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彼女と自転車<9>ビギナーからベテランまで人気を集める「ウィメンズライド」 主催者・藤森なおみさんの“隠し味”

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 いつ行っても安定感があり、飽きのこないメニューが並ぶ定食屋─。例えるなら、彼女が主催するライドイベントはそんな印象だ。サイクルウェアブランド「ラファ」のアンバサダーでもある藤森なおみさん。相手がビギナーでもベテランでも一定の出力でリードする様は、ライドリーダーというより「女将さん」を思わせる。自身のライフワークとして開催している「ウィメンズライド」のコースはいうなれば「日替わり定食」で、優しい味からピリリと辛さが効いた料理まで、そのメニューを選んだ人を満足させる気配りと“隠し味”が女性たちから好評を得ている。その様子を、藤森さんの人気イベントの一つとなっている「“脚と舌”で味わうドーナツライド」と併せて紹介する。

藤森なおみさん。愛称「にゃおち」。「ラファ」のアンバサダーで、職業はウェブのフロントエンジニア Photo: Kyoko GOTO

女性サイクリストの存在を当たり前にしたい

 藤森さんがライドリーダーとしてイベントを立ち上げることになったきっかけは2015年。縁あって、ラファのアンバサダーとしてイベント開催のオファーを受けたことがきっかけだった。依頼内容は「月に一度、自分のライドに他のサイクリストもジョインしてほしい」というもの。「普段から自分も走っているし、それくらいなら」という気持ちで依頼を引き受けたが、一方で引き受けるからにはモチベーションとなる自分なりの目的が必要と考えた。

愛車はアメリカ・ポートランドのハンドメイドバイクブランド「Speedvagen」。女性らしい藤色が藤森さんらしい Photo: Kyoko GOTO

 いまでこそ少しは改善されたものの、当時の自転車をめぐる道路環境は決して快適なものではなく、とくに女性サイクリストに関しては、一人で山を上っているときに心無い男性から珍しがられ、ひやかしを受けるという被害も耳にしていた。

 「自分の身の安全も含め、そういった自転車を取り巻く状況を改善したいと思っていた」という藤森さん。「女性たちが走ることが珍しいことでなくなるよう、たくさんの女性が自転車に乗って車道を走れるようになるお手伝いをしよう」と思い、アンバサダーという役割ではなく、自身のライフワークとしても女性の参加を呼びかける「ウィメンズライド」の開催を思い立った。

夏に横浜で開催したウィメンズライド。総勢14人の大所帯! 提供: 藤森なおみ
ラファが主催する、100kmを走る女性限定イベント「womens100」のトレーニングライドの様子  提供: 藤森なおみ

 当初の集まり具合は“ぼちぼち”だったが、個人のSNSやラファの女性イベントなどを通じて地道に活動の場を広げていった。訪れてくる女性の大半が単独での参加。入り口はラファだけでなく、藤森さん個人のSNSを通じての参加者も多い。フェイスブックで藤森さんのライドを知って参加したという女性は、「初心者だったので、同じ女性が主催しているイベントは安心感があった」とのこと。次第にリピーターの数も増え、最近では参加歴が長いメンバーは進んでビギナーをサポートしたりとチーム内の好循環も生まれている。

甘くない「ドーナツ」

 取材当日に開催されたイベントは、名付けて“脚と舌”で味わう「ドーナツライド」。「大のドーナツ好き」という藤森さんが考案した人気イベントの一つで、今回も募集開始後わずか1日で定員に達した。タイトルからしてドーナツ屋巡りなど美味しそうなライドを思い浮かべるが、一つひっかかるのは「脚でも味わう」という言葉だ。

月に数回、オープンライドを主催している藤森さん。イベントには最初単独で参加してくる女性がほとんど。この日の「ドーナツライド」には筆者を含め7人の女性が集まった Photo: Kyoko GOTO

 もうお気づきかと思うが、「脚で味わうドーナツ」とは、いわゆる「激坂」の称号といわれる、あの滑り止めの「Oリング」のこと。要するに、激坂ライドというわけだ。

 当日走ったコースは都内でも屈指の激坂エリアとされる丘陵地帯。ドーナツという言葉に、ただ「美味しいライド」と思ってウキウキ出かけた筆者は、激坂を目の当たりにして初めて「ドーナツ」の意味を知ることに。「甘くないな~」と思わず苦笑いがこみ上げるが、この先にある“本物のドーナツ”にありつくには上るしかない。

「ドーナツ」といえばこの形…どこかで見覚えが Photo: Kyoko GOTO
「脚で味わうドーナツ」ってこれ?!  なるほど、たしかに甘くはない(笑) Photo: Kyoko GOTO

 坂一本あたりの距離はそれほど長くないが、4本5本と数を重ねると脚が疲労でプルプルしてくる。中には勾配が20%を超えるような“壁”も現れるが、それでも女性たちは脚をつかずに踏ん張って上っていく。きついが、上り終えたときの安堵感と達成感で笑顔があふれる。

脚で味わったあとは皆で藤森さんおすすめのお店で“本当のドーナツ”を堪能。写真のタイトルは「Donuts on Donuts」! Photo: Kyoko GOTO

 コースを考えるとき、藤森さんは「頑張るところは頑張って、脚を休めるところは休めて、楽しむところは楽しんで、というメリハリを大事にしている」とのこと。「頑張ることの楽しさもあるし、こういう体験を一緒にするとコミュニケーションも深まる。いろいろな自転車の楽しみ方を知ってほしい」と話す。

藤森さんを先頭に、サイクリングをする女性たち。車道走行に慣れるため、敢えてクルマの交通量が多い道を選んで走ることもあるそう Photo: Kyoko GOTO

 コース選びには藤森さんのビギナー時代の経験もいかされている。「ウィメンズライドは基本的にクルマ通りの少ない道を選びますが、意図的にクルマ通りのある道を走るときもあります。怖いと思って避けてるといつまでも苦手なまま。私もそうだったけど、どうしたら自分が安全に走れるか、自分を守るためにはどういう走り方をしたら良いかを考える機会になる」という。

レベルなんて気にせずに

 ウィメンズライドではトレーニングライド、チャレンジライド、お楽しみライドと様々なニーズに対応するイベントを実施している。今回の「ドーナツライド」は総距離45km、激坂まじりの少し強度高めのコース。「参加者の顔ぶれがわかっていたので予定通りのルートを走った」そうだが、初めての参加者がいる場合はその人の走力を見ながらコースをショートカットする場合もあるという。

「レベルなんて気にしないでイベントに参加してほしい」という藤森なおみさん Photo: Kyoko GOTO

 設定したコースに対して走力が足りないと思う参加者がいた場合は、いつも事前にどれくらいの距離を走るか、どれくらいの時速で走るかをたずね、「20km/hで精一杯」なら、それよりもさらにスピードを落として走る。一方で、「人と一緒に走るといつも以上の力が出る人もいる。様子を見て頑張れそうだったら、休憩を増やしたりしながら全行程サポートする」と対応もきめ細かい。

 「自分がどんなレベルかなんて気にせず、走ってみたいと思ったら遠慮せず来てほしい」という藤森さん。「一緒に走ろうと思って集まって来てくれる人たちは、自分たちの中に速さが合わない人がいても合わせてくれる。そうやって仲間を作って走った方が上達は絶対早いですよ」─。

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