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づれづれイタリアーノ<125>世界中にハートを届けるデローザ 成功の裏にある緻密な企業戦略と柔軟な探究心

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 イタリアを代表する老舗フレームメーカーの一つ、デローザ。スタイリッシュで洗練されたスチールフレームから最先端のカーボンフレームまで展開し、古いファンを大事にしながらも最前線で戦う多くのプロチームを支え続けています。特に7年前から続く日本とイタリアをつなぐUCIコンチネンタルチーム、NIPPO・ヴィニ・ファンティーニ・ファイザネとの関係は特別で、日本でもたくさんファンを獲得しています。現在もデローザ家は家業を受け継ぎ、創業者ウーゴ・デローザ氏の三男クリスティアーノ・デローザ氏がCEOに、そしてその息子たちも会社に大きく貢献しています。伝統と未来の狭間でイタリアの遺伝子を繋ぐ、デローザのクリスティアーノCEOにインタビューしました。

クリスティアーノ・デローザCEO Photo: Marco Favaro

日本はアジア市場の牽引役

Q.デローザは1953年の創業以来、魅力的な自転車を発表し続けています。常に第一線で戦える秘訣は何ですか?

 そもそもイタリアには美しい物を作る文化とそれを守る伝統があり、古くから職人には実用的かつ美しいものを作ることが求められていました。我々もその伝統を受け継いでいます。それは自転車においても言えることで、我々を含め、歴史を作り上げた職人魂を継ぐ企業が多く存在するため、実用的で美しい自転車が生まれる環境があります。

デローザ工房の一角 Photo: Marco Favaro

 私から見ると市場には美しい自転車とそうではない自転車が出回っています。もちろん「Made in Italy」だからといって全ての自転車が格好良いとは限りませんし、海外でも素晴らしい自転車が作られています。しかし我々を始め、コルナゴ、ピナレロ、ビアンキ、マージ、カンパニョーロなどイタリアの歴史あるメーカーの職人たちは、戦火による焼け野原から脱した1950年代以降に伝統美を受け継ぐ決心をし、いまあるイタリアンスタイルを確立しています。その精神が世界の自転車ファンに認められているのだと思います。

Q.デローザはNIPPO・ヴィニ・ファンティーニ(イタリア)、イスラエル・サイクリング・アカデミー(イスラエル)、カハ・ルラル・セグロス(スペイン)の3つのUCIプロフェッショナルチームに機材提供していますね。なぜUCIワールドツアーチームに一本化しなかったのですか?

 よく聞かれます(笑)。デローサ社はUCIワールドツアーチーム一つのために数百万ユーロの機材提供をするよりも、3つのチームを支えることの方がメリットが大きいと考えています。チームNIPPOを支えて7年になりますが、日本の市場では非常に満足のいく成果が得られています。チームNIPPOとの関係を通して日本でデローザの商品がどのように受け入れられるか、そしてアジア市場における商品開発に必要な知識を得るために必要不可欠な関係だと考えています。

組み立てを待っているチームNIPPOのフレーム。それぞれに選手の名が記されている Photo: Marco Favaro

 日本のユーザーは他の国と比べて商品に対する評価が厳しく、アジアの他の国では日本で売れる物を参考にしながら自転車を選んでいます。日本はアジア市場の牽引役だといっても過言ではありません。そういう意味でチームNIPPOの存在は、韓国、台湾、中国でデローザの知名度をあげる上で大きな役割を担っています。

Q.イスラエルへのサポートはなぜでしょうか? 最近、中東を巡る動きが活発になっているように見えますが

 イスラエル・サイクリング・アカデミーは未来に大きく発展するプロジェクトです。チームは22カ国、30人の選手で構成されているまさに国際的なチームです。イスラエルにおける自転車活動の推進運動は始まったばかりで、新しい魅力的な市場です。

クリスツ・ネイランズ(ラトビア、イスラエル・サイクリング・アカデミー) Photo : Yuzuru SUNADA

 昨年のジロ・ディタリアはイスラエルからスタートしましたが、第1ステージにあれだけの観客が集まったことは記憶にありません。まるでツール・ド・フランスの最終ステージ並みでした。自転車やロードレースに関心がなければこれほどの人は集まらなかったでしょう。スペインのカハ・ルラルに関していえば、スペイン国内のデローザのディストリビューターはこのチームに関わっており、チームとスペインにおける販売拠点を統合させました。つまり、我々が支えている3つのチームはデローザにとって要所を抑えた経営戦略でもあるのです。

Q.たくさんのサポート選手たちからのフィードバックは、自転車作りに生かされていますか?

 そこがデローザが一番大切にしているポイントです。3つのチームを支えることには大きな意味があります。各チームは性格、構成、そして文化も異なります。それらの3チームから自転車について同じ評価が得られたらビンゴ!当たりです。異なるインプレッションが出たら、原因の分析が始まります。

NIPPO・ヴィーニファンティーニの選手たち Photo: Marco FAVARO

 各チームに提供する自転車はすでに多くのテストをクリアしています。もし選手が何か違和感を感じるのであれば、受けた印象を分析し、次の自転車作りに反映します。しかし、プロ選手が使っているモデルは3つだけ。現在、デローザは17モデルを展開していますので、プロ選手以外のフィードバックもデローザにとっては重要です。

「クルマ並みの高価な自転車はナンセンス」

Q.最近の自転車のトレンドとして、ものすごく高価か、あるいはものすごく安価という二極化が進んでいるように思います。デローザはどの位置に立っていますか?

 個人的にこのような動きは良くないと思っています。自動車並みの値段のある自転車はナンセンス。デローザの立場としては、「ふさわしい自転車をふさわしい人に提供するべき」と考えています。とても単純なことですが、これで自転車の値段が決まると思います。ユーザー自身が必要に応じて必要な自転車を選べばいい。お金持ちだから、高い自転車を買えばいいという話ではありません。

工房の一角に歴代の自転車が並べらている。古くからのファンにはたまらない光景です Photo: Marco Favaro

 高級ブランドとのコラボやダイヤモンドを適当につければ、値段はいくらでも跳ね上がるでしょう。でもそれは自転車そのものの役割が失われることにもなります。ただのコレクションの一部にしかなりません。デローザは現実を見て、必要な人に必要な自転車を提供することを重視しています。デローザはサイクリングからレースまで全ての分野をカバーしています。その目標に合わせて自転車を選ぶことをお勧めします。

Q.世界的に有名なデザイン事務所、ピニンファリーナとのコラボレーションはどのように生まれたのですか?

 デローザとピニンファリーナのコラボは、イタリアが誇る伝統美を継続するために生まれたものです。クリーンなライン、実用的で機能的、そしてイタリア人による製造技術を象徴するものです。

イタリアのデザイン事務所、ピニンファリーナと共同開発したSKピニンファリーナモデル ©De Rosa
ピニンファリーナのデザインを採用した最新のアーバンバイク「メタモルフォシス」 ©De Rosa

 自転車づくりにおけるイタリアと他の国との違いは、長年の経験と良いものをコツコツ作り上げる姿勢にあります。ピニンファリーナは洗礼されたデザインを作る会社なので、65年の歴史を持っているデローザと手を組むことでより美しい自転車を作れると考えました。

Q.専門のデザイナーはいるのですか?

クリスティアーノ社長の遊び心から生まれたデザイン Photo: Marco Favaro

 デローザでは皆がデザイナーです。実は自転車のみならず、ウェアなどのデザインも皆で考えています。会社は一心同体。製品には経理担当の意見も反映されます。新製品や新しいカラー、新しいデザインなど何か新しいものを開発する時、デローザの運営に関わる全ての人間が集まり、投票を行います。

 なぜそのようなことをするのか。それは全員が意見を表明することで製品に関する全員の愛情が深まり、良い製品が生まれるからです。もちろん、意見の食い違いによる衝突も多々あります。でもこれが良い商品を作り上げるための必要な過程なのです。

Q.年間にどれくらいの自転車を生産していますか?

 7300台です。

Q.生産ラインをさらに拡大する考えはないのですか?

 現時点では考えていません。現在の体制ならば、もう少し効率化が進めば数百台は増やせると思います。しかし、そうなると現在のデローザブランドではなくなるので、これで十分だと思っています。

鉄を基本に、他素材の良さを引き出す

Q.デローザはカーボン、チタン、アルミ、スチールを使ってフレームを作り続けています。なぜ最先端のカーボンだけでなく、オーソドックスな素材も扱い続けているのですか?

 我々はスチームフレーム職人として生まれました。デローザの魂はスチール製の自転車と高度な溶接技術に宿ります。それを捨てることはできません。スチール製のパイプも変わりましたし、スチールもカーボンと同様に変化し続けています。

父、ウーゴ氏が作った最初のロードレーサー Photo: Marco Favaro

 丸いパイプ、オーバルパイプ、オーバーサイズパイプなど様々な形状が生まれています。父のウーゴから始まり、私たち兄弟を経て、次は私の息子たちに溶接技術が伝承されます。これを基本とし、他の金属を加工しているのです。

Q.アルミとの出会いはいつでしたか?

 90年代に入って初めてアルミ素材を加工し始めました。それまでのアルミ素材は全く違うものでした。1995年からアルミ加工が簡単になり、スチールでできなかった形状やジオメトリーが作れるようになり、オーバーサイズのフレームも誕生しました。大きなサイズのフレームが実現できたことでデザインが大きく変わり、伝統的でクラシックな形状からモダンで洗練されたものになりました。アルミの登場はデローザ社にとてつもないアドレナリンをもたらしてくれました。アルミは本当に良い素材です。

Q.スチールの加工を専門としていたお父さん、ウーゴ氏はこの新しい素材の登場をどのように受け止めていましたか?

 父自身が積極的にアルミの導入に踏み切りました。スチールしか触らなかった父だからこそ、新素材がもたらす可能性に気付いたのでしょう。すごい柔軟性の持ち主です。

チームNIPPOのバイクの組み立てを見守る創業者ウーゴ・デローザ氏 Photo: Marco Favaro

 なので、カーボン等の新素材の導入にも抵抗はありませんでした。最近、またアルミが再評されはじめていますよね。ツアー・ダウンアンダーではペテル・サガン選手(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)はアルミ製のフレームを使用しました。アルミは確かに固い素材で快適な乗り心地ではありませんが、その他のメリットはたくさんあります。そのため、デローザではアルミのフレームも作り続けています。

Q.チタンフレームにはどのようにたどり着いたのですか?

 チタンは1993年から加工し始めました。実はアルミの前です。チタンもは高価ですし、加工しづらい。でも軽くて頑丈。スチールに負けない美しさがあります。昨年、「アニマ」という新しいチタンフレームを開発しました。最新のデザインを加えつつ、金属が持っている美しさを損なわないフォームにしました。金属製のフレームバイクに乗る人が、決して伝統的なデザインが好きだとは限りませんからね。

ファンの心を虜にした最新のチタンフレームバイク「アニマ」。 ©De Rosa

 街に出て周りの変化に溶け込むようなフレームを作りました。ディスクブレーキや、電動式コンポを付けることもできます。このコンセプトをアニマ(イタリア語で「魂」の意)と名付け、デローザが持っている魂を全て導入しました。アニマの製造ラインはチタンバイクの半分を占めるようになりました。受注生産なので、お客さんはミラノに訪れることがあれば自分のフレームの製造工程を見ることができます。

ハートのロゴは偶然の産物

Q.ずっと気になっていることなのですが…、デローザは「薔薇」を意味しますが、なぜロゴは薔薇ではなくハートなのでしょうか?

 このロゴは70年代に偶然の出来事から生まれました。当時のフレーム職人だった父がラグを軽くするために余分な部分を削ってみたら、チューブに溶接した時に偶然にもハートの形が出来上がったのです。そのハートがデローザのシンボルとして選ばれました。

Q.最後の質問ですが、イタリアの老舗ブランドはアメリカやアジア生まれのブランドに苦戦しているように見えます。海外に製造拠点を置くイタリアの企業も増えています。イタリアのブランドは厳しさを増す競争に生き残るためにどう対策を取っていますか?

 私は「ANCMA」(Associazione Nazionale Ciclo Motociclo e Accessori:イタリア自転車、オートバイ、関連パーツ製造社協会の略)の会長を務めています。他の企業を束ね、イタリアの自転車の未来についてよく意見を交わします。イタリアの自転車の未来は各社のビジネス的戦略にかかっていますが、個人的にはビジネス戦略の前に美しい商品を作ることに精神を注ぐべきだと思います。

完成車を取りに来たお客さん。土曜日は従業員は休みですが、ショップと工房にはお客さんがひっきりなしに訪れます Photo: Marco Favaro

 アメリカ生まれのいくつかのメーカーは、マーケティング戦略を立ててから商品を開発する動きが多く見られます。一方でイタリアブランドの特徴は、まずは良い商品を開発することにあります。イタリアのブランドがもっと成長するには、まず素晴らしい商品を作り続けること、その上でマーケティング戦略とコミュニケーション能力を磨くことにあると思います。

ありがとうございました─。

デローザ社について

エディ・メルクスが使用した自転車の一つ。エディ・メルクスは要望が厳しく、毎年50台もの自転車の提供を求められたそう Photo: Marco Favaro

 1953年ミラノ郊外でウーゴ・デローザ(85歳)によって創業。1960〜70年に一世風靡をし、数多くのチャンピオンを支えたイタリアを代表するブランド。多くのチャンピオンを勝利に導いたブランドで、もっとも代表的な選手の一人は、「ハンニバル」(人食い人間)と呼ばれた伝説のサイクリスト、エディ・メルクス(ベルギー)。彼の完璧主義と、専属メカニックだったウーゴ・デローザがうまくマッチをし、デローザ社の知名度を大きくした。2012年からチームNIPPOに機材提供を開始。従業員は21人。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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