title banner

旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<26>世界中の旅サイクリストが憧れる道 “世界の屋根”パミールの絶景

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
  • 一覧

 世界には、「旅サイクリストなら一度は走っておきたい」と思う“憧れの道”がある。ボリビアのウユニ塩湖からアンデス山脈を越えてチリに至る「宝石の道」。世界一美しい林道と称されるチリの「アウストラル街道」。舗装路では世界最高所のフンジュラブ峠4700mを越える、パキスタンと中国・ウイグル自治区に跨る「カラコルムハイウェイ」。そして今回紹介する中央アジアのタジキスタンにあるパミール。タジキスタンを中心にアフガニスタン・中国にもまたがる「世界の屋根」と呼ばれる大山塊だ。中でもアフガニスタンとの国境に面する細く険しく伸びた回廊地帯、ワハン回廊からパミール高原を走る道が本当に素晴らしく、世界中の旅サイクリストの憧れの的となっている。

アフガニスタンの人々の生活が垣間見えるくらいの距離で対岸を走る Photo: Gaku HIRUMA

何が何でもパミールのベストシーズンに

 3000~4000mの高地に位置するため、パミールは夏季が短い。2月に真冬のトルコで凍えながら再スタートを切り、酷暑の時期のイランや50℃近い気温になる砂漠のトルクメニスタンを走り抜け、面倒くさい中央アジアのビザを苦労して取ったのも、全てはベストな時期にパミールを走るためだった。

 さらにパミールを走るのには、ビザとは別に「パミールパーミット」と呼ばれる許可証を取得しなくてはならなかった。タジキスタンの首都であるドゥシャンベのオフィスで手続きをする。

 手続きは簡単だが、面倒だ。バスを乗り継いでオフィスまで出向き、パスポートを渡して指定の銀行で振り込みを済ませた領収書を見せれば発行してもらえるのだが、基本的に英語はあまり通じず、さらにそのオフィスは地元の人間でごった返して、挙句の果てに基本不愛想。しかしながら「パミール、パミール」といっていれば何とかなるのも中央アジアだ。

 ただ、2019年現在はe-VISA申請時に一緒に、パミールパーミットも取れるようになったようだ。ここ数年で中央アジアは本当に便利になったと思う。

絶景と人に魅了されるパミール

 まずはドゥシャンベからパミールの拠点となる街、ホーログを目指す。ホーログの手前のカライコムでパンジ川とぶつかり、対岸には赤茶けたレンガ造りの簡素な家が立ち並び、女性は「ブルカ」と呼ばれるイスラム教の全身を覆うベールに包まれた姿で歩いているのが見える。

 対岸に見えているそこはもうアフガニスタンだ。アフガニスタンの国境沿いなんて危なくないのかといわれそうだが、外務省の「海外安全ホームページ」でもこの川沿いだけ警戒レベルが異なる。もちろん気を付けなければいけないエリアではあるが、地球の原風景のような荒々しい「回廊」と呼ばれる細い渓谷はサイクリストを惹きつけ、さらに穏やかでとても優しいパミール人たちにもとても癒された。国道にもかかわらず、舗装は一部でアップダウンも多いが、道中には中央アジア特有の高床座敷の食堂「チャイハナ」が点在しており、昼食と昼寝にもってこいだったし、商店もあるので補給もし易かった。

迫りくる荒々しく深い渓谷。迫力がすごい Photo: Gaku HIRUMA

 ホーログからは本格的なパミール・ワハン回廊の走行になり、220km先のワハン回廊の終わりのランガルを目指して走る。ワハン回廊は本当に外界と切り離された桃源郷のような世界で、周囲に広がる削り出された荒々しい渓谷とは裏腹に、一本道のオフロードの左右には田畑や樹木が植わり、青い空とのコントラストが非常に眩しく穏やかに映った。

 そして、そこで出会う子供たちは皆素直で、こんな秘境の地にいるとは思えないほど、きちんと学校の制服を着こなして登校していたのが印象的だった。

ワハン回廊で出会った、きちんと制服を着て通学をする子供たち。こんな所で育ったら真っ直ぐに育つんだろう。ものすごく良い子たちが多かった Photo: Gaku HIRUMA

地球に置いてけぼりにされた感覚

 ランガルから渓谷を離れ、いよいよ峠道を上る。標高2800mから4200mの峠までの約120kmの無人地帯だ。

ランガルからのオフロードの上り坂。下を向き、歯を食いしばりながら必死に自転車を押し上げた Photo: Gaku HIRUMA

 ランガルの渓谷の谷底から一気にオフロードの上り坂を駆け上がる!…なんてもちろん出来ないので、地べたを這うように自転車を押して上っていく。足場も悪いので、喘ぎながらも全然前へ進めず、下を向き、歯を食いしばり、ただただ必死で自転車を押し歩いた。

 ふと顔をあげると、そこには見渡す限りに絶景が広がっていた。乾燥しているため、標高が上がってくると空の色がどんどん濃くなり、遠くに見える雪山と近くの岩山のコントラストが美しく、どこまでも続くオフロードの横を澄み切った川が流れていた。クルマは日に2~3台しか通らない。地球という星に置いてけぼりをくらったような感覚が、逆に贅沢に感じる。

こういう場所を走っていると、何もない事がものすごく贅沢に感じてくる Photo: Gaku HIRUMA

 やがて谷から脱出すると、アップダウンを繰り返しながら峠へ向かっていく。好きな所で休憩し、車も人も通らないから道路から丸見えだけれど、湖の目の前の絶景ポイントで明るいうちからテントを張る。たまに通りかかる羊やヤギを連れたキャラバン隊からパンやチーズをもらい、川の水をろ過もせずゴクゴクと飲む。こんなにも絶景の中に周囲何十kmと自分たちしかいないという感覚が、ものすごく幸せに思えた。

羊やヤギを連れたキャラバン隊から食糧をもらった Photo: Gaku HIRUMA
パミールでは川の水をろ過せずそのまま飲んでいた。もちろんお勧めはしないが、お腹を壊すことはなかった Photo: Gaku HIRUMA

 ランガルから3日かけてパミールハイウェイに合流。久しぶりのアスファルトは氷の上を滑っているかのように、軽やかだった。 

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

関連記事

この記事のタグ

旅サイクリスト昼間岳の地球走行録

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

ショップナビ

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載