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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<282>新・エーススプリンターのユアン獲得で“スピード路線”継続へ ロット・スーダル 2019年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2019年シーズンの幕開けを告げるサントス・ツアー・ダウンアンダー。UCI非公認ながらも事実上の緒戦となった1月13日の「ダウンアンダー・クラシック」では、白地が基調の新ジャージをまとったロット・スーダル勢が躍動した。ロジャー・クルーゲ(ドイツ)のリードアウトから、カレブ・ユアン(オーストラリア)がトップでフィニッシュ。新加入の2人が最高の連携を披露した。チームは今シーズン、29選手が所属し、ベルギー勢を中心としながらも国際色豊かな布陣で戦う。年間通してのテーマは、ユアンやティム・ウェレンス、ティシュ・ベノート(ともにベルギー)といったスピードのある選手たちでの勝利量産だ。

サントス・ツアー・ダウンアンダーのチームプレゼンテーションに登場したロット・スーダルの選手たち Photo: Yuzuru SUNADA

ユアンのスプリントでどこまで勝利数を伸ばすか

 これ以上ないシーズンインを決めたユアン。発射台のクルーゲとともに、年明け早々のオーストラリア国内シリーズを転戦するなど、万全の準備を施してダウンアンダーへと臨んでいる。もっとも、クルーゲとは昨年まで所属したミッチェルトン・スコットでもホットラインを形成しており、移籍に際してもユアン本人またはチームのどちらかがクルーゲとともにすることを条件として提示したことは間違いない。

ピープルズ・チョイス・クラシックで優勝。新チームで最高のシーズンインを果たしたカレブ・ユアン Photo: Yuzuru SUNADA

 2014年シーズン途中で当時のオリカ・グリーンエッジ(現ミッチェルトン・スコット)に加入し、自国のオーストラリアを代表するチームを引っ張ってきたユアン。2015年にはブエルタ・ア・エスパーニャで、2017年にはジロ・デ・イタリアでステージ優勝を果たし、ビッグレースでの実績も順調に積んでいるかに思われた。

 その流れに変化が見られたのは昨シーズン。2017年末に翌年のツール・ド・フランス出場がチームから発表され、余裕を持って準備に取り掛かることができる状況にあった。だが、年が明けてシーズンが進むにつれてチームとユアン個人との方向性の違いが明確に。5月頃には欧米のサイクルメディアで移籍志願をしているとの報道がなされ、その後ツールのメンバー落ちが確定。チームとの行き違いがいよいよ表面化した。

 そして、移籍市場解禁となった8月にロット・スーダルとの契約合意が発表。チームとしても、長年エーススプリンターを務めたベテランのアンドレ・グライペル(ドイツ、現アルケア・サムシック)との決別が確定し、新たなチームリーダーを欲していたところだった。

サントス・ツアー・ダウンアンダーの開幕を前にプレスカンファレンスに臨んだカレブ・ユアン Photo: Yuzuru SUNADA

 こうした経緯から見ても、相思相愛の関係にあると見られるユアンとチーム。チームは伝統的にスプリントに力を注いでおり、昨年までのグライペル、それ以前にはロビー・マキュアン(オーストラリア)が勝利を量産した時代もある。24歳と、長期的なビジョンを組むことも可能なユアンは、チームの中心に据えやすい絶好の人材と捉えることもできる。

 ひとまずは現在参戦中のダウンアンダーに集中しているが、シーズンを見通せば、やはりツールデビューがビッグターゲットになってくるだろう。今年の開幕はベルギーの首都ブリュッセルとあって、同国が拠点のチームにとっても、ただスタートラインに並ぶだけで終わるわけにはいかない。スプリント勝負が有力視される第1ステージを制して、マイヨジョーヌに袖を通すというスペシャルミッションは、若きオージースプリンターに託すことになる。

 ちなみに、ユアンを支えるリードアウトマンにはクルーゲのほか、8年ぶりに古巣復帰(当時オメガファルマ・ロット)となるアダム・ブライス(イギリス)、ジャスパー・デブイスト(ベルギー)が任命された。ダウンアンダーにはデブイストをのぞく面々がそろい、連携を確実なものにしていこうとトライしている。

 低い姿勢から抜群の加速を見せる独特のスプリントスタイル。その走りは今年、どれだけの勝利数を挙げるだろうか。

ウェレンスとベノートがクラシック制覇にチャレンジ

 スプリント路線がユアンでメドが立っているのと同様に、春のクラシックやステージレースではウェレンスとベノートが中心となって戦術を組み立てていくことになる。両者はシーズン序盤のスタートダッシュにも定評があり、今シーズンも早い段階でその姿を見ることができるかもしれない。

アルデンヌクラシックやステージレースで活躍が期待されるティム・ウェレンス =イル・ロンバルディア2018、2018年10月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ウェレンスは昨年、シーズンを通して安定して上位戦線を走った。2月のブエルタ・ア・アンダルシア(スペイン、UCI2.HC)で個人総合を制すると、3月のパリ~ニース個人総合5位。クラシックはアルデンヌ3連戦に照準を定め、アムステル・ゴールド・レース6位、ラ・フレーシュ・ワロンヌ7位とまとめた。

 シーズン後半も大きな成果を挙げるところまでは至らなかったものの、ビンクバンクツアー個人総合3位、イル・ロンバルディアでは5位と好走。今シーズンへの手ごたえをつかんでいる。

 ウェレンスの持ち味は、短めの急坂でのアタック。重要な局面でスピードを上げて、集団の人数を絞り込むような動きも巧みで、この動きができるかが生命線になる。まずは得意のアルデンヌクラシックがターゲットになるが、今年は優勝、最低でも表彰台確保が現実的な目標となってくる。昨年はジロ・デ・イタリアでステージ1勝を挙げたが、グランツールにはそれほどの色気を見せておらず、今年もそのスタンスは変わらないと見られる。

コースレイアウトを問わず活躍が期待されるティシュ・ベノート =ツール・デ・フランドル2018、2018年4月1日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ウェレンス以上にオールラウンドな活躍が期待されるのがベノート。平坦から山岳までそつなくこなし、狙ったレースでは確実に上位に食い込む堅実性も持ち合わせる。もっとも、いざという場面での勝負強さやスプリント能力に課題があることを本人も自覚しており、それらをいかにカバーしていくかが今後のポイントになる。

 とはいえ、昨年は荒天で大荒れになったストラーデ・ビアンケで優勝するセンセーショナルな走りを見せると、しばし勢いを持続。ティレーノ~アドリアティコを個人総合4位と健闘し、得意のツール・デ・フランドルでも8位。ツールでの落車負傷の影響で、シーズン後半はビッグレースでの上位進出はなかったが、すでに回復し、今年の戦いを見据える。北のクラシックでの優勝を目指すとともに、意欲的なアルデンヌクラシックではウェレンスとの共闘を図っていく。

 ベノートに関しては、グランツールをどのような位置づけで臨むのかにも注目したい。2年前のツールでは個人総合20位。その経験から、昨年のツールでは新人賞のマイヨブラン候補とも目された。結果的にリタイアでジャージ獲得はならなかったが、25歳になる今年まで資格を有しており、再び有力候補に名が挙がることは確実。山岳比重の高い3週間をいかに走り抜くかは、この先のキャリアにつながっていくことも考えられる。

スター候補が成長 ベテランとの融合を図る

 まだまだタレント性に富んだスター候補が控える。いつブレイクを果たしても不思議ではない選手たちばかりだ。

TTスペシャリストとして力を伸ばすヴィクトール・カンペナールツ =ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第16ステージ、2018年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年のロード世界選手権個人タイムトライアルで銅メダルを獲得したヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー)は、同種目で不動のヨーロッパ王者でもあり、TTスペシャリストの1人としてすっかり地位を確立した。

 今年は4月にアワーレコード挑戦の可能性を示唆し、現・記録保持者のブラッドリー・ウィギンス氏にして「カンペナールツには私の記録(54.526km)を破ってほしい」と後継者指名まで受けた。本人も乗り気だったが、ウィンタートレーニングの導入期間に膝を負傷。また、ジロ・デ・イタリアがレースプログラムにおける重要な位置づけとなったため、アワードレコード挑戦は自らの判断で回避することになった。

 長期的な目標に東京五輪での金メダルを掲げ、それまでは“本職”に集中。その過程として、イギリス・ヨークシャーで9月に開催されるロード世界選手権での個人TTマイヨアルカンシエル獲得を目指していく。

上りに強いビョルグ・ランブレヒト。昨年のUCIロード世界選手権アンダー23で銀メダルを獲得した =2018年9月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 プロ2年目、21歳のビョルグ・ランブレヒト(ベルギー)はグランツールレーサーとして将来を嘱望される1人。昨年のハイライトは、ロード世界選手権アンダー23での銀メダル。長短問わず上りに強いことを証明したレースだった。昨シーズンは主に逃げからステージ上位フィニッシュを果たしたが、今年はビッグネームと真っ向勝負する場面は見られるか。

 ユアンを含む9人の新加入組では、21歳のスタン・デウルフ(ベルギー)の存在感が光る。昨年のパリ~ルーベ・エスポワール(23歳未満)で優勝しており、今シーズンはエリートでの北のクラシックデビューが期待される。アンダーカテゴリーでは、平坦やTTで力を示してきた選手だ。また、20歳のヘルベン・タイッセン(ベルギー)は、トラック中距離種目のエリミネーションで2017年にヨーロッパ王者となったスピードマン。ひとまずはトラックに専念し、昨年のロード世界選手権アンダー23個人TT銀メダルのブレント・ファンムール(ベルギー)とともに7月1日にトップチームへと加入する予定だ。

 こうした若手の一方で、ベテランもまだまだ健在。昨年のラ・フレーシュ・ワロンヌ3位のイェール・ファネンデル(ベルギー)は、今シーズンもアルデンヌクラシックに合わせてくるだろう。昨年の春のクラシックシーズンは、ウェレンスとの関係性でひと悶着あったとされているが、折り合いをつけて今年の本番を迎えられるか。

サントス・ツアー・ダウンアンダーに出場中のトーマス・デヘント。2019年シーズンは全グランツール出場の見通しだ Photo: Yuzuru SUNADA

 逃げのスペシャリスト、トーマス・デヘント(ベルギー)は今年、グランツール全戦出場の見通し。話題が先行しそうなところだが、本人はいたって真面目。逃げやアシストでチームに貢献したいと意欲を見せている。グランツール全戦出場といえば、昨年のジロまで20戦連続出場を果たしたアダム・ハンセン(オーストラリア)もいるが、こちらもアシストの立場で引き続きチームを盛り立てていく姿勢だ。

ロット・スーダル 2018-2019 選手動向

【残留】
サンデル・アルメ(ベルギー)
ティシュ・ベノート(ベルギー)
ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー)
ジャスパー・デブイスト(ベルギー)
トーマス・デヘント(ベルギー)
フレデリック・フリソン(ベルギー)
アダム・ハンセン(オーストラリア)
イェンス・クークレール(ノルウェー)
ビョルグ・ランブレヒト(ベルギー)
ニコラス・マース(ベルギー)
トーマス・マルチンスキー(ポーランド)
レミー・メルツ(ベルギー)
マキシム・モンフォール(ベルギー)
ローレンス・ナーセン(ベルギー)
トッシュ・ファンデルサンド(ベルギー)
イエール・ファネンデル(ベルギー)
ハーム・ファンフック(ベルギー)
イエール・ワライス(ベルギー)
ティム・ウェレンス(ベルギー)
エンゾ・ワウテルス(ベルギー)

【加入】
アダム・ブライス(イギリス) ←アクアブルースポート
ラスムス・ビュリエルイーヴァスン(デンマーク) ←ゼネラルストア・ボットリ・ザルディーニ(アマチュア)
スタン・デウルフ(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)
カレブ・ユアン(オーストラリア) ←ミッチェルトン・スコット
カールフレドリク・ハーゲン(ノルウェー) ←ヨーケル・イコパル
ロジャー・クルーゲ(ドイツ) ←ミッチェルトン・スコット
ヘルベン・タイッセン(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)※7月1日加入予定
ブライアン・ファンフーテム(オランダ) ←ロームポット・ネーデルランセローテライ
ブレント・ファンムール(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)※7月1日加入予定

【退団】
ラルスイティング・バク(デンマーク) →ディメンションデータ
イェンス・デブシェール(ベルギー) →カチューシャ・アルペシン
アンドレ・グライペル(ドイツ) →アルケア・サムシック
モレノ・ホフラント(オランダ) →EFエデュケーションファースト・ドラパック
ジェームス・ショー(イギリス) →未定
マルセル・シーベルグ(ドイツ) →バーレーン・メリダ

今週の爆走ライダー−カールフレドリク・ハーゲン(ノルウェー、ロット・スーダル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 27歳にして初めてのUCIワールドチーム入り。ロードでのキャリアは実質4年と短い点でも異色のライダーと言える。

サントス・ツアー・ダウンアンダーでトップシーンにデビューを果たしたカールフレドリク・ハーゲン Photo: Yuzuru SUNADA

 自転車競技を始めたのは22歳のとき。クロスカントリースキー選手として活動し、夏場のトレーニングの一環として乗ったのがマウンテンバイクだった。それまで、スキーのほかにサッカーや陸上競技にも取り組んできたスポーツ人生だったが、何よりも自分向きだと思えたのが自転車だったのだという。

 ロードに転向後は自国の英雄、トル・フスホフトに師事し地元のコンチネンタルチームで走りを磨いた。昨年のアークティックレース・オブ・ノルウェーでは強豪に交じって個人総合8位。ロード世界選手権の代表入りも果たし、一気に名を挙げた。

 自転車競技を始めた頃には考えたこともなかったというトップチーム入り。取り組むのがほかの選手より遅かったこともあり、あこがれの選手はゼロ。ここまでの歩みも、挑戦を繰り返しているうちにたどり着いたと感じている。

 「新しい冒険」というトップシーンでの戦い。上りなら距離を問わず戦える自信があるという。だから、目標はステージレースでの総合成績。「(上りでアタックしている間の)4~5分の我慢はお手のもの」と自己分析する。

 ちなみに、苦手としているのはスプリント。「スピードがないからユアンのリードアウトは無理だね」とのこと。現在参戦中のダウンアンダーは、集団のコントロールに従事する。

サントス・ツアー・ダウンアンダー第1ステージでは集団コントロールをになったカールフレドリク・ハーゲン。ゆくゆくはステージレースで総合を目指していきたいという Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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