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猪野学の“坂バカ”奮闘記<35>『チャリダー★』の接待ライドで喰らった新城幸也・土井雪広両氏の“山賊アタック”<後編>

by 猪野学/Manabu INO
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 猪野学さんが出演する番組『チャリダー★』(NHKBS1毎週土曜午後6時~6時50分)で新城幸也選手(バーレーン・メリダ)と土井雪広元選手の両氏を招いて開催した「接待ライドin岩手」。後編は、大槌町の地元サイクリストたちと繰り広げた「大槌新山ヒルクライム」の様子を、猪野さん白熱のリポートでお届けします。二人に良いところを見せようと必死に上る猪野さんですが、新城・土井の両選手に圧倒的な強さを見せつけられます。

地元の皆さんとヒルクライムに挑戦!

◇         ◇

「猪野さん、渋滞してますよぉ!」

 地元の方々との新山ヒルクライムがいよいよスタートした! 7人の地元チャリダーが1分ごとにスタートして行く。トッププロの両氏は最後尾から追い上げる。距離は13km。当然逃げ切れるとは思わないがお二人にはいい走りを見せたい。というのもお二人と初めて出会った「タイ合宿」では良い走りができなかったからだ。言い訳をするつもりはないが、当時、合宿直前まで舞台公演を行っていた私は満足に自転車に乗れていなかったのである。あの時よりは走れるはずだ! 少しでも長く逃げてやると意気込みいざスタートを切った。

 いきなり急勾配のお出迎えだ。280Wで踏めている。いい感じだ。すると1分前にスタートした方が見えて来た。「頑張りましょう!」と言ってパスする。頑張りましょうとか言っておきながら、内心では二人に捕まる最初に犠牲者でなくなったとニンマリする。我ながら小さな人間性だ。

 スタートから5分くらい走っただろうか? 振り向くとまだ二人の姿は見えない。しかし着実に差を詰められているのは確かだ。

 このコースの1番の激坂区間に入った。一気に脚に乳酸が溜まり始める。前に2人目の選手が見え出した。どんどん近付いてくる。踏めている!今日の俺は行けるぞ!─と思った瞬間、背後から「渋滞してますよぉ!」と声が…

背中にものすごい圧を感じる

 振り向くと、なんとお二人が真後ろでニヤニヤしているではないかっ!! いつの間に!? 一気に追い抜いて留めを差して欲しいが「早くぅ〜後ろ詰まってますよぉ!」となかなか抜かずに、私をいびり始めた。中学生の時に上級生にカツアゲされた記憶が蘇る。上級生にいたぶられる下級生の気持ち。

 新城選手がカチッとギアを上げると、とんでもないダンシングであっけなく留めを刺された。恐ろしい強さだ。目の前で見るとやはり凄い。二人はあっという間に私の前から消え去って行った…。

フラッシュバックした“山賊アタック”

 ここからは純粋に坂を楽しむ、ことにした。激坂区間を抜けるとつづら折れ区間。ここはスピードが乗り、気持ち良く走れる。

 すると上方から「猪野さ〜ん、早く〜」とまた“上級生”の声が聞こえる。見るとつづら折れの遥か上の方にお二人の姿が。「もうあんな所まで上ったのか!?」─信じられない速さだ。しかし私も負けてはいない。地元の方々を次々とパスして行く。タイ合宿の時よりは確実に走れている! こうなったら少しでも早くゴールしてやる!

 地元の方々の中で最速であろう方が前方に見えた。あの人を抜けば全員パスしたことになる。しかし姿は見えるがなかなか追いつかない。呼吸が乱れ出し、苦しくなってきた。すると後ろから物凄い勢いで「ヒャッホー!」と奇声をあげて追い抜いて行く影が…。一瞬何が起きたか分からない。

 ここで記憶が3年前のタイ合宿へとフラッシュバックする。

2016年のタイ合宿の記憶がフラッシュバック!

 合宿中、昼食休憩をとって再び走り出した直後に、土井さんと新城さんが猛烈にアタックして逃げた。食後にはキツいアタックだ。しかし「エース!追いますよっ!(何故かエースになっていた)」と残った選手に言われ45km/h巡航で逃げを追うハメになった。しかしいくら追っても二人の姿が見えてこない。

 すると後方から物凄い勢いで奇声をあげて我々を追い抜いて行く影が。私はタイの山賊でも現れたのかと思ったが、その正体は逃げていた新城・土井の両氏だった。なんと途中の脇道で隠れていたのだ! 何ともイタズラ好きな山賊。その山賊が、この大槌にも現れたのだ!

楽しそうにヒルクライムする新城・土井両“山賊”

 この“山賊アタック”、やられてみないとおわかりいただけないと思うが、喰らった本人は屈辱感から全身の力が抜け、完全に心がへし折られることになる。心身共にかなりのダメージを負うのだ。またしてもすぐに消え去っていく山賊。「番組を盛り上げてくれているのだから有り難い」と前向きに捉え、再度踏む。

 やっとの思いで、最後の地元チャリダーをパスしたところで唯一の下り区間に入った。下って上り返したらゴールの新山高原だ。

 軽快に下り、上り返すと一気に景色が開けだした。なんて絶景だ! これだからヒルクライムはやめられない、と感動しているとまた後ろから奇声を上げ追い抜いて行くお二人が…。ここまで来ると笑うしかない。恐らく下りのどこかで隠れていたのだろう。まさか二度も“山賊アタック”を喰らうとは。しかし考えみると世界の登坂力を間近で2度も見れたのだから、私は何と幸せ者だろうか。

 最後の激坂を上りきったところにあるゴールでは、二人が笑顔で出迎えてくれた。地元の方々も次々とゴール。健闘を称えながら話していると、タイ合宿の話題になった。合宿の最後のスプリント練習ではアウタートップを、なんとケイデンス80で回すそうだ。すると時速は70kmに達するらしい。だから合宿ではアウタートップのギヤが削れてダメになるという。すごい話だ。だから何度も“山賊アタック”ができるのだ。

 登頂を記念して皆で展望台で記念撮影をすることに。新城さんが「猪野さんポディウムですよ!」と言ってくれた。そう!公式なレースではないが3位!これは嬉しい言葉だ。

新山ヒルクライム、完走!

人と人とを繋ぐ不思議な乗りもの

 下山して地元の方々と別れ、今度は牡蠣の養殖がある山田湾に移動する。が、ここで私は痛恨のミスを犯す。信号で止まった時に新城さんが「猪野さんずっと前引いてるから変わりますよ」と仰ってくれた。私は疲れていたし、条件反射で「お願いします!」と答えてしまった。

さっき上ったばかりの新山に沈む夕陽

 案の定、新城選手が前を引くと強度が上がる。気をつかってゆっくり走ってくれているのだろうが、上りも平坦も250Wが続く…。ヒルクライムで使い切った脚には辛い。接待ライドのはずが普通にトレーニングとなってしまった。

 必死の思いで山田湾に到着。日没が近いので、すぐに自転車から船に乗り換え、牡蠣を収穫に行った。そのとき船上で新城さんが「ペダルを漕がなくても風を感じるのは不思議な感じだ」と言った。四六時中自転車に乗っているプロ選手ならではの発言かもしれない。

 日没間際に何とか牡蠣を収穫。新鮮な牡蠣を二人に食べてもらい、海岸線を宮古方面へと走り、旅は終わった。

大ぶりで肉厚、山田の牡蠣!
おいしそうな牡蠣にご満悦の新城選手

 牡蠣を収穫しながら、新山に沈む夕陽を見ながら思った。自転車はあっという間にどこへでも我々を連れていき、人と人とを繋ぐ不思議な乗りものだ。この不思議な乗りものは、次に私をどこへ連れていき、どんな人達と結び付けるのか。楽しみでしかないのである。

おいしい海の幸を有難うございました!

(画像提供:猪野学・NHK・テレコムスタッフ)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:50)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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