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山下晃和の「“キャンプ”ツーリングの達人」<1>テントさえあれば地球上どこでも絶景ホテルに ”究極に自由”なキャンプツーリング

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 サイクリストの間で密かにブームとなっている「自転車×キャンプ」。自力で移動し、好きな場所で止まり、寝食を確保する─この自然の中で全てを自己完結する「究極の自由さ」にハマる人が増えています。連載『ツーリングの達人』の執筆者、山下晃和さんはキャンプツーリングの先駆者。これからキャンプツーリングを始めてみたいという人向けにそのためのノウハウを伝授します。連載名改め、『キャンプツーリングの達人』。第1回目は、自転車×キャンプの魅力について語ります。

「自転車で行くキャンプツーリングは、とにかく自由」という山下晃和さん Photo: Akikazu YAMASHITA

◇         ◇

 2008年11月。香港からシンガポールまで走っている途中のことでした。ベトナムの首都ハノイから国道1号線を南下し、そのままベトナムの山側の道に入って行きました。延々と上りが続き、ついに進めなくなったので、何日間か分けて4カ国目のラオスまで行くことに決めました。

ベトナムからラオスへ抜けるルートにあったMuong Xenのホテルから眺める川。自転車でなければ寄らなかったであろう町 Photo: Akikazu YAMASHITA

 Muong Xenというベトナム最後の町までくると、東南アジアらしい山々に囲まれた小さな小さな村がありました。首都ハノイのけたたましいスクーターの排気音や、不必要なくらい連続するクラクション音からは想像つかないほどのんびりしていて、非常に居心地が良く、ミルクティーのような茶色い川の流れをのんびり眺めながら香港で旅人と交換した本を読んだり、市場をうろついたりして身体を休めながら、2日間滞在しました。

 出発の朝、ベトナムの商店によく置いてあるピーナッツのお菓子や甘そうなお菓子を大量に買い込んだものをサイドバッグとフロントバッグに分けて入れました。次から次へと来る峠に心が折れそうになりながら、国境の街ナムカンまで上りました。ベトナム側が立派な建物、それとは対照的にラオス側は拍子抜けするほど小さな建物。各々、出入国の判を押してもらい、ようやく国境を跨ぐことができました。

「キャンプ=宿泊代の節約」を覆したラオスの星空

 そこから下りが続くと思いきや、再び上ったり下ったりの繰り返し。当時スマートフォンなどは無く、紙の地図を使っていましたが、それでは細かい峠が計算できず、日暮れまで町に到着できないことが分かりました。

峠が連続で続いたラオス国境までのルート。4パニアスタイルでキャンプ道具満載の自転車は重かった Photo: Akikazu YAMASHITA

 食料はベトナムのお菓子の残りがあるものの、水は尽きていたので、山から流れている水をナルゲンボトルに入れて飲みました。国道から逸れて森の中にテントを張りたかったのですが、ラオスに入ってから「不発弾があるから気を付けて」の看板が多く目に入り、恐怖心から国道のすぐそばにテントを立てることに。国境ゲート以来、宿もなく、人が住んでいるような場所もあまりありませんでした。

 11月のラオス山間部は予想に反して肌寒く、さらに旅のガイド本には「ラオスは山賊が出るので注意」といった表記もあったので、早めに就寝することにしました。しかし、夜中に尿意をもよおし、仕方なく外に出ることに。その時、空を見上げてハッとしました。そこには、今まで見たことがないくらい美しい夜空が広がっていたのです。

 まるで黒い幕に白い液体をこぼしてしまったかのような、たくさんの星が瞬いていました。しばらくその光景に圧倒され、動けなくなってしまったほどです。このとき初めて地球が宇宙の一部であるということを実感するとともに、「テントさえあれば、地球上のどこでも“絶景のホテル”になるんだ」ということにも気付いたのです。

キャンプ場での食事。温かい食べ物は落ち着く Photo: Akikazu YAMASHITA

 この時までは「キャンプ=宿泊代の節約」という概念が少なからずありました。10代にオートバイでキャンプをしながら旅をしていたときも、そういう意識でキャンプをしていました。ところがこのラオスでの経験から、キャンプそのものの面白さが無限であることを知りました。それからというもの、「自分の気に入った場所で自由にキャンプをしてみたい」─そう考えるようになりました。

時間にも距離にも縛られない

アメリカのフロリダ半島縦断した際は、ほぼ全日キャンプをしながら旅をした Photo: Akikazu YAMASHITA

 自転車で行くキャンプツーリングは、とにかく自由です。何も決めなくていいのです。時間にも、距離にも縛られません。そして、自転車で走る距離を何倍にも伸ばし、時間が許せば車やオートバイと同じ距離を走ることもできます。自転車で1日1000km走ることは不可能に近いですが、キャンプがあれば旅程をうまく切ってコントロールすることができます。5日かけてもいいし、10日かけてもいい。宿泊地の距離感にとらわれなくて済むようになります。

夏のフロリダは暑かったので衣類が少なくて済む。リアパニアバッグのみでキャンプ道具を積載できた Photo: Akikazu YAMASHITA

 また、レースの場合はいかに早くゴールにたどり着くかといったところに楽しみがありますが、キャンプツーリングにはその土地の魅力を知ることにも楽しみがあります。キャンプ場がある場合は、公共交通機関ではアクセスが難しいところも自転車を走らせることになります。なので、場合によっては人に道を訪ねながら漕ぎ進むこともあります。

 海外であれば、語学力もさることながら、文化の違いも理解しなくてはなりません。テントを張る場所も、方角、地面の状態、撤収のしやすさなど考慮しなくてはなりません。現地での特産物、水の状況なども把握しておいた方が良いでしょう。それにまつわる調理器具などのアウトドアギアの使い方や選び方も勉強した方が、旅はグッと楽に、そして楽しくなります。そういったサバイバル能力が養われるのも魅力の一つです。そして身についた能力は災害時にも非常に役立ちます。

テント、寝袋、マットがあればOK

 上記のように、キャンプを含む自転車旅はインターネット上では得られない情報をつかむための総合的な“旅力”が必要になってきます。その力を駆使すれば、距離を走らなくても、スピードを出さなくても、たとえわずか数kmしか走っていなくても、キャンピングによって旅を充実させることができます。

 キャンプそのものは何ら難しいことではありません。非常に簡単です。端的にいえばテント、スリーピングバッグ(寝袋)、マットさえあれば誰でもできます。

無事にキャンプ場に着いて、靴や衣類を乾かしながら川を眺めていた。当日の客は一人のみでほぼ独占状態! 何をするにも自由だった Photo: Akikazu YAMASHITA

 自転車は何でもかまいません、近場であればママチャリだって十分です。夏場であればテントも何でもいいです。ホームセンターに売っている安い物でもOK。ただし、少しでも楽しく、快適にキャンプを過ごせるようにするには軽量化、道具選び、積載術などの知恵が必要になってきます。それも難しいことではなく、方法やアイテムを知ることによって解決できることが多分にあります。

 いかがでしょう?キャンプツーリングに興味が湧いてきましたか? ツーリングのシーズンを迎える夏に向け、次回からは少しずつ、キャンプツーリングのアイテム等について解説していきたいと思います。

山下晃和山下晃和(やました・あきかず)

タイクーンモデルエージェンシー所属。雑誌、広告、WEB、CMなどのモデルをメインに、トラベルライターとしても活動する。「GARVY」(実業之日本社)などで連載ページを持つ。日本アドベンチャーサイクリストクラブ(JACC)評議員でもあり、東南アジア8カ国、中南米11カ国を自転車で駆けた旅サイクリスト。その旅日記をもとにした著書『自転車ロングツーリング入門』(実業之日本社)がある。趣味は、登山、オートバイ、インドカレーの食べ歩き。ウェブサイトはwww.akikazoo.net

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