サイクルロードレース年末年始コラム<10>実績がある選手ほどスロー調整? グランツール有力選手の調整方法をチェック

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 グランツール(世界3大ステージレース)では、3週間の長丁場を戦うため、ワンデーレースとはまた異なるコンディショニングが重要となる。今回はジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャで過去5年間総合優勝を飾った選手の、グランツールに向けた調整方法を分析。おおまかに3つのパターンに分けて、特徴を解説していく。

2018年ジロ・デ・イタリア総合優勝(左)、2017年のツール・ド・フランス総合優勝(中央)、同ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝(右)を飾ったクリストファー・フルーム Photo: Yuzuru SUNADA

 まずは、ざっと過去5年間のグランツール王者を紹介したい。

過去5年間のグランツール総合優勝者

・2018年
ジロ:クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)
ツール:ゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)
ブエルタ:サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)

・2017年
ジロ:トム・デュムラン(オランダ、チームサンウェブ)
ツール:クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)
ブエルタ:クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)

・2016年
ジロ:ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナプロチーム)
ツール:クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)
ブエルタ:ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスターチーム)

・2015年
ジロ:アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)
ツール:クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)
ブエルタ:ファビオ・アル(イタリア、アスタナプロチーム)

・2014年
ジロ:ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスターチーム)
ツール:ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナプロチーム)
ブエルタ:アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)

 フルームが過去5年で5勝(通算では6勝)と最も多く総合優勝している。次にフルームがグランツールに向けて、どのレースに出場し、どんな結果を残してきたのか振り返ってみたいと思う。

実績を積むにつれ、調整方法に変化あり

 初めてツールを制した2013年は、2月はツアー・オブ・オマーン総合優勝、3月はティレーノ〜アドリアティコ総合2位、クリテリウム・インテルナシオナル総合優勝、4月はツール・ド・ロマンディ総合優勝、6月はクリテリウム・デュ・ドーフィネ総合優勝、とシーズン序盤から飛ばしていた。そうして、ツールでは2位に4分20秒と大差をつけて初優勝を飾った。

2013年ティレーノ~アドリアティコ第4ステージで勝利したクリストファー・フルーム<br />Photo : Yuzuru SUNADA

 2014年は2月のオマーンを連覇。ティレーノ~アドリアティコの代わりに出場したボルタ・ア・カタルーニャでは総合6位に。4月のロマンディも連覇したが、6月のドーフィネでは総合12位と失速。ツールでは3度の落車に見舞われ、リタイア。続くブエルタでレースに復帰したが、コンタドールに1分10秒及ばず総合2位となった。やや調子にムラのある一年だったが、2013年と同じアプローチだったと思われる。

2015年ツール・ド・フランス第20ステージ、2度目の総合優勝を確定的にしたクリストファー・フルーム Photo : Yuzuru SUNADA

 2015年はツール、ブエルタと連続出場を見据えていた。2月はオマーンの代わりにブエルタ・ア・アンダルシアに出場し総合優勝。3月のカタルーニャは総合71位と良いとこなしで終えた。4月のロマンディは総合3位、そして7月のドーフィネ総合優勝とツールに向けて尻上がりに調子を上げていく調整で、ツールでは2度目の栄冠を勝ち取った。ダブルツールを狙ってブエルタに出場したが、最初の本格的な山岳ステージで失速するなど強さは見られず。結局、第11ステージの落車が原因で右足首骨折のため途中リタイアとなった。

 2016年はアンダルシアの代わりに出場したヘラルド・サンツアーで総合優勝。3月のカタルーニャは総合8位と可もなく不可もなく、4月のロマンディではメカトラの影響もあり、総合38位に終わったがステージ1勝をあげていた。6月のドーフィネで3度目の総合優勝を飾り、前年同様に前哨戦を重視した調整だった。ツールでは積極的な走り(※第12ステージでは実際に”走った”)が光り、3度目の総合優勝に輝いた。ダブルツールを狙ったブエルタでは、キンタナの登坂力にかなわず総合2位だった。

2016年ツールでは、ダウンヒルでのアタック、平坦ステージでのアタック、そしてモン・ヴァントゥでの”ランニング”と積極的な走りが目立っていた Photo : Yuzuru SUNADA

 2017年は1月のヘラルド・サンツアー総合6位、カタルーニャ総合30位、ロマンディ総合18位、ドーフィネ総合4位と、これまでの成績に比べるとかなり低調な結果だった。特にドーフィネで総合優勝した年は必ずツールでも総合優勝していただけに、総合3連覇は疑問視されていた。しかし、終わってみれば終始安定した走りでツール3連覇を達成。続くブエルタでは、ツール以上に攻撃的な走りが冴え、ダブルツールを達成。シーズン序盤は不調だったのではなく、あえてスローペースに調整することで、ツールとブエルタを戦い抜く力を温存していたのだ。

 2018年はその傾向がより顕著になった。ジロとツールのダブルを狙うと公言。2月は3年ぶりのアンダルシアで総合10位。5年ぶりのティレーノ〜アドリアティコでは総合34位と、平坦ステージでも遅れる姿が見られた。4月のツアー・オブ・ジ・アルプスでは連日ステージ上位に食い込み総合4位に。それでもステージ優勝を狙ってギリギリまでもがくことはせず、追い込みすぎないように気をつけているように見えた。

2018年ジロ・デ・イタリア第19ステージで、歴史的な80km独走勝利を飾ったクリストファー・フルーム Photo : Yuzuru SUNADA

 ジロでは序盤の落車で右膝を痛めた影響もあり、山岳ステージでは力なく失速する場面も見られた。ところが、「地獄への門」と形容されるゾンコラン峠にフィニッシュする第15ステージでは、驚異的な登坂力を見せつけステージ優勝。さらに第19ステージでは、もはや伝説となった80km独走勝利をあげ、大逆転で総合優勝を決めた。落車のハプニングはあれども、大会終盤に最高のコンディションに仕上げる計画がハマったのだ。

 ツールではチームメイトのトーマスが総合首位を突き進んでいたこともあり、フルームは総合3位だった。これで出場したグランツールは6大会連続で表彰台を獲得。キャリアを重ねるごとに、コンディショニングの技術・知識・経験が蓄えられていったようだ。

3パターンの調整方法

 フルームの調整方法は大きく3パターンに分けられる。

 ひとつは2013〜2014年のように、シーズン序盤から好成績を連発し、常に良いコンディションを保ちながら狙いのグランツールに出場する「挑戦者型」だ。もうひとつは2015〜2016年のように、狙いのグランツール直前のレース、いわゆる前哨戦で良いコンディションに仕上げる「前哨戦重視型」最後は2017〜2018年のように、前哨戦の成績すら度外視し、グランツールの終盤、勝負どころを迎える第3週に最高のコンディションとなるような「超スローペース型」だ。

 そして、他の選手たちに関しても、概ねこの3つのパターンのいずれかに該当する調整方法を用いているのだ。

●「挑戦者型」の選手

 グランツールでの実績に乏しい選手に多いのが、シーズン序盤から飛ばしていく「挑戦者型」だ。

 というのも、よほど地位が確約されていない限りは、レースで結果を出してグランツールで総合を狙える力を持っていることを示すしかない。仮に2018年のフルームのような結果が続いていた場合は、首脳陣がグランツールを狙えないと判断し、山岳アシストを減らしてスプリンターを連れて行くなどチーム戦略を変更することもあり得るし、最悪メンバーから外される可能性だってあるだろう。

 例えば2018年ツールで初の総合優勝を飾ったトーマスは、それまでグランツールでの最高順位は2015、2016年ツールの総合15位だった。2018年シーズンは所詮のボルタ・アン・アルガルベ総合2位、ティレーノ~アドリアティコ総合3位、ロマンディではエガン・ベルナル(コロンビア)のためにアシストに回り総合33位、ドーフィネ総合優勝と結果を出し続けていた。

アルベルト・コンタドールのキャリア最後のグランツール総合優勝となった2015年ジロ・デ・イタリア Photo : Yuzuru SUNADA

 一方でグランツールでの実績豊富なキンタナも挑戦者型に近い調整方法をとっている。特にブエルタ初優勝を飾った2016年は、1月のツール・ド・サンルイス総合3位、3月のカタルーニャ総合優勝、4月のブエルタ・ア・パイス・バスコ総合3位、ロマンディ総合優勝、6月のツール前哨戦の一つであるルート・デュ・スッド総合優勝と好調を保ったまま出場したツールで総合3位。そして、ブエルタで総合優勝を飾った。

 またコンタドールはグランツールで総合優勝をどれだけ重ねていっても、現役引退する2017年まで終始「挑戦者型」を貫いていた。出るからには勝利を目指すコンタドールには、レースで調整という概念がないのかもしれない。

●「前哨戦重視型」の選手

 デュムランとニバリはジロを狙うことが多く、その前哨戦に4月後半のアルデンヌクラシックを活用することが多い。リエージュ~バストーニュ~リエージュは、デュムランがジロ総合優勝した2017年、ニバリがジロ総合優勝した2013、2016年に出場して完走している。本番直前に厳しいレースを走って、コンディションを上げる目的があるのだろう。このようなタイプもある意味「前哨戦重視型」といえよう。
 
2018年のサイモン・イェーツは、初戦のボルタ・ア・コムニタト・バレンシアナ総合24位、アブダビツアー総合75位と出だしはスローペースだったが、パリ〜ニースでステージ1勝の総合2位、ボルタ・ア・カタルーニャもステージ1勝をあげ総合4位と尻上がりに調子を上げて、ジロに挑んだ。ステージ3勝をあげ総合首位を快走していたが、第19ステージでガス欠。最終的に総合21位に沈んだ。しばらくの休養を経て、8月のツール・ド・ポローニュでは大会後半に攻めの走りが光り、ステージ1勝をあげて総合2位に。ブエルタは序盤を抑えながら、最後まで安定した走りを見せて初の総合優勝を飾った。

グランツール初優勝を飾ったサイモン・イェーツ Photo : Yuzuru SUNADA

 2018年は不振だったアルが、ブエルタ総合優勝した2015年前後は、レースをこなすごとに調子を上げながらグランツールで結果を残してきたため、このタイプに該当するだろう。

●「超スローベース型」の選手

 2018年のニバリは、例年とは異なりスローペースで調整していた。ミラノ〜サンレモで逃げ切り勝利というサプライズはあったもののステージレースではほとんど総合二桁順位以下に沈んでおり、ツール直前のドーフィネでも総合24位と低調だった。

第12ステージの落車からリカバリーが凄まじく、好調さを隠していたように見えたヴィンチェンツォ・ニバリ Photo : Yuzuru SUNADA

 いざ、ツールが開幕するとニバリらしい安定した走りでステージ上位をキープ。第11ステージを終えて総合4位と好位置につけていた。だが第12ステージで、沿道の観客と接触して落車。落車でタイムを失ったものの、凄まじい挽回を見せステージ優勝したトーマスから13秒遅れに留めていた。しかし、落車の影響で椎骨を骨折。翌日リタイアとなってしまった。もし、落車がなかったらニバリは総合優勝争いをしていたのではないかと思われる。

 このように、グランツールで好成績を収め、キャリア終盤に差し掛かるベテランほど「超スローペース型」の調整方法を好む傾向にある。

◇         ◇

 調整方法は選手によって様々だ。ただ、レースでの結果が悪いからといって、グランツールで活躍できないと決まったわけではない。そういう選手は「超スローペース型」で調整しているだけかもしれない。逆に実績がさほどない選手がステージレースで好成績を連発している場合は、「挑戦者型」としてグランツールの優勝候補として認識してもいいかもしれない。

 このように、選手のキャリアや活躍度合いに応じて、グランツールで活躍する選手を予測するのもレースの楽しみ方の一つなのだ。

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