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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<288>デュムラン、マシューズがビッグタイトル目指し始動 チーム サンウェブ 2019年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 絶対的な強さを誇るタイムトライアルに、年々向上する登坂力。トム・デュムラン(オランダ)は、グランツールを戦い抜く完全なスタイルを確立。いまのプロトンにおいて、その走りを真似できるライバルは現れない領域までになった。スプリントでは、ステージレースにとどまらずアルデンヌクラシックの戦いに新境地を開いたマイケル・マシューズ(オーストラリア)が強さを見せる。この両輪がいよいよ、2019年シーズンを始動。これに呼応するかのごとく、主力選手たちにエンジンがかかり始めた。ジャージデザインを一新し、“赤い軍団”と化したチーム サンウェブの動向に世界からの目が注がれている。

2019年シーズン最初のターゲット、ジロ・デ・イタリアに向けて始動したトム・デュムラン =UAEツアー2019第7ステージ、2019年3月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

デュムランはライバルの手が届かない領域へ

 一昨年のジロ・デ・イタリアを制し、昨年もジロとツール・ド・フランスでともに個人総合2位。いまやグランツールレーサーの筆頭格となったデュムラン。タイムトライアルスペシャリストとして売り出され、当初は本人でも想像していなかったというグランツールでの活躍。だが今は、3週間をいかにして戦い抜くかに考えの軸を置くようになった。

UAEツアーでシーズンイン。まずまずの走りで終えたトム・デュムラン =UAEツアー2019第6ステージ、2019年3月1日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今シーズンは、山岳とならんでタイムトライアル(TT)の比重も高くなるジロをファーストターゲットに据える。8.2kmの第1ステージと、34.7kmの第9ステージ、この2つのTTステージは上り基調。向上の一途をたどる登坂力も生かして、ライバルに大差をつける構えであることは間違いない。もっとも、個人タイムトライアルだけでもロード世界選手権の表彰台常連であることを忘れてはならない。

 上りに関しては、高いスピード域でのテンポ走(一定ペース)を得意とするあたりは、やはりバックボーンがTTスペシャリストであるゆえんと言えるが、このところは上位戦線のメンバーを絞り込むアタックも見られるようになった。昨年のジロ、ツールでもこうした場面でライバルを振り落とす局面があり、パンチ力が炸裂すると他の選手たちからすると手が付けられないことになる。5月のイタリアでの走りは、早くも注目と期待が高まっている。

 デュムランの能力、いわば個の強さに頼りがちだったチーム力がグランツールでの課題と言われ続けてきたが、そんな見方もこのジロで一掃される可能性が出てきた。アシスト陣も“完全山岳シフト”を予定しており、自身もエースとして走ることのできるウィルコ・ケルデルマン(オランダ)、数々のトップチームで経験を積んだヤン・バークランツ(ベルギー)、さらには1月のサントス・ツアー・ダウンアンダー個人総合6位と好走したクリス・ハミルトン(オーストラリア)らが合流予定。ベストメンバーでデュムランを支えていく。

ツール・ド・フランスについては流動的。トム・デュムランの視線はジロ・デ・イタリアに向けられている =UAEツアーチームプレゼンテーション、2019年2月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 気になるツールに向けた動向については、現状は流動的。本人も「ジロを走り終えてから考えることになる」といい、6月に入ってツール出場を表明した昨シーズンに近い流れとなりそう。

 Cyclistでもレースレポートが掲載されたUAEツアーでシーズンインを果たしたデュムラン。第6ステージでは結果2位だったものの、勝利への執念を見せ、心身ともに充実している印象を残した。このステージでは序盤の大規模落車に巻き込まれ、しばらくはリタイアを考えながらの走りだったというが、気持ちを切り替えて勝負に加わってみせた。最終的な個人総合では6位。ケルデルマンも5位としており、前途は洋々だ。

 次戦は“仮想ジロ”として臨む3月13日開幕のティレーノ~アドリアティコ。その後のクラシックシーズンは数レース出場し、ジロへと向かっていく見通しだ。

上れるスプリンター・マシューズは新たな歴史を作り出すか

 スプリント路線はマシューズが中心。「上れるスプリンター」の代表格は、デュムラン同様にチームに多くのタイトルをもたらすことが期待される。

ワンデーレースでの強さが光るマイケル・マシューズ =グランプリ・シクリスト・ド・ケベック2018、2018年9月7日 Photo: YSP

 このところはワンデーレースでの活躍が目立っている。昨シーズンはシーズン後半に本領発揮。9月に開催されたカナダでの2連戦、グランプリ・シクリスト・ド・ケベックとグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルで連勝。繰り返し訪れる上りを経て迎えるスプリント勝負でその力を見せつけた。

 今年は春のクラシックシーズンでのタイトル奪取なるかが注目だ。特に登坂力とパンチ力を兼ね備えるクラシックスペシャリスト、またはクライマーやステージレーサーが主役となっていたアルデンヌクラシックの優勝争いに割って入るまでになった。一昨年はリエージュ~バストーニュ~リエージュで4位、昨年はフレーシュ・ワロンヌで5位。10%を超える急坂もクリアしてしまう上りでの強さは、この時期の戦いを“本職”とする選手たちからすれば脅威でしかない。フィニッシュまで引き連れてしまえば、ピュアスプリンター並みのスピードを持つマシューズに対して勝ち目はないからだ。

2019年シーズンは北のクラシックにも積極参戦。マイケル・マシューズのクラシックシーズンの戦いに注目が集まる =E3ハーレルベーク2018、2018年3月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 マシューズの戦い方としてはスプリント一択。集団の絞り込みで生き残って、最後に力を爆発させる。チームとしては勝負できる選手を複数有していることもあり、スプリントに集中できるマシューズにとってもさしてプレッシャーなく戦えるあたりもプラス。スプリンターのマシューズがアルデンヌのタイトルを獲るとなれば、レースシーンそのもののトレンドを塗り替える可能性があり、歴史に名を残すライダーとなるチャンスでもある。

 クラシックシーズンに合わせるため、シーズンインは例年通りゆっくり。3月2日のオンループ・ヘット・ニュースブラッドで緒戦を迎え、途中落車に見舞われながらもメイン集団フィニッシュとなる12位。「走りの内容はよかった」と満足している様子。

 もちろん、ミラノ~サンレモに代表されるスプリンターズクラシックにも意欲的。今年は北のクラシックにも数レース出場する見込みで、激しい石畳の路面と急坂が連続して登場するツール・デ・フランドルでの戦いぶりも見もの。昨年は途中リタイアと不覚をとったツールも、2年ぶりのポイント賞「マイヨヴェール」獲得に意欲的。トラブルや怪我なくシーズンを送ることができれば、キャリア最高の1年となる可能性さえある。

下部組織を含めた一貫性のある育成にも定評

 デュムラン、マシューズ、ケルデルマンといったエースがそろうが、決して彼ら頼みにならないあたりもチーム サンウェブの強さ。

ツール・ド・フランスで総合成績を狙うサム・オーメン(先頭) =ジロ・デ・イタリア2018第20ステージ、2018年5月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 グランツールにおける“チーム第3の男”となるのが、サム・オーメン(オランダ)。ルーキーイヤーからよいレースプログラムを与えられ、チームからの英才教育を受ける23歳は、満を持して今年ツールデビューすることが濃厚に。そこでの役割はデュムランの出場があるかどうかで変わってくるが、自身のリザルトを意識して臨むことはできそうだ。

 大崩れしない山岳での走りに加えて、チーム内ではTTの走りも高く評価される。昨年のジロでは初のグランツール総合トップ10入りとなる9位。今年のツールでは、新人賞「マイヨブラン」の獲得は最低限のミッションとなるだろう。コンディションが整っていれば、個人総合トップ5入りも不可能ではない。

 若い選手たちの育成も順調に進行しており、24歳のセーアン・クラーウアナスン(デンマーク)は2月にポルトガルで開催されたボルタ・アオ・アルガルヴェ(UCI2.HC)で個人総合2位。これまではスプリントや北のクラシックを得意としてきたスピードマンは、山岳ステージでもしっかりと対応。オールラウンダーとしての才能を開花させ始めている。

エーススプリンター候補として成長するマックス・ヴァルシャイド =サントス・ツアー・ダウンアンダー2019チームプレゼンテーション、2019年1月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 25歳のスプリンター、マックス・ヴァルシャイド(ドイツ)はサントス・ツアー・ダウンアンダー第1ステージで2位とセンセーショナルなシーズンイン。先のUAEツアーでもスプリント勝負に絡んでおり、チームのエーススプリンター候補に急浮上。スプリント王国・ドイツからまた1人、ブレイク間近の選手が現れている。

 チームは今シーズン、26選手で戦う。昨季限りでの退団が7選手であるのに対し、新加入選手は10人と、大幅な入れ替えを断行。バークランツやニコラス・ロッシュ(アイルランド)といったベテランや、昨年のジャパンカップ優勝が記憶に新しいロバート・パワー(オーストラリア)のような即戦力が加わる。

 さらには、下部組織「デヴェロップメントチーム サンウェブ」からの昇格選手が4人に上る点も特徴的。若い選手を計画的に育て、トップチームへと輩出する流れが形作られているといえそうだ。昇格組の中には、昨年のロード世界選手権アンダー23で圧勝したマルク・ヒルシ(スイス)も含まれている。

 なお、今年から選手たちが跨るバイクがサーヴェロ社製に変更。デュムランは同ブランドのフラッグシップモデル「R5」、マシューズはエアロモデルの「S5」でレースに臨んでいる。

チーム サンウェブ 2018-2019 選手動向

【残留】
ニキアス・アルント(ドイツ)
ロイ・クルフェルス(オランダ)
トム・デュムラン(オランダ)
ヨハネス・フレリンガー(ドイツ)
チャド・ハガ(アメリカ)
クリス・ハミルトン(オーストラリア)
ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア)
レナード・ケムナ(ドイツ)
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)
セーアン・クラーウアナスン(デンマーク)
マイケル・マシューズ(オーストラリア)
サム・オーメン(オランダ)
マイケル・ストーラー(オーストラリア)
マーティン・トゥスフェルト(オランダ)
ルイス・フェルファーク(ベルギー)
マックス・ヴァルシャイド(ドイツ)

【加入】
ヤン・バークランツ(ベルギー) ←アージェードゥーゼール ラモンディアル
セース・ボル(オランダ) ←SEGレーシングアカデミー
マルク・ヒルシ(スイス) ←デヴェロップメントチーム サンウェブ
マックス・カンター(ドイツ) ←デヴェロップメントチーム サンウェブ
アスビャアン・クラーウアナスン(デンマーク) ←チーム ワオー
ヨリス・ニューエンハイス(オランダ) ←デヴェロップメントチーム サンウェブ
カスパー・ピーダスン(デンマーク) ←アクアブルースポート
ロバート・パワー(オーストラリア) ←ミッチェルトン・スコット
ニコラス・ロッシュ(アイルランド) ←BMCレーシングチーム
フロリアン・ストーク(ドイツ) ←デヴェロップメントチーム サンウェブ ※3月1日加入

【退団】
フィル・バウハウス(ドイツ) →バーレーン・メリダ
サイモン・ゲシュケ(ドイツ) →CCCチーム
レナード・ホフステッド(オランダ) →ユンボ・ヴィスマ
トム・スタムスナイデル(オランダ) →引退
ローレンス・テンダム(オランダ) →CCCチーム
マイク・テウニッセン(オランダ) →ユンボ・ヴィスマ
エドワード・トゥーンス(ベルギー) →トレック・セガフレード

今週の爆走ライダー−セーアン・クラーウアナスン(デンマーク、チーム サンウェブ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 昨年10月のパリ~ツール。歴史と伝統を誇る由緒あるレースは、このときから数々の急坂と未舗装区間を含むコースに刷新。シーズン終盤で疲れの見える選手たちにはハードな戦いとなった。そんな中で、約10kmの独走劇での快勝は、クラーウアナスンの名を売るのに十分すぎるものだった。

ツール・ド・フランス2018第6ステージ。トラブルで集団から遅れたトム・デュムラン(左)を助けたのはセーアン・クラーウアナスンだった =2018年7月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 もっとも、シーズンを通して要所での走りが評価を高めてきた。ツール・ド・スイスでステージ優勝を挙げると、その勢いでツールへ乗り込み、数日間のマイヨブラン着用。大会前半ではトラブルでピンチに陥ったデュムランを献身的にアシストする姿がテレビカメラに映し出されるなど、働きぶりも注目された。

 これまではスプリントやパヴェでの走りを得意としてきたが、今シーズンは緒戦のアルガルベで総合争いに加わった。さらに、大会後半はリーダージャージを賭けての猛プッシュ。ジャージ奪取には至らなかったが、ステージレーサーとしての潜在能力を証明することができた。

 オールラウンドに走ることのできる器用さを身につけて、彼にとって“本番”ともなるクラシックシーズンへと突入する。今年はパヴェからアルデンヌまで、幅広くチームの戦力として計算ができそうだ。首脳陣は彼にどんなオーダーを与えるのか、その走りに期待が膨らむ。

 実力はもとより、メンタル面でのコントロールが上手いとの首脳陣からの評価。「本当はチームメートのために走る方が得意」と言うように、チームプレーを重んじる姿勢もエースクラスがひしめくチーム事情に合っていると言えそうだ。そして今年からは、2歳違いの兄・アスビャアンもチームに加入。これまで以上にレース活動に集中できる環境を得て、大きな舞台へと挑んでいくことになる。

今シーズンは山岳でも好調。セーアン・クラーウアナスンは着実にオールラウンダーとしての歩みを進めている =ツール・ド・フランス2018第7ステージ、2018年7月13日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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