選手が自らパーツを厳選世界で戦う日本企業 自転車トラック競技・アメリカナショナルチームが勝つために使う日本製品とは

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 東京2020に向けて⽩熱した戦いが繰り広げられている自転車競技トラック・ワールドカップ。⽇本選⼿たちはもちろん、⽇本企業も4年に⼀度のビッグイベントを⽬指し、しのぎを削っている。ここではアメリカ・ナショナルチームに採⽤されている⽇本製品にスポットを当ててみたい。(リポート・中⽥尚志)

4kmチームパーシュートに臨むアメリカチーム ©PCG-Japan

マーケットにおける⽇本製品の信頼感

 かつてバイク・マーケットにおいても⽇本製品は世界市場を席巻していた。特に1980年代から90年代に隆盛を極め、パーツはもちろんフレーム、完成⾞にいたるまで世界最⾼の製品は⽇本製であった。またその多くは⼤阪の企業が製造し、⼤阪が世界のトレンドの発信地でもあった。

 現在は台湾や中国を中⼼にしたメーカーに⾸位の座を明け渡した感があるが、レースの現場では今なおいくつかの⽇本製品が⾼い技術⼒と信頼性でシェアをキープしている。

メダル獲得にかけるアメリカチームの取り組み

 アメリカ・ナショナルチームの東京五輪に向けての取り組みは2016年リオ五輪直後から始まっていた。リオ五輪でアメリカが⼥⼦パーシュートにおいて悲願の銀メダルを獲得出来た理由は、選⼿個々の⼒だけでなくナショナルチームレベルでのバイク開発にもあった。

アメリカチームの“スーパーバイク” ©PCG-Japan

 当時アメリカ⾃転⾞競技連盟はFelt社(フレーム)、HED社(ディスクホイール)、Stages社(パワーメーター)など複数の企業に協⼒を要請し、空気抵抗を徹底的に削減したバイク開発に着⼿した。

 フレームはディスクホイールのアールに沿うように設計し、左回りで⾏われるトラック競技の為にチェーンリングを左側につけるなど、徹底的に空気抵抗低減を⽬指し設計された。

 さらにはパーツ単体での空気抵抗ではなく、ライダーがバイクに乗った状態で空気抵抗が一番少なくなるようにデザインすることで、“スーパーバイク”が完成した。

 また⾛⾏中に各選⼿のパワーデータをリアルタイムで可視化出来るシステムをIBM社と開発し、4⼈の選⼿トータルで最も空気抵抗が減らせる並びや先頭交代の距離を導き出しタイム短縮を図った。その結果がリオでの銀メダル獲得につながったわけだ。

 イギリスチームのような莫⼤な資⾦があるわけではないアメリカチームにとって、より速いバイクを⼿に⼊れるためには各企業の協⼒が⽋かせない。彼らはリオ五輪での成功後すぐに東京五輪に向けて更に速いバイク、100分の1秒を削れるパーツを探し続けていた。

下⾒の重要性

 アメリカチームの東京五輪にかける意気込みは強い。昨年、東京五輪の会場となる伊⾖ベロドロームで⾏われた「トラックパーティ」には五輪代表候補の選⼿を多く送り込んできた。

話し合いの中で新しいアイデアが生まれる ©PCG-Japan

 レースが⾏われるヴェロドロームの個性を知っておくことは選⼿にとって⼤きなアドバンテージになる。⼀⾒同じように⾒える周⻑250mのバンクは各会場によって⾓度や直線距離、さらには路⾯の重さが微妙に違うからだ。それによりダッシュのかけどころやタイムが出る⾛り⽅を研究しておくことは時に1000分の1秒を争うトラック競技において勝敗を分けるファクターになる。

 また監督・コーチにとって会場周辺のホテルや交通の便、バイクショップなどを下⾒しておくことは選⼿をバックアップする上で重要な任務となる。観客でごった返すであろうベロドローム周辺の道路を下⾒しておくことで、⼤会期間中に不案内な道をさまよう必要がないようにしておかなくてはならないからだ。

⽇本製品採⽤のきっかけ

 アメリカの五輪代表セレクションの有⼒候補ダニエル・ホロウェイ(Daniel Holloway)は、トラック中距離でのメダル獲得を⽬指し積極的に来⽇している⼀⼈だ。ジュニア時代から⽇本製品を使⽤してきた彼は、来⽇時に⾃⾝に有利になるような性能の⾼い⽇本製品を探していた。

ダニエル・ホロウェイ選手が使用するアラヤ製ディスクホイールとイズミVチェーン ©PCG-Japan

 そのなかで彼が⽬をつけたのはトラックバイクで⾏うクリテリウム、レッド・フックに和泉チエン社がプロトタイプとして投⼊していたチェーンだ。そのチェーンとは厚⻭のVチェーンの素材で作られた薄⻭チェーンで剛性が⾼く厚⻭よりも若⼲重量が軽い。そのため彼⾃⾝が専⾨種⽬にするオムニアムやマディソンなど加減速を繰り返しながら⻑距離を⾛る種目に有利になると感じられたからだ。

 筆者を通じて和泉チエン社にコンタクトを取り、自らテストライダー&スポンサードされることを志願。こうして和泉チエン社とアメリカ・プロクリテ最強の選⼿とのコラボレーションが誕⽣。共に世界最⾼峰の舞台を⽬指すことになった。

 また、⽇本ナショナルチームが使⽤するアラヤ社のディスクホイールも彼が興味をしめした製品のひとつ。彼⾃⾝ジュニア時代からARAYAを愛⽤していたし、五輪に向けて強化を進めている⽇本ナショナルチームが使⽤している機材とあらば、新しい技術が投⼊されていると考えたからだ。

新しいテクノロジーと信頼性

 ナショナルチームのコーチ、ゲーリー・サットンはかつて26年にわたりオーストラリアで ナショナルチームを率いた⼈物。彼の母国オーストラリアは⻑きにわたってアラヤ社のディスクホイールを採用しており、以前から⽇本製品には絶対的な信頼を寄せていたという。

国産バイクで戦う日本チーム ©PCG-Japan

 「我々は東京2020に向けて少しでも速いプロダクトを探しているところだ。⽇本製品なら間違いがないから是⾮紹介して欲しい」との依頼もあり、ダニエル・ホロウェイ選⼿にアラヤ社のディスクホイール供給が決定。また和泉チエン社はナショナルチーム全体のサポートを⾏うことが決定した。

 今回のスポンサードがキッカケになり、和泉チエン社は⾃社初のルーブ(潤滑油)開発に取り組んでいる。⾹港ワールドカップではイズミVチェーンに塗布したプロトタイプを投⼊。チェーンの駆動抵抗を極限まで減らす試みを⾏った結果、アメリカチームはチーム・パーシュートで銀メダルを獲得した。

 いよいよ来年に迫った東京五輪。⽇本選⼿の活躍はもちろん⽇本製品の活躍にも注⽬して頂きたい。(Peaks Coaching Group ‒ Japan 中⽥尚志)

中田尚志中田尚志(なかた たかし)

Peaks Coaching Group – Japan」代表。渡米し約2年ハンター・アレンの元でトレーニングを学び、パワートレーニングを専門にしたコーチングを行っている。日本・アメリカで30年のレース経験があり、両国の自転車文化に詳しい。現在は京都在住。

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