title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<289>潤沢な資金でガビリアら即戦力を多数獲得 UAE・チームエミレーツ 2019年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 UAE(アラブ首長国連邦)と、同国ドバイを本拠とする航空会社「エミレーツ航空」のスポンサードのもと、現体制では3シーズン目に突入したUAE・チームエミレーツ。中東発のトップチームであるだけでなく、今年は両スポンサーを中心とした潤沢な資金を確保したことにより、選手層に厚みを加えることに成功した。フェルナンド・ガビリア(コロンビア)ら、即戦力が続々とチームに合流。現エースのダニエル・マーティン(アイルランド)やアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー)らも調子を上げており、新メンバーとの融合でプロトンの目玉となる可能性も高まりつつある。

潤沢な資金を生かして戦力補強に成功しているUAE・チームエミレーツ。フェルナンド・ガビリア(先頭)らがチームを引っ張る =UAEツアー2019第1ステージ、2019年2月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

ガビリアとクリストフの共闘あるか

 今シーズンに向け、昨夏から始まったストーブリーグ(移籍市場)で大きなトピックとなったのが、ガビリアのUAE・チームエミレーツ移籍。昨季まで3シーズン、クイックステップフロアーズ(2016年のチーム加入時はエティックス・クイックステップ)で充実のときを過ごしてきたが、同チームのスポンサー問題もあり年々高まる契約条件に追いつかず。まだまだ成長過程にあるコロンビアンスプリンター獲得に名乗りを挙げたのが、現チームであった。

今シーズンすでに3勝。クラシックシーズンの活躍も期待されるフェルナンド・ガビリア =UAEツアー2019第2ステージ、2019年2月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年は初出場のツール・ド・フランスでステージ2勝。第1ステージでの勝利でマイヨジョーヌ着用の栄誉にあずかるなど、インパクト十分のシーズンだった。心身ともに好調な状態での今回の移籍とあり、今シーズンもその走りは計算できそうだ。2月のUAEツアー第2ステージでの勝ち星を含め、すでに3勝を挙げており、勢いに乗っているところだ。

 最終局面でのポジションさえ決まれば、あとはフィニッシュへ突入するだけといっても過言ではない驚異的なスピード。新たな環境でのシーズンとあり、まずは連携強化がテーマとなるが、ゆっくり構えているわけにもいかない。昨年出場を逃したミラノ~サンレモ(3月23日)を経て、3月下旬からほぼ連戦状態となる北のクラシックが当面の目標。緩急問わず、短い距離の上りであれば対応できる登坂力を持ち合わせており、順当にレースに臨むことができればミラノ~サンレモでは優勝候補の上位に名が挙がるだろう。3月13日開幕のティレーノ~アドリアティコが、クラシックシーズンを見据えた脚試しの機会となる。

強力スプリンターのアレクサンドル・クリストフ。状況次第で発射台を任されることも出てきそうだ =ツアー・オブ・オマーン2019第1ステージ、2019年2月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そのガビリアとの関係性に注目が集まるのが、昨年は絶対的地位を築いていたクリストフ。ツール最終ステージ、パリ・シャンゼリゼを制するなど、要所での勝負強さが光るが、今年はチーム内での立場に変化が見られるかもしれない。ガビリアのスプリント力を認めており、先のUAEツアーではアシストにまわって発射台を務めた。1位1回、2位2回と、両者のホットラインがすでに機能しているあたりも今後に向けたプラス要素。

 スプリンターとしてもトップクラスのクリストフに発射され、勝負を託されるガビリア。ライバルから見れば脅威であることはもちろん、UAE・チームエミレーツとしてもチームの将来を左右する重要なファクターともなりうる。

 グランツールのポイント賞への期待も高まるが、いまのところガビリアはジロ・デ・イタリア、ツールとも出場への含みを持たせている状態。クリストフはクラシック後はツールを視野に入れつつ、ジロと同時期に開催される自国ノルウェーでのレースを目指す見通しだ。

スーパーエース2人をしのぐ勢いの若手も 充実のスプリント陣

 今年のUAE・チームエミレーツは、その戦い次第で堅固な「スプリント王国」構築が実現するかもしれない。ガビリアやクリストフに続くスピードマンが台頭しつつあるのだ。

サントス・ツアー・ダウンアンダー2019第5ステージを制したジャスパー・フィリップセン。スプリントとクラシック両面での活躍が期待される =2019年1月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 記憶に新しいのが、サントス・ツアー・ダウンアンダーの第5ステージを制したジャスパー・フィリップセン(ベルギー)。このときはカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)の降着による繰り上げでのステージ優勝だったが、自らスプリントポジションを切り拓いてビッグネームと対等に渡り合うなど、堂々たる戦いぶりを披露。もともとはクラシックレーサーとして期待されている選手で、昨年はアンダー版パリ~ルーベで4位。3月上旬に開催されたクールネ~ブリュッセル~クールネでもメイン集団でフィニッシュ(24位)しており、トップレベルのレースへの適応もできている。

 2月中旬のツアー・コロンビアで一躍スターダムにのし上がったのが、フアン・モラノ(コロンビア)。今年からチームに加入した24歳は、自国開催のレースでステージ1勝。途中リタイアに終わったエースの代役をしっかりと務めあげた。しばらくはガビリアのリードアウト要員として計算されているが、今後モラノの名前を聞くことも増えてくるだろう。なお、オンループ・ヘットニュースブラッドで落車負傷し戦線を離脱中だが、近いうちに復帰を果たせる見込みだ。

復活期すアル マーティンはツール上位進出へ

 積極的なチーム補強は、グランツールやクラシックレースへの道筋も明るく灯している。

 マーティンやファビオ・アル(イタリア)の存在で、チームのお家芸となっているグランツールの戦い。ここに今シーズンはセルジオ・エナオ(コロンビア)が加わることで、戦術の幅が広がりそうだ。

ツール・ド・フランスで3年連続個人総合トップ10入りのダニエル・マーティン。山岳比重の高い今年も上位進出を目指す =ツール・ド・フランス2018第6ステージ、2018年7月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年まで3年連続でツール個人総合トップ10入りを果たしているマーティンは、今年こそ「機が熟した」と意気込む。上位進出を図るうえで“鬼門”になっていた個人タイムトライアルの比重が下がり、これまで以上に山岳での登坂力が試されるステージ構成に、自身が有利だと感じているという。ライバルのお株を奪う急坂でのアタックが冴えるか。

 マーティンといえば、優勝争いの常連となっているアルデンヌクラシックの走りにも注目が集まる。例年同様、シーズン前半のターゲットに据えていることだろう。経験・実績とも申し分なしのルイ・コスタ(ポルトガル)、ディエゴ・ウリッシ(イタリア)らとの複数リーダー態勢で必勝態勢を整えたい。

 調整を進めるマーティンとは対照的に、復活に向け歩んでいるのがアル。現チームでの1年目だった昨季はほとんどよいところがなく、失意のシーズンになってしまった。「失われたものを取り戻したい」と語る今年だが、現在開催中のパリ~ニースでは第3ステージでリタイアと、苦戦が続いている。

復活を目指し試行錯誤を繰り返すファビオ・アル =ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第2ステージ、2018年8月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 リズムが取り戻せない日々が続くが、2シーズン前の過ごし方が少なからず現在の不調につながっていると見られる。この年は故郷・サルデーニャ島開幕のジロに照準を定めていたが、膝のけがで出場を断念。後に臨んだツールではマイヨジョーヌを着用し、さらにはブエルタ・ア・エスパーニャにも参戦したが、急ピッチで仕上げたことが心身に何らかの影響を与えた可能性が高い。事実、本人も昨年のシーズンイン時点で倦怠感があったと振り返っており、悪い状態でレースを続けてしまったあたりに問題があったことも認めている。

 負のスパイラルからいかにして脱するか。今シーズンはジロに集中することを公言しており、開幕までの残る時間で調子を取り戻すため試行錯誤を繰り返していくことになる。

 これだけのタレントがそろうチームに、さらなる至宝が加わるあたりも押さえておきたい。昨年のジャパンカップ参戦で日本のファンにもおなじみとなったタデイ・ポガチャル(スロベニア)は、2月のボルタ・アオ・アルガルヴェ(ポルトガル)で個人総合優勝と、センセーショナルなシーズン序盤を送っている。20歳と、この先のキャリアが長いであろうことを見越し、今シーズンは育成に重点を置いたレースプログラムとなる予定。とはいえ、その能力はトップシーンでも発揮できるだけのものがあり、アルデンヌクラシックや1週間程度のステージレースで上位争いに参戦することが大いに期待される。

2月に開催されたボルタ・アオ・アルガルヴェを制したタデイ・ポガチャル。プロデビューイヤーで早くもその力を示している ©︎Bettini Photo

UAE・チームエミレーツ 2018-2019 選手動向

【残留】
ファビオ・アル(イタリア)
スヴェンエリック・ビストラム(ノルウェー)
シモーネ・コンソンニ(イタリア)
ヴァレリオ・コンティ(イタリア)
ルイ・コスタ(ポルトガル)
クリスティアン・デュラセク(クロアチア)
ロベルト・フェラーリ(イタリア)
アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー)
ヴェガールステイク・ラエンゲン(ノルウェー)
マルコ・マルカート(イタリア)
ダニエル・マーティン(アイルランド)
ヨウセフ・ミルサ(アラブ首長国連邦)
マヌエーレ・モーリ(イタリア)
シモーネ・ペティッリ(イタリア)
ヤン・ポランツェ(スロベニア)
エドワルド・ラヴァージ(イタリア)
アレクサンドル・リアブシェンコ(ベラルーシ)
ローリー・サザーランド(オーストラリア)
オリヴェイロ・トロイア(イタリア)
ディエゴ・ウリッシ(イタリア)

【加入】
トム・ボーリ(スイス) ←BMCレーシングチーム
フェルナンド・ガビリア(コロンビア) ←クイックステップフロアーズ
セルジオ・エナオ(コロンビア) ←チーム スカイ
フアン・モラノ(コロンビア) ←マンザナ・ポストボン チーム
クリスティアン・ムニョス(コロンビア) ←コルデポルテス・ゼヌ・セリョロホ
イヴォ・オリヴェイラ(ポルトガル) ←ハーゲンスバーマン・アクション
ルイ・オリヴェイラ(ポルトガル) ←ハーゲンスバーマン・アクション
ジャスパー・フィリップセン(ベルギー) ←ハーゲンスバーマン・アクション
タデイ・ポガチャル(スロベニア) ←リュブリャナ・グスト

【退団】
ダルウィン・アタプマ(コロンビア) →コフィディス ソリュシオンクレディ
マッテオ・ボーノ(イタリア) →引退
フィリッポ・ガンナ(イタリア) →チーム スカイ
プシェミスラウ・ニエミエツ(ポーランド) →引退
ベン・スウィフト(イギリス) →チーム スカイ

今週の爆走ライダー−スヴェンエリック・ビストラム(ノルウェー、UAE・チームエミレーツ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 これまで数々の名選手を輩出してきた北欧の雄・ノルウェー。その中でも、同国自転車史上最高の才能とも称されるのが、スヴェンエリック・ビストラムである。

スヴェンエリック・ビストラムの名が広まったのは2014年のロード世界選手権。アンダー23カテゴリーの頂点に立ちプロへの足がかりを作った =2014年9月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 その“才能”を裏付けるのは、2014年のロード世界選手権。アンダー23カテゴリーでの独走勝利。この年のノルウェー勢は層が厚く、ビストラムはチーム内でも3、4番手の存在とされていたが、このときの勝利で評価が一変したのだった。

 以降、プロのカテゴリーでは派手さこそないが、レース出場機会を多く与えられ、その役割をまっとうし続ける。同国自転車界のリーダーでもあるクリストフにはレース、トレーニングでのパートナーに任命され、走りの幅が広がった。それもこれも、世界の頂点を極めたことが殻を破るきっかけだったのかもしれない。

 27歳となり、中堅どころとなる今シーズンはエースとして走る機会も増えるかもしれない。実際、3月上旬のオンループ・ヘットニュースブラッドではチームリーダーとしてスタートラインについた。現在出場中のパリ~ニースでは、苦戦するクリストフに代わって第1ステージでスプリントに挑戦。身近なお手本を参考にトライを続ける。

 2014年に世界を席巻したノルウェーの「ゴールデンエイジ」にあって、UCIワールドチームで走るのはビストラムただ1人になった。一概に理由を絞ることはできないが、ビストラム個人で見るならば、その堅実な働きぶりと競技への姿勢、そしてクリストフのようなスーパーエースに必要とされることが、高いレベルで走り続けられる要因となっているようだ。

 年間を通して寒い時期が長いノルウェーでトレーニングを積むことも多いというが、当の本人は「悪い環境でのトレーニングには慣れているし、マイナスにはとらえていない」。条件に左右されることなく、安定したメンタルで自転車と向きあう“器用さ”も彼の魅力だ。

今シーズンはエースとして走る機会も増えそうなスヴェンエリック・ビストラム。自国ノルウェーでのトレーニングで心身を鍛錬している =ツアー・オブ・オーマン2019第1ステージ、2019年2月21日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

関連記事

この記事のタグ

チーム展望2018-2019 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

ショップナビ

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載