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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<293>春のクラシックシーズン総括 明暗分かれたトップライダーたちの姿に迫る

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 4月28日に開催されたリエージュ~バストーニュ~リエージュで、2019年シーズンの春のクラシックシーズンが閉幕。今年も熱戦が展開され、新たな歴史が誕生した。そこで今回は、この春を彩ったビッグネームと有力チームの動きをメインに、この春の戦いを振り返ってみたい。成功した選手・チーム、はたまたトラブルに苦しんだ選手など、リザルトだけでは分からない、レースのあらゆる要素にフォーカスしてみる。

いくつもの歴史が生まれた春のクラシックシーズン。多くの選手たちが飛躍を遂げた =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019、2019年4月28日 ©︎A.S.O./Gautier DEMOUVEAUX

一貫して強さを発揮し続けるフルサングのリエージュ勝利

 この春に“成功”を収めた選手たちから見ていこう。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュを制したヤコブ・フルサング。今シーズン好調の34歳がついにビッグタイトルを獲得した =2019年4月28日 Photo: STIEHL / SUNADA

 まず、記憶に新しいところから。今年のアルデンヌクラシックで堂々たる“主演”となったヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ プロチーム)。リエージュ~バストーニュ~リエージュ制覇に彼のすべてが集約される印象だが、そこまでの過程も見過ごすわけにはいかない。

 アルデンヌクラシックだけ見ても、アムステル・ゴールド・レースでは決定的なアタックから3位入賞につなげ、フレーシュ・ワロンヌでも「ユイの壁」で驚異的なパンチ力から2位フィニッシュ。この2レースでは、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)を引き連れる形になってしまい、結果的にライバルの後塵を拝することになったが(アムステルではアラフィリップに先着)、リエージュも含めたアルデンヌ3戦ともにライバルを凌駕する決定力を発揮してみせた。

 ワンデーレースにおけるフルサングと言えば、2016年のリオ五輪銀メダルも含め、強力な仕掛けを見せながらも、フィニッシュでのスピードでライバルに屈するなど、最後のスプリントに分の悪さが現れていた。ならば早い段階で勝負を決めてしまおうと、リエージュでは独走に持ち込んでの勝利。セカンドコレクターになりつつあったキャリアだが、チームの力を借りつつも最後は自らの持ち味を発揮しての戴冠とした。

ヤコブ・フルサングの活躍を支えたアシスト陣。その代表格のオマール・フライレ =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019、2019年4月28日 ©︎A.S.O./Gautier DEMOUVEAUX

 チームの力という意味では、アシスト陣のクオリティの高い働きぶりも評価に値する。リエージュでいえば、残り25km(コート・ド・フォルジュ付近)の時点でフルサングを含む6選手が集団前方を固め、レースの流れを引き寄せたあたりも勝因と言えそう。このクラシックシーズンでは、もう1人のエース候補だったヨン・イサギレ(スペイン)の落車などアクシデントもあったが、その兄であるゴルカやオマール・フライレ、ルイスレオン・サンチェス(ともにスペイン)といった、働きが計算できる選手たちをそろえる戦力の充実度も忘れてはならない。

 30歳代半ばに差し掛かっても衰えを感じさせない選手たちが増えているが、フルサングも同様に34歳。今シーズンはステージレース総合で6位から下のリザルトはなく、ワンデーレースでもこの快進撃。これからはツール・ド・フランスに向け調整に入る見通しだが、勢いをグランツールまで持続できるか見ものだ。

アルデンヌクラシックで主役となったヤコブ・フルサング。この勢いをグランツールにもつなげたい =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019、2019年4月28日 Photo: STIEHL / SUNADA

殊勲者が多かった今年のクラシックシーズン

 ドゥクーニンク・クイックステップも例年に増して、クラシックシーズンの主役にふさわしい戦いぶりを見せた。今年はここまで、チームシーズン最多勝の26勝を挙げ、ビッグクラシックではオンループ・ヘットニュースブラッド(ゼネク・スティバル)、ストラーデビアンケ(アラフィリップ)、ミラノ~サンレモ(アラフィリップ)、E3ビンクバンククラシック(スティバル)、パリ~ルーベ(フィリップ・ジルベール)、フレーシュ・ワロンヌ(アラフィリップ)を勝利。

フレーシュ・ワロンヌではジュリアン・アラフィリップ(右)が優勝。ドゥクーニンク・クイックステップも春のクラシックシーズンの主役だった =2019年4月24日 Photo: STIEHL / SUNADA

 レースごとに勝者が違うあたりに、戦力の充実ぶりと戦術の幅がうかがえる。もちろん、レースタイプや脚質によって出走メンバーが異なっている点も挙げられるが、いずれにしてもどこからでも勝負に持ち込めるだけの、戦いのパターンを持っていることは確か。

 リエージュではメイン集団を長時間コントロールしながら、重責を担うと見られたジルベールが早々に脱落し、絶対エースのアラフィリップもライバルのアタックに対応できないなど、クラシックシーズンの最後に息切れしてしまった感は否めないが、それをも致し方ないと観る者に感じさせるほど、フレーシュ・ワロンヌまでは圧倒的な存在感を示してきた。事実、ジルベールは“北のクラシック用”のフィジカルづくりをしていたといい、アラフィリップも落車負傷によりリタイアした4月上旬のイツリア・バスクカントリーから急ピッチで仕上げるなど、不安要素を抱えていた。それでも、十分な成果を残したあたりは、各選手、そしてチームの強さをさすがと見るべきだろう。

ボーラ・ハンスグローエもクラシックレースにおける新勢力に。ダヴィデ・フォルモロはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで大躍進の2位 =2019年4月28日 Photo: STIEHL / SUNADA

 インパクトを残した点では、ボーラ・ハンスグローエも「新たな勢力」として今後マークされていく存在となるだろう。これまで、タイトル獲得を目指すうえではペテル・サガン(スロバキア)一択だったチーム体制は、ここ数年での戦力強化により大きく変化。クラシックシーズンを通して、強さを発揮できるようになった。

 北のクラシック前の高地トレーニングで体調を崩したサガンは、レース本番でも精彩を欠いたが(とはいってもミラノ~サンレモ4位、パリ~ルーベ5位はさすがだ)、代わってダヴィデ・フォルモロ(イタリア)、マキシミリアン・シャフマン(ドイツ)らがアルデンヌで躍動。この2人がリエージュでは2位と3位を占めただけでなく、グランツールレーサーとして成長中のパトリック・コンラッド(オーストリア)やチェザーレ・ベネデッティ(イタリア)らが早い段階での動きでプロトンを活性化させるなど、レースパターンを確立させ、チームとして上位戦線を脅かすまでになった。

 これまでサガンら実力派スプリンターが目立つことの多かったチームは、オーナーであるラルフ・デンク氏が理想としていた、クラシックやグランツールを含めたオールラウンドな活躍ができる集団へと変貌を遂げようとしている。

アムステル・ゴールド・レースで劇的勝利。ガッツポーズを決めるマチュー・ファンデルプール。本職シクロクロス、ロードもマウンテンバイクもこなす万能ライダー =2019年4月21日 Photo: STIEHL / SUNADA

 そしてもう1人、この春の殊勲者を挙げておかねばならない。シクロクロスレーサーのマチュー・ファンデルプール(オランダ、コレンドン・サーカス)は、“その気”になったロードでも早速非凡なところを見せた。ビッグクラシックでは、ドワーズ・ドール・フラーンデレンとアムステル・ゴールド・レースを制覇。ツール・デ・フランドルでも4位としたほか、「アルデンヌ前哨戦」として名高いブラバンツ・ペイル(UCI1.HC)ではアラフィリップらを破り優勝した。

 トップチームからははるかに劣るチーム力だが、それをものともしないファンデルプールの実力。オフロードで鍛える悪路への対応力と、短距離なら問題としない登坂力、そして小集団であれば一気に勝機が膨らむスプリント力。もちろん、レース展開を読む能力に長けていることもあるが、現状としては身体能力に頼る割合が多い走りといえそう。

 もっとも、ジュニア時代からタイトルを総なめにするシクロクロスだけでなく、ロードでも2013年にジュニアで世界の頂点に立ち、マウンテンバイク・クロスカントリーでは昨年の世界選手権銅メダルと、現在のサイクルスポーツ界きっての万能ライダーであることが、そのポテンシャルを物語っている。ちなみに、2020年の東京五輪はマウンテンバイク種目での金メダルを狙うと公言し、ロードへの完全転向もその後となることを明かしている。ロードにおけるファンデルプールの全貌解明は、もう少し先のこととなりそうだ。

雪辱誓う大物たち

 活躍が確実視されながらも不本意な結果に終わった選手たちの動向も押さえておこう。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでリタイアに終わったアレハンドロ・バルベルデ。スタート前には笑顔を見せていたが、トレーニング中の負傷による痛みを抱えていた =2019年4月28日 ©︎A.S.O./Gautier DEMOUVEAUX

 マイヨアルカンシエルを着るアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)は、リエージュで残り約100km残したところでバイクを降りたが、3日前のトレーニングで落車し、尾骨を痛めていたことが明らかに。レースに向け回復傾向にあったそうだが、冷雨に見舞われた本番で患部の状態が悪くなったこともあり、早めのリタイアを決断。

 バルベルデは11位となったフレーシュ・ワロンヌでも、残り50km付近でハチを飲み込むアクシデントに見舞われ、吐き出すまでに時間を要したことを明かしている。タイトル獲得を目指し挑んだ北のクラシックでも、ツール・デ・フランドルの8位が最高と、この春は思い通りにはいかず。「アルカンシエルの呪い」とは信じたくないところだが、本人はアルカンシエルを着ることによるプレッシャーを感じていると認めるなど、レース運びを難しくしている何らかの要因を抱えているのかもしれない。

 ダニエル・マーティン(アイルランド、UAE・チームエミレーツ)も、体調不良で本調子から程遠い状態でのレース出走だった。イツリア・バスクバスクカントリー出場後にコンディションを崩し、アルデンヌクラシックも上位を狙える状態までは回復せず。かつて勝利を収めたリエージュでは、チームメートのアシストに努めたいとしていたが、早々のリタイアに終わってしまった。

この春フル稼働だったグレッグ・ファンアーヴェルマート(右から2人目)。勝利は挙げられなかったがすでに視線は前を向いている =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019、2019年4月28日 ©︎A.S.O./Gautier DEMOUVEAUX

 この春フル稼働だったグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、CCCチーム)は、E3ビンクバンククラシックの3位が最高。新星チームの絶対エースとして、シーズン最初のヤマ場に挑んだが、タイトル獲得には至らなかった。リエージュでは後半で落車し「終戦」。気持ちはすでに先を見据えているようで、ツールと世界選手権での活躍を誓っている。特に世界選手権はイギリス・ヨークシャーでの開催で、コース的にも彼向きとの評判もある。本人もモチベーションは高く、まずは“試走”として5月2日開幕のツール・ド・ヨークシャーにエントリー。昨年からの連覇にも挑戦する。

今週の爆走ライダー−ファウスト・マスナダ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 長年イタリアの自転車界を引っ張っているアンドローニジョカットリ・シデルメク。名マネージャーであるジャンニ・サヴィオ氏の牽引のもと戦い続けるチームは、少ないチーム予算で激動のプロトンを生き抜き、所属選手のドーピング禍により危ぶまれたチーム存続の危機も乗り越えてきた。

 このチームを語るうえで、若い選手の発掘と育成能力の高さを外すわけにはいかない。近年では、エガン・ベルナル(コロンビア、現チーム イオネス)をビッグネームに成長させ、イヴァン・ソーサ(同)も続く存在としてトップシーンへ送り出した。

ツアー・オブ・ザ・アルプス第3ステージで鮮やかな独走勝利。一躍注目ライダーとなったファウスト・マスナダ =2019年4月24日 Photo: PENTAPHOTO

 そんなチームとサヴィオ氏は、また新たな成長株をチームリーダーを据えることとなった。ファウスト・マスナダは今、イタリアンクライマーの中でも特に勢いに乗る25歳。これまではビッグレースでの山岳逃げでその姿を見かけることが多かったが、いよいよステージレースの総合成績を狙えるところまで上がってきた。

 アルデンヌクラシックに盛り上がるシーンの裏側で行われていたツアー・オブ・ザ・アルプス。クリストファー・フルーム(イギリス、チーム イオネス)やヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)らが顔をそろえた戦いで、マスナダは山岳ステージ2勝。クイーンステージとの呼び声も高かった第3ステージでは、ライバルを振り切って1人でフィニッシュへと到達してみせた。

 昨年はアジアのレースで個人総合優勝しているが、グランツール並みの急峻な山々を超えるアルプスでの躍進に「キャリア最大の勝利」と胸を張る。フルームらがベストコンディションではなかったとはいえ、大物たちに先着したことは自信になる。総合でも5位。4月上旬にはジロ・ディ・シチリアで個人総合3位となるなど、着実に力をつけていることを証明し続けている。

 こうなると俄然期待が高まるのが、開幕迫るジロ・デ・イタリアでの走りである。初出場だった昨年は、個人総合26位。得意の山岳逃げで見せ場を作ったが、今年は事情が変わってくるかもしれない。3週間の戦いに適応できるかや、チーム事情との兼ね合いにもなるが、総合成績を狙うだけのポテンシャルはあると思われる。そのジロの戦い方次第で、彼のキャリアが未来あるものへと膨らんでも不思議ではない。

 今年最初のグランツールに向け、その名を押さえておきたい注目株がまた1人、浮上してきた。

名門アンドローニジョカトリ・シデルメクが送り込む新星、ファウスト・マスナダ。ジロ・デ・イタリアでの上位進出も夢ではなくなってきた =ツアー・オブ・ザ・アルプス2019第3ステージ、2019年4月24日 Photo: Tour of the Alps
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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