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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<28>自転車で行けるヒマラヤの最深部、ジョムソン街道 「ジープ」で拓かれた道

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 ネパールで旅人に人気があるトレッキングコースはエベレスト・ベースキャンプまで歩く「エベレスト街道」コースか、アンナプルナ・ベースキャンプまで歩く「アンナプルナ内院」コース。さらに長いルートだとアンナプルナの外周をぐるっと一周歩く「アンナプルナサーキット」と呼ばれるコースが人気だった。このアンナプルナサーキットは唯一自転車で走れるトレッキングルートとして知られているが、ツーリングバイクの僕らは、自分の自転車で行けるアンナプルナサーキットの西側半分の「ジョムソン街道」へと照準を絞り、走ってみるとことした。

ジョムソン街道の先の聖地、ムクティナートまで足を延ばす Photo: Gaku HIRUMA

 このルートの拠点となるのはネパール第2の都市、ポカラ。世界中のトレッカーがアンナプルナトレッキングをするために、この街に集まってくる。そのため、ツーリスティックなエリアも広いのだが、街の雰囲気は、ここが国内で2番目に大きな都市とは全くもって思えないほど、のどかで落ち着いたものだった。ツーリスティックとローカルがうまく混在した街で、何日滞在していても飽きることはなかった。

 朝は高地特有の冷たく清々しい空気の中、太陽でぽかぽかになった湖畔で、雪山を眺めながらお気に入りのベーカリーで買ったパンを食べるのが日課だった。この街でアンナプルナトレッキングに必要なアンナプルナ保護区入域証を取ってから出発した。

走るポイントは時季と荷物の軽量化

 ポカラからジョムソン街道へアクセスできるのだが、ジョムソン街道を自転車で走るためのポイントは2つ。まずは走るシーズンを特に選ばなければならないということ。一般的にネパールのトレッキングのベストシーズンは10月から12月中旬くらいまでといわれている。トレッキングは自転車旅行以上に天候が重要になってくるので、まずこの時期に走行を合わせる必要がある。

橋のかかっていない渡渉。ひざ上くらいの水があり、荷物を外して何往復もして越える Photo: Gaku HIRUMA

 「渡渉」(としょう)という橋のかかっていない川がルート上にいくつかあり、乾季でも自転車は担いで渡らねばならない。あまり気にせず雨季に行ってしまうと、それらの渡渉を越えられない恐れもあり、さらには土砂崩れなどのリスクも上がる。

ジープロードが出来たおかげで、山奥とは思えないほど快適なロッジがある。キャンプ道具は基本的に不要 Photo: Gaku HIRUMA

 そしてもう一つは何といっても軽量化だ。そもそも自転車で走れるといっても、元はトレッキングルートだったところを強引にジープロードにしただけの代物なので、とにかく悪路で、傾斜もきつかった。いつものようなフル装備ではとてもじゃないが走ることはできなかった。

 ただ、幸いなことに元トレッキングルートだけあって数kmおきに村があり、食堂と宿泊施設を兼ねたロッジも必ずあったので、最低限必要な着替えと寝袋などの防寒着とリペアパーツを持つだけで良かった。

自転車で行けることに胸が躍る

 リアのサイドバッグに荷物をまとめ、他の荷物は全て宿に置かせてもらった。リペアパーツはパンク修理キットとチューブ。そしてブレーキシューも悪路と傾斜で驚くほど早く消耗するので、換えを必ず持って行く。最低限の装備のほかに、お茶と簡単に昼食を食べられるようにガスバーナーを携帯した。

非常に悪路だが、見上げると常に雪山があった Photo: Gaku HIRUMA

 ポカラからジョムソン街道の入口に当たるベニまでは80kmほどで、1日でアプローチできえる。完全舗装路だが、1000m上って1000m下る。山岳国家のネパールでは日常だ。ベニからジョムソンまでは70km程。距離的には大したことはないが、荒く削り出した道路は「よくここをジープが走るな」と感心するくらいの悪路。ぬかるみも多く、傾斜がきついためジープが走るたびにさらに悪路に磨きがかかるのだろう。

 しかしながら、これほどまでにヒマラヤの最深部に自転車で行けることに胸が躍る。見上げれば常に、雪を抱いた峰々が非常に堂々とした姿を見せてくれていた。かつてここはチベットとの交易で栄えた道なのだ。

 日本人で初めて鎖国下のチベットに入国した仏教学者であり、チベット探検家の河口慧海(かわぐち えかい)もこの道を通った。彼が滞在していた家がそのまま博物館になっており、当時の記憶を伝える。

かつて川口慧海も滞在したというリンゴの里マルファは街道随一の可愛らしい村だった Photo: Gaku HIRUMA

 ジープロードも整備され、以前とは比べ物にならないくらい変わってしまったこともあるだろうが、ヒマラヤの暮らしの本質は昔から変わっていないように思われ、この道を走ると当時の情景がありありと思い浮かべられた。まだ旅が冒険だった頃の時代に、想いを馳せて走るのは本当に楽しかった。

MTBのレンタルショップも

 悪路を1日に1000m上らねばならない日もあったが、一度標高を上げてしまえば、後は軽いアップダウンの繰り返しで、オフロードを楽しむ余裕も出てくる。道はこじんまりとした山奥の村を繋ぎながら上っていく。ジープロードは大体村の外れを抜けていった。

 寄り道をして村に入っていくと、幅2mほどの道が石造りの家々を縫うように伸びていて、ここがかつて「世界一美しいトレッキング道」と言われていた頃の面影が色濃く刻まれていた。村を通り過ぎるたびに、当時の人々の息遣いまで聞こえてくるようだった。

 村で歩いてる子供に「ナマステ」と気軽に声を掛けると、立ち止まり胸の前で合掌して「ナマステ」と返してきてくれるので、こちらも慌てて立ち止まり、合掌して「ナマステ」と返す。外国人トレッカーが多く訪れるこの地で、全く外国人擦れしていない子供たちに出会えることに感動した。

ロッジで食べるご飯もボリュームがあってとても美味しい Photo: Gaku HIRUMA

 ジープロードが通っているだけあって街道沿いのロッジの質は非常に高く、ホットシャワーやWi-Fiがあったりと、山の中とは思えないほど快適だった。結局ジョムソンまで1日約20kmちょっとを走り、3日で着いた。

 僕らはツーリング車で行ったが、ポカラにはマウンテンバイク(MTB)のレンタルショップもたくさんある。日本から短期の旅行でも、現地でMTBをレンタルして、バックパックに最低限の装備を背負えば気軽にヒマラヤの最深部に自転車で入っていくことができる。本当におすすめしたいコースだ。

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

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