title banner

強さを仕上げるアミノバイタル③“坂バカ”ショック! 管理栄養士が指摘する「減量」に隠れたヒルクライマーの“損失”とは

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
  • 一覧

 「軽さは正義」─その言葉を胸にグラム単位の軽量化でしのぎを削るヒルクライマーたち。愛車の重量を削るだけでなく、やがて自らの体で軽量化を試みるその様は、もはや趣味の域を超えた“執念”とも言える。俳優・猪野学さんもその一人で、普段から糖質少なめの食事を心がけ、日々体重計の数字を眺めてはその増減に一喜一憂している。そんな猪野さんに「待った!」をかけたのは、味の素の管理栄養士・鈴木晴香さん。「現状の食事では体脂肪だけではなく、筋肉も失われている可能性があります」と警鐘を鳴らす。

「軽量化されているのは体脂肪だけではありません」との指摘に、呆然とする猪野学さん Photo: Shusaku MATSUO

減っているのは体脂肪ではなかった

 ヒルクライムの大会に向け、「パワーウェイトレシオ」(※)を上げるためにトレーニングと減量に励んでいる猪野さん。体が絞り込まれている様子をみると減量は成功しているようだが、一方でやや不健康感すら漂い始めている。トレーニング法については、連載第1回で土井雪広元プロに教わったが、減量法については糖質を中心に食事量をかなり制限するという完全自己流だった。この方法で減量と筋量アップは両立できているのか? 味の素の「オリンピック・パラリンピック推進室」に所属し、「ビクトリープロジェクト」を担当する管理栄養士、鈴木晴香さんに話を聞いた。
※体重1kgあたりの出力(W)を表す割合

味の素の管理栄養士・鈴木晴香さん。オリンピック・パラリンピック推進室ビクトリープロジェクトグループの一員として水泳の日本代表選手団に帯同し、世界で勝つための食事プログラム「勝ち飯®」で栄養サポートを行っている Photo: Shusaku MATSUO

◇         ◇

猪野 体づくりもしたいんですが、一方で減量もしたいと思っています。筋肉を育てるためにはしっかり食べなければいけないとも言われるんですが…。

ヒルクライマーとして減量と筋量アップの両立に悩む猪野さん Photo: Shusaku MATSUO

鈴木 体を絞るには、端的にいうと「食べるもののカロリーを減らす」ことです。原理として摂取と消費の「エネルギーの収支」をマイナスにすることで体重は減っていきます。ただ、それで筋肉が減ってはいけないですよね。的確に体脂肪を減量するために「減らす中身」を考える必要があります。

 それは何かというと脂質、すなわち調理の油やお肉に含まれている脂身です。脂身の量はお肉の種類や部位によっても異なり、調理法によっても全く違います。例えば鶏であればささみや胸肉を選ぶ。もちろん揚げ物はなるべく避け、茹で・蒸し料理に変えるといった工夫が重要です。

©味の素

猪野 最近は、減らすべきは脂質でなくて糖質だという話を聞きます。糖質摂取を制限していれば脂質はそこまで気にしなくて良いのかと思っていましたが…。

鈴木 なぜこれほど低糖質ダイエットが注目されているかといいますと、炭水化物を抜くことが簡単だからです。「炭水化物を抜く=エネルギーがマイナス」になるので、簡単に体重は落ちます。逆に糖質を抜いても他の主菜でエネルギーバランスがイコールになれば、体重は絶対に減らないはずです。炭水化物を抜くことでエネルギーバランスがマイナスになるから体重が減る、ただそれだけなんです。

減量の原理は摂取・消費のエネルギー収支であることを強調する鈴木さん Photo: Shusaku MATSUO

 かつ糖質を抜くと体重が減るもう一つの理由は、筋肉に蓄えられる糖分、すなわちグリコーゲンが減るからです。グリコーゲンは筋肉を動かすのにとても重要なエネルギー源で、糖質を制限するとそのグリコーゲンがすぐになくなるため、目に見えて体重が変動します。

 さらにグリコーゲンは水とともに貯蔵されているので、グリコーゲンがなくなると同時に水分も一緒に出ていきます。つまり、見た目の体重は簡単に大きく減ったように見えても、蓋を開けてみるとその減った「中身」は残念ながら体脂肪ではないのです。

猪野 なんというカラクリ…(汗)

鈴木 低糖質ダイエットは一般的にはわかりやすく、簡単に体重が減るので注目されていますが、栄養士からみると炭水化物をターゲットにするのは全く意味のない減量法です。

猪野 グリコーゲンがなくなった段階で運動を続ければ、体脂肪がエネルギーとして使われ始めるとも聞きますが…。

鈴木さんから「糖質制限」の実態を告げられ、ショックを隠せない猪野さん Photo: Shusaku MATSUO

鈴木 もちろん、そこまでいくと体脂肪は減っていきます。しかし大抵の人は我慢できずにリバウンドを繰り返します。さらにいうとグリコーゲンが枯渇した状態では体脂肪と同時に筋肉も失われてしまうので、強度の高いスポーツをする人にはおすすめしません。

 グリコーゲンがない状態でストイックに追い込んだ場合どうなるかというと、エネルギー源として筋肉が使われ始めます。脂肪は強度が低い運動(ウォーキング等)ではエネルギー源となりますが、強度が高い運動ではエネルギーになりにくい。その結果、より優先的に筋肉の方が使われることになります。また、糖質は脳のエネルギー源でもあるので、不足すると頭がぼーっとしたり、集中力がなくなるなどのリスクも伴います。

猪野 低糖質ダイエットの考え方が一気に崩れ去りました…(苦笑)。

鈴木 強度高めの運動をしない一般の方で、炭水化物でカロリーを摂り過ぎている人ならば適正に指導するという点では良いとも思いますが、スポーツ選手は絶対ダメです。

Cyclist的減量のポイント

・減量は摂取・消費の「エネルギー収支」をマイナスにすること
・アスリートが減らすべきは炭水化物ではなく脂質
・グリコーゲンが枯渇すると、代わりのエネルギーとして筋肉が使われる

誤ったカーボローディングで最悪コンディションに

鈴木 猪野さんは糖質制限さえやめればすごくパフォーマンスが改善される気がします。猪野さんの普段の食事内容を教えてもらえますか?

猪野 普段はわりと普通に食べるようにしていますけど、糖質はそんなに多くは摂らないようにしています。レースの2週間前からは炭水化物は一切摂らずに、鶏肉のささみと野菜、豆腐を摂るようにしています。

鈴木 えっ! レース前まで炭水化物一切摂らないんですか? 体重を減らすために?

猪野さんの自己流食事戦略に驚きを隠せない鈴木さん Photo: Shusaku MATSUO

猪野 はい…(笑)。それでレース前日から炭水化物をドカ食いします。

鈴木 けっこう衝撃的ですね…。

猪野 そのやり方が良いのかどうか、自転車業界内でも論争はあります。ヒルクライムはとにかく「軽さが命」といわれていて、パワーウェイトレシオ(※)は総重量が軽い方が圧倒的に有利なんです。でも強くなるには普段から食べなきゃだめだという人もいて、悩みます。

鈴木 ただ、レース前日に炭水化物をたくさん摂ったとしても残念ながらグリコーゲンはすぐに戻るものではありません。

猪野 えっ、そうなんですか??(汗)。

鈴木 はい。なので、けっこうカラッカラの状態でレース本番を迎えているんじゃないかと思います。

猪野 カーボローディングやってるつもりだったんですけど…(苦笑)。何日ぐらい前から摂ればいいんですか??

苦笑する猪野さん。自己流カーボローディングが逆にバッドコンディションを作っていたなんて… Photo: Shusaku MATSUO

鈴木 いまは概ね3日前から炭水化物を多めに摂るという方法が推奨されています。たしかに猪野さんがされているような、一度グリコーゲンを枯渇させてから一気に増やす方法も以前は行われていました。

 しかし、さきほどグリコーゲンは水分とともに溜まるという話をした通り、一気に摂ると水分も一気に取り込まれるため、通常の体重よりも感覚としてかなり重たい状態になることがわかってきました。その結果、その状態に慣れないままレースに臨むことになってしまうので、そうならないように現在は極端に制限するのではなく、普通の食事を摂りつつ3日前から少し多めに炭水化物を摂っていくという方法に見直されています。

猪野 なんと!!

鈴木 おそらくいまの猪野さんは体に急激な変化が生じて、ベストコンディションでレースに臨めていない状態だと思います。減量期と試合前というのは明確に分けた方が良いと思います。減量期はどうしてもエネルギー不足になりやすいので、絞った体重を維持をしつつ、レース1週間前からは普通の量の食事を摂り、3日前からはさらに少し多めに摂る。体重は若干重くなるかな、というくらいの考え方がちょうど良いと思います。

©味の素

猪野 ちょっと重くなるのはいたしかたないと。

鈴木 イコール「エネルギーが溜まっている」と考えましょう。現在の猪野さんのやり方だと、余計な水分でより重さを感じてしまい、かつ体のエネルギータンクはあまり満タンになっていないと思われます。

猪野 最悪っすね(苦笑)。

栄養素はバランスの中で働く

鈴木 レース当日に向けて炭水化物を多めにする方法にもコツがあります。レース前は調整期間で練習量を減らしますよね。すなわちエネルギー消費量が下がるので、体重増、体脂肪増のリスクが高まります。エネルギーをちゃんと蓄えつつ効率よく使う、これを実現するために食事の構成比を変える工夫が必要になります。

 例えば、強化期は主食(ごはん)と主菜(タンパク質、脂質)をバランス良く食べていたところを、調整期(1週間前)には主食の比率を増やします。このポイントは、全体のエネルギー量を変えずに構成する栄養素を変えるというイメージです。こうすることでエネルギーは維持か、いつもより少し下げることができます。トータルのエネルギー摂取量を下げると、練習量は少なくても体重を増やさずに済みます。

©味の素

猪野 筋肉をしっかり育てながら減量するには、炭水化物を摂りながら食事全体の総カロリーを減らすことが大事。となると炭水化物はちゃんと摂るとして、タンパク質の部分をプロテインに代えてカロリーを減らすこともアリですか?

「調整期には主食を増やす分、主菜を減らして総摂取カロリーを調整してください」と鈴木さん Photo: Shusaku MATSUO

鈴木 基本的に栄養は食事から摂取することが重要です。その上で、減らした主菜のタンパク質をプロテインでさらに補完すると考えてください。当社の「アミノバイタル アミノプロテイン」は1本あたり4gで大体プロテイン20gくらいと同等のアミノ酸が摂取できます。それでいて17kcalと低カロリーなので、通常の食事に影響を及ぼすことなく効率よくタンパク質を摂取できます。就寝前でもカロリーを気にせず摂ることができます。

 そしてもう1つ重要なことですが、糖質をエネルギーに変えるためには、主に「ビタミンB1」が必要となります。逆にビタミンB1がないと、せっかくグリコーゲンを溜めてもエネルギーとして使うことがスムーズに行われなくなってしまいます。

©味の素

 競技前のコンディションをトータル的に整えることを目的とした「アミノバイタル プロ」にもビタミンB1が入っていまして、大きく謳ってはいませんが、実はこれはすごく重要なことなんです。日本選手団の選手たちと帯同して海外に行くこともありますが、必要な栄養素が摂れなかったときに意外と重要なビタミン源になることもあります。

糖質をエネルギーに変えるビタミンB1も含まれている「アミノプロテイン プロ」の成分を読む猪野さん。「これはレース前に摂らなきゃですね」 Photo: Shusaku MATSUO

猪野 それは知りませんでした。これは競技前には必ずとらないとですね。

鈴木 本番前は極端なことをやろうとする人が多いんですが、そうではなく、試合前も少しバランスが変わるだけで、肉も野菜も必要という考え方に変わりはありません。皆さん、細かいことに気が行きがちなんですけれど、基本は常にバランスをとった食事をするということが大事。それぞれに異なる機能をもつ栄養素ですが、それらは単体で意味を成すものではなく、組み合わさることで機能を発揮するものだと心得てください。

Cyclist的カーボローディングのポイント

・レース1週間前から総摂取カロリーは変えず、全体に占める炭水化物の比を上げる
・3日前から炭水化物をさらに多めに摂り、グリコーゲンを少しずつ蓄える
・本番前に体重が少し増えたらグリコーゲンが溜まった証と考える
・グリコーゲンを効率的にエネルギーに変えるにはビタミンB1が不可欠

猪野さんの食事は「勝ち飯」ではなかった!

猪野 レース当日の朝は、とにかく炭水化物をと思ってパスタを2皿食べていました。

鈴木 ヒルクライムの特性を考えると、これからレースというときにパスタはあまりおすすめできません。ソースなどの油を含むと吸収が遅くなったり、胃腸に負担がかかってしまいます。コンビニで購入できる食品であれば、うどんやおにぎりを何個も食べる方がおすすめです。朝ごはんはいかに胃腸に負担をかけずに消化するかが重要なので、極力油を使った食事は避けてください。

朝食は胃に負担がかからない消化の良い炭水化物を。「うどんにお餅を入れるのも良いですね」と鈴木さん Photo: Shusaku MATSUO

 レース当日の朝食は炭水化物だけで良いのかというと決してそうではなく、汁物や卵などの主菜をとりたいところですがなかなかそういきませんよね。なので優先すべきものとして、糖質をしっかり摂っていただけたらと思います。果物はバナナやカットフルーツであればコンビニとかでも買えるので、可能であれば摂るようにしてください。

猪野 ちなみにレース開始のどれくらい前までに糖質摂取を終えるべきなんでしょうか?

鈴木 食べるものによって消化時間は変わりますが、通常の朝食は3~4時間前に済ませ、その後はレース30分前まで。経時的に消化の良い糖質にシフトしながら摂ることおすすめします。直前は胃に負担をかけないためにも「アミノバイタル パーフェクトエネルギー」という選択肢もあります。糖質に加えて、エネルギーの持続をサポートするアミノ酸が入っています。ジャージのバックポケットに入れやすいショットタイプもあるので、スタート直前やパフォーマンス中の補給にも便利です。

レース前の食事例。3~4時間前から30分前にかけて、消化吸収の良い食品にシフトしながらグリコーゲンをためるのがポイント ©味の素

 ちゃんとエネルギーが蓄えられた状態にするにはレースまでの時間を計算した「ごはん戦略」が重要です。ただ、わりと個人差が大きい部分でもあります。緊張するだけでも消化は遅くなってしまうので、自分にとってぴったりなタイミングを試しながら、自分に最適な方法を見つけておくことも重要です。

リカバーの“スイッチ”を入れるのも糖質

猪野 レース後のリカバーにアミノ酸(BCAA)が重要であることは以前勉強しましたが、リカバーにはアミノ酸だけで良いんですか?

鈴木 そこでも糖質が重要な役割を果たします。運動中に使われたグリコーゲンを戻すという目的もありますが、筋肉のリカバーにおいても糖質が合図を出します。運動中の体は常に分解が行われる消費モードに入っていますが、糖質によって血糖値が上がると体は合成モードにスイッチが切り替わります。

 そのような理由からリカバーにはアミノ酸と糖質を一緒に摂取することが推奨されてまして、当社の「アミノバイタルGOLD」ゼリードリンクにも、リカバーをサポートするロイシン高配合BCAAに加えて糖質が含まれています。運動後は早めにこれを飲み、落ち着いたところでおにぎりなどの食事をしっかり摂るというのが理想的な流れです。

体作りをサポートする「アミノバイタル」シリーズ。日々のトレーニングやレース前・中・後、それぞれのタイミングに必要なアミノ酸とそれらを効率よく働かせるための栄養素がバランスよく配合されている Photo: Shusaku MATSUO

猪野 色々な面で体づくりに糖質が重要なはたらきをしているのかがよくわかりました。糖質って減量の大敵だと思っていましたが、アスリートにとって味方だったんですね。

鈴木 「減量」の実態をよく理解することが重要です。体の中に何が起きているかを知らず、軽量化だけに固執することはアスリートとして上手な減量とはいえません。

猪野 体重計に乗って日々の増減に一喜一憂していましたが、体脂肪でなくて色々なものが減っていたんでしょうね…。

「糖質に対する考え方が変わりました」と猪野さん Photo: Shusaku MATSUO

鈴木 フィギュアスケートの選手も高く飛ぶために体重を軽くしなければならないので、ストイックに食事制限をしている選手がいます。試合直前により軽くしようという思いから、猪野さんと同じように食べずに挑むんですが、ジャンプのときに力が入らなかったりエネルギーがなくて結果が出ないという話も聞きます。食事指導をして考え方を変えていくようにしていますが、体重がものをいう競技はどれも軽さとパフォーマンスの“天秤”がカギとなりますね。

猪野 軽さとパフォーマンス。たしかに難しい天秤ですね…。理屈を知っても、まだどこかで「軽量化」を「追い込んだ証」として感じてしまう自分がいますが、筋肉を失わないために、そして“グリコーゲンタンク”も満タンにして走れるように「糖質戦略」がんばります!

Cyclist的レース本番の糖質戦略

・レース開始前3~4時間前に朝食を済ませ、可能ならスタート30分前まで経時的に消化の良い糖質にシフトしながら摂取
・レース後は早めの糖質+BCAAで体の「リカバースイッチ」をオンに

Photo: Shusaku MATSUO

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

アミノバイタル 味の素 猪野学のパワーアップ奮闘記

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載