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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<291>ポート、モレマを軸にグランツールに照準 トレック・セガフレード 2019年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 長きにわたってお届けしてきたUCIワールドチームの2019年シーズン展望。いよいよ18チーム目、トレック・セガフレードの動向を紹介。シーズンが進行する中でのお届けとなるが、このチームにとってはこれからが「本番」。チームとの相思相愛によって今季加入のリッチー・ポート(オーストラリア)、そして数年来の総合エースであるバウケ・モレマ(オランダ)を中心に、見据える先はグランツールでの上位進出だ。

トレック・セガフレードに2019年シーズンから加入したリッチー・ポート。ツール・ド・フランスに向けて調整を進めている =サントス・ツアー・ダウンアンダー2019第6ステージ、2019年1月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

正念場となるパリ~ルーベ

 大注目のグランツール路線のピックアップを前に、タイムリーな話題としてクラシック班の動きを押さえておきたい。

北のクラシックでは苦戦が続く。ツール・デ・フランドルではジャスパー・ストゥイヴェンの19位がチーム最上位 =2019年4月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ジョン・デゲンコルプ(ドイツ)やジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)を擁し、ここ数年でお家芸としてきた北のクラシックだが、今シーズンはどうもパッとしない。4月7日に行われたツール・デ・フランドルでは、終盤までに全員が遅れを喫し、チーム最上位はストゥイヴェンの19位。トップからは1分19秒差をつけられてしまった。

 今年は前述の2人に加え、昨年のフランドル2位のマッズ・ペデルセン(デンマーク)、2年ぶりにチームに帰還したエドワード・トゥーンス(ベルギー)によるカルテットで上位戦線をにぎわすと見られたが、いまひとつかみ合わない。スプリンターとしてもトップライダーのデゲンコルプに加え、パワーとスプリントスピードには申し分なしのストゥイヴェンとトゥーンス、アタックから独走への展開に光るものがあるペデルセンと、それぞれに持ち味があるが、いまのところは鳴りを潜めている印象だ。

ジョン・デゲンコルプはヘント〜ウェヴェルヘムで2位。チームとして浮上のきっかけとなるか =2019年3月31日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな状況にあって、3月31日のヘント~ウェヴェルヘムでのデゲンコルプの2位フィニッシュは、せめてもの意地といったところか。ストゥイヴェンも、不調の原因となっていたシーズンイン後に体調不良やメンタル面での波が、ここへきて回復傾向。ポジティブな要素も徐々に増えてきている。

 フランドルを制したアルベルト・ベッティオール(イタリア、EFエデュケーションファースト)や、シクロクロス専門のマチュー・ファンデルプール(オランダ、コレンドン・サーカス)がドワーズ・ドール・フラーンデレンで優勝するなど、気鋭のライダーたちが台頭し、群雄割拠の様相を見せるクラシックシーズン。実質今年の北のクラシック最終戦となるパリ~ルーベ(4月14日開催)が、トレック・セガフレードのクラシックライダーたちにとって正念場となってくる。

ポートはツールに向けて調整を加速させる

 昨シーズンで事実上解散となったBMCレーシングチームから移籍加入を果たしたポート。トレック・セガフレードとは早い段階で相思相愛の関係となり、前チームの体制維持が難しくなってからは、移籍に向けた動きが一気に加速。晴れての新チーム加入は、いわば既定路線ともいえる。

サントス・ツアー・ダウンアンダー第6ステージ、ウィランガ・ヒルを制したリッチー・ポート。新たな環境での初戦で好走を披露した =2019年1月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 それゆえ、加入してすぐのレースでも早速実力をアピールしている。1月のサントス・ツアー・ダウンアンダーでは、クイーンステージのウィランガ・ヒルを制し、個人総合2位。新たな環境での迷いや困難はないと言ってもよさそうだ。春先に気管支炎を患い、直近ではボルタ・ア・カタルーニャ(3月25~31日)で目立つことなく終わってしまったが、いまのところは心配ないだろう。

 というのも、彼にとっての「本番」は7月。ツール・ド・フランスである。レーススケジュールも余裕を持ったプログラムになっているようで、いまのところ7月までに出場見込みとなっているのは、ツアー・オブ・カリフォルニア(5月)とクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(6月)のみ。これからしばらくはトレーニングを強化していく段階となる。

ツール・ド・フランスに集中するリッチー・ポート。調整を加速させていく =サントス・ツアー・ダウンアンダー2019第4ステージ、2019年1月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 個人・チームともにタイムトライアルステージの設定は1つずつとなっている今年のツール。ポートといえば、個人TTでアドバンテージを得るスタイルがおなじみだが、今回はどのようにバランスをとって戦い抜くかに注目だ。TTスペシャリストの多くが、タイムトライアルステージの比重が高めのジロへと回り、ツールは実力派クライマーがひしめく激戦が予想されるが、ポートも安定感のある登坂でマイヨジョーヌ争いに加わりたいところ。

 過去2年はともに“鬼門”となっている第9ステージの落車で大会を去っているほか、個人総合5位で終えた2016年も序盤ステージで遅れるなど、“フル”に戦い抜いた経験が少ない。年齢ですべてを判断することは難しいが、とはいっても34歳。ビッグチャンスを手にする機会は限られてくる。

ジロ・デ・イタリアでの総合上位入りを目指すバウケ・モレマ。ツールではリッチー・ポートのアシストを務める予定で、グランツール連戦となる見込み =イツリア・バスクカントリー2019第1ステージ、2019年4月8日 Photo: YSP

 ポートの右腕として、実力・実績とも申し分なしなのがモレマ。ツールでは山岳アシストを務めることが内定し、総合エースとしてはジロでの活躍を期する。グランツール連戦に向けて仕上げている段階で、現在スペインで開催中のイツリア・バスクカントリーを走っている。

 2016年にはクラシカ・サンセバスティアンで優勝するなど、ここ数年はワンデーレースのほか、グランツールでもステージ狙いに切り替える姿が見られがちだが、まだまだ総合トップ10圏内で走るだけの力はある。険しい山岳での消耗戦では、ここ一番でアタックやスプリントが冴え、勝負強さを示してきた。今年のジロでは比重が高まる個人TTをいかにしのぐかが上位進出のカギとなるが、調整がうまくいけば山岳ステージでの走りは計算できる。

 ポートとモレマ、経験豊富な2人の存在によって、グランツールの見通しは明るくなった。

若手とベテランの融合に膨らむ期待

 シーズンインからここまで、チームで挙げた勝利は3つ。ここから勝ち星を増やしていけるか。

アルデンヌクラシックでの活躍が期待されるファビオ・フェッリーネ =ストラーデ・ビアンケ2019、2019年3月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今月中旬から始まるアルデンヌクラシックへは、登坂力とスピード両面を持ち合わせるファビオ・フェッリーネ(イタリア)の戦いぶりに注目。大小あらゆるアップダウンを経て迎える最終局面に生き残ることができれば勝機がめぐってくる。2017年のアムステル・ゴールド・レース8位のミヒャエル・ゴグル(オーストリア)らが、その脇を固めることになる。

 新戦力も着々とチームに順応。2016年のジロでステージ優勝を挙げたジュリオ・チッコーネ(イタリア)は、今シーズン1勝を挙げているほか、ポートやモレマをグランツールで支える山岳アシスト候補に浮上。これまでは山岳逃げを得意とし、昨年のジロでは山岳賞争い2位となった経験もあるが、このチームではグランツールレーサーとしての英才教育を受けていくことになる。

 スプリンターのマッテオ・モスケッティ(イタリア)も将来を約束される1人。2月のUAEツアーでは、激坂スプリントとなった第4ステージで2位に食い込んだ選手だが、昨シーズンはアンダー23(23歳未満)カテゴリーでスプリントタイトルを総なめにしたスピードスター。今年は比較的小さなレースを中心に走っているが、ゆくゆくはトップシーンを駆ける選手となるはず。

けがで戦線を離れている別府史之。すでにリハビリを進行させ、復帰に向けて前向きに取り組んでいる =ストラーデ・ビアンケ2019、2019年3月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 こうした若い選手たちと、経験に長けるベテランの力が融合を果たしたときに、チームは勢いを増すことだろう。いぶし銀の働きを見せるジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア)、ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア)といった選手たちの力は、グランツールをメインに必要となってくる。グランツールのTTステージ優勝が目標という、ライアン・マレン(アイルランド)のトラック仕込みの独走力も今シーズンは目にすることが出てきそうだ。

 そして、けがにより戦線離脱中の別府史之の動向も気になるところ。すでにリハビリを開始し、SNSを通じてポジティブなコメントも投稿。復帰に向けて、着々と歩みを進めている。

トレック・セガフレード 2018-2019 選手動向

【残留】
別府史之(日本)
ジュリアン・ベルナール(フランス)
ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア)
ニコラ・コンチ(イタリア)
クーン・デコルト(オランダ)
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ)
ニクラス・イーグ(デンマーク)
ファビオ・フェッリーネ(イタリア)
アレックス・フレーム(ニュージーランド)
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)
ミヒャエル・ゴグル(オーストリア)
マルケル・イリサル(スペイン)
バウケ・モレマ(オランダ)
ライアン・マレン(アイルランド)
ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア)
マッズ・ペデルセン(デンマーク)
キール・レイネン(アメリカ)
トムス・スクインシュ(ラトビア)
ピーター・ステティーナ(アメリカ)
ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)

【加入】
ジュリオ・チッコーネ(イタリア) ←バルディアーニ・CSF
ウィリアム・クラーク(オーストラリア) ←EFエデュケーションファースト・ドラパック
アレックス・キルシュ(ルクセンブルク) ←WBアクアプロテクト・ヴェランクラシック
マッテオ・モスケッティ(イタリア) ←ポラテック・コメタ
リッチー・ポート(オーストラリア) ←BMCレーシングチーム
エドワード・トゥーンス(ベルギー) ←チーム サンウェブ

【退団】
ユーゲニオ・アラファーチ(イタリア) →エヴォプロレーシング
マティアス・ブランドル(オーストリア) →イスラエルサイクリングアカデミー
グレゴリー・ダニエル(アメリカ) →DCバンクプロサイクリングチーム
ローラン・ディディエ(ルクセンブルク) →引退
スガブ・グルマイ(エチオピア) →ミッチェルトン・スコット
ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル) →カチューシャ・アルペシン
ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア) →ディメンションデータ
グレゴリー・ラスト(スイス) →引退
ボーイ・ファンポッペル(オランダ) →ルームポット・シャルル

今週の爆走ライダー−ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 エンジンが温まりつつあるチームにあって、起爆剤となっている若きイタリアンクライマー。フルシーズン戦うのは初めてとなるUCIワールドツアーの舞台に立つ喜びを力にして走っている。

ジュリオ・チッコーネの名が知れ渡ったジロ・デ・イタリア2016第10ステージ。ステージ優勝でセンセーショナルなグランツールデビューを飾った =2016年5月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ジュリオ・チッコーネの名が世に轟いたのは、2016年のジロ・デ・イタリア。当時はプロ1年目、当然初となったジロで得意とする山岳逃げのセンスを披露してみせた。第10ステージ、比較的静かに進んだメイン集団とは「別のレース」となった先頭グループからの決定的アタック。この日の勝利が、自らの行く先を決定づけたと言ってもオーバーではない。

 チームを指揮するルカ・グエルチレーナ氏は、「あの勝利以来、成長を見守ってきた」とその走りに惚れ込み、自軍に招き入れるタイミングを測っていたという。一時はけがで不振にあえいだ時期もあったが、時間とともにチッコーネ自身にも戦える確信が生まれていった。

 当時21歳でのジロ勝利は、大会史上3番目の若さ。思いがけず数字ばかりが先行したが、新チームで戦力として高く評価されていることを心から喜ぶ。目下のターゲットはジロに決定。モレマのために山岳でアシストに従事する心積もりだ。

 8歳の時に自転車競技と出会い、いつしかトッププロになることを夢見るようになったという23歳。グエルチレーナ氏ら首脳陣にして「将来のエース候補」とまで言わせる潜在能力は今シーズン、トップシーンでわれわれの目にも鮮明に飛び込んでくることだろう。

即戦力としてトレック・セガフレードに加入したジュリオ・チッコーネ。ボルタ・ア・カタルーニャでも力走する姿が見られた =2019年3月28日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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