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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<29>僕を“呼んだ”、シーズンオフのアドリア海

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 クロアチアの内陸を走行中、アドリア海を走るかどうか直前まで迷っていた。季節は11月になり、気温もめっきり寒くなっていた。最短でトルコに抜けなければ、冬に捕まってしまうんじゃないかと恐ろしかった。ヨーロッパの沿岸部は地中海を走ったが、激しい起伏とバカンスシーズンのリゾートな雰囲気に苦しんだ。アドリア海も同じような雰囲気なのかと思い、なかなか走ろうという気が起きずにそのまま最短ルートで向かうつもりで別れ道に差し掛った。ところが、想いとは裏腹にハンドルはアドリア海へ向かって進路を取っていた。旅をしているとこういう事がたまにあり、旅人はこれを「呼ばれた」と表現する。僕は「アドリア海に呼ばれた」のだ。

アドリア海の真珠と称されるクロアチアのドブロブニク。この街はどこを切り取っても絵になった Photo: Gaku HIRUMA

予期せぬオフシーズンの素晴らしさ

 この少しの感覚の違いで、旅の思い出は大きく変わる。まさかシーズンオフのアドリア海がこんなに素晴らしいものだとは思いもよらなかった。

 この連載で何度も書かせてもらってる通り、自転車旅行は旅のシーズンにかなり左右される旅行手段だ。ベストシーズンを走りたい地域などを狙って走ると、否応なくその他の地域はオフシーズンの場合が多くなる。雨の中走っていると「なんでこんな時期に走っているんだい?乾季はとても美しくて走りやすいのに」と声を掛けてくる人がいる。もちろん、走れるものならそうしたい。

 ただ、アドリア海に至ってはオフシーズンに走れたことはメリットだらけだった。

閉まっている店も多いが、観光客が少ないので落ち着いた雰囲気を楽しめる Photo: Gaku HIRUMA

 一般的にアドリア海のベストシーズンは6月から9月頃までといわれている。ヨーロッパのバカンスシーズンとマリンスポーツが盛んな夏で、天候も安定している。また夏季のみアドリア海を渡るフェリーが出ているので、のんびりとアドリア海を楽しむことができるらしい。城壁に囲まれたオレンジ色が美しい石造りの家に、真っ青な海と空。照り付ける太陽が、干されている洗濯物さえも絵にしてしまう。文句のないベストシーズンだが、一方でその時期は人も多く、宿やレストランの料金も跳ね上がる。

 一方オフシーズンの11月はというと、一般的に肌寒いと言われている。確かにマリンスポーツはできそうにないが、クロアチア内陸部のどんよりとした寒々しいアルプス地帯からアドリア海沿岸部に出ると、むしろ暖かく感じるくらいで本当に驚いた。

 天気も曇りだったり、雨にも降られはしたが、晴天率はまだまだ高かった。そしてなにより宿代がリーズナブルになる。ホステルはもちろん、東欧には「SOBE」(ソベ)と呼ばれる自宅を民泊として解放している家が多い。

モンテネグロのコトルの旧市街を望む「SOBE」と呼ばれるキッチン付の民泊。夜景を望むテラスでワインを飲みながらゆっくりと食事を楽しむ。オフシーズンは15ユーロと格安だ Photo: Gaku HIRUMA

 オフシーズンなので、ネットで良さそうなソベを見つけて飛び込みで行っても閉まってることもあるのだが、街で宿を探しているとき、運よく声を掛けてもらった時などは利用させてもらった。ロケーションが抜群で、4人は泊まれそうなキッチン付の部屋を15ユーロなどの格安で泊めさせてもらう事ができた。

どこを切り取っても絵になる街

 この時期のアドリア海の港町は観光客も少なく、地中海とは全く違う落ち着いた雰囲気があり、とても美しかった。アドリア海沿岸は大陸と島が平行に伸びている地形になっており、これを「ダルマチア式海岸」といい、この地方特有の形になっている。まるで海が湖のように穏やかで、さらに島々の小高い山がいつくも連なるように延びているので、海ではなく風光明媚な山岳地帯を走っているような感覚だった。

海というよりは風光明媚な山岳地帯にいるかのようだった Photo: Gaku HIRUMA

 対岸に平行に伸びた島や半島に突き出た陸地に街が形成され、まるで海に浮かぶ街のように見えた。アドリア海はジブリ映画『紅の豚』の舞台で、本当にホテルアドリアーノや主人公のアジトになっているような島が点在しており、とても現実の世界とは思えないほど美しかった。

この海には「紅の豚」の世界観がそのままあった Photo: Gaku HIRUMA

 また走る道も良かった。南仏の地中海のようにひたすら海岸線というわけではなく、少し内陸に道路が延びていた。そこは松やオリーブの木に覆い尽くされており、車やバイクには退屈に思うだろうその道も、時折木々の合間から見せるアドリア海を一層美しく際立たせた。

海が見える絶好のロケーションにテントを張れる場所が多いというのも、大きなポイントだった Photo: Gaku HIRUMA

 そしてなにより、野宿がしやすいというのが大きなポイントだった。オリーブが所々に植わる原っぱでテントを張り、最高にきれいに染まるアドリア海の夕日を眺めながら、島の家々に明かりがともる様は感動的なくらい美しかった。

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

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