出場へ向けた各国選手を取り巻く環境はクリット・キングから“TOKYO2020”へ トラック米代表、ダニエル・ホロウェイの奮闘

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 いよいよ来年に迫った東京五輪。この世界最大のスポーツの祭典に向け、世界各国の自転車競技の選手たちはどのようにして五輪の舞台を目指しているのか。詳しく現場を知る「Peaks Coaching Group–Japan」の中田尚志さんのリポートでご紹介します。

アメリカトラック長距離のエース、ダニエル・ホロウェイ Photo: Gen KOGURE

◇         ◇

五輪における自転車競技

 近代五輪における自転車競技の歴史は古く1896年に始まった近代五輪に第一回から採用されている。実施種目は水泳・陸上に次ぐ種目数(男女22種目)を誇り、ロード以外にもMTBやトラック競技、BMXなど多種多様な種目が観戦できるのも五輪の楽しみのひとつである。

 多くの国の競技連盟が強化に力を入れているのはU23(23歳未満)のロード選手の強化、そしてトラック競技の強化だ。U23のロード選手はプロとして大成するための体力と知識を身につける年齢であり、コーチや監督の手助けが最も必要な時期であること、トラックに関しては五輪を最大の目標として国単位での強化が男女ともに出来ることが理由として挙げられる。またロードよりも成績が予測しやすいため、強化の成果がメダルの色と結びつきやすいというのもその理由といえる。

 では、どうすれば五輪に出場できるのだろうか? UCI指定の国際大会でポイント上位に入れば参加国枠が得られる。かつては「参加することに意義がある」といわれた五輪だが、現在はよりコンペティテブでコンパクトな開催を目指し、事前にオリンピック参加国枠を確保できた国だけが出場可能なシステムになっている。自転車競技の場合、ワールドカップおよび大陸選手権、そして世界選手権で上位者に与えられるポイントにより上位に位置する国に権利が与えられる。

 その事例として、オリンピック参加枠をめぐるアメリカ人選手、ダニエル・ホロウェイの戦いにスポットを当ててみたい。

“クリット・キング”から世界へ

 ダニエルは、アメリカのプロ・クリテリウムで無敵の強さを誇る選手。展開に左右されることも多いクリテリウムで年間20勝以上を挙げる驚異の選手だ。

ダニエル・ホロウェイ選手 Photo: Dave GILL

 少年時代にスピードスケートの強化トレーニングとして自転車に乗り始めたことがきっかけで競技を始めた。自転車が盛んなカリフォルニア州出身で、キャリアをスタートしてすぐに頭角を現し、ジュニア時代から全米選手権を何度も制覇。その後、ヨーロッパでプロになる夢を抱き渡欧するも、文化の違いと当時のドーピング汚染を目の当たりにして帰国。しかしレースへの情熱は燃え尽きることがなく、ショップチームのアマチュアながらプロ・クリテで勝利を積み重ねアメリカNo.1のクリット・キング(※1)に返り咲いた。

※1.クリットとはCrit=Criterium クリテリウムの略

ゴールで勝利のポーズを決めるダニエル Photo: Dave GILL
伊豆ベロドロームで歓声に応えるダニエル Photo: Ken AKITA

 2017年、オムニアムのレースフォーマット変更(※2)と新種目「マディソン」の採用をきっかけに、「新しいチャレンジで世界へ」との思いから五輪を目指す決意をする。2017年チリで行われたUCIトラックワールドカップ・オムニアムでは、日本の橋本英也選手との激しいバトルを制して優勝。2018年は東京2020の下見を兼ねて伊豆ベロドロームで行われたトラックパーティーにも参加。さらにパンナムゲームズでマディソンを制覇し、五輪候補に名乗りを上げた。

※2.リオ五輪後、タイム種目がなくなりレース形式の種目のみに変更

五輪代表枠を巡る戦い

 ダニエルが五輪に出るためには参加国枠を取ることに加え、自身が選考されるためにさらに大きな壁を3つ越えなくてはならない。

(1)選手選考
いくら参加国枠獲得のためのポイントを稼いだとしても、自身が選出されなければ五輪に出場することはできない。代表選手は出場した国際大会のレベルや展開も加味して決定されるために沢山ポイントを稼いだ選手が選考されるとは限らないからだ。

(2)派遣人数
アメリカから自転車競技の代表として派遣される人数には制限があり、たとえ五輪参加国枠を得たとしても、その種目に選手を派遣する保証はない。例えばロード、トラック、BMXフリースタイルの3種目で参加国枠を得た場合、メダルを取る確率がロード、BMXで高いと判断されればトラックの代表人数が削られる可能性もありえる。メダルを取れる可能性の高い種目から順に選手を割り当てていくからだ。

我々の質問に答えるダニエル Photo: Gen KOGURE

(3)チームパーシュート
チームパシュートで五輪ポイントの上位8チームに入れば、その国は個人種目を含む5人のスポットが約束される。そのため、チームパーシュートのメンバーに入ってないダニエルの場合、もしオムニアム・マディソンの両種目で参加枠を取っていたとしても代表に選ばれない可能性がある。オムニアム・マディソン2種目の不動のエースとして代表に選ばれる可能性が高い反面、チームパーシュートが参加国枠を獲得した影響で突如代表から外される可能性もあるわけだ。

 これらの代表選考の“あや”は選手本人がコントロールできる範囲ではない。

 彼は言う。「代表選考は連盟の委員が決めることだから。僕らが今目指すゴールはひとつ。できる限り多くのポイントを稼ぐことだけだ」。

死力を尽くした選手が集結

オムニアム出走を待つダニエル Photo: Ken AKITA

 戦いはこれだけではない。世界を転戦するためには資金集めが必須になるが、日本の競輪や実業団のような潤沢な資金を持つプロチームは現在アメリカ国内にはない。そのため、個人的にもスポンサー集めに奔走する必要があるし、賞金獲得の可能性があれば世界中どこへでも飛んでいかなければならない。ポーランドでの世界選手権終了後、彼が向かうのは香港で行われる6日間レースだ。

 1月末に行われたワールドカップ香港大会ではオムニアムで激しい落車を喫するも、翌日のマディソンに強行出場。相棒のエイドリアン・ヘジバリーと共に6位に入りオリンピックポイントを稼いだ。五輪開催まで早くも一年余り。世界中のトラック選手が死力を尽くして目指すのは伊豆ベロドロームでの東京五輪だ。

取材協力: 和泉チエン株式会社

中田尚志中田尚志(なかた たかし)

Peaks Coaching Group – Japan」代表。渡米し約2年ハンター・アレンの元でトレーニングを学び、パワートレーニングを専門にしたコーチングを行っている。日本・アメリカで30年のレース経験があり、両国の自転車文化に詳しい。現在は京都在住。

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