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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<290>クラシック、グランツールに向けエンジン始動 バーレーン・メリダ 2019年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 中東・バーレーンの国家プロジェクトとして2017年に始動したチームは、3シーズン目に突入。チームの顔であるヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)を筆頭に、クラシックシーズンに入りいよいよエンジンを本格始動。ニバリ、ひいてはチームの最大目標となるジロ・デ・イタリアに向けても視界は良好だ。そして、けがからの戦線復帰を目指す新城幸也の動向も気になるところ。日本のファンにとって、いま目が離せないチームの1つである。

2019年はジロ・デ・イタリアをターゲットにするヴィンチェンツォ・ニバリ(左)。シーズンインから数レースを走りいよいよ調子を上げてきた =ティレーノ〜アドリアティコ2019第4ステージ、2019年3月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

ニバリはジロに向け調整段階へ

 シーズンインに選んだ2月のUAEツアーでは山岳でたびたび遅れ、3月のティレーノ~アドリアティコでもインパクトを残すことができなかったニバリだが、続いて挑んだミラノ~サンレモにはしっかりと合わせてきた。前年同大会で優勝、ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ今回は、スピード自慢のクラシックハンターとの勝負となり、得意とはしていないスプリントで敗れたものの、コンディション面での不安はないことを証明。ニバリらしい、渋い走りが今年初めて見られる内容だった。

ミラノ〜サンレモを8位で終えたヴィンチェンツォ・ニバリ。大会2連覇はならなかったが上々の走りを見せた =2019年3月23日 Photo: Pool / BERTORERRO / Yuzuru SUNADA

 もっとも、狙ったレースに集中するのがニバリのスタイル。昨年もシーズンイン当初はパッとしなかったが、ミラノ~サンレモで鮮やかに勝利。その後はまた鳴りを潜めたが、目標としていたツール・ド・フランスでは尻上がりに調子を上げた。結果的に、第12ステージのアルプ・デュエズでのファンとの接触落車によって負傷し大会を去ったが、あのアクシデントがなければ、上位戦線を活発にしていたことは大いに考えられる。

 今シーズンは早くから狙いをジロに定めており、シーズンオフにあたる昨冬から計画的に日々を送っている。

 これまでの実績から見て、ジロ特有の急峻な山々では上位争いに加わってくることだろう。絶好調で臨むことができれば、急坂での力強いアタックでライバルを振り切り、独走に持ち込むことも大いにあり得る。調子がよいときのニバリは、独走にしてしまうと手が付けられないほど勢いづくことは、過去の戦いで証明してきた。

ヴィンチェンツォ・ニバリにとってジロ・デ・イタリア上位進出のカギとなりそうな個人タイムトライアル。3つあるTTステージをいかにクリアするか =ティレーノ〜アドリアティコ2019第7ステージ、2019年3月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 さらに、3ステージ・合計58.5kmある個人タイムトライアルをどう攻略するかも興味深い。TTステージを上位でクリアできるだけの走力はあるが、第1ステージ(8.2km)と第9ステージ(34.7km)は上り基調とあって、ニバリにはおあつらえ向きのレイアウト。今年のジロには、山岳・TTとも得意とするオールラウンダーが多数集結する見込みだが、その中にあって百戦錬磨の彼の戦いぶりが大会の流れをも決める可能性がある。

 そして、ニバリの戴冠を期して、アシストも歴戦のクライマーがそろう予定だ。自身も総合上位を狙える力を持つドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア)に加え、リグイガス・キャノンデール時代(2011~2012年)のチームメートであり、近年は代表チームでニバリを支えてきたダミアーノ・カルーゾ(イタリア)がチーム加入。カルーゾにとっては、ジロのメンバー入りは既定路線といったところ。また、昨年のツアー・オブ・ジャパンで個人総合2位に入り、日本のファンにも知られるところとなったハーマン・ペーンシュタイナー(オーストリア)も山岳アシスト候補に挙がるなど、強力メンバーが5月のイタリアを熱くすることになりそうだ。

 3つのグランツールすべてで頂点に立ち、ワンデーレースも含めて数々の金字塔を打ち立てる“メッシーナの鮫”。34歳とベテランの域にあるが、狙ったレースに合わせるピーキングと老獪な走りで自らの地位をさらに高めようと意気込む。今後はしばらく調整に入り、ジロ前哨戦のツアー・オブ・ザ・アルプス(イタリア)で脚試しの予定。クラシックはリエージュ~バストーニュ~リエージュのみとなる公算。また、ツールについてはジロを終えた時点で決めるとしており、現段階では流動的だ。

コルブレッリ、トゥーンスらを軸にクラシックを戦う

 年々戦力が充実し、力のある選手を軸としたチーム内でのグループ分けもスムーズに行われている印象だ。この春のクラシックシーズンに関しても、勝負を任される中心選手が台頭し、その戦いぶりが楽しみなものとなっている。

クラシックシーズンでチームの中心的存在となるソンニ・コルブレッリ =ツアー・オブ・オマーン2019第4ステージ、2019年2月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 まもなく本格化する石畳系の北のクラシックについては、ソンニ・コルブレッリ(イタリア)がタイトル獲得を目指す。今日のプロトンにおける「上れるスプリンター」の一角であり、スプリント力とともに局面を打開するパワーも持ち合わせる。近年の北のクラシックでは上位の常連となっており、精鋭だけに絞られるサバイバルなレースに生き残ることができれば、持ち前のスピードが生かされることになる。今年こそタイトル獲得が悲願だとしており、4月7日のツール・デ・フランドルや同14日のパリ~ルーベに向け気持ちを高めている。

戦いの幅を広げているマテイ・モホリッチ。初参戦となる北のクラシックの走りにも注目が集まる =ミラノ〜サンレモ2019、2019年3月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 北のクラシック路線では、今年がキャリア初の参戦となるマテイ・モホリッチ(スロベニア)の走りにも注目される。ジュニア、アンダー23と各年代の世界タイトルを獲った24歳は、これまではアルデンヌクラシックやグランツールのステージ優勝争いで目立ってきたが、このところはオールラウンドに戦いの幅を広げている。ミラノ~サンレモでは殊勲ともいえる5位。このときはコルブレッリとの連携が幾分乱れ、自身だけが追走から優勝争いに加わる格好となったが、個の力としては十分にトップを争えるだけのものがあることを示している。

移籍加入のディラン・トゥーンス。アルデンヌクラシックでの活躍が期待される =ミラノ〜サンレモ2019、2019年3月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 丘陵地帯で争われるアルデンヌクラシックは、移籍加入したディラン・トゥーンス(ベルギー)に期待がかかる。フレーシュ・ワロンヌでは2017年3位。昨年はイル・ロンバルディアでも3位と、着々とビッグレースでの実績を積む27歳。昨年までクラシックで活躍したヨン・イサギレ(スペイン、現・アスタナ プロチーム)、エンリーコ・ガスパロット(イタリア、現・ディメンションデータ)が移籍により退団し、新たなエース格の擁立を急ぐ。その最有力候補としてトゥーンスの名が挙がる。ミラノ~サンレモでは調子を落としリタイアに終わったが、シーズンイン直後のステージレースではまずまずの走りを見せており、来たる本番に向けて調子を戻してくることだろう。

 また、ポッツォヴィーヴォも昨年のリエージュでは5位となるなど、戦い方を知る1人。メンバーに入ってくるようだと、トゥーンスとならんでチームのリーダー格として走ることになる。

即戦力そろう新メンバー 選手層に厚み

 今年は25選手でシーズンを戦う。8人の新加入選手は、実力・実績ともに申し分のない即戦力がそろう。

個人タイムトライアル世界王者のローハン・デニスがバーレーン・メリダ加入。ツール・ド・フランスを目指すことも明らかになっている =ティレーノ〜アドリアティコ2019第7ステージ、2019年3月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 カルーゾやトゥーンス以上のトピックなのが、個人TT世界王者のローハン・デニス(オーストラリア)のチーム合流だろう。昨年まで所属したBMCレーシングチームの事実上の解散があったとはいえ、早い段階からバーレーン・メリダとの相思相愛がヨーロッパのサイクルメディアでは報道されるなど、良好な関係を築いてきた。それは加入早々のレース結果にも表れており、緒戦のサントス・ツアー・ダウンアンダーでは個人総合5位と好成績。国内選手権が1月に開催されることもあり、他のオーストラリア人ライダー同様、いまは少し調子を落とし気味だだが、やがて戻してくることだろう。

 5月に29歳となるが、本職としてきたタイムトライアルで世界の頂点に立ち、いよいよグランツールレーサーとして本格的に動き出そうとしている。目標はツール。今年はTTより山岳の比重が高いが、どう3週間を戦うかは今後山岳の走りを高めていくうえでの指標となりそうだ。そして、9月に行われるロード世界選手権では、TTのマイヨアルカンシエルの防衛も目指していくことになる。

移籍加入のフィル・バウハウス。スプリント路線に厚みを加える存在 =ティレーノ〜アドリアティコ2019第4ステージ、2019年3月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 同じく新加入組では、スプリンターのフィル・バウハウスとリードアウトマンのマルセル・シーベルグのドイツ人コンビがスプリント路線の層を厚くする。バウハウスはサントス・ツアー・ダウンアンダーやUAEツアーではステージ優勝争いに加わったほか、シーベルグやコルブレッリらのスプリントトレインの統率役を担うことになる。両者とも新たな環境で機能しているあたりはさすがだ。

 なお、3月25日に開幕したボルタ・ア・カタルーニャ(スペイン)には、カルーゾ、ペーンシュタイナー、バウハウスのほか、グレガ・ボーレ(スロベニア)、アンドレア・ガロシオ、アントニオ・ニバリ、ヴァレリオ・アニョーリ(いずれもイタリア)の布陣で参戦。第1ステージはボーレが3位と好スタート。大会中盤に待ち受ける上級山岳ステージでは、カルーゾが上位進出を目指し総合成績につなげていくことになりそうだ。

 そして気になる、新城の動向。タイで合宿中の3月13日に落車し左ひじと左大腿骨の骨折の重傷を負い、数日の入院ののち先日日本に帰国。再検査の結果骨盤2カ所の骨折も判明(Teamユキヤ代表・飯島美和さんのツイートより)。現在はひじのリハビリに専念し、1日も早い戦線復帰を目指している状況だ。

バーレーン・メリダ 2018-2019 選手動向

【残留】
ヴァレリオ・アニョーリ(イタリア)
新城幸也(日本)
グレガ・ボーレ(スロベニア)
ソンニ・コルブレッリ(イタリア)
フェン・チュンカイ(台湾)
イヴァン・ガルシア(スペイン)
ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア)
クリスティアン・コレン(スロベニア)
マテイ・モホリッチ(スロベニア)
アントニオ・ニバリ(イタリア)
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)
ドメン・ノヴァク(スロベニア)
マーク・パデュン(ウクライナ)
ハーマン・ペーンシュタイナー(オーストリア)
ルカ・ピベルニク(スロベニア)
ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア)
ワン・メイイン(中国)

【加入】
フィル・バウハウス(ドイツ) ←チーム サンウェブ
ダミアーノ・カルーゾ(イタリア) ←BMCレーシングチーム
ローハン・デニス(オーストラリア) ←BMCレーシングチーム
アンドレア・ガロシオ(イタリア) ←ダミコ・ウテンシルノルド
マルセル・シーベルグ(ドイツ) ←ロット・スーダル
ディラン・トゥーンス(ベルギー) ←BMCレーシングチーム
ヤン・トラトニク(スロベニア) ←CCCスプランディ・ポルコヴィチェ
ステファン・ウィリアムズ(イギリス) ←SEGレーシングアカデミー

【退団】
マヌエーレ・ボアーロ(イタリア) →アスタナ プロチーム
ニッコロ・ボニファツィオ(イタリア) →ディレクトエネルジー
ボルト・ボジッチ(スロベニア) →引退
エンリーコ・ガスパロット(イタリア) →ディメンションデータ
ゴルカ・イサギレ(スペイン) →アスタナ プロチーム
ヨン・イサギレ(スペイン) →アスタナ プロチーム
ラムナス・ナヴァルダウスカス(リトアニア) →デルコ・マルセイユプロヴァンス
フランコ・ペッリツォッティ(イタリア) →引退
デーヴィッド・パー(スロベニア) →アドリアモビル
カンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ) →引退
ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア) →ネーリソットーリ・セッレイタリア・カテエム

今週の爆走ライダー−イヴァン・ガルシア(スペイン、バーレーン・メリダ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 パリ~ニース第2ステージ、強い風にプロトンが揺れた1日は終わってみれば、前方に生き残ったのは7選手のみという予想だにしないサバイバルレースだった。

強風でプロトンが崩壊したパリ〜ニース2019第2ステージ。イヴァン・ガルシア(左)は攻撃的な走りでステージ2位を占めた =2019年3月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 スプリントステージとの大方の予想を崩し、集団からリードを奪ってみせた7人の中に、グイグイと重いギアで前へ突き進むガルシアの姿があった。

 プロ3年目の23歳は、あの1日で首脳陣の見立てを確信に変えたに違いない。2017年のプロ入り時から、クラシックレースで頂点を極める選手になれるだけの逸材と言われ、以来育成重視のプログラムが組まれてきたが、いよいよそれが実りつつあることを示したのだ。ステージ優勝こそならなかったが、レースを動かし、自らの力で最終局面を切り拓いたあたりは、消耗戦となるクラシックの走りにもつながっていくことは間違いない。

 デビューイヤーにはツアー・オブ・ジャパンに出場しており、レースを追うファンであれば、彼が示す成長曲線を感じられることだろう。もちろん右肩上がりの進化は、まだまだとどまることを知らない。スプリント、パワーとも申し分がないだけに、あとは経験と激戦を勝ち抜くテクニック、そして運を兼ね備えられるかがカギとなってくる。

 すでにチームと2020年までの契約に合意しており、期待度の高さがうかがえる。今年のテーマは、「ワンデーレースと1週間程度のステージレースでの結果を追い求めていくこと」。コンスタントに上位進出を果たしており、来たる北のクラシックへも期待が膨らんでいる。

 潜在能力とこのところの走りを見る限り、ブレイクは間近。いま一度、イヴァン・ガルシアの名を押さえておくと、この先のレースシーンを楽しむことができるはずだ。

スプリントとパワーが自慢のイヴァン・ガルシア。2019年シーズンはクラシックと1週間程度のステージレースで結果を求めていく =ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第15ステージ、2018年9月9日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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