サイクルロードレース年末年始コラム<9>前哨戦レースで勝ちまくる選手が有利とは限らない? 2019春のクラシックを展望

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 ミラノ〜サンレモ、ツール・デ・フランドル、パリ〜ルーベ、リエージュ~バストーニュ~リエージュ、イル・ロンバルディア。サイクルロードレース界で「モニュメント」と呼ばれ、一際格式の高い5大ワンデーレースのうち前者4レースが3月から4月にかけての春の時期に開催される。今回は、いわゆる「春のクラシック」を狙う選手たちが、どのような調整を経てレースに挑むのか。過去の勝者のレース成績を紹介しながら、前哨戦レースでチェックしておきたいポイントについてまとめてみた。

左から順に2018年ミラノ〜サンレモ優勝のヴィンチェンツォ・ニバリ、ツール・デ・フランドル優勝のニキ・テルプストラ、パリ〜ルーベ優勝のペテル・サガン、リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝のボブ・ユンゲルス Photo: Yuzuru SUNADA

春に調子が良すぎてはいけない

 3月中旬に行われる「ラ・プリマヴェーラ(春)」と呼ばれるミラノ〜サンレモの最大の特徴は、レース距離が290kmを超えることだ。ワールドツアーでは最長距離を走り、世界選手権やオリンピックでもここまでの長距離のレースはない。終盤にチプレッサ(登坂距離5.65km・平均勾配4.1%・最大勾配9%)とポッジオ(登坂距離3.7km・平均勾配3.7%・最大勾配8%)と2つの上りが登場する。

 普通のレースであれば、特に勝負に影響を与えないであろう何気ない上りだが、長距離を走ってきた選手たちにとってはトドメを刺しかねない威力を持った上りへと変貌する。ちなみに、直近2年は最後のポッジオの上りで集団から抜け出した選手が逃げ切って勝負が決まっている。

ミラノ〜サンレモ優勝者と主な成績

2018年:ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)
→ティレーノ~アドリアティコ総合11位、ほか未勝利
2017年:ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チーム スカイ)
→ティレーノ~アドリアティコ未勝利、ストラーデ・ビアンケ優勝
2016年:アルノー・デマール(フランス、エフデジ)
→パリ〜ニース1勝(第4ステージでDNF)、ほか1勝
2015年:ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)
→パリ〜ニース未勝利、ほか1勝
2014年:アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)
→パリ〜ニース未勝利、ほか1勝

 ワールドツアー以外での勝利は「ほか◯勝」でまとめている。つまり、過去5年のミラノ〜サンレモの勝者はそれまでにワールドツアー(もしくはプロツアー)で未勝利、もしくは1勝しかあげていないことがわかる。

 また、ミラノ〜サンレモの直前にはパリ〜ニース、もしくはティレーノ~アドリアティコに出場している。しかし、そこでの成績は2016年のデマールがステージ1勝あげた以外は、未勝利に終わっており、総合系の選手も突出した成績ではない。とはいえ、スプリンターはステージ上位(トップ10位内が目安)に食い込むくらいの調子であり、他のレースでは勝利できるくらいの状態には仕上げており、全くダメという訳ではなかった。

 逆に直前のパリ〜ニース、もしくはティレーノ~アドリアティコまでで明らかに好調だった選手はミラノ〜サンレモで勝っていない。例えば、2018年のエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)は、ミラノ〜サンレモまでに5勝あげていたが19位に沈んだ。2017年のペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)は、直前のティレーノ~アドリアティコでステージ2勝、3位以内に4回入り、ポイント賞を獲得するなど好調のまま挑んだが、クウィアトコウスキーとのスプリントに敗れ2位だった。2015年のクリストフはミラノ〜サンレモまでに5勝をあげていたが2位だった。

2017年大会、ペテル・サガン(左)は優勝したミカル・クウィアトコウスキー(中央)とハンドルを投げあいながらも、わずかな差で敗れた Photo : Yuzuru SUNADA

 ミラノ〜サンレモは集団スプリントに持ち込まれるケースが多いとはいえ、トレインを組んでスプリンターを発射するような展開にはなりにくい。調子が良い選手はライバルたちからのマークが厳しくなることで、勝ちにくくなっているのかもしれない。もしくは、290km走った後にスプリントできる身体に仕上げるためのアプローチと、通常のステージレースのように150〜200km程度走った後にスプリントできる身体に仕上げるためのアプローチは少し異なるのかもしれない。

 ちなみに2009年に勝利したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チーム コロンビア・HTC)は、ミラノ〜サンレモまでに5勝をあげていた。結果的に同年はシーズン23勝を飾るほどのずば抜けた存在だった。それほどの力があれば、ライバルたちのマークを物ともせずに勝利することができるのかもしれない。

 また、同大会を連覇した選手は2000、2001年に勝利したエリック・ツァベル(ドイツ)以来誕生していない。昨年はスプリンターではないニバリが逃げ切り勝利を決めたように、とても番狂わせが起きやすいレースでもある。

ヴィンチェンツォ・ニバリはグランツールでは何度も総合優勝した経験を持つ実力者であるが、スプリンタークラシックのミラノ〜サンレモで大番狂わせの逃げ切り勝利を飾った Photo : Yuzuru SUNADA

 パリ〜ニースとティレーノ~アドリアティコで集団スプリントに絡んでいるが、シーズン1勝もしくは未勝利といった選手はミラノ〜サンレモで活躍するかもしれないので要チェックだ。

番狂わせの少ない王、番狂わせの多い女王

 北のクラシックの特徴は、石畳区間が登場することだろう。「クラシックの王様」と名高いツール・デ・フランドルでは石畳に加えて激坂の上りが多数登場。「クラシックの女王」と呼ばれるパリ〜ルーベは石畳区間が合計30区間ほど登場し、全長は50kmを越える。別名を「北の地獄」だ。それぞれが北のクラシックの頂点に君臨する伝統のレースとなっている。

ツール・デ・フランドル優勝者と主な成績

2018年:ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ)
→E3ハーレルベーケ優勝、ほか1勝
2017年:フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)
→E3ハーレルベーケ2位、ほか2勝
2016年:ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)
→E3ハーレルベーケ2位、ヘント〜ウェヴェルヘム優勝
2015年:アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)
→E3ハーレルベーケ4位、ほか9勝
2014年:ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)
→E3ハーレルベーケ9位

 レコードバンク・E3ハーレルベーケ(今季からE3ビンクバンク・クラシック)は、”ミニ”ツール・デ・フランドルと呼ばれるレースだ。過去10年にさかのぼってみても、E3で優勝してフランドルでも勝った選手は4人、E3で10位以内でフィニッシュしてフランドルに勝った選手は9人だ。E3はフランドル前哨戦として、試金石となっている。

2014年のツール・デ・フランドルではいつもの独走勝利ではなく、ベルギー人選手3人とのスプリントを制して勝利したファビアン・カンチェラーラ Photo : Yuzuru SUNADA

 また、フランドルに勝った選手は、それまでに少なくともシーズン1勝以上をあげているケースが多い。2014年のカンチェラーラはシーズン未勝利のままフランドルに勝利したが、前年度王者であり番狂わせという印象はない。モニュメントでの勝利経験がなく、シーズン未勝利のままフランドルを勝利したケースは、過去10年では2011年のニック・ナイエンス(ベルギー)のみ。比較的、番狂わせの少ないレースといえよう。純粋にフランドルまでのレースで調子の良い選手が勝ちやすいのだ。

パリ〜ルーベ優勝者と主な成績

2018年:ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)
→ツール・デ・フランドル2位、ヘント〜ウェヴェルヘム優勝、ほか1勝
2017年:グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)
→ツール・デ・フランドル2位、ヘント〜ウェヴェルヘム優勝、E3ハーレルベーケ優勝、オンループ・ヘット・ニュースブラッド優勝
2016年:マシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
→特になし
2015年:ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)
→ツール・デ・フランドル7位、ヘント〜ウェヴェルヘムDNF、ミラノ〜サンレモ優勝、ほか1勝
2014年:ニキ・テルプストラ(オランダ、オメガファルマ・クイックステップ)
→ツール・デ・フランドル6位、E3ハーレルベーケ2位、ほか3勝

 パリ〜ルーベに関しては、ミラノ〜サンレモ、ヘント〜ウェヴェルヘム、フランドルなど250kmを超えるレースで好成績を残している選手が結果を出しているように見える。過去10人の勝者のうち、6人が250km以上のレースのいずれかに勝利している。長距離レースを勝てる身体に仕上がっていないと、パリ〜ルーベでは戦えないのだ。

トム・ボーネンら実力者とのスプリントを制し、ジャイアントキリングを成し遂げたマシュー・ヘイマン(右) Photo : Yuzuru SUNADA

 一方で、2011年のヨハン・ヴァンスーメレン(ベルギー、ガーミン・サーヴェロ)、2014年のテルプストラ、2016年のヘイマンなどアシスト選手が大金星をあげるケースも多い。パリ〜ルーベを勝つには運も必要といわれているように、石畳が連続するコースでは、たとえ有力選手といえども落車やメカトラでレースが終わることもある。そのため、番狂わせが生じやすいのだろう。

 北のクラシックに関しては、前哨戦となるレースでの結果がかなり重要となる。特にミラノ〜サンレモ、E3ビンクバンク・クラシック、ヘント〜ウェヴェルヘム、ツール・デ・フランドルでの有力選手の動向はチェックしておきたい。

混戦になりやすい最古のクラシック

 春のクラシックシーズンを締めくくるリエージュ~バストーニュ~リエージュ(以下、LBL)の特徴は、アルデンヌ丘陵地帯を走り、2km以上の上りが無数に登場し、レース距離は260km弱、獲得標高は4500mに達する上りに強い選手向きコースであることだ。「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」という愛称を持ち、1892年から開催されている最も歴史の長いレースだ。

 そして、LBLの1週間前に開催される250〜260kmのレース距離と無数のアップダウンとコーナーが待ち受けるアムステルゴールドレースと、同週に開催される最大勾配26%の激坂「ユイの壁」にフィニッシュするフレーシュ・ワロンヌ、そしてLBLの3連戦を「アルデンヌクラシック」と一括りにして呼ぶのが一般的だ。

LBL優勝者と主な成績

2018年:ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)
→ワロンヌ41位、アムステル33位
2017年:アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスターチーム)
→ワロンヌ優勝、アムステル19位、ブエルタ・ア・パイス・バスコ1勝&総合優勝、ボルタ・ア・カタルーニャ3勝&総合優勝、ほか1勝
2016年:ワウト・プールス(オランダ、チーム スカイ)
→ワロンヌ4位、アムステル41位、ボルタ・ア・カタルーニャ1勝、ほか3勝
2015年:アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスターチーム)
→ワロンヌ優勝、アムステル2位、ボルタ・ア・カタルーニャ3勝、ほか1勝
2014年:サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
→ワロンヌ未出場、アムステル3位、ツアー・ダウンアンダー1勝&総合優勝
2013年:ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)
→ワロンヌ4位、アムステルDNF、ボルタ・ア・カタルーニャ1勝&総合優勝、ほか未勝利
2012年:マキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナプロチーム)
→ワロンヌ13位、アムステル11位、ほか未勝利
2011年:フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファルマ・ロット)
→ワロンヌ優勝、アムステル優勝、ティレーノ〜アドリアティコ1勝、ほか3勝
2010年:アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)
→ワロンヌ未出場、アムステル未出場、ほか2勝
2009年:アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
→ワロンヌ2位、アムステル10位、ほか未勝利

 優勝者のレース成績はバラバラで、なかなか相関関係を見出すことができない。

 一ついえることは、アムステルゴールドレースを勝ち切るタフネスさと登坂力を持ちながら、フレーシュ・ワロンヌを制するパンチ力を兼ね備えた選手はLBLでも勝ちやすいといえるかもしれない。2011年のジルベールは怒涛のアルデンヌクラシック3連勝を飾り、2015年のバルベルデはそれに匹敵する好成績を残しているからだ。

アルデンヌクラシック3連勝の偉業を成し遂げたフィリプ・ジルベール。2、3位に入ったシュレク兄弟が束でかかっても太刀打ちできなかい圧倒的な強さを見せた Photo : Yuzuru SUNADA

 一方で2009年のシュレク、2012年のイグリンスキー、2018年のユンゲルスはいずれもラスト10〜20kmを切ってから独走に持ち込んで勝利した。そして、3人ともそれまでシーズン未勝利のままLBLで勝っている。プールス、マーティン、ヴィノクロフは決して当時は同大会の優勝候補の本命とは見られていなかったが、サバイバルな展開を勝ち抜いた。

 歴代の勝者の脚質を見渡してもパンチャー、クライマー、ルーラーとタイプは様々だ。タフな上りの連続に耐え抜く力を持っていれば、十分に勝機はあるといえよう。

 2011年ジルベールや2015年バルベルデのように圧倒的な結果を残している場合は、優勝候補の筆頭といえるかもしれないが、そういった突出した選手がいない場合は、展開が読めない混戦が予想される。

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