サイクルロードレース年末年始コラム<6>2018年北のクラシック名場面を振り返る ウルフパックの大暴れと、それを抑えたボーラのチーム戦略

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 2018年北のクラシック名場面を振り返るというテーマのもと、レコードバンク・E3ハーレルベーケ、ツール・デ・フランドル、パリ〜ルーベでの印象的な走りを見せた選手たちを紹介したいと思う。今回は、北のクラシックにおけるアシストの役割とチーム戦略に着目した。

ツール・デ・フランドル優勝のニキ・テルプストラ(左)と、パリ〜ルーベ優勝のペテル・サガン(右) Photo: Yuzuru SUNADA

フィニッシュまで72km地点で攻撃開始

 レコードバンク・E3ハーレルベーケは、ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ)が72km逃げて、最後は独走勝利を飾った。

 中盤に大規模な落車が発生し、メイン集団が大きく2つに割れた。クイックステップ勢は難を逃れ、第1集団に多くの選手を残すことができた。遅れた選手たちを引き離すためにハイペースで第1集団をけん引し、楽ではない展開を築いていた。

長距離逃げを敢行したニキ・テルプストラ(左)とイヴ・ランパールト(右) Photo : Yuzuru SUNADA

 そうして、残り72km地点の石畳の激坂区間でイヴ・ランパールト(ベルギー)とテルプストラがアタック。その時点では、序盤から逃げている選手が2人先行している状況だった。通常であれば、逃げ集団を吸収してから攻撃を仕掛けるのがセオリーだ。逃げを吸収する前にアタックすると、メイン集団を置き去りにするだけでなく、追いついた逃げメンバーも置き去りにして独走に持ち込む必要が出てくるため、単純に手間が増えるからだ。

 だが、ランパールトとテルプストラは非常に高い独走力を持った選手であるため、少人数の集団を置き去りにして独走に持ち込むことは得意としていた。すぐに先頭2人に追いついて、残り62km地点では2人を振り切ってランパールトとテルプストラが先行する展開となった。

 テルプストラが置き去りにしたメイン集団には、チームメイトのフィリップ・ジルベール(ベルギー)とゼネク・スティバル(チェコ)が健在。先頭のテルプストラたちにブリッジしようと、ライバル選手たちがアタックを仕掛けようものなら、ジルベールとスティバルが必ずチェックに入って、けん制していた。先行する2人を追うメイン集団の方がはるかに人数が多いにもかかわらず、タイム差は30秒前後から縮まらないままだった。

ライバルのアタックをことごとく潰していたフィリップ・ジルベール Photo : Yuzuru SUNADA

 途中で力尽きたランパールトを切り離し、テルプストラは独走を開始。それでも、集団との差は30秒前後のまま。残り10kmを切ると、いよいよメイン集団内でアタックが活発になる。しかし、ジルベールとスティバルが全てのアタックを潰してブリッジを許さない。

 そうして、テルプストラは逃げ切って独走勝利を飾った。20秒後にメイン集団がフィニッシュ地点に到達。終始チェックに回っていたジルベールがきっちりと2位に入って、クイックステップはワンツーフィニッシュを決めた。

テルプストラとジルベールで、ワンツーフィニッシュを飾ったクイックステップフロアーズ Photo : Yuzuru SUNADA

 北のクラシックでのクイックステップの戦い方はとてもシンプルだ。テルプストラ、ランパールト、ジルベール、スティバルといった実力者を複数人起用し、レース序盤から積極的に集団前方をキープし、E3でテルプストラとランパールトにアタックさせたようにフィニッシュまで遠く離れた地点から奇襲のような先制攻撃を仕掛ける。残った選手が抜け出した選手を追う集団の抑え役となり、力も温存させる。E3を例にとると、仮にテルプストラが集団に吸収されたとしても、ジルベールかスティバルがカウンターで抜け出すこともできるだろう。このように特定のエースを勝たせる狙いではなく、チームの誰かが勝てばいいという考えで、エースとアシストの役割をスイッチさせながらレースを展開できることが、クイックステップの強みである。

 「チームの誰かが勝てばいい」という考えをチームに浸透させることは簡単なことではない。なぜならサイクルロードレースはチームスポーツといえども、個人成績を競う競技であるからだ。そこでクイックステップは「貪欲に勝利を狙う」「チームで勝利を狙う」という意味を込めて、「ウルフパック」(狼の群れ)というテーマを掲げた。加えてジルベールとスティバルのように、他のチームであれば絶対的な単独エースとして起用されるほどの実力者が、集団の抑え役というある意味自己犠牲の必要な役割を率先して果たすことで、「ウルフパック」のマインドをチームの隅々まで浸透させているのだ。

 数年前までのクイックステップとは大違いで、今のクイックステップの牙城を崩すことは容易なことではないのだ。

またもテルプストラの独走勝利

 E3の1週間後は北のクラシックの大一番、ツール・デ・フランドルだ。ここでもE3を制したテルプストラが独走勝利を飾った。

ヴィンチェンツォ・ニバリのアタックをチェックするニキ・テルプストラ Photo : Yuzuru SUNADA

 レース展開もE3とよく似ていた。度重なる集団落車のアクシデントがあり、人数を減らしていくメイン集団をクイックステップ勢が終始コントロール。残り28km地点で、集団からヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)が仕掛けたアタックを、テルプストラがチェックした。この時点でも、まだ3人逃げいている状況だった。

 ニバリがパンクで脱落すると、テルプストラは単独で先頭3人にブリッジ成功。前週と全く同じパターンでやられるわけにいかないメイン集団のライバルたちが追走を試みるも、やはりジルベールとスティバルがきっちり対応し、ブリッジを許さない。

 残り17km地点で先頭3人に追いついたテルプストラはそのまま3人を置き去りにして独走開始。ジルベールとスティバルが抑えるメイン集団からは誰も抜け出すことができぬまま、テルプストラが独走勝利を飾った。ジルベールは集団先頭をきっちり取り、3位表彰台を獲得。

大一番での勝利を喜び合う、左からジルベール、テルプストラ、スティバル Photo : Yuzuru SUNADA

 E3とほとんど同じパターンで、クイックステップの完封勝ちだった。質量ともに勝るクイックステップの戦力に加えて、「ウルフパック」の連携がハマると、ライバルチームはわかっていても手出しできないのだ。

ベテランがお膳立てした世界王者の反撃

 北のクラシックの大トリを飾るパリ〜ルーベ。勝者はクイックステップではなく、ボーラ・ハンスグローエのペテル・サガン(スロバキア)だった。

 ただ、この日も最初に仕掛けたのはクイックステップだ。残り95km地点の5つ星の難所「アランベール」でジルベールを含む3人の選手が集団から抜け出した。クイックステップ得意の先制攻撃だ。

 ボーラ・ハンスグローエはアシストにダニエル・オス(イタリア)とマルクス・ブルグハート(ドイツ)の2人しか残っていなかった。クイックステップはゼネク・スティバル(チェコ)、ニキ・テルプストラ(オランダ)ら4人ほど選手を残しており、ボーラ・ハンスグローエの数的不利は明らか。まともに対応しては、勝ち目がない。

 そこで、オスとブルグハートはメイン集団のペースが落ちてくると、アタックを仕掛けた。他のチームの選手たちに追走、そしてカウンターアタックを誘発させることで集団のスピードアップを図っていた。オスとブルグハートは要所要所で力を開放し、先頭固定で集団を引課されることを避けて体力温存しながら、集団のスピードを維持するベテランらしい巧みな集団コントロール術を見せていた。

ダニエル・オスとともに、巧みな集団コントロールを見せていたマルクス・ブルグハート Photo : Yuzuru SUNADA

 2人は時折、集団に活を入れるようなアタックを繰り返しながら、20kmほど走ったところでジルベールたちを集団に引き戻すことに成功。すると、スティバルがカウンターアタックで飛び出した。単独で1分差の先頭集団へのブリッジを狙っていた。

 そこでも同じように、オスとブルグハートが代わる代わるアタックしながら、集団のスピードをキープ。うまくライバル選手たちのカウンターアタックを誘い、集団の力を利用してスティバルとの差を最小限にとどめていた。10数km走ったところで、見事にスティバルを吸収。フィニッシュまで残り60kmを切っていた。

仕掛けのタイミングを図っていたが、ボーラ・ハンスグローエに封じ込められてしまったニキ・テルプストラ Photo : Yuzuru SUNADA

 ここで、ブルグハートが先頭固定のまま石畳区間に突入。クイックステップ第3の矢であるテルプストラのカウンターアタックを阻止するための動きだった。石畳区間が終わりペースを緩めると、クイックステップ勢に先んじてグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)らがアタック。テルプストラはアタックをチェックする側に回らざるを得なかった。

 ヴァンアーヴェルマートたちのアタックが落ち着いた瞬間を狙いすましたかのように、サガンが単独で飛び出すことに成功。一気に先頭の逃げ集団に合流すると、スイス王者のシルヴァン・ディリエ(アージェードゥーゼール ラモンディアール)と協調体制を築いて、メイン集団とのタイム差を開いていった。

 ジルベールとスティバルが消耗した状態では、クイックステップに集団を率いてサガンを捕まえるだけの力は残っていなかった。ヴァンアーヴェルマートら有力選手の追走集団にテルプストラを送り込むことが精一杯の抵抗。

 サガンは最後までディリエと協調しながら1分近いタイム差を築いて、フィニッシュ地点のヴェロドロームに到達。ディリエをスプリントで下してパリ〜ルーベ初優勝を飾った。テルプストラはヴァンアーヴェルマートらを置き去りにして、どうにか3位表彰台を確保した。

パリ〜ルーベ初優勝を飾ったペテル・サガン Photo : Yuzuru SUNADA

 圧倒的な戦力を誇るクイックステップに対して、ボーラ・ハンスグローエはオスとブルグハート、2人のベテランの巧みな集団コントロールによってクイックステップの攻撃を封じ、最後は世界王者であるサガンの圧倒的な個の力で突破する見事なレース戦略を見せたのだった。

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