「ならクル」「WAKAYAMA800」など続々1000㎞四国一周、1400㎞太平洋岸横断…どんどん延びるサイクリング道

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 800km、1000㎞、1400㎞…全国各地で発表されるサイクリングルートの整備距離が、どんどん延びている。サイクリングは近年、国内の愛好者が増えただけでなく、旅行好きの外国人を誘客する手段としても注目され、国や多くの自治体は訪日客が増える2020年東京五輪・パラリンピックまでに各地でサイクリングルートを整備しようと取り組んでいる。ただ、安全性や利便性の確保、サイクリスト受け入れ態勢の構築など課題も少なくない。

和歌山県のサイクリングルート「WAKAYAMA800」に組み込まれた紀ノ川サイクリングロード。路面のブルーラインがコースを示し、サイクリストを誘導する=2018年7月 Photo: Yoshiyuki KOZUKE

「ピクト」で1000km道案内

 昨年12月12日、愛媛県の道後温泉本館で、約1000㎞に及ぶ「四国一周サイクリングルート」に路面案内ピクトを整備する記念セレモニーが開かれた。

 ピクトは、道路左端の白線(車道外側線)に沿う形で設置。四国一周の道のりを示すほか、サイクリストに左側走行を促し、ドライバーには自転車に気をつけるよう注意喚起する効果もある。国(四国地方整備局)と四国4県が連携し、2019年度までに整備する予定だ。

四国一周サイクリングルートのピクト敷設第1号となった愛媛県の道後温泉本館前で、記念セレモニーに出席したプロサイクリストの門田基志さん(右端)ら (愛媛県提供)

 四国一周サイクリングルート自体は17年に発表され、すでに地図も制作されているが、実際に走ると道に迷うケースがあり、より親切な案内が求められていた。ルートを監修した愛媛県のプロサイクリスト、門田基志さんは「ピクトによって、迷わずに安心してサイクリングができる環境になる」とアピールする。

 愛媛県今治市の菅良二市長は、「四国全体をサイクリングアイランドと位置付け、国内外から誘客を図り、交流人口の拡大による地域の活性化を目指す」と狙いを語る。

千葉~和歌山、フェリーも活用

 昨年にはもう一つ、広域のサイクリングルート事業が動いた。整備が中断されていた「太平洋岸自転車道」1400㎞の沿線8県市(千葉、神奈川、静岡、愛知、三重、和歌山6県と静岡、浜松両市)が、来年の東京五輪までに、路面案内ピクトや案内看板を整備することで合意したのだ。

太平洋岸自転車道は千葉県銚子市から和歌山市まで、文字通り太平洋岸を横断するサイクリングルート。1969(昭和44)年に構想が発表され、70年代前半に整備が始まった。千葉県富津市~神奈川県横須賀市と、愛知県田原市(伊良湖)~三重県鳥羽市の2区間は海上をフェリーで結ぶ。また静岡県と三重県の一部は、それぞれ2つのルートから選べるようになっている。

四国一周サイクリングルートの地図(四国一周サイクリングの公式ウェブサイトより)

8県市は改めて協議会を設置し、11月28日に初会合を開催。愛称を決めて統一ロゴを作るほか、日本語が読めない外国人も安全にサイクリングを楽しめるよう、図柄を多用した路面標示を設置することで合意した。沿線の施設などを紹介する地図やウェブサイトも作成する。

 このほか、奈良県は2011年に県内の計約600kmのサイクリングルートを「奈良まほろばサイク∞リング」(略称・ならクル)と命名。和歌山県は17年、県内全域の約800㎞に設定したサイクリングルートを「WAKAYAMA800」として観光誘致に本腰を入れ始めた。

「しまなみ海道」が成功

 国内ではかつて1970年代にサイクリングルートの設置が相次いだ。太平洋岸自転車道もその頃の計画だ。当時はサイクリングブームが盛り上がったほか、モータリゼーションの進展に伴う交通事故の増加が背景にあり、自転車とクルマをなるべく分けて走らせるよう自転車専用道の建設に力が注がれた。

「太平洋岸自転車道」のルート(国土交通省の資料より)

 一方、近年のサイクリングルート整備は、広島県と愛媛県を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」の観光面での成功が大きく影響している。島々を結ぶしまなみ海道に全長約70㎞の「瀬戸内海横断自転車道」を併設。1999年に開通すると、外国人客の間でも人気が高まり、海外メディアに「世界で最も素晴らしい自転車道の1つ」と称賛された。海道の両端にあたる広島県尾道市、今治市にはサイクリスト向けの宿泊・休憩施設が開設され、一年を通してにぎわっている。

利便性や安全確保に課題

 しまなみ海道をお手本に、全国各地の自治体がサイクリングルートを設定して観光誘致を競い始めた。かつての自転車専用道ではなく、一般公道に自転車が走りやすいよう路面表示や案内標識を設ける手法が主流だ。専用道と比べ整備費用がはるかに安上がりで、普及を後押ししている。

美しい景観で人気が高いしまなみ海道の「瀬戸内海横断自転車道」 =2018年10月 Photo: Kairi ISHIKASWA

 しかし、数百kmに及ぶ道路にサイクリング用の案内を設置しても、表示が分かりにくかったり、劣化や破損で役に立たなかったりすれば、利用者はトラブルに陥りかねない。設置を急ぐだけでなく、サイクリストが利用しやすい形での整備が求められている。

 安全確保の面でも課題をはらんでいる。NPO自転車活用推進研究会(自活研)の小林成基理事長によると、日本のサイクリングルートは車道のほかに、自転車も歩行者も利用できる「自転車歩行者道」に設定されているケースが多く、歩行者との接触事故が起きかねない。法令上は自転車に徐行が義務づけられることもあり、小林理事長は「まず自転車と歩行者を分離する道路インフラが必要だ」と訴える。

 ほかにも、サイクリストが楽しく安心して走行するためには、さまざまな環境整備が必要だ。クルマやオートバイの旅行と異なりサイクリングは体力の消耗が大きいうえ、荷物を最小限にして移動するため、食料や飲料のひんぱんな補給が欠かせない。また天候の変化に弱く、パンクなどの機材トラブルも少なくない。

奈良県内の計約600kmのサイクリングルート「奈良まほろばサイク∞リング」(略称・ならクル)に設置された案内標識 =2018年7月 Photo: Yoshiyuki KOZUKE

 このため長距離のサイクリングルートには、休憩場所や修理道具の提供、レストランなどへの駐輪設備設置、自転車を屋内で保管できるホテルや旅館の確保などが欠かせない。さらに訪日客のサイクリストを誘致するならば、外国語の案内や、宿泊施設などでの外国語の接遇も重要になる。

EUには7万8000㎞

 奈良県のサイクリング地図「ならクルマップ」には、サイクリストに優しい宿泊・観光施設、自転車や手荷物の配送サービス、修理を受けられる自転車店やレンタサイクルのお店などを詳しく掲載。英語版も用意している。

 太平洋岸自転車道の整備を再開する8県市も、道路整備だけでなくソフト面の取り組みをどこまで進められるかが問われる。

 国会では2016年に「自転車活用推進法」が成立。政府は18年6月、「自転車活用推進計画」を閣議決定し、「サイクルツーリズムの推進による観光立国」を掲げた。さらに国土交通省は、優れたサイクリングルートを国が認定する仕組みを今夏にも創設する方針で、モデルルートの選定も検討している。

 今後、日本のサイクリングルート整備はどのような方向に進むべきか? 自活研の小林理事長は、「EU(欧州連合)にはサイクリングルートが約7万8000㎞あり、例えば家族で一日に50~60㎞ずつ走って数週間旅をするような楽しみ方をしている。歩行者と車両は分離され、案内も宿泊施設も整備されている」と指摘。「日本でも、目先の観光誘致にとらわれずインフラをしっかり整備し、誰もがサイクリング旅行を楽しめる環境をつくりたい」と話している。

産経WESTより)

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