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猪野学の“坂バカ”奮闘記<32>ヒルクライムチャンピオンが勢揃い! 坂バカ“猛者集団”による鬼のKOM特訓

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 あれは「台湾KOMチャレンジ」の2週間前だった。“山の神”こと森本誠師匠から「台湾に向けてとても良いトレーニングをするので猪野さんもぜひ参加するように」とお誘いいただいた。これは良い機会だということで『チャリダー☆』でも撮影させていただくくことになった。当日の集合場所は箱根の麓。そこには見たことのある方々が勢揃いしていた。主に表彰台の上でしか見掛けない人ばかり…。そう! ヒルクライムチャンピオンが勢揃いしていたのだ。

“坂天国”伊豆をグルグル

 その場に来ていたのは、「ツールド・美ヶ原」チャンプ加藤大貴さん、「Mt.富士ヒルクライム」チャンプ 田中裕士さん、「マウンテンサイクリングin乗鞍」チャンプ中村俊介さん、富士ヒルE2の優勝者・宿谷英男さん、美ヶ原5位の佐々木遼さん、そしてブロのリオモ・ベルマーレ・レーシングチームの才田直人選手までいた。

集まったのはヒルクライムレースの覇者たち…超豪華メンバーだ!

 何とも豪華なメンバーで心ときめいたが、ちょっと待て、これはマズイ。今まで数々の猛者とのライドを経験して来たが、ここまでの“チャンプ勢揃い”は初めてだ。当然付いて行けるはずがない。恐らく瞬殺だ。果たしてこれはロケとして成立するのだろうか?

 その不安に、さらに追い討ちをかけたのがコース設定だ。師匠曰く、「台湾は100km上るわけだから事前に100km上っておいた方が良い」とのこと。もちろん、日本国内に100kmの坂なんてない。しかし“坂天国”の伊豆をグルグル200km周れば100km上れるらしい。とてもシンプルだ。天才の思考は時にとてもシンプルだ。

 箱根を上り、修善寺へと抜け、土肥の海岸線へ。そこから戸田へと移動し、戸田峠を折り返し熱海へ。熱海から湯河原に移動し、ラスボスは「椿ライン」。そして箱根へと下る。制限時間は10時間! 午後6時までに箱根に戻って来なければ、それは台湾KOMも完走できないことを意味する。完走はもちろんだが、撮影として一番大事なのは猛者たちとの“撮れ高”だった。

わずか3kmで一人旅…

 朝8時、世にも恐ろしいライドが幕を開けた!

 いきなり箱根旧道がお出迎え。200kmあるのだから、さすがに入りはゆっくりだろうと思ったらいきなり軽く300Wを超えてくる。いきなり最大心拍数だ! しかし猛者たちは談笑しながら上っている! 私は年代別なら上位10%に入るレベルなのだが、エキスパートの上位とはこんなに差があるものなのか!

あっという間に猛者集団は遠くへ…

 死にものぐるいで食らいつくも3kmが限界だった…。脚も心肺も桁違い、どんどん離れて行く猛者集団。何とも情けないがまだロケは終わっていない。一人でも完走だけはしなけれはならない! 「ここから197kmは一人旅だ」と頭を切り替えていると、何と猛者集団の誰かがメカトラなのか何なのか、集団が停車していた。

 「しめた! このまま先行すれば、また集団との映像が撮れるではないか!」─“ウサギと亀ライド”の始まりだ! 少しでも稼ごうと一人で先行するが、大きな鳥居がある激坂ですぐに吸収されてしまった。

 しかしすぐに千切れる訳にはいかない! 私が欲しいのは撮れ高だ! 必死にしがみ付く。これだけ必死なのだから少しはペースを緩めてくれても良さそうだが、猛者集団に妥協はない。師匠は申し訳なさそうに集団後方まで下がって、私を鼓舞してくれるが、ここでまた限界。またもや遠くへと小さくなって行く猛者集団。雨が降り出す…初秋の雨が涙のように頬を伝った。

千切れた挙げ句、まさかの迷子

 独りぼっちで第1山岳をパスし、芦ノ湖へ下り切ると、コンビニにまたもや猛者集団が見えてきた。雨だ!雨支度のために停車しているのだ! よし、まだ撮れる! 私は雨支度などせずにずぶ濡れ覚悟で先行する。何とか下りまで先行すれば平地まで持ち込める! 平地なら付いて行けるかも知れない。

 40km巡航でもがいていると、「猪野さん頑張って下さ〜い!」と猛者集団は芦ノ湖畔の平地で私をパスして行った。平地でも付いて行くことができない…。

気がつけば独りぼっち

 こうなれば残る手段は1つだけ。そう!下りだ! ヴィンチェンツォ・ニバリのようなダウンヒルをすれば追い付ける! 捨て身で下りに入る。私は職業柄、顔の怪我が許されないので、普段下りは攻めないが、この日は攻めに攻めた。

 しかーし! ここで観光バスの集団に引っかかってしまった…。しかし猛者集団もバス渋滞に引っかかっているはずだと自分を落ち着かせる。ようやくバスをパスし、先を急いだ。しかしいくら攻めても猛者集団は見えてこない。当たり前だ…。私は観光バスに気を取られ過ぎて、本来左折してければいけないところを直進し、道を間違えてしまっていたのだ!

 まさかの迷子! これでは撮れ高どころか、完走も危ういではないか!

 しばらく交差点で呆然としていると、スタッフ車が私を見つけてくれた。スタッフは「猪野さん、やっちゃいましたねぇ」と苦笑い。スタッフ曰く、道を引き返すより、このまま走って海岸線に出ても本来のコースとあまり距離が変わらないらしい。私はこのまま市街地を走り抜け、土肥まで出ることにした。スタッフはまた迷うといけないからと、私にトランシーバーを渡してくれた。

偶然決まってしまった“逃げ”

 スタッフの指示通りに平地区間を230Wくらいで攻める。平地もそこそこで走らないと制限時間に間に合わない。ようやく修善寺を抜け、土肥に抜ける山岳を一人で走っていると、背中に入れたトランシーバーから信じられないスタッフのやり取りが聴こえて来た。

 「猪野さんから3分遅れで猛者集団です〜」

地獄の苦しみは次回へ続く!

 なんと! 道を間違えたことで必然的に私の“逃げ”が決まってしまっていたのだ! 逃げが決まった以上は逃げるしかない! またもやウサギと亀ライドの始まりだ!

 ここから私と猛者集団との壮絶な逃げ合戦が始まるのであった─。

<後半へ続く>

(写真提供:テレコムスタッフ)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00〜18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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