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づれづれイタリアーノ<126>「ジロ・ディ・シチリア」で地方活性化なるか イタリアで起きている自転車による観光誘致

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 イタリアでは全国的に自転車競技が大人気だと思われていますが、実は地域によって大きな温度差があります。アルプスがそびえる北部ではサイクリングやロードレースへの関心が高いですが、一方で首都ローマ以南は自転車への関心が薄れ、南に向かうほど自転車への理解度は極めて低下します。しかし、全国的に高まっている健康増進に対する関心やCO2の排出を伴わないエコツーリズムの影響で、自転車が歓迎されていなかった地域にも自転車の文化が浸透しつつあります。そしてロードレースを利用した観光促進策を真剣に考え始める地域が確実に増えています。今回はその一つ、シチリア州の取り組みを紹介します。日本の地方行政の参考になるかもしれません。

ジロ・ディタリア2018の舞台となったシチリア島 Photo : Yuzuru SUNADA

ニバリの出身地、シチリア州

 シチリア州はイタリア半島とアフリカ大陸の間にある地中海最大の島です。面積は九州と四国のちょうど間で人口は500万人。美しい海に囲まれながら数多くの世界遺産が点在しています。ヨーロッパで最も標高が高い火山、エトナ山がここシチリアにあるなど、魅力たっぷりの島です。

ヴィンチェンツォ・ニバリを輩出したシチリア島。エトナ山でヒルクライムのトレーニングを行っていた Photo : Yuzuru SUNADA

 一方、農業、漁業、観光以外は大きな産業はなく、イタリアの中でも開発が遅れていた地域の一つです。貧困層を守るマフィアの影響力が依然として強く、治安の悪い地域も少なくありません。インフラ整備もうまく進まず、道路はボコボコと狭い。自転車だけでなく、市民生活も不便。こうした状況から、レースを開くための資金が期待できず、自転車レースがあまり盛んな地域ではありません。そのため、プロレーサーを志す若者たちはみんな他県へと移住。イタリアを代表するレーサー、ヴィンチェンツォ・ニバリ(バーレーン・メリダ)もその一人で、高校生の時に地元のメッシーナ市を離れ、トスカーナでの「自転車留学」に踏み切りました。

 しかし、近年このシチリア州に大きな変化が訪れています。おそらく地元のヒーロー、ニバリの存在が影響していると思われます。

観光誘致の要にロードレース

 2018年12月、州政府は観光促進のための3カ年計画を発表し、2019年から2021年にかけて8000万ユーロ(約100億円)の予算が計上されました。その大部分を自転車競技の誘致が占めています。そして早速、今年シチリアで大きな大会が迫っています。4月上旬に開催される新しいステージレース「ジロ・ディ・シチリア」(Rcs Sports主催※)、そして2020〜2021年にはジロ・ディタリアの誘致活動も控えています。ロードレース誘致のために、3年で1100万ユーロ(約14億円)の予算が割り当てられることが決まりました。

※ジロ・ディ・シチリアは1907年にスタートしたものの1977年まで不定期的に開催。41年ぶりに復帰するステージレース

シチリア州政府、観光誘致予算の主な分布(3カ年計画)

全予算:8000万ユーロ(100億円)
・国内外における観光誘致活動:4000万ユーロ(50億円)
・大型自転車競技誘致・開催予算:1100万ユーロ(14億円)
・伝統的イベント開催予算(全45会):2800万ユーロ(3億5000万円)
・その他の自転車競技開催予算:100万ユーロ(1億2500万円)

 過去に例を見ないこの予算編成は一体、なぜ生まれたのでしょうか。そしてなぜこれほどの予算が他のスポーツではなく、自転車競技に注がれることになったのでしょうか。その理由はロードレース開催がもたらす宣伝効果と莫大な税収入です。シチリアの主要な産業は観光ですが、春や夏を除いて観光客が少なく、安定的な収入が見込められません。地方自治体にとって財政を支える宿泊税の確保は死活問題です。

2017年度イタリアにおける宿泊客の調査(国立統計研究所<Istat>調べ)

宿泊した人:4億2000万人。 ※()内はイタリア全体に占める各州の割合
平均宿泊数:3.41泊
 1位 ヴェネト州 (16%)主な観光地:ヴェネツィア、ヴェローナ、パドヴァ
 2位 トレンティノ・アルト・アディジェ州(11.9%)主な観光地:ドロミテ山脈、スキーリゾート
 3位 トスカーナ州(10.9%)主な観光地:フィレンツェ、ピサ、シエーナ
 4位 エミリア・ロマーニャ州(9.5%)主な観光地:ボローニャ、リミニ
 5位 ロンバルディア州(9.4%)主な観光地:ミラノ、コモ湖
 6位 ラツィオ州(8%)主な観光地:ローマ

 11位 シチリア州(3.5%)主な観光地:タオルミーナ、パレルモ、カターニア

 シチリアは確かに自然が豊かで、古代ギリシャ遺跡、古代ローマの遺跡からバロック様式の建築物まで数多くの世界遺産を有しますが、今まで観光客を呼び寄せる大型キャンペーンはあまりやってきませんでした。そこで一つの目玉として州政府が目をつけたのが、ロードレースの開催でした。実はシチリアは温暖気候で沖縄に似ています。秋・冬に自転車を練習したい人にとって適している気候です。晴れた日には11月中旬まで海に入れますし、ニバリがよく練習していたエトナ山は標高3350mと高く、ニバリの影響で近年人気の練習スポットになっています。

ジロ・ディ・シチリアで“有名ルート”を作る

 そして他県の成功例も参考にしたと考えられます。近年、イタリアでは、特定の地域で人気を高めるためにスポーツイベントを開催する手法が増えています。特にロードレースです。大会形式としては、主に「市民参加型ロードレース」(グランフォンド)と「プロ向けの国際ロードレース」があります。

マルコ・パンターニが愛した山で開催される人気の市民レース、グランフォンド・ノヴェコッリ。1万人以上が参加する © Nove Colli

 とくにグランフォンドの開催で知名度を上げた地域が多いですが、シチリアでは開催できない大きな問題点があります。それはシチリアで自転車人口が少ない上に、自転車人気が高い北部から遠いという点です。ミラノからシチリアの主要な都市まで、およそ2時間かかるので多くの参加が見込めません。

テレビやインターネット放映で開催場所の映像が世界中に流れる Photo : Yuzuru SUNADA

 逆にプロ向けロードレースを開催した場合、メリットが大きい。まずはテレビやインターネット放映、様々なメディアの発信力を利用すれば、開催場所の映像が世界中に流れます。そして、一番大事なことはプロが通ったルートを走りたいという人の渡来が継続的に見込めるという点です。

 日本でも、来年に開催される東京オリンピックのロードレースコースを走りたいと思っている人が大勢いるのと同じ現象です。つまりシチリア州政府が期待しているのが一過性の宣伝効果ではなく、スポーツを通しての継続的な地域振興効果ということです。これがマラソンでもサッカーでもなく、ロードレースを選んだ理由。このスポーツが持っている可能性に大きな意味があるのです。

 来月スタートする新しいレース、ジロ・ディ・シチリアの映像を見ながら、現地まで飛びたくなる人が増えることを期待しています。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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