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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<22>世界で最も不思議な国、エチオピア 何はなくとも生ビールはキンキンに冷えていた

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 どこの国が一番変わっていたかと問われると、迷うことなく「エチオピア」と答える。間違いなく旅する上では厄介な国なのだが、その純粋なアフリカの魅力がギュッと詰め込まれたようなエチオピアは、もう二度と行きたくないような、またその魅力に取りつかれたように再び訪れたいような、とにかく不思議な国だった。

めずらしげな様子で自転車に寄ってきたエチオピアの子供たち Photo: Gaku HIRUMA

食と対照的な飲み物

 イタリアに統合された過去はあるが、植民地化されていなかっただけに昔からの独特の文化が残っている。まず食文化だ。首都のアジスアベバや観光地などはイタリアの影響を受けてピザやパスタなどの食は豊富にあるが、現地の人はもっぱら主食である「インジェラ」を食べている。

エチオピアの主食「インジェラ」。地方はほぼこれしかなかった Photo: Gaku HIRUMA

 インジェラとは発酵させた生地をクレープ状に焼いた食べ物で、酸味が強く、日本人の口には合いづらい。それでも食べてるとやがて慣れてくるものだが、地方の食堂は本当にこのインジェラしかなく、さすがに走行終わりに食堂に入り、「何があるのか」とたずねて「インジェラしかない」と言われたときは本当に凹んだ。

 決して豊富とはいえない食文化だが、この国の飲み物は「素晴らしい」の一言だった。まずは生ビール。海外では生ビールを飲める国は少ないので、気軽に飲めるのは本当に嬉しかった。

エチオピアでどこでもキンキンに冷えた生ビールが飲めるのは、ほとんど奇跡だ Photo: Gaku HIRUMA

 そして、コーヒーの発祥の地であるエチオピアはコーヒーが生活に根付いており、世界最貧国のひとつでありながら立派なエスプレッソマシーンがあり、美味しいコーヒーが手軽に飲めた。またアボカドをミキサーでジュースにしたアボカドジュースは間違いなくエチオピア名物だった。そしてなにより物価が安い。生ビール一杯約50円、コーヒー一杯25円ほどで、たらふく飲んで食べても500円ほどだった。

エチオピアで一文無しの危機

 そんな物価の安いエチオピアで困った問題が浮上した。ATMでお金が下ろせなかったのだ。もともと下ろしにくいとは聞いていたので、事前に旅人が下ろせたという実績のあるATMを調べておいて向かったが、残念なことに僕を含めた3人のキャッシュカードとクレジットカードは、何回やってもエラーになり、下ろせなかった。

 海外でATMを使う時は、カードが吸い込まれて戻ってこなくなる事もあるので、必ず銀行に併設されたATMを使い、平日に下ろすようにしている。万が一カードが吸い込まれても、銀行の職員に伝えてすぐに取り戻すためだ。だけど、この時は今後の予定も決めてしまったのでどうしても今日中にお金を作る必要があった。仕方なく街角に設置されていた頼りないATM全てを試すも、全滅だった。

 こんな体験は世界中でエチオピアだけだった。物価が安いこの国で、現地通貨の手持ちがほとんどなくなる焦燥感は半端ではない。厳密にいうとUSドルは多少持っていたが、これからの長いアフリカ旅に備えて極力両替はしたくなかった。

 そこで、2012年当時も全く使えずバックの底で眠っていたトラベラーズチェックを両替する作戦に切り替えた。この両替ももちろん一筋縄ではいかず、銀行を何件も回り、ようやく高級ホテルの換金所なら両替できるかもという情報を得て、なんとか現地通貨のエチオピアブルを手に入れた。

驚異のバス文化

 そのお金を持って、走行予定になかった南部をバスで回って来たのだが、ここでもエチオピア独特のルールに苦しめられた。

 まず夜間にバスを走らせてはいけないというルールがある。それに加え、どこの地方もバスターミナルの開門時間が午前5時で、午前6時に一斉にバスが動き出すという、なんとも不思議なルールがある。座席取りは当然早い者勝ちなので、開門と同時に現地のエチオピア人と全力で目的のバスに向かって走らなければならず、狂気を帯びている。

午前5時のバスターミナル。一斉に目的のバスをめがけて走り出す Photo: Gaku HIRUMA

 午前5時にバスターミナルにいなければならないということは、辺りが真っ暗な午前4時台にはバスターミナルに向けて宿を出なくてはならない。普通ならアフリカでこんな時間には絶対に出歩かない。本当に恐怖の時間だ。さらにバスの車内では窓を開けるのを嫌う人が多かった。「悪霊が入ってくるから」等諸説あるようだが、日中はものすごく暑くても、砂埃がバスの中を充満しようとも、ひたすら耐えるしかなかった。

旅を快適にしてくれる‟要所”

 こんな不思議な国エチオピアでも、実は自転車はとても走りやすい国だった。僕にとって「走りやすい国」という基準は色々あるが、最大の要素は野宿がしやすいか、安宿が町にあるか。つまり、宿泊のしやすさだ。

幹線道路沿いにあるホテルはモーテルタイプが多く、使いやすい Photo: Gaku HIRUMA

 エチオピアは3~49kmおきくらいの感覚で安宿がある規模の町を通過するので、疲れたら早めに走行を切り上げてもいいし、走れたら次の町まで行くにも良かった。

 そして宿は幹線道路沿いに存在するので、宿を探しに町の中まで入り込む必要もなかった。宿はレストランが併設させているモーテルタイプが多く、一階の部屋にそのまま自転車を入れられるのも魅力だった。

宿にシャワーは無く、ペットボトルで身体を洗う。慣れたら全然問題ない Photo: Gaku HIRUMA

 大体の宿はシャワーは無く、はやる気持ちを抑えて置いてある2リットルのペットボトルの水で身体を洗う。そして足早に併設しているレストランへ向かい、生ビールを注文し、強い日差しでカラカラに乾いた身体にキンキンに冷えた生ビールを一気に流し込む。

 シャワーが無く、本当に水が貴重で、安宿の電気が点くとホッとするような国なのに、何はさておき生ビールをキンキンに冷やそうとするエチオピア人の心意気は本当に大好きだった。

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

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