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栗村修の“輪”生相談<152>17歳男性「漫画を読んだら『ギヤを下げることは敗北』と書いてありました」

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 17歳男子高校生です。

 先日、機会があって漫画『シャカリキ!』を読んでみたのですが、上りのシーンで「ギヤを下げることはすなわち敗北を意味する」みたいなことが書いてありました。けど、今年のジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスでフルーム選手みたいに高ケイデンスで上る選手をテレビ越しに観たのを思い出して、これでギヤ下げたら負けだなんて言われたらたまったもんじゃないよなあ…なんて思いました。

 これは機材、特にフレーム素材、シフターの変化や8〜9速から11速化により、ロードレース=マッスルスポーツが≠に変わってきたってことですか?

(17歳男性)

 時代を感じる質問ですね。漫画『シャカリキ!』を読んで、とありますが、あれも一昔前の作品ですから、僕ら世代の感覚が残っている漫画です。懐かしいですね。

 たぶん、ご指摘のセリフは単に、上りでは頂上に向かってスピードを上げるのが正攻法なので、ペースを落とすんじゃないぞ、という意味だと思います。ですがご指摘のように、昔は今のようなハイケイデンスが主流ではなかったのも確かです。

 ミゲル・インドゥラインの時代から徐々にハイケイデンスの選手が出てきましたが、決定打はやはりランス・アームストロングですね。上りでも非常に高いケイデンスでした。もちろんその時代も、ビャルヌ・リースのように重いギアをかけてのっしのっしと上る選手もいたので向き・不向きはありますが、まあケイデンスが軽くなっているのは事実です。

平成元年=1989年のツール・ド・フランス。山岳で攻撃に出るローラン・フィニョンとマイヨジョーヌのグレッグ・レモン。変速は両者ともダウンチューブに取り付けられたWレバー式 Photo: Yuzuru SUNADA

 というのも、ギヤ比が全然違います。僕が現役で走っていたころなんて、インナー×ローですら42×21Tとかですから。23Tを入れたスプロケはたまに使いましたが、例外的な激坂用というイメージでしたね。僕は日本CSCが得意だったんですが、あの5kmサーキットでもインナー×ローは42×19Tでした。というか、調子がいいときはスピードが上がった周なんかはアウターだけで走り切っていたくらいです。今も昔も重力は変わっていませんし、ラップタイムはむしろ今の方が速いので、どれだけケイデンスが低かったかお分かりだと思います。

1991〜95年にツール・ド・フランスを総合5連覇したミゲル・インドゥライン。後ろはビャルヌ・リース。1990年代に入り、手元変速レバーが一般的に Photo: Yuzuru SUNADA

 ロードレース=マッスルスポーツという表現は言いえて妙ですが、僕はこの概念のことを「漢ギヤ」と呼んでいます。つまり、重いギアで走ることが格好良かったわけです。

 しかし漢ギヤの時代は終わってしまいました。運動生理学的に、上りでも平地並みのケイデンスを維持したほうがいいと分かってきたからでしょうね(もちろん、今でも個人差はありますよ)。

 昔はそもそもスプロケットの枚数も少なかった(結果的に1段1段の落差が大きくなる)ですし、Wレバー時代ですから変速という行為自体が大変でした。思うに、「上りでも軽めのケイデンスを保つべし」という理論に、機材面の現実がついていかなかったのもあるでしょう。だから人間が機材に合わせることになって、その現実を漢ギヤとして正当化したと。戦術面でも、ダンシング時などはギヤチェンジができないので、アタック(加速)などに対応するために常に少し重めのギヤを踏んでいる必要があったように感じます。

2010年代にツール・ド・フランス総合4勝などグランツール6勝を挙げているクリストファー・フルーム。変速は電動式に。平成の30年間、ロードバイクの機材の変化に合わせて、選手の乗り方も変わってきた Photo: Yuzuru SUNADA

 しかし、繰り返しになりますが、漢ギヤの時代は昭和生まれ世代のものであり、今や平成を挟んで令和となります。昭和が根性論の時代だったと言えばそれまでですが、そんな過去の雰囲気を、今の高校生が「マッスルスポーツ(=漢ギヤ)」という適切な言葉で表現してくれたことにちょっとしたリスペクトを感じ、昭和の人間である僕、栗村は涙しました。令和時代はどんなロードバイクが生まれるのでしょうか。

(編集 佐藤喬)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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