Cyclistが駆け抜けた平成<7>平成自転車ブーム総括 MTBに熱狂し、ストリートではメッセンジャーが激走、令和元年はどうなる?

by 森本禎介 / Teisuke MORIMOTO
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 いよいよ平成最後の日、平成31年4月30日を迎えました。平成の自転車史を振り返る連載、最後は平成の自転車のブームについて、まさに平成とともに、自転車に乗って過ごしてきた、TKC Productions(ティーケーシープロダクションズ)代表・森本禎介さんにマウンテンバイクの興隆、ストリートでの自転車の流行を振り返ってもらいました。

自転車界を席巻したDIRTBROS・YANSさんのジャンプ。90年代前半、大阪のプラザ阪下で開催されたイベントで Photo: Daisuke KITAGAWA 

◇         ◇

GTカラコラムK2から始まった平成

90年代頃のGT「カラコルムK2」。カラーリングも時代を反映している(ライトウェイ提供)

 自分のスポーツバイク歴を振り返って驚いたのですが、最初にサイクルベースあさひ吹田本店で購入したGTカラコラムK2というマウンテンバイク(MTB)は1989年式で、つまり昭和64年でもあり、平成元年でもあるのです。どうやら自分の自転車遍歴を語ることはすなわち平成の自転車ブームを語ることにもなるようです。

平成元年に発売されたエポックメイキング的なサスペンション「ロックショックス RS-1」 Photo: Teisuke MORIMOTO

 平成元年はMTB的にエピックな発明が世に出てた年で、それはロックショックス社のサスペンション「RS-1」です。当時はその重量が故に否定的な意見も多く、簡単に受け入れられることはないと高校生の筆者は思っていたのですが、翌1990年にはダンパーにシンプルで壊れず、比較的軽量かつ交換の簡単なエラストマーを採用したマニトウ社のサスペンションフォークが登場し、両社はマーケットを席巻することになります。

 決定的だったのはUCIがMTBを管轄下に置いて世界選手権をコロラド州デュランゴで開催し、記念すべき最初のアルカンシエルをことごとくサスペンションフォークが制覇したことです。ほんの数年でマーケットに受け入れられたサスペンションフォークは教訓を残しました。

90年代前半、大阪のプラザ阪下で開催されたクロスカントリーレース。サスペンションとリジットフォークが混在している Photo: Daisuke KITAGAWA

 多少重くなっても、それを上回るメリットがあればマーケットに受け入れられるということです。同じことはディスクブレーキやドロッパーポストでも起こり、最近ではシクロクロスにおけるディスクブレーキ、現在はロードバイクにおけるディスクブレーキも同じように議論が進行中ですが、この30年の動きを見るとリムブレーキは廉価モデルでしか生き残る余地は無いように見えます。

90年代前半、自転車界で圧倒的な実力と人気を誇ったDIRTBROS。写真は塚本岳 Photo: Daisuke KITAGAWA

MTBを広めたマガジンハウスの功績

 90年代にMTBブームが興ったのは81年の創刊からアメリカのシーンを伝えていた雑誌BE-PALの功績が大きいのですが、若きMTBマニアとしては本当に知りたい本場アメリカの事情は断片的すぎて歯痒く、専門誌の伝えるMTBはツーリングや山サイ寄りで物足りなかったのです。

 そのため、アメリカの雑誌を年間購読していたのですが、マガジンハウス社のターザンがたまに取り上げた本場西海岸のMTBシーンなどはそれこそ穴が開くほど授業中に見たものです。MTBを国内に紹介したのがBE-PALなら、ファッション業界などの流行に敏感な層を取り込んだのがマガジンハウスの功績で、ここからMTBはお洒落な乗り物という雰囲気が醸成されます。

 1990年に宇都宮で開催されたロードバイクの世界選手権はどこか遠い国の出来事のように感じた記憶があり、もっと言うとロードレースはピチピチのダサい種目だとさえ個人的には思っていました。今では考えられないことですが当時は雑誌の表紙を毎号MTBが飾り、「MTBブームのせいでロードが売れない」などと言う議論さえありました。

2003年以降人気が“ダウンヒル”

 90年代はMTB熱狂の時代だったと言えるのですが、2001年に新潟県新井リゾートでUCIワールドカップが派手に開催されたのをピークに、2003年頃から急激にMTBのマーケットがダウンヒルすることになります。当然、自転車店も多くが主軸をロードバイクに移しました。

 ロードバイクショップのオーナーが90年代のMTBシーンの話になると急に目を輝かせるのはそれが青春時代でもあり、業界が上向きだったからでもあります。自転車業界でも最大の謎の一つと言われていますが、世界的には順調に成長を続けるMTBマーケットが日本国内だけ失速した理由を明快に語ることができる識者には出会ったことがありません。

90年代初頭、スリックタイヤをつけたMTBがメッセンジャーの標準装備だった
90年代のメッセンジャーは服装を含めて個性を主張し合っていた
雨の中、都内を走るメッセンジャー。MTBにしてはハンドル幅にも注目 © T-serv

映画『メッセンジャー』の公開とともに

90年代、リッチーのロジックにサスペンションをつけたバイクでストレッチするメッセンジャー

 1999年、ミレニアム前夜にゼロ年代のトレンドを大きく左右した出来事が二つあります。一つは映画『メッセンジャー』の公開です。バイクメッセンジャーというとシンプルで壊れないピストを使う、などと言われていますが、実際の映画に登場するのはスリックタイヤを履かせたMTBです。90年代はアメリカのメッセンジャーも多くがMTBに乗っており、これは世界的なMTBブームの影響です。『メッセンジャー』の影響でメッセンジャーという職業、そしてアーバンサイクリングというスタイルを世に知らしめることになったのですが、より重要なことは、メッセンジャーや元メッセンジャーたちがアーバンサイクリングの文化を作るのに重要な役割を果たすようになることです。

映画「メッセンジャー」の頃の標準仕様バイク。スペシャライズドと言えばMTBだった頃 © T-serv
朝、事務所から出動するメッセンジャー © T-serv

 2005年辺りからは世界的にピストがブームとなり、2007年にはサンフランシスコのチーム、MASHがフィルムを発表、ナイキのビルボードが話題となり、ピストは無法者の乗り物のように捉えられ、バッシングを受けることになりましたが、トータルでは自転車業界に良い影響を与えました。スポーツサイクルへの入り口として安価なピストが多数売れ、NJSビルダーは再注目され、何よりも若い乗り手が増え、そして自転車業界にも新しい人材が流入するようになったのです。

2007年、MASHが来日。大阪のイベントで Photo: Teisuke MORIMOTO

 そう、いつしか90年代はダサい思われていたピチピチはクールになったのです。現在、成功している自転車イベントを開催している裏側には元メッセンジャーがいます。クールな自転車アパレルブランドの裏側にも元メッセンジャーがいます。今の自転車業界は元メッセンジャー抜きにして語ることができないほどあちこちに元メッセンジャーが活躍しているのは紛れもない事実です。

2005年、サンフランシスコのHUFというブランドの店。店頭には後にMASHのメンバーが乗ることになるビアンキが見える Photo: Teisuke MORIMOTO

 ランス・アームストロングがガンから復活し、記念すべきツール・ド・フランス連覇への第一歩を踏み出したのも1999年です。ここから破竹の7連覇が始まるのですが、数年の引退期間を挟んだとは言えゼロ年代はランスの10年だった言えます。ランスは引退後にピストブームのグラウンド・ゼロとも言えるMASHとも邂逅を果たしてストリートカルチャーと接点も持ち、さらに復帰後の2009年にはダミアン・ハーストや奈良美智、KAWSなどとのコラボレーションで7台のトレックをデザインし、シーズン終了後にサザビーズでオークションに掛け、売上をリブストロング財団に寄付して大きな話題を呼びます。

 この辺りがセレブレティとしてのランスのピークだったのかもしれません。2012年にドーピングを告白し、多くの記録は剥奪されてしまいますが、彼が財団のために集めた資金、ガン患者に与えた勇気は本物だったと今でも評価する人は多く、筆者もロードレースというスポーツのアンバサダーとして大きな役割を果たした事実は認めざるを得ません。

 さて、10年代ですが、ロードバイクは安定して強く、さらに弱虫ペダル、シクロクロス、バイクパッキング、グラベルバイクのブームを挙げることができますが、90年代のMTBブームをど真ん中で見た筆者としては、少しずつブームの規模が小粒になっている印象は否めません。どちらかと言うと、ランスから受けた傷が癒えなかった10年だったと感じています。そんな中、業界全体で現在プッシュしているのがe-BIKE
です。

平成元年頃、すでにMTB少年の森本さん Photo: Teisuke MORIMOTO
平成をMTBとともに過ごした森本さん Photo: Teisuke MORIMOTO

 令和元年はe-BIKE元年になります。MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の中に組み込まれ、モビリティとして既にシェアバイクが稼働していますが、体力レベルの低い人、ハンディキャップのある人、高齢者でもスポーツサイクルを楽しめるようになります。また、e-BIKEはその特性上、重量物を搭載するカーゴバイクや坂の多い山を走るMTBにも適しています。最近はMTBパークも増えてきており、令和を祝ってe-MTBでも一台いかがでしょうか?

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