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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<27>アンデス山脈の秘湯に浸かり星空を眺める 世界で一番贅沢な時間

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 日常的に湯船に浸かる入浴文化を持っている国は少ないが、気持ちの良い温泉に入れる国は意外なほど多かった。もちろん日本のように裸で浸かるのではなく、水着を着て家族や友人でワイワイ楽しむという志向の温泉がほとんどだった。僕が走った国々で唯一日本式に裸で入る公衆浴場があったのが、トルコの北東部にあるジョージア(グルジア)の首都のトリビシだった。

ジョージアの公衆浴場。裸で入るとても珍しい公衆浴場で、日本と共通するマナーで入る Photo: Gaku HIRUMA

日本と似ているジョージアの入浴文化

 ジョージアは温泉大国で、個室風呂なども充実していたが、海外で裸で入る温泉にとても興味があったので行ってみた。レンガ造りの小さなドームがいくつも集合している建物で、外観こそ日本の銭湯とは異なるが、その醸し出している雰囲気はまさに銭湯だった。浴槽に入る前に、垢すりや石鹸で身体をきれいにしてから浸かる。こんな日本と離れた国で、同じような文化を持つ国があることに感動すら覚えた。

ジョージアの個室風呂。時間制ではあるが、ゆっくり浸かれる個室風呂は有難い Photo: Gaku HIRUMA

さらにジョージアは日本の居酒屋のような酒に合う料理を出してくれる店が数多くあり、風呂上がりにグルジア料理を肴に生ビールを飲めるのはまさに至福のひと時だった。

 世界中で色々な温泉に入ってきたが、それでも温泉に関してはやはり日本は世界一だと思う。ただ、「人生で一番贅沢なひと時を過ごせた温泉は?」と聞かれたら、恐らく日本ではなくペルーにあるアンデス山脈の中にひっそりと佇む秘湯だったと答えると思う。

ガイドにも載っていないアンデスの秘湯

 ペルーは知る人ぞ知る温泉大国であり、かのインカの皇帝も首都であるクスコから山を越えて足しげく温泉に通ったといわれている。町によってはしなびた温泉街のような雰囲気をもつ町もあり、温泉以外でもリラックスできる要素があったりして日本人の好みにとても合っている温泉が多かった。

アンデスの秘湯の宿泊施設。絶好のロケーションなのにかなり簡素。夜は冷え込み商店も閉まるので、宿泊には食料と寝袋などの防寒の装備が必要だ Photo: Gaku HIRUMA

 その温泉はマチュピチュの拠点の町クスコから、チチカカ湖のあるプーノの中間にあるシクアニという街から標高4338mの峠を目指して上っていき、峠の手前4000mの地点にある温泉だった。国道上にあるがバス停などは一切なく、バックパッカーにも全く知られておらず、ガイドブックの『地球の歩き方』はもちろん、あの『ロンリープラネット』ですら載っていない秘湯だった。こういう時の日本人サイクリストの温泉に関する詳細なデータの共有は、本当に綿密なものがある。

一生に一度しか味わえない贅沢な時間

 着いた温泉はアンデスに囲まれた気持ちの良い温泉だったが、この温泉の“すごさ”はこの後だった。実はこの温泉には宿泊施設があり、宿泊すれば一日中温泉に浸かり放題だった。日中は地元の人がプールで泳ぐようにはしゃいでいたが、日が暮れるとお客さんはおろか、温泉や宿の従業員ですら街へと帰っていく。

こんなに気持ちの良い温泉なのにペルー人は誰も朝風呂に来ていない。日本人で良かったと思う瞬間 Photo: Gaku HIRUMA

 日暮れとともに辺りは静寂に包まれ、アンデスの輪郭だけが浮かび上がる。満天の星空がのぞくと、昼間のそれとはまったく別の顔の温泉になっていた。源泉を自由に調整できたので、湯船に少し熱めの湯を引き入れた。湯気が立ち込める様子は日本の露天風呂を彷彿とさせるものだった。

満天の星空を見上げながら温泉に浸かる。最高に贅沢な時間だった Photo: Gaku HIRUMA

 標高4000mの冷たく凍えるほどピンッと張り詰めた空気の中で入る温泉は、自転車旅をやってきてよかったと心から思う瞬間だった。満天の星空がぽろぽろとこぼれる落ちるように流れ星となって流れていく。普段、テントの中からでは寒すぎてゆっくり見れない星空も、この日は心ゆくまで堪能できた。

 翌朝、誰もいない朝風呂で、青い空に徐々に昇っていく太陽を見ているとアンデス山脈を独り占めしているようで、こんなアンデスの楽しみ方は一生に一度しか味わえない、贅沢な時間だった。

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

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