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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<287>復活誓うキッテルを中心にスピード王国構築へ カチューシャ・アルペシン 2019年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 実質ロシアの国家プロジェクトから体制をガラリと変えての1年だった、カチューシャ・アルペシンの2018年シーズンは、シーズン5勝のほか、総合エースのイルヌール・ザカリン(ロシア)がツール・ド・フランスで個人総合9位と、一定の成果を挙げた。しかしチームの顔として鳴り物入りで加入したマルセル・キッテル(ドイツ)が2勝にとどまるなど、誤算も生じた。スイス籍となり2年目を迎えるにあたり、チームはスピードマンを中心に堅実な補強に成功。復活を誓うキッテルを中心に、今季は各選手のスピードを生かした戦い方に期待が膨らんでいる。

スピードマンをそろえて2019年シーズンを戦うカチューシャ・アルペシン(写真はUAEツアー第1ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

30歳キッテルの完全復活は間近か

 昨シーズンのチームを語るうえで、キッテルの電撃加入は数あるトピックの中でもトップに挙げられるだろう。かつては所属選手のドーピング禍に揺れ、チームの方向性が大きく批判されたが、クリーンなレースシーンを目指し声を上げ続けるキッテルも例外なく「カチューシャ批判」の1人だった。だが、チームは数年をかけて内部の再編が成功。さらには大きく変貌を遂げる体制を、キッテルも選手の立場から率直に評価。「過去のカチューシャはもう存在しない」と言い、加入を決意したのだった。

2月3日のトロフェオ・パルマでシーズン初勝利。復活をかけるシーズンを幸先よくスタートさせたマルセル・キッテル Photo: Challenge Ciclista Mallorca

 これまで数多くの勝利を挙げ、ツールでも幾度のステージ優勝。そのスピードと勝負強さ、積み上げてきた実績から、チームの顔となることは当然だった。しかし、加入1年目は、3月のティレーノ~アドリアティコで挙げた2勝にとどまった。コンディションに不安を抱えつつ臨んだツールは、第11ステージでタイムアウト。それまでのステージでもよいところなく終わってしまった。

 復活をかける2019年シーズン。キッテルにとって心強い存在がチームに加わった。ツールで6度のマイヨヴェール(ポイント賞)獲得や、ミラノ~サンレモ4度制覇など、スプリントで一時代を築いたエリック・ツァベル氏が、パフォーマンスディレクターとして7年ぶりにチームに戻ってきた。2012年にスプリントコーチに就いたものの、現役時代に長きにわたる禁止薬物使用を認めたことで翌年に同職を辞任。それ以来となる、現場復帰となる。同国の先輩にあたるツァベル氏は、事実上キッテルのコーチ的な立場と考えられる。

2018年のツール・ド・フランスさいたまクリテリウムを制したマルセル・キッテル。勝利の笑顔を今シーズン何回見ることができるか Photo: Yuzuru SUNADA

 そんなツァベル氏のチーム復帰が早くも功を奏している印象だ。スペイン・マヨルカ島で開催されるワンデーレース4連戦「チャレンジマヨルカ」の1つである、トロフェオ・パルマ(2月3日、UCI1.1)で快勝。途中の上りで苦しみながらも、アシストの貢献もあり粘り勝ち。2月17日に同じくスペインで開催されたワンデーレース、クラシカ・デ・アルメリア(UCI1.HC)でも2位に入っており、今年のキッテルはひと味違うところをアピールしている。

 とはいえ、真価を問われるのはこれから。先々に控えるビッグレースで結果を残せるかで、完全復活に至っているかが明確になるだろう。また、チームの浮沈もキッテル次第。勝利の量産がチーム全体の士気高揚につながることは必至だ。

ザカリンは2季ぶりのグランツール総合表彰台を目指す

 スプリントがキッテルならば、グランツールやステージレースの総合ではザカリンが絶対的なエースだ。2015年のチーム加入(当時チーム カチューシャ)以来、着実に実力を伸ばし、2017年にはブエルタ・ア・エスパーニャで個人総合3位。総合表彰台の一角を確保して、グランツールレーサーとしてトップの位置につけていることを証明した。

カチューシャ・アルペシンの絶対的総合エースのイルヌール・ザカリン =ツール・ド・フランス2018第17ステージ、2018年7月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨シーズンはツールで個人総合9位。大会前半にアクシデントで遅れ、その後の巻き返しでトップ10圏内に滑り込んだが、物足りなさは否めなかった。もっとも、グランツールにとどまらず、1週間程度のステージレースでもそつなく走ってきたザカリンにとって、2018年シーズンはビッグリザルトに乏しい1年となり、悔しさが残ったことだろう。

 ザカリンの持ち味は、山岳ステージでの積極的な仕掛け。ときに独走態勢に持ち込むこともあるアグレッシブさが上位進出のポイントとなる。そして、得意とする個人タイムトライアルもライバルに対して大きなアドバンテージだ。山岳とタイムトライアル、高いレベルでバランスを保てることが強みとなっている。

2019年はジロ・デ・イタリアを目標とするイルヌール・ザカリン =ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第18ステージ、2018年9月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 マヨルカチャレンジでシーズンインを果たし、本記執筆時点で開催中のUAEツアーにも参戦中。大会中盤以降に控える山岳ステージの走りが楽しみなところ。また、当面の目標として個人タイムトライアルの比重が高いジロ・デ・イタリアを挙げており、2年前の個人総合5位を上回って総合表彰台確保が現実的なターゲットとなってくる。

 山岳での走りを支える選手たちには、チームメートとしての期間が長いパヴェル・コチェトコフ(ロシア)や、自身もエースとして走ることができるだけの力を持つイアン・ボズウェル(アメリカ)、さらに今年はベテランのダニエル・ナバーロ(スペイン)が加わり、脇を固める。経験豊富な選手たちがそろい、連携面での不安はなさそうだ。

スピードマンを多くそろえ幅のある戦い方へ

 スピードマンをそろえたチーム編成。スプリントやタイムトライアル、さらには逃げでもレースを動かしていこうという意欲の表れと捉えることができる。

ステージレースで実力を発揮するネイサン・ハース =サントス・ツアー・ダウンアンダー2019チームプレゼンテーション、2019年1月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 とくに、1週間程度のステージレースを得意とする選手が多く、ネイサン・ハース(オーストラリア)やシモン・スピラク(スロベニア)はその最たる例。ハースはシーズン開幕戦のサントス・ツアー・ダウンアンダーでは本調子ではなく、不本意な結果に終わったがこの先しっかりと立て直してくるだろう。スピラクは、ツール・ド・スイスで過去2度の個人総合優勝など、クライマー顔負けの登坂力も持ち合わせる。両者ともグランツールを回避することもあり、自身の“持ち場”で結果にこだわる。

 アレックス・ドーセット(イギリス)に代表される、タイムトライアル路線も見もの。グランツールのTTステージ勝利を目標にするドーセットのほか、TT王国・ドイツ期待のニルス・ポリッツ、4年前のアンダー23世界王者のマッズウルス・シュミット(デンマーク)らが控える。そのスピードを生かして、平坦ではスプリントトレインの牽引役を務めることになる。

移籍加入のエンリーコ・バッタリーン。スプリントから上りまでオールラウンドにこなせる実力者 =ジロ・デ・イタリア2018第5ステージ、2018年5月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 キッテルに注目が集まるスプリントだが、マルコ・ハラー(オーストリア)や移籍加入のエンリーコ・バッタリーン(イタリア)らもメンバー編成やレース展開次第で勝利を狙っていくことになる。昨年のジロでステージ優勝を挙げているバッタリーンは登坂力もあり、山岳アシストとしても計算ができる。さらには、北のクラシックにも強いイェンス・デブシェール(ベルギー)も加入。これにより、スプリントとパヴェ両面で戦えるメドが立った。

 今シーズンの所属は24選手。昨年より2人少ない編成で戦っていくことになる。

カチューシャ・アルペシン 2018-2019 選手動向

【残留】
イエンセ・ビエルマンス(ベルギー)
イアン・ボズウェル(アメリカ)
ステフ・クラス(ベルギー)
アレックス・ドーセット(イギリス)
マッテオ・ファッブロ(イタリア)
ジョセ・ゴンサルベス(ポルトガル)
ネイサン・ハース(オーストラリア)
マルコ・ハラー(オーストリア)
レト・ホレンシュタイン(スイス)
マルセル・キッテル(ドイツ)
パヴェル・コチェトコフ(ロシア)
ビアチェスラフ・クズネツォフ(ロシア)
ニルス・ポリッツ(ドイツ)
ウィリー・スミット(南アフリカ)
シモン・スピラク(スロベニア)
マッズウルス・シュミット(デンマーク)
リック・ツァベル(ドイツ)
イルヌール・ザカリン(ロシア)

【加入】
エンリーコ・バッタリーン(イタリア) ←ロットNL・ユンボ
イェンス・デブシェール(ベルギー) ←ロット・スーダル
ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル) ←トレック・セガフレード
ダニエル・ナバーロ(スペイン) ←コフィディス ソリュシオンクレディ
ディミトリ・ストラコフ(ロシア) ←ロコスフィンクス
ハリー・タンフィールド(イギリス) ←キャニオン・アイスベルク

【退団】
マキシム・ベルコフ(ロシア) →未定
ロベルト・キセルロウスキー(クロアチア) →引退
マウリス・ラメルティンク(オランダ) →ロームポット・シャルルス
ティアゴ・マシャド(ポルトガル) →スポルティング・タヴィラ
トニー・マルティン(ドイツ) →ユンボ・ヴィスマ
マルコ・マティス(ドイツ) →コフィディス ソリュシオンクレディ
バティスト・プラカールト(ベルギー) →ワロニーブリュッセルス
ヨナタン・レストレポ(コロンビア) →マンサナ・ポストボン

今週の爆走ライダー−マッズウルス・シュミット(デンマーク、カチューシャ・アルペシン)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 昨シーズンはトップシーンでの初勝利を目標に掲げたが、それはかなわず。もう一度同じ目標を2019年シーズンにかけることとなった。

プロ初勝利を目指しているマッズウルス・シュミット。グランツールレーサーとしての将来性も高く見られている =サントス・ツアー・ダウンアンダー2018チームプレゼンテーション、2018年1月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ヤングライダーの育成に力を注ぐデンマークにあって、特に成功を収めてきた選手だ。ジュニア時代から年代別のトップを走り続け、得意とする個人タイムトライアルではジュニア、アンダー23それぞれで世界王者に輝いた。パリ~ルーベでもジュニア王者を経験。大きな野望を持ってプロへと進出してきた。

 チームの方針もあり、ゆっくりと経験を積んでいる段階。個人的にはパリ~ルーベでの活躍を夢見るが、チーム首脳陣からはグランツールレーサーとしての可能性も指摘される。昨年はジロに出場するため、北のクラシックの出場プログラムを変更したほどだ。

 「グランツールの総合狙いは時期尚早。まずは勝利を経験すること」と本人はいたって冷静。勝利に近いのは、やはり得意とする個人タイムトライアル。間近によいお手本もいて、その走りを参考にする。

 長年のあこがれは、パヴェを席巻したファビアン・カンチェラーラと昨年までチームメートだったトニー・マルティン(ドイツ、現ユンボ・ヴィスマ)。「自らの走りをイメージを重ね合わせる」ほどという両者への羨望からするに、北のクラシックとタイムトライアルでの活躍を目指しているということか。グランツール上位戦線への本格進出は、もう少し先の話となりそうだ。

ジュニア時代から各年代で世界の頂点に立ってきたマッズウルス・シュミット。トッププロへの道を着実に歩んでいる =ビンクバンクツアー2018第4ステージ、2018年8月16日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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