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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<32>マチュピチュ、アンデス、パタゴニア 旅の裏技「ビザ繰り」で広大な南米を自由に走る

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 南米大陸は広大だ。ただ幸運なことにほとんどの南米の国はビザなしで渡航でき、国によって詳細なルールはまちまちだが、入国する際に30日から90日の滞在許可が下りる。さらに滞在日数をオーバーしそうなら、一日だけでも隣国に出国し、また戻ってくれば再び滞在日数のビザをもらえる国が多い。旅人の間ではこの行為を「ビザ繰り」と呼び、これによって居心地の良い国を思う存分楽しむことが出来た。そのため、南米に数年単位を費やす人は少なくなかった。

ボリビアの首都ラパスにある日本食堂「けんちゃん」のトゥルーチャ丼(マスの一種)。各地で美味しい日本食が食べれるのも旅人を惹きつける大きな理由の一つだ Photo: Gaku HIRUMA

広大で自由な南米大陸

 旅人に人気の国では唯一ブラジルでビザが必要だったのだが、2019年6月17日からビザが免除されたというから、南米の自由度はさらに増しそうだ。期間は12カ月で最大180日。入国日から数えて90日後に、180日を超えない範囲でさらに90日間の延長が認められるという(※ビザ繰りもブラジルビザ免除に関しても、ビザはかなり流動的なので、直前に最新情報を必ず調べる必要あり)。

通常30日の滞在許可しか下りないボリビアだが、自転車旅だからとお願いしたら、30日のスタンプを2つ押してくれて合計60日の滞在許可をもらうことが出来た Photo: Gaku HIRUMA

 これだけ広大な大陸を自分の好きなように選択して走れるのは、ヨーロッパと北米大陸、南米大陸くらいしかないが、ヨーロッパはシェンゲン協定でトータル90日しか滞在できず、北米も広大なアメリカ1カ国で90日なので自由度は南米の方が圧倒的に高い。同じように広いアフリカや、アジアでも走れる国や日数にかなり制限があるので、自由に走れるとは程遠い。

 ただ、ここまで広大で自由な南米大陸でも、「鉄板ルート」のようなものがあり、サイクリストは大体似たようなルートを走ることが多い。まずは世界的な観光地であるマチュピチュやナスカの地上絵。旅人の憧れのボリビアの乾季のウユニ塩湖走行。雄大なアンデス山脈。世界三大瀑布イグアスの滝。パタゴニアの青い巨大な氷河。南米を走る前は南米にイメージする世界はこんな感じで、スタート地点はコロンビアかエクアドルかまちまちだが、ゴールは皆最南端であるウシュアイアを目指す。逆の場合ももちろんあるが。

ナスカの地上絵を横切るように延びるパンアメリカンハイウェイ。ここも走行ルートで自分の足でナスカを走れる。有名なハチドリやクモなどはセスナに乗れないと見れない Photo: Gaku HIRUMA

 そのため、このような観光地を繋ごうと思うと、大体のサイクリストはアンデス山脈沿いを走ることが必然的に多くなる。この場合イグアスの滝や情熱的な魅力溢れるブラジルは通らないという苦渋の決断をしなければならないが、それでもやはりアンデスの4000m級の山々を何度も上ったり下りたりしながら進んで行くことに魅力を感じるのは、まさにサイクリストの“性”ともいえる。

想像に反して居心地の良かった南米

 アンデスを越え終わると、今度はパタゴニアが待っている。そのパタゴニアではチリのアウストラル街道か、アルゼンチンの40号線(ルータ・クワレンタ)を選ぶかでサイクリストを二分する。当時、アウストラル街道は雨のシーズンに入っていたため、僕は40号線を走ってパタゴニアらしい荒野の強風に吹かれてきた。ただこのアウストラル街道は世界一美しい林道と呼ばれており、いつかは走ってみたい道のひとつだ。

 ちなみに僕は、南米はコロンビアからスタートし、エクアドル、ペルー、ボリビア、アルゼンチン、チリのアンデス山脈沿いに何度もアンデスを跨ぎながら南下し、ウシュアイアに辿り着いた。言わずもがなアンデスの4000m級の山々が連なるルートはこの旅のハイライトともいえるくらい素晴らしく、多くのサイクリストやバックパッカーを惹きつける理由がよく分かった。

アンデスは4000mの峠を幾度も越えながら進む。ただ標高3000mや4000m付近には突如広大な平たい高地が現れるため、高地とは思えない穏やかな風景が続く Photo: Gaku HIRUMA

 そして旅をしていると居心地の良い町や宿の情報も入ってくるので、そこでサイクリストに出会うことも多かった。南米は日本から遠い大陸ということもあり、「行きにくそう」とか「治安がものすごく悪そう」というイメージを持ってる人が多いと思う。実際、走る前の僕もそうだった。

 ただ、走ってみると確かに治安が悪いところは気を付けなければならないが、むしろそういう場所はごく一部で、ほとんどが何も心配することがないくらい穏やかだった。自然が本当に豊かで、山あり海あり砂漠あり熱帯雨林ありと多種多様の大陸。先住民であるインディヘナが多いエクアドルやペルー、ボリビアのような国や、ヨーロッパからの入植した人達が多いチリやアルゼンチンといった国を一本の線で続けて走れるのは、非常に面白かった。

 特に4000m級の山岳国家のボリビアから、アンデスの向こうのアルゼンチンに下りてきた道は自然も文化も全く異なっていてとても興味を惹かれた。高地の寒々しいボリビアから下りてきたアルゼンチンの北部はワインの産地になっていた。ワインの産地がこれほどまでに清々しく、気持ちの良い気候であるとは走ってみるまで全く知らなかった。花が咲き誇り、小さなワイナリーが至ることろにあった。

人が作り出す豊かな時間

 牛肉が安くて美味しいアルゼンチンでは、ブロックで出来たバーベキューピットがホステルやキャンプ場にはもちろん、道の路肩の休憩スペースにもベンチやテーブルと共に設置され、誰でも手軽にバーベキューを楽しめるようになっていた。バーベキューピットがそこらじゅうにあることからもわかる通り、国民性は非常に明るい。人々は肉を焼き、ワインやビールを飲んで語り合っていた。寒々しい高山のボリビアからは想像できないほど自由だった。

アルゼンチンは乾燥しているので日陰は涼しく、テラス席でゆったりと過ごす人たちが印象的だ Photo: Gaku HIRUMA

 また、アルゼンチンの若者の間で国内を気ままに旅行するのが流行っているようで、広場では南米を代表するお茶のマテ茶を「ボンビージャ」と呼ばれる先端にフィルターの付いたストローで、皆で回し飲みをしていた。皆でひざを突き合わせ、一つのお茶を囲んで皆で語り合う文化は、簡単なようで、日本ではなかなか見られなくなった光景だと思う。

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

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