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猪野学の“坂バカ”奮闘記<34>『チャリダー★』で新城幸也・土井雪広両氏をおもてなし “接待ライド”の舞台裏<前編>

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 私が出演する番組『チャリダー★』(NHKBS1毎週土曜午後6時~6時50分)ではゲストを招いておもてなしをする「接待ライド」というコーナーがある。これまで様々な方々をもてなして来たが、なかでも忘れ難いのがお笑い芸人「おかずクラブ」のオカリナ氏を招いた埼玉秩父でのライドだ。丸一日かけて彼女をもてなし、最後は満開の夜桜がライトアップされるというサプライズで、あまりの美しさに興奮したオカリナ氏に私は唇を奪われてしまった(番組としてはお蔵入り)。あれから満開の桜を見るたびに彼女との接吻が頭をよぎり、私の頬も桜色に染まる…。そんな接待ライドのなかで最も気合いが入った回がある。それは日本の宝、新城幸也選手(バーレーン・メリダ)と土井雪広元選手の両氏を招いての接待ライドだ。

“世界の新城&土井”への接待ライド。 背中にものすごい圧を感じる

お出迎えのドッキリもあたふた

 コースは岩手県の釜石から宮古まで。2018年11月当時はまだ三陸鉄道が開通していない区間だった。オープニングのシーンは、二人が乗る三陸鉄道に弁当売りに扮した私がドッキリで突然現れるという設定。タクシーで二人が乗る電車が止まる駅に先回りして待ち受けるという手筈になっていた。

今は全線開通している三陸鉄道リアス線。美しい景色が堪能出来る

 しかしタクシーに乗ってしばらくしたところで運転手が慌てだした。どうやら道に迷ったらしい。運転手いわく、この辺りの道は当時、震災の復興工事で日に日に道が変わっていた。

 何度もUターンを繰り返すが、なかなか目的の駅に辿り着かない。焦りだす番組スタッフ。このままだと間に合わない。その時、山あいにチラッと駅舎の様なものが見えた。私は咄嗟に「あそこに向かって下さい!」と叫んだ。近付くとそこは無人の駅舎だ。目的の駅ではないが、二人が乗る電車を取り逃すよりはいい。

 寒空の下、駅のホームで急いで駅弁売りの衣裳に着替える。通学途中の学生が不審な目で見ている。学生よ…世の中には色んな仕事があるものなのだ。

 すると二人が乗る電車が現れた。間一髪、バレないようにさり気なく乗り込み、いざ弁当を売り出す。乗客は通勤や通学の人達がほとんどだが、テレビの撮影だろうと温かく見守ってくれた。

弁当売りに扮した筆者。成り切るのが仕事だが、最速ヒルクライマーには未だ成り切れずにいる….

 最後尾に座る二人に近付いたところでやっと「何やってんすかっ!」と土井さんが気づいた。土井さんいわく、私は役に本当に成り切るから分からないらしい。というか、成り切るのが私の本業である。

 なんとかドッキリは成功し、ようやく出発地点の釜石駅に到着。ここからは自転車に乗り、トレインを組む。接待ライドなので基本的に私が前を引かせていただく。─といえば聞こえは良いが、お二人が前だと引き摺り回されてしまう。そうなったらタイ合宿の再来だ。そうならないように蓋をするというのが本音だ(しかしこのシステムは後に崩壊する)。

“嵐”の前の静けさ

 朝日を浴びながら大槌町へと向かう山岳を攻める。何とも気持ちがいい。山を下ると巨大な防潮堤が現れた。震災後に新たに作られたものだ。自然と脚が止まり、我々はその巨大な構造物を無言で眺めた。

美しく輝く大槌湾と、建設中の防潮堤

 人間が作る構造物も巨大だが、自然は我々の想像を軽々と越えてくる。自然への畏敬のようなものが込み上げる。東北を訪れるたびに、私はそんな気持ちになる。決して逆らえないものがこの世にはある。

 気を取り直し、海岸線の道を3人で走る。朝日に光る美しい大槌湾の絶景を楽しみながら大槌町に到着。ここで、ある自転車屋さんに立ち寄った。90年も続く自転車屋さんで、震災の津波によって全壊したが、仮設住宅で7年営業し、昨年見事に復活された「内金崎自転車商会」だ。「そりゃもう、大変でしたよ」と明るく語る店主。その強さはどこから来るのだろう。

内金崎自転車商会の2階には見慣れない、ワクワクする自転車がたくさんある

 自転車ショップと隣接するカフェで、地元のチャリダーの方々と待ち合わせることになっていた。彼らは「大槌新山ヒルクライム」の実行委員の方々だ。日本を代表する両選手とヒルクライムがしたいと集まってくれた。

 街中からヒルクライムのスタート地点まではそれぞれに走る。川沿いを山間部に上って行くのだが、私はそこで、さり気なく二人のすごさを垣間見る。軽々とダンシングで上って行くそのギアが、ほぼアウタートップなのだ。

 上りでアウタートップでダンシング…しかも談笑しながら上って行く。メーターを見ると350W。談笑しながら出す数値ではない。さすがは世界レベルだ。そして後にこのアウタートップの理由が分かることになる。私はというと、スタート地点までそこそこ脚を使ってしまった。

地元の皆さんとヒルクライムに挑戦!

 そしていよいよヒルクライムがスタート! 地元の方々は1分置きにスタートし、お二人は最後尾からスタートする。地元の方々は7人いるので7分のビハインド(遅れ)。果たして二人は全員を捕まえることができるのか?

 ここから、世にも不思議な奇想天外のヒルクライムが巻き起こるのであった─。

(画像提供:猪野学・NHK・テレコムスタッフ)

<後半へ続く>

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:50)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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