「グッド・チャリズム宣言プロジェクト」瀬戸圭祐さんがリポートサイクリストのマナーが問われる“ヤビツ問題” 下りは減速・上りは譲り合いで相互理解を

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 東京近郊のヒルクライマーにとって“聖地”化している、神奈川・秦野市のヤビツ峠。ここヤビツ峠では近年自転車利用者と、地元住民やクルマなど他の道路利用者とのトラブルが問題化し、激増したサイクリストのマナー改善が求められている。自転車のマナー向上と安全意識の啓発活動に取り組んでいる一般社団法人「グッド・チャリズム宣言プロジェクト」(通称:グッチャリ)が、今年もヤビツ峠周辺でマナーアップ活動を実施した。
(リポート:グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事 瀬戸圭祐)

休日にはクルマも自転車も交通量が増えるヤビツ峠。安全確保を最優先に走りたい Photo: Keisuke SETO

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活動への新たな賛同者も

 まず最初にお断りしておくと、これはヤビツ峠で増加しているヒルクライマーを糾弾するものではない。むしろ目標を持って前向きにトレーニングを行っている姿勢はとてもポジティブに思う。実際、今回のマナーアップ活動に参加していただいたサイクリストの中にも、いわゆる「坂バカ」と呼ばれる坂好きなサイクリストの姿があった。

秦野駅に集まり始めた参加者たち Photo: Keisuke SETO

 グッチャリのヤビツ峠でのマナーアップ活動は2017年からスタートし、今年で3年目となる。参加者は荒川や多摩川、三浦半島や奥武蔵などで活動しているグッチャリのメンバーがほとんだが、今回はこれまでのグッチャリの活動をメディアやSNSなどの情報で知り、それに賛同して初めて参加してくださった方が何人もいらっしゃった。

 さらにグッチャリのイベントを知って裏ヤビツから峠で合流してくださった方など、総勢20人以上の参加者で活動することができた。我々の活動がサイクリストに認知され、「より良い自転車社会」に向けてご協力いただける方が増えていくことは嬉しい限りだ。

特に危険なスタート直後の市街地

ヤビツ専用のマナーアップチラシを作製。カスタマイズ版なら説明しやすい Photo: Keisuke SETO

 国道246号線の名古木(ながぬき)の交差点にあるコンビニが、ヤビツ峠でタイムアタックを行うヒルクライマーのスタート拠点としてよく使われている。ここで全体ミーティングを行い、初参加の皆様にマナーアップ活動やサイクリストへの声のかけ方、チラシの渡し方などを説明した。

 上り始めると、蓑毛(みのげ)という集落までの最初の数kmは市街地の中を走る。勾配が強く、直線が多い道路であるため、上るのはきつい。が、下ってくる自転車はスピードが出やすい場所である。この区間が、下り自転車が問題視される危険な場所といわれている。

蓑毛の集落に向けて一直線に伸びる道。住民との事故が多い危険地域だ Photo: Keisuke SETO
マナーアップを呼びかけるのぼりが、随所に掲げられている Photo: Keisuke SETO

 そしてその区間には、秦野市がとった対策として「自転車マナーアップ」「歩行者に注意」といったノボリが随所に掲げられている。

 それでも中には時速数十km以上の猛スピードで下ってくるサイクリストもいて、大声で「スピード出しすぎ危険!」と叫ぶが、そのまま減速せずに走り去ってしまう人もいる。また、上りの場合も、特にタイムアタックなどをしている人はスタート直後は脚もフレッシュなので、見通しの良い直線路になるとタイムを稼ごうとしてスピードを出す人が少なくない。

 市街地で交通量も歩行者もそれなりに多いこの区間での安全速度の順守や、歩行者や他の道路利用者への思いやりと譲り合いが、ヤビツ問題における最も重要な課題といえるだろう。

一部のクライマーが与えるマイナスイメージ

 蓑毛の集落を抜けるとヤビツ峠に向かって本格的な山道が始まる。2車線から1車線になり、カーブの多いワインディングロードで見通しもあまりきかなくなる。しかし交通量は減るので、ヒルクライマーにとっては「ここからが本番」という気持ちになりやすい。

 マイペースで上っていると、後方から迫りくる気配を感じた。振り返ると、すぐ横をヒルクライマーがあまり車間も開けずに我々を追い抜いて行った。「抜きまーす」「お先に失礼します」といった声かけもなければ、挨拶もない。こちらから挨拶したり「頑張ってください」と声掛けをしたりしても、返事をしない人もいた。

マイペースで上っていると、アスリート系ライダーがダンシングで追い抜いて行く Photo: Keisuke SETO

 必死でトレーニングをしていたり、タイムアタックの最中で言葉を発する余裕がなくても、会釈やアイコンタクトなどで挨拶を返してくれると少しは救われるのだが…。コース取りのライン上に私がゆっくり走行しているからか、猛スピードで抜かれると邪魔扱いされているような雰囲気さえ感じる。最短ラインで抜き去ろうとするところに対向車が現れ、クルマが慌ててブレーキを踏み込むという場面もあった。そんな彼らの走りにはベテランサイクリストでもヒヤッとすることがあるのだから、初心者にとっては恐怖すら感じるかもしれない。

タイムアタックしている人たちは競うように上って行く Photo: Keisuke SETO

 もちろんそんな人ばかりではない。むしろ声掛けをして抜いて行き、挨拶もする人が大半。多くのヒルクライマーがマナーを守りながらトレーニングをし、周りに迷惑をかけることなく自己研鑽に励んでいるのだが、そういったマナーの悪いサイクリストが少しでも存在することで全体のイメージが悪くなってしまう。

道路利用者はサイクリストだけではない

 ヤビツ峠への道は自転車だけでなく様々な人たちが利用する。ヤビツ峠がトレイルランニングの拠点になったことで、道路を走るランナーも増えつつある。登山者が道路を歩くこともある。オートバイのツーリングコースとしても人気があり、またクルマのドライブルートにもなっている。もちろん、公共交通機関であるバス路線でもあり、レジャーだけでなく仕事や生活でクルマを使う人も多い。

ランナーとも声掛けでコミュニケーションを取りたい Photo: Keisuke SETO
モーターバイクともハンドサインやアイコンタクトで Photo: Keisuke SETO

 今回は、ランナーやバイクツーリングの方々の比率が増えたように見受けられた。例年ゴールデンウィークにマナーアップ活動を行っているが、今回は6月の日曜日ということもあってか自転車の比率が少なかったのかもしれない。

 自転車同士の挨拶はサイクリストのマナーだが、他の道路利用者とのコミュニケーションも大切だ。特にここでは、すれ違う、あるいは後ろから抜く際にランナーに声掛けをするのは、サイクリストとしてのマナーだと思う。ランナーの中には突然声を掛けられて一瞬驚く人もいるが、皆一様に笑顔で挨拶を返してくれて、お互いが気持ちいい。挨拶が互いのリスペクトにつながって行くのである。

少しでも意識してもらえるように

 例年、GWのヤビツ峠は何十人ものサイクリストで溢れる。しかし今回の6月のヤビツ峠は天気が良いにもかかわらず、滞在しているサイクリストはせいぜい十数人だった。一方で、峠につけばすぐに下ってまた上るといった、激しいトレーニングをしている人の姿が目についた。

峠で休んでいるサイクリストの皆さんにヤビツでのマナーについて理解を求める Photo: Keisuke SETO

 峠にいるサイクリストにマナーアップチラシを渡して啓発活動を行うが、実際にチラシを受け取って話を聞いてくれる人は、もともとルールやマナーを理解している人が多い。挨拶を無視するようなヒルクライマーは、とんぼ返りで下って行くか、そのまま通過して行ってしまう人が多く、話しかけることも難しかった。

 それでも何人かはヤビツで起きている問題を知らず、我々が話しかけて初めて知ったようだった。こうして話をすることで、次回ヤビツを訪れたときに思い起こし、意識してもらえるだけでも活動の意義はあるのだと信じている。

ヒルクライマーの人たちにも話をすると好意的にチラシを受け取ってくれた Photo: Keisuke SETO

 ある参加者の方がチラシを渡したサイクリストは、地元秦野市在住の方だった。ご自身はサイクリストとしてヤビツ峠を楽しみつつも、地元住民の方々からサイクリストが白い目で見られていることに痛みを感じていると話していたそうだ。そして、その方からマナーアップ活動に対し「ありがとうございます」といわれたという。

道路利用者同士、互いの思いやりを

 今回初めてマナーアップ活動に参加いただいた方々からは、「今後もサイクリストがヤビツ峠を楽しむことができる環境を維持していくためには、まず地元の方々にサイクリストが歓迎されることが必要だと改めて感じた」「周りのサイクリスト全てがルールを守り、危険走行をしなくなることで、違反しづらくなるような環境になると信じたい」「少しでも多くの方に広がっていくよう、今後も活動を続けていきたい」といったコメントが寄せられた。

今回の活動にはグッチャリメンバー以外の方々も、多数ご参加いただいた Photo: Keisuke SETO

 ヤビツの問題はヤビツだけでなく、サイクリストのマナーやルール順守が課題になっている全国各地のフィールドでも対策が必要な共通のテーマだろう。ハード面の対策よりも、自転車利用者の意識の改善が大切なのかもしれない。公共の道路という場において、それぞれが被害者にも加害者にもならないためには各々がどうすべきなのか。サイクリストに限らず、全ての道路利用者がお互いに思いやりの気持ちを持って、マナーやルールを守ることを呼びかけ続けて行く必要がある。

 「より良い自転車社会」に向けて今後も活動を続けていきたい。

瀬戸 圭祐瀬戸圭祐(せと・けいすけ)

 中学高校時代にランドナーで日本全国を走り、その後北米大陸ロッキー山脈、北極圏スカンジナビア山脈、欧州アルプス山脈、西ヒマラヤ/カラコルム山脈、ヒンズークシュ山脈などを単独縦断走破。著書は「ジテツウ完全マニュアル」「爽快!自転車バイブル」「自転車ツーリング ビギナーズ」「自転車生活スタートガイド」など多数。現在は自動車会社に勤務しつつ、NPO法人自転車活用推進研究会理事、(一社)グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事などを務め、より良い自転車社会に向けた活動をライフワークとしている。

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