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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<297>ツール前哨戦が着々と進行中 マイヨジョーヌなど4賞候補の現在地をはかる

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ツール・ド・フランスの開幕まで1カ月を切った。この時期ともなれば、やはりツールの主役となりうる選手たちの動向が気になるところ。6月に入り、各所でツール前哨戦が展開されているが、彼らはいかに脚を試し、ここまでの調整の成果を披露しているか。6月16日に閉幕したクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、そして現在進行中のツール・ド・スイスから、ツールでの活躍が期待される選手たちの「現在地」をはかってみよう。

ツール・ド・フランス前哨戦、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで個人総合優勝を果たしたヤコブ・フルサング。シーズン序盤から絶好調をキープしている =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第8ステージ、2019年6月16日 Photo: A.S.O. / Alex BROADWAY

ツールに向けた順調な仕上がりがドーフィネの結果に反映

 ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ プロチーム)が2位に20秒差をつけて頂点に立ったクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ。全8ステージを通して大崩れすることなく、重要区間でしっかりと上位を押さえたフルサングの巧さが最終的な結果に表れた印象だ。

ヤコブ・フルサング(左から3人目)を守りながら走るアスタナ プロチームの選手たち。ツール本番では随一のチーム力を誇ることになりそうだ =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第8ステージ、2019年6月16日 Photo: A.S.O. / Alex BROADWAY

 リエージュ~バストーニュ~リエージュ制覇を筆頭に今年はビッグリザルトを連発しているフルサングだが、元々ステージレースにおいては総合力と安定感で勝負するタイプ。山岳やタイムトライアルを得意としているとはいえ、ステージ勝利を狙っていくよりは堅実な走りを日々続けて総合成績を固めていくスタイルを得意とする。いわば、ステージ勝利ゼロながら個人総合優勝につなげたドーフィネの戦い方こそ彼の真骨頂でもあり、このところは高いレベルで安定している彼らしさがツール前哨戦で見られたといえよう。あとは、3週間の戦いに反映させられるかだ。

今シーズン絶好調のヤコブ・フルサング。キャリア最高の状態でツールへ向かうことになる =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第8ステージ、2019年6月16日 Photo: STIEHL / SUNADA

 数々の実績を誇るフルサングだが、意外にもツールの最高成績は2013年の個人総合7位。総合エースとして臨みながらアクシデントでリタイアに終わったケースや、チーム事情でアシストにまわった年もあったが、今年はキャリア最高の状態で本番を迎えられそうだ。さらには、シーズン序盤から絶好調のチームがフルサングを盛り立てる点も心強い。今年はすでに28勝を挙げ、ドーフィネでもトップ20に4人を送り込むなど、これまで以上に戦力を充実させている。事実、ドーフィネでも集団をコントロールする場面が見られ、レースを統率する能力にも長けている。現在開催中のツール・ド・スイスでステージ優勝を挙げたルイスレオン・サンチェス(スペイン)らもツールでは合流予定とあり、そのチーム力は大会随一となる可能性は高い。ツール本番での準備段階では他をリードしている印象だ。

 フルサング同様に、ドーフィネ総合表彰台を押さえたティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、EFエデュケーションファースト)やエマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)にも、必然的にツールへの期待が膨らんでくる。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ個人総合2位、ティージェイ・ヴァンガードレンも久々にツール上位進出が狙える状況を整えている =2019年6月16日 Photo: STIEHL / SUNADA

 近年のグランツールではアシストや山岳ステージでの逃げでチャンスをうかがってきたヴァンガーデレンは、得意とするタイムトライアルから上位をうかがう彼本来のスタイルがドーフィネで見られた。かつてはツールで個人総合トップ5を経験するなど3週間の戦いを熟知するだけに、あとは本人がその気になれば、ツールでの上位戦線にも顔を出してきそうだ。何より、久々のビッグリザルトに自信を深めていることだろう。

エマヌエル・ブッフマンもツールでは総合成績を狙う =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2019第8ステージ、2019年6月16日 Photo: STIEHL / SUNADA

 チーム内で早くからツールの総合エースが見込まれていたブッフマンも順調だ。今シーズンは出場するステージレースすべてでトップ10フィニッシュと、ハイアベレージを続ける。難関山岳など、重要なステージで確実に上位に入ってくる勝負強さもさることながら、タイムトライアルで崩れることがないあたりも彼のよさ。あとは、こうした戦い方を3週間続けられるかがポイントになってくる。ボーラ・ハンスグローエはスーパーエースのペテル・サガン(スロバキア)がポイント賞のマイヨヴェールを狙うが、あわせてブッフマンでの総合成績の可能性も見出していく。

ツールでの上位進出復帰を目指すティボー・ピノ。ドーフィネでの積極性が光った =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第7ステージ、2019年6月15日 Photo: STIEHL / SUNADA

 総合表彰台は逃したが、ツールでの復権を誓うティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ)も5位と、“仮想ツール”を順調に終えた。結果的に、第4ステージの個人タイムトライアルや要所での駆け引きでフルサングらに後れを取ったが、好調時に見せる「真っ向勝負のスタイル」の片りんはドーフィネの山岳ステージでも見られた。本番に向け、収穫十分。戦える下地は整っているようだ。

 一方、ドーフィネで後塵を拝した選手たちは今後、ツールに向けていかにピッチを上げていくかが見もの。特に、最終ステージまで総合を争いながら、体調不良でリタイアしたアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)や、最終的にフルサングから約1分30秒差をつけられたナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)やリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)らは、そのタイム差以上に仕上がりが遅れていないか不安視されるところ。途中までは好調だったイェーツはまだしも、個人総合でそれぞれ9位、11位のキンタナとポートの姿には、「らしさ」がなかったと言われても仕方がない。

 彼ら同様に順位が振るわなかった中では、同10位のロマン・バルデ(フランス、アール ラモンディアール)が少しずつ調子を上げてきた。ドーフィネからの連戦として挑んだモン・ヴァントゥ・デニベレチャレンジ(6月17日、UCIヨーロッパツアー1.1)で2位。ツールでもおなじみの名峰モン・ヴァントゥの頂上を目指す、今年初開催の山岳レースで上々の走り。早くからツールの調整として臨むことを明かしてきたこのレースで存在感を示している。

 もちろん、前哨戦のリザルトがそのまま本番に結びつくばかりではない。ドーフィネ組にとっては、ツール本番までの2週間でどれだけ状態を整えていけるかがカギとなる。ここからは、各選手の調整能力・ピーキングが試されることになる。

各賞ライダーたちもツールへ弾み

 フルサングにとどまらず、ドーフィネで各賞を獲得した選手たちにもツールへの期待が高まっている。いずれも実力・タレント性は抜群だ。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネではセンセーショナルな走りでポイント賞を獲得したワウト・ファンアールト =2019年6月16日 Photo: A.S.O. / Alex BROADWAY

 まず、今大会最大のサプライズともいえるのが、ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)の大躍進だ。世界を制したシクロクロスで培ったフィジカルを武器に、北のクラシックなどワンデーレースで真価を発揮してきたが、ドーフィネでは新たな一面を見せたタイムトライアル、そしてついにベールを脱いだスプリントと、持ち味を十二分にアピールしてみせた。大会期間中にツール出場を表明。本番では総合エースのスティーヴン・クライスヴァイク(オランダ)のアシストに専念すると公言しているが、彼にもチャンスがめぐってきても不思議ではない。

 トライするとなれば、スプリントと逃げでポイントを稼いでマイヨヴェールを狙っていくというのが最善策。スプリントと逃げでポイント…といえば、サガンのお家芸ともいえるが、その「サガンスタイル」に脚質的に見合っているとみられる。実情として、ピュアスプリンターと対峙するとスピード的に分が悪いが、パンチ力や独走力は持ち合わせているだけに、コツコツとポイントを積み重ねていくスタンスは彼にとって大いに可能性があると見ている。初出場のツールでどこまで挑戦するか未知数だが、やってみる価値はあるだろう。

ジュリアン・アラフィリップも好調。クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは山岳賞を獲得。ツールでもマイヨアポワ2連覇に期待が膨らむ =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2019第8ステージ、2019年6月16日 Photo: A.S.O. / Alex BROADWAY

 レースを活性化させたもう1人、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)も元気だ。ドーフィネ開幕時点で総合を狙う意志はないことを明らかにし、コンディション面での不安も述べていたというが、いざ大会が始まってみればステージ1勝を挙げるなど、しっかり走るあたりはさすが。昨年のツール以来、すっかりお手のものになった「山岳ポイント稼ぎ」は今大会でも健在。ツール本番での山岳賞「マイヨアポワ」2連覇もかなり高い可能性にあるといえそうだ。

 なお、新人賞のマイヨブランを獲得したビョルグ・ランブレヒト(ベルギー、ロット・スーダル)は、カレブ・ユアン(オーストラリア)でスプリントを狙うチーム事情もあり、ブエルタ・ア・エスパーニャに回る見通しだ。

スイス前半戦はマイヨヴェールを目指す選手たちの予行演習の場に

 現在開催中のツール・ド・スイスに目を移してみると、大会前半戦はさながら“マイヨヴェール前哨戦”の様相を呈している。結果はCyclist内で報じられている通りだが、まずは名うてのスピードマンたちがしのぎを削っている。

 急峻なスイスアルプスを舞台とするコース設定とあり、多くのスプリンターがこの大会を避けていることは前回お伝えしたが、爆発力と登坂力を兼ね備えた「上れるスプリンター」にとってはツールに向けてレース勘を養う絶好のチャンス。

ツール・ド・スイス前半戦はスプリンターたちが主役争い。第3ステージではペテル・サガンが圧倒的な強さを見せた =2019年6月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 個人タイムトライアルで争われた第1ステージは別として、第2ステージではサンチェスが逃げ切った後方でサガンらスプリンターたちが上位争い。そのサガンは続く第3ステージで完勝しリーダージャージ獲得と、得意とするスイスで好調な姿を見せている。エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)とマイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム サンウェブ)も第4ステージでは1位と2位を占め、こちらもエンジンがかかってきた。

 ツール本番では、フィニッシュの順位によって付与されるポイントに加えて、コース内に1カ所設けられる中間スプリントポイントでの通過順位も重要になる。これまでには、上級山岳ステージでもサガンらマイヨヴェールを狙う選手たちが中間スプリントポイントをめがけて逃げに入り、得点の加算を狙うシーンが見られたが、現行のシステムではポイント賞獲得には必要な動きとなっている。

 第5ステージ以降は山岳ステージが本格化するため、上れるスプリンターと言えどステージ優勝を目指すのは厳しくなってくるが、「それならば」とばかりに逃げてツールの予行演習を行う選手が現れてもなんら不思議なことではない。

今週の爆走ライダー−グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 勝つことはできなかったが、いまをときめくビッグネームとの大接戦は、観る者にインパクトを与えた。ドーフィネ第6ステージでのアラフィリップとの激戦。高いレベルで戦える手ごたえをつかんだ一方で、勝つことの難しさを改めて知った。

2度目のツール・ド・フランス出場に向けて勢いを増すグレゴール・ミュールベルガー =サントス・ツアー・ダウンアンダー2019チームプレゼンテーション、2019年1月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年に続くツール出場をかけてドーフィネに挑んでいた。第1ステージの5位を皮切りに、逃げてチャンスを見出した第6ステージとできる限りのことはやった。第7ステージでの雨の影響もあり、翌日は途中リタイアに終わったが、ツールメンバー入りへあとはチーム発表を待つのみとなっている。

 脚質はクライマーであることを自負する。上りに強いことは確かだが、ドーフィネで見せたようにスピードにも自信を持つ。逃げや小集団でのスプリントも得意。昨年のビンクバンクツアー第6ステージでは、UCIワールドツアー初勝利を挙げた。

 サイクリストだった父の影響で自転車に乗り始めて20年になる。一時はスキーに傾倒した時期もあったが、けがのリハビリをきっかけに再開した自転車にいつしか魅せられていった。当初は迷いのあった「スキーからの引退」も、いまとなっては間違っていなかったと自信をもって言える。

 人生をかけた自転車でトップチームで走るまでになり、大きなレースを走ることが当たり前になった。最近は山岳から平坦までアシストとしてチームからの信頼を得て、ときに自らのチャンスも引き寄せる。そんな彼は今年のツールで何か大きな仕事をするかもしれない。

 サガンとブッフマンというエースを擁し、上位戦線を戦う構えのチームにあって、オールラウンドに器用さを発揮するミュールベルガーのような選手は必要不可欠。あとは、開幕までの数日間をいかにして過ごすかにかかっている。

クライマーでありながら山岳から平坦までオールラウンドに力を発揮するグレゴール・ミュールベルガー。ツール・ド・フランスでもアシストとして堅実な働きが期待される =ボルタ・ア・カタルーニャ2019第4ステージ、2019年3月28日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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