2010年頃から徐々に浸透か『ロードレーサー』はいつから『ロードバイク』に? 呼び名とともに変化する自転車文化の変遷

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
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 今ではすっかりメジャーになった『ロードバイク』ですが、昔は『ロードレーサー』と呼ばれていたのをご存知でしょうか。調べてみると様々な説が飛び出すなか「あれはロードレーサーや!」という熱い意見も。いつ、誰が呼び始めたのか気になったCyclist編集部・松尾修作(平成元年生まれ)が、自転車業界の関係者にインタビュー取材をしました。

「ロードバイクやない、今でもロードレーサーや!」と持論を述べるマトリックスパワータグの安原昌弘監督 Photo: Shusaku MATSUO

 平成も終わりに差し掛かるころ、Cyclist編集部内ではある議論が勃発。それは「いつのまに『ロードバイク』という呼び方になったのだろう」という内容でした。ドロップハンドルに細いタイヤ、多段ギヤを装備したスポーツ自転車…多くの方がロードバイクと呼ぶでしょう。しかし、筆者が記憶してる限りでは、競技を始めた高校生時代(約15年前)は皆『ロードレーサー』と呼んでいました。

「僕は始めた時からロードバイクでした」と振り返る編集部員の石川 Photo: Shusaku MATSUO

 同じく1993年(平成5年)生まれの編集部員・石川はこう話します。「僕が競技を始めた10年前にはロードバイクが一般的でした。でも年配の顧問の先生はロードレーサーや“ピストレーサー”と自転車のことを呼んでいました」。そういえば確かにピストもピストレーサーと呼んでいた気がします。子供時代から自転車に慣れ親しんだ澤野編集長も「ずっと1980年代から『ロードレーサー』って呼んでいたと思うけど、アームストロング全盛期にいったん自転車から離れ、2010年頃にまた戻ってきたら、『ロードバイク』になっていた記憶があるね」と首を傾げます。

 ちなみに、筆者が『ロードレーサー』→『ロードバイク』に呼び名を変えたきっかけははっきり覚えています。2008年に海外のUCIチームに加入した際、周りの選手は『ROAD BIKE』もしくは『BIKE』と呼称していました。そこで帰国後は周囲が『ロードレーサー』と呼ぶなか、あえて『ロードバイク』と呼んでいたと記憶しています。そう、海外かぶれですね。

 とはいえ個人の記憶は曖昧です。『ロードバイク』と呼ばるきっかけや変遷の真相を探るべく、自転車レースシーンで現在でも活躍するベテランの方々に意見を聞いてきました。

“カフェ練”は僕たちが広めた!

 まず話を伺ったのはチームUKYOに所属する畑中勇介選手。今も昔も第一線で活躍する、ベテラン選手です。

――畑中選手は『ロードレーサー』って呼んでました?いつから『ロードバイク』って呼んでますか?

畑中選手「確かに昔は『ロードレーサー』って呼んでましたね!うーん、いつからだろう…たぶん僕が海外で活動していた頃、海外の選手はバイクって呼んでましたね。フランス人はヴェロでしたけど。そこから自然にレーサーではなく、バイクと呼ぶようになった気がします。10年ちょっと前はフランスに多くの若手選手が渡ってましたから、彼らの帰国後に多かれ少なかれ影響を与えたのでないでしょうか」

“海外組”が伝えたのではと説を述べた畑中勇介選手(チームUKYO) Photo: Shusaku MATSUO

 筆者と同じく、海外生活の影響で呼び方が変わった可能性があるとのことです。さらに畑中選手は続けます。

スイスの街角でカフェ練をする筆者(2010年に撮影)

畑中選手「あと、『カフェ練』を広めたのは僕らだと思うんですよ! 昔はカフェじゃなくて、喫茶店って言ってたじゃないですか。でも当時フランスで活動していた日本人選手たちの間で、“休息日などにのんびりカフェまでライドすること”をカフェ練って呼んでたんですよ。少し前の日本ではサイクリングウェアを着て、喫茶店に行くことってなかったですよね。僕たちが広めたといっても過言ではないと思います!」

 と、力を込めて説明してくれました。自転車の呼び方だけでなく、カルチャーも輸入されていた説もここで浮上しました。

英語圏からのトライアスロン起源説

 次に話を聞いたのは業界のご意見番、マトリックスパワータグの安原昌弘監督です。筆者が「この『ロードバイク』、以前は『ロードレーサー』と呼んでましたよね?」と話しかけると、被せ気味に「よくぞ聞いてくれました!」と何やら監督に刺さった様子。

安原監督「ええか、あれは『ロードバイク』やない、『ロードレーサー』や! 今も昔も変わっとらん。たぶんな、トライアスロンから来とると思うんよ。バイクパートとか、バイクトランジットとか言うやろ。違うねん。これはロードレーサーや。俺が15歳の時(現在56歳)、当時の読んでた教則本(約50年前に発行されたもの)には“ロードレーサーの走法”ってはっきり書いてあったんや。君らみたいなメディアにちゃんと『ロードレーサー』と言ってもらわんと困るでー!」

トライアスロンから“バイク”と呼ぶ文化が入ったのではないかと推測した安原昌弘監督 Photo: Shusaku MATSUO

 堰を切ったかのように主張が止まらない安原監督は、他の話題にまで飛び火して考えを述べます。

安原監督「脚質でな、アタッカーとかパンチャーとか言うやろ。誰が言うてんねん! うちのアイラン(フェルナンデス)の脚質を問われることあるねんけど、スプリンターでもない、上りでもない、丘越えの選手かなぁ…としか言えんねん。あとな、ダンシングは辛うじてわかんねんけど、シッティングってなんやねん!」

 と、関西弁で力説します。要点をまとめると、「ロードレースを走る自転車だからロードレーサーだ」ということでした。最近競技を始めた世代は普通と感じていた言葉でも、安原監督の世代からすると不思議に思う言葉もあるようですね。

 最後に話を聞いたのはキナンサイクリングチームの加藤康則GMと、チームスタッフの梅林康典さん。2人には畑中選手や筆者の持論「海外活動組による輸入説」を説明すると、納得した様子ながら別の説も挙げてくれました。

キナンサイクリングチームの加藤康則ゼネラルマネージャー(右)と、スタッフの梅林康典さん Photo: Shusaku MATSUO

加藤GM「確かに、海外組がきっかけとして考えられるかもしれませんね。また、一般の方々に定着したのは雑誌『ロードバイクインプレッション』(枻出版社)の影響も強いのではないでしょうか。あと、我々の世代は自転車漫画といえば『シャカリキ!』ですが、その中では『ロードレーサー』と呼ばれていたのでその印象が強いのかもしれません。現代を代表する『弱虫ペダル』内では『ロードバイク』でしょうから、世代間で違いが出るのでしょうね」

※弱虫ペダル1巻では『ロードレーサー』と呼んでいる節があり、徐々に『バイク』などの呼び方に変わっているようです。

「ビンディングではなくバインディング、ピナレロではなくピナレッロだったね」と昔を振り返る Photo: Shusaku MATSUO
弱虫ペダルでは、序盤にロードレーサーと表記も見受けられた Photo: Shusaku MATSUO

梅林さん「自転車を販売する側の主張もあるのかもしれませんね。『ロードレーサー』だとどうしても競技志向が強く感じてしまいます。現在はグラベル系やエンデュランス系などジャンルも様々です。『ロードバイク』の方が広く網羅するのではないでしょうか。“レーサー”と呼ばれるものだとビギナーや女性が手を出しづらい印象がありますが、“バイク”が主流となった現在は間口が広がり、人口も増えましたよね」

 なるほどと、手を打ちたくなる意見をいただきました。その後二人は「そういえば昔は『ピナレロではなくピナレッロだった』、『ビンディングじゃなくてバインディングだったよね』など、懐かしむように振り返っていました。

 他にも各方面から、『インターネットと衛星放送が発達して海外のロードレース動画が簡単に見れるようになったから説』や、『そもそもロードバイクの定義とは?』など多くの説や意見が出ましたが、どうやら2010年ころからロードバイクが浸透し、2015年には定着したようだという結果になりました(編集部調べ)。

 ロードバイクの名称に限らず、ここ10年だけでも自転車を取り巻く環境が大きく変わっていることを実感した取材となった今回の話題。もしかしたらこうしている間にも新しい文化に入れ替わっている事象があるのかもしれませんね。

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