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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<292>春のクラシックシーズン大詰め 激坂決戦フレーシュ&コース刷新リエージュ展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 3月上旬からヨーロッパ各地で開催されてきたワンデークラシックシリーズは、「アルデンヌクラシック」の一角として知られるフレーシュ・ワロンヌとリエージュ~バストーニュ~リエージュの2レースで一区切りを迎える。春のクラシックシーズンの締めとなる両レースは、ベルギー南部の丘陵地帯を舞台とし、数多くの名勝負が繰り広げられてきた。今年はコースの様変わりなどもあり、これまでとは違ったレースとなる可能性がある。そこで、残るアルデンヌ2レースを徹底解説。コースやレースの特徴、出場予定の注目選手にスポットをあててみたい。

フレーシュ・ワロンヌ2018ではジュリアン・アラフィリップが初優勝。今年も激戦が予想される =2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

最大勾配26%のユイの壁決戦 フレーシュ・ワロンヌ

 アルデンヌクラシック3連戦の2戦目、4月24日に開催されるフレーシュ・ワロンヌ。例年、クラシックレースとしては比較的短めの200km前後によるレース距離が設定されており、今年は195km。慣例通りといった印象だ。

フレーシュ・ワロンヌ2019 ルートマップ ©︎A.S.O.

 今年のスタート地点は、昨年までリエージュ~バストーニュ~リエージュのフィニッシュ地点が設けられていたアンス。時計回りを描くように進行し、アンスから南西に位置するユイへと向かう。

 何といっても注目は、ミュール・ド・ユイ(ユイの壁)だ。登坂距離1.3km、平均勾配9.6%、上りの後半部では最大勾配26%にまで達する激坂が選手たちの力を試す。実際のところ、30%に達しているとの説もあるが、いずれにしてもこのレースの華であり、最大のヤマ場となるポイントであることは間違いない。レース後半には、この「ユイの壁」を基点とする周回コースをおおよそ2周半し、最後は3回目のユイの壁登坂へ挑む。フィニッシュラインは頂上に引かれる。

フレーシュ・ワロンヌ2019コースレイアウト ©︎A.S.O.

 3回通過するユイの壁を含み、登坂セクションは11カ所。例年のレース展開では、各登坂で集団が大きく割れることは少なく、勝負は最後のユイの壁登坂にゆだねられる印象だ。特に、フィニッシュまでの最後の10kmはスプリントさながらのトレインが組まれ、チーム単位での激しいポジション争いが展開される。なお、ユイの周回は1周29km。2回目のユイの壁登坂をきっかけに、集団のペースが急激に上がることも考えられ、そうなると有力選手を中心としたハイスピードバトルとなることも。

 昨年のこの大会では、1回目のユイ通過後に、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)ら数人のアタックがあり、最後のユイの壁まで逃げ続けた。これにより、猛追を迫られたメイン集団はサバイバル化。「ユイの壁一辺倒」と言われがちだったフレーシュ・ワロンヌのレース展開に、新たな風を吹き込むものとなった。今年もやはり勝負はユイの上りで決まると見られるが、それまでに何が起きるかでユイの壁攻略法が変わってきそうだ。

最大勾配26%のユイの壁が選手たちの力を試す =フレーシュ・ワロンヌ2018、2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

28年ぶりのフィニッシュ地変更 リエージュ~バストーニュ~リエージュ

 1892年に初開催された世界最古のクラシックレース、リエージュ~バストーニュ~リエージュ。またの名を「ラ・ドワイエンヌ」(最古参)と呼び、ワンデーレースの中でもきわめて格式が高い世界5大クラシック「モニュメント」の1つにも数えられている。フレーシュ・ワロンヌから4日後の4月28日に開催される。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019 ルートマップ ©︎A.S.O.

 コースの難易度が高い春のクラシックレースにあって、特に起伏が激しく、レース距離が長いことも特徴。複数の登坂セクションがセッティングされ、それ以外にも大小さまざまなアップダウンが待ち受ける、獲得標高にして4000mに達するとも言われる。丘陵地帯が舞台でありながら、スピード感あふれるレースでもある。

 そんな戦いは、オールラウンダーやグランツールレーサーがターゲットとするにぴったりだったが、今年からは様相が一変するかもしれない。

 昨年までは、リエージュの隣町・アンスに向かって長い上りの末にフィニッシュを果たしていたが、今年からはレースの名の通りリエージュで終幕を迎える。28年ぶりのフィニッシュ地変更となり、最終局面のレイアウトはフラットに。最大勾配10%前後の上り坂が待ち受ける登坂セクションは11とこれまでと大きな変わりはないが、最後のセクションとなるコート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンからリエージュのフィニッシュラインまでは15kmを残す。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019 コースレイアウト ©︎A.S.O.

 優勝争いはこの上りで生き残った選手たちにゆだねられるのか、下りを含む残り距離で多くの選手が前線復帰を果たすのか、はたまたアタックを決めた選手による独走となるのか…、あらゆる可能性が挙げられる。コース刷新によって、スプリント力を備える選手たちも多数参戦を表明。戦術面でも、過去に類を見ないレース運びとなりそうだ。

 なお、レース距離は256km。このレースが終わると、UCIワールドツアーをメインとするロードレースシーンはグランツールを中心としたステージレースシーズンの本格化を見る。

アラフィリップ中心の優勝争い サガンらスプリンターにも勝機十分

 4月21日に開催されたアムステル・ゴールドレース、そしてリエージュと、最終局面のレイアウトが平坦寄りとなったことにより、この時期の主役を目指すクライマーたちにとっては、そのチャンスは事実上フレーシュ・ワロンヌのみとなった。コースの刷新は、各チームの戦術、プロトンの勢力図に大きな変化をもたらすことになるだろうか。

今シーズン好調のジュリアン・アラフィリップ。2レースは優勝候補筆頭だ =ミラノ〜サンレモ2019、2019年3月23日 Photo: Pool / BETTINI / SUNADA

 そうした中で、残り2レースで優勝候補筆頭に挙がるのが、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)だ。今シーズンすでに24勝を挙げ、ビッグタイトルも多数獲得している絶好調のチームを、シーズン序盤から牽引。3月のミラノ~サンレモ戴冠は記憶に新しいところ。その後、アルデンヌに向けた調整を兼ねて出場したイツリア・バスクカントリーで落車負傷したが、大事には至らず無事に戦線復帰している。

 けがの影響により調整不足が懸念されるが、復帰後のレースでは順当に上位フィニッシュ。アムステルでは調整の具合が影響したのか、最終局面で脚をつり逃げ切りを逃したが、連覇がかかるフレーシュ・ワロンヌまでには仕上げてくるだろう。

 チームはアラフィリップに限らず、誰から、どこからでもレースを動かせることが大きな強み。リエージュには昨年覇者のボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)と、先のパリ~ルーベを制したフィリップ・ジルベール(ベルギー)が合流予定。北のクラシックでも見せたように、先手のアタックから2発、3発と攻撃できる態勢を作ることとなりそうだ。

過去に何度もタイトルを獲得してきたアレハンドロ・バルベルデ。調子を上げてきている =ツール・デ・フランドル2019、2019年4月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 過去にフレーシュ・ワロンヌを5回、リエージュを4回制しているアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)は、チームの絶対的な存在として重要な2レースへと挑む。今年は北のクラシックにも参戦していたことから、先日のアムステルは無理せずフィニッシュしたが、体調面での不安はなさそうだ。モビスター チームとしては、堅実なアシスト陣がレースを組み立て、ここぞの場面でバルベルデが動き出すスタイル。アラフィリップ同様、激坂でのパンチ力と合わせて、リエージュのフィニッシュにも適応できるスプリント力が武器になる。

好調のアスタナ プロチームはヤコブ・フルサング(右)で上位進出を狙う =アムステル・ゴールドレース2019、2019年4月21日 Photo: BELGA / SUNADA

 今シーズン好調のアスタナ プロチームは、アムステル3位のヤコブ・フルサング(デンマーク)に期待。まずはフレーシュ・ワロンヌで上位進出をうかがう。続くリエージュでは、スプリント力ではライバルに劣ることから、急坂セクションからの仕掛けで人数を絞り込んで勝負に持ち込みたい。リエージュを得意とするヨン・イサギレ(スペイン)や、アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)にスイッチし、勝負を託すこともありそうだ。

 アムステルで見せ場を作ったミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)は、チーム スカイのエースとして残る2レースへも挑む。強力なアタックや独走力に加え、スプリントでも強さを発揮できるあたりは、新しいリエージュのコース向き。フレーシュ・ワロンヌはそこそこに、リエージュに注力することも考えられる。

 クラシックシーズン好調のEFエデュケーションファーストも、引き続き上位戦線に実力者を送り込んできそうだ。アムステルではサイモン・クラーク(オーストラリア)が殊勲の2位となったが、加えてマイケル・ウッズ(カナダ)も状態を上げてきている。ウッズは昨年のリエージュ2位。コースは変われど戦い方を知る点はチームにとっても強みとなる。

山岳で好調のアダム・イェーツ。今年最初のワンデーレース参戦で勝利なるか =イツリア・バスクカントリー2019第6ステージ、2019年4月13日 Photo: KARLIS / SUNADA

 フレーシュ・ワロンヌ向きでいえば、アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)も有力。今シーズンはここまで、ステージレースのみの出場となっているが、山岳ステージで確実に上位入りを続けている。特に頂上フィニッシュへの強さを発揮しており、その戦い方をユイの壁攻略に応用できるか。実績申し分なしのミヒャエル・アルバジーニ(スイス)やダリル・インピー(南アフリカ)らが、チームの統率を図ってイェーツを前方へと放つ役割を担う。

 同様に、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)やダニエル・マーティン(アイルランド、UAE・チームエミレーツ)も、まずはフレーシュ・ワロンヌに集中することになるか。これまではリエージュで力を示してきた両者だが、上りがあってこその走りだったことを考えると、新たなリエージュ市街地フィニッシュはライバルに対し分が悪いのは確か。脚質を考えると、ユイの壁にフォーカスしても不思議ではない。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの勝利に意気込むペテル・サガン。フィニッシュレイアウトの変化で勝機が膨らんでいる =パリ〜ルーベ2019、2019年4月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 かたや、リエージュの戦い方が今年、根本から覆される可能性があることは、出場予定メンバーを見れば明白。ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)が初参戦を表明すると、北のクラシック以降も好調を持続しているとしてグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、CCCチーム)も出場を決意。近年アルデンヌクラシックを戦っているマイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム サンウェブ)にもチャンスが膨らんでいる。サガンとマシューズはフレーシュ・ワロンヌにもエントリーの見通しで、ユイの壁でお手並み拝見といった趣き。今年のアルデンヌクラシックは、スプリントと登坂力を兼ね備える、「上れるスプリンター」にも勝機があるものへと進化を遂げている。

 なお、アムステル・ゴールドレースを制したマチュー・ファンデルプール(オランダ)は、所属のコレンドン・サーカスが両レースともに招待を受けていないため、出場しない。

今週の爆走ライダー−ビョルグ・ランブレヒト(ベルギー、ロット・スーダル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 充実した日々が続いている。イツリア・バスクカントリー第2ステージで2位に入ると、アルデンヌクラシック前哨戦のブラバンツ・ペイルで5位。アムステル・ゴールドレースでは優勝争いに加わり、6位で終えた。いずれも満足できるレース内容だった。

着実に実力を伸ばしているビョルグ・ランブレヒト =イツリア・バスクカントリー2019第5ステージ、2019年4月12日 Photo: KARLIS / SUNADA

 プロ2年目の22歳。ジュニア時代からベルギーの年代別王者を経験し、昨年はUCIロード世界選手権のアンダー23ロードで2位。同世代では世界トップの力があることを証明してみせた。着実な成長は、トップシーンでの優勝争いに食い込むまでに力を伸ばしてきた。

 それだけの努力をしている自負がある。大きなレースへの出場経験を重視するチーム方針に応え、臨むレースはいずれも全力で取り組んでいる。特に脚質に合っているという、ボルタ・ア・カタルーニャやイツリア・バスクカントリーでは、アタックやスプリントなどを試し、自らの可能性も探った。その成果が、アムステル6位に現れていることを感じている。

 チームの大先輩であるイェール・ファネンデル(ベルギー)に師事する。ファネンデルからは常に「自らの力に賭けて走る」よう言われているそうで、将来的にはワンデーレースで優勝できると言われているとも。プロデビューからの3シーズンの過ごし方が将来を左右することを教えられているといい、だから出場レースで力を抜くわけにいかないとも。

 夢は「ユイの壁で勝つこと」。つまりは、フレーシュ・ワロンヌを制することだ。自信があるという上りスプリントの適性を生かすにはピッタリの舞台。ファネンデルとティム・ウェレンス(ベルギー)という2人のリーダーが存在するチームにあって、いかに自らの存在を誇示するかは考えどころだが、チャンスがやってくれば絶対に生かすつもりだ。

 「目と感覚で走り方を学んでいる」。間近に迫ったフレーシュ・ワロンヌは、彼のスタンスを体現する絶好の機会となりそうだ。

プロ2年目のビョルグ・ランブレヒト。夢のフレーシュ・ワロンヌ制覇に向けて研鑽を重ねる =UAEツアー2019第7ステージ、2019年3月2日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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