ステージズ」(STAGES)がついていました。私の場合、パワー表示をするのにサイクルコンピュータを買いなおす必要があったんですが、パワーメーターが使えるというより、ガーミンが使えることにワクワクしていました。

初の富士ヒルはLOOK 695で参戦。ガーミンの「ピロン」という優雅な音への憧れがパワーメーターを使っていくきっかけにもなっていく 画像提供:増田菜穂子さん

 あの計測開始ボタンを押したときの「ピロン」っていう音が欲しくて…。それを兄に言ったら「ガーミン買ってパワー表示できても、どうせ数値の管理なんかできないんだから、お前は買わなくていい」みたいなことを言われたんですけど、「ピロン」ていう音がどうしても欲しかったので、買っちゃいました。

 それから、富士ヒルのシルバーを狙うなら「PWRは4倍ないと厳しい」的な記述をウェブで見たので「PWR4倍を目安に走っていれば、そこそこ速い人になれるんじゃないか」と思いながらパワーメーターを使っていました。でも、初めて富士ヒルに出たときは、パワーメーターの情報はガーミンに表示される数値を参考にするくらいで、それ以上の使い方はしていませんでした。

(後編へ続く)

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