サイクルロードレース年末年始コラム<7>フルームがトーマスを、アダムがサイモンをアシスト 2018年グランツール名場面を振り返る

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 2018年グランツール名場面を振り返るというテーマのもと、ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャで印象的な走りを見せた選手たちを紹介したいと思う。今回は、総合争いの最終局面におけるエースとアシストの関係に着目してみた。

ジロ・デ・イタリアに出場したトム・デュムラン(左)、ツール・ド・フランスに出場したクリストファー・フルーム(中央)、ブエルタ・ア・エスパーニャに出場したアダム・イェーツ(右) Photo: Yuzuru SUNADA

敗北を悟り、チームメートをアシストするエースの姿

 第19ステージで、ラスト80kmを独走したクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)の歴史的なステージ優勝は明らかな名場面だが、今回はトム・デュムラン(オランダ、チームサンウェブ)にフォーカスを当てたい。

 その第19ステージはフルームにとって最高の一日となったが、デュムランにとっては最悪な1日となった。

 未舗装路のフィネストレ峠でフルームがアタックした時、その背後にいたのは他ならぬデュムランだった。まさか残り80kmを一人で逃げ切るだなんて、全く予想していなかっただろう。無謀に見えたアタックを見送ったことは真っ当な判断に思える。

 フルームを追走するメンバーは、ティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ)と、そのアシストのセバスティアン・ライヒェンバッハ(スイス)、新人賞争いを繰り広げるリチャル・カラパス(エクアドル、モビスターチーム)とミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナプロチーム)、そしてデュムラン。みなフルームを追いたい理由があるはずだった。協調すれば、フルームに追いつけると計算したことも自然な判断に思える。

セバスティアン・ライヒェンバッハは苦悶の表情で先頭を引いていた Photo : Yuzuru SUNADA

 ところが、フルームとの差は縮まるどころか、じわじわと広がっていった。ライヒェンバッハは既にヘロヘロで、前を引かせてもペースが上がらず。カラパスとロペスは互いの新人賞ジャージ争いに熱中し、フルームのことなど眼中にない様子でローテーションに加わらず。唯一ピノだけは協力的だったが、お荷物3人を抱えながらではペースが上がるはずもなかった。

 デュムランはお荷物の3人とピノを振り切って単独でフルームを追うことはしなかった。フルームがこのペースで最後まで行くはずはないという期待があったからだろう。まさか、チーム スカイとフルームがこの日に合わせて精密な計画のもと完ぺきなコンディションに仕上げ、80km独走が狙っていた作戦だったとは誰も思わないだろう。

 結局、デュムランはフルームから3分以上遅れてフィニッシュ。2分以上あったタイム差を逆転され、40秒差の総合2位となった。

ジロ・デ・イタリア第20ステージ、後方にいるチームメイトのために先頭を引くトム・デュムラン Photo : Yuzuru SUNADA

 翌日、最後の上りでデュムランはフルームに対して猛攻を仕掛けた。アタックに次ぐアタックを繰り出すも、フルームは全てに遅れずに対応していた。いよいよ万策尽きたデュムランは、メイン集団の先頭に立ってけん引開始。チームメートのサム・オーメン(オランダ)は総合9位。先行する総合10位のダヴィデ・フォルモロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)に総合成績を逆転されないようにと、デュムラン自らチームメートをアシストしていたのだった。

結果に納得していない時は、たとえオリンピックでも世界選手権であろうと、憮然とした表情をするデュムランだが、ジロの表彰式では終始笑顔だった Photo : Yuzuru SUNADA

 やれることはやり尽くした。悔いなきデュムランは、総合2位の表彰台でも晴れやかな表情を見せていた。

4度の総合王者が6年ぶりのアシスト

 歴史的な独走勝利をあげ、ジロ総合優勝を飾ったフルーム。かねてからの懸案だったサルブタモール問題も解決し、総合4連覇を目指してツール・ド・フランスに出場した。

道路の外へはじき出されて落車したクリストファー・フルーム Photo : Yuzuru SUNADA

 ところが、第1ステージから落車に見舞われ1分以上タイムを失ってしまう。フルームだけでなく総合を狙うライバルたちも様々なトラブルに巻き込まれていたが、チームメイトのゲラント・トーマス(イギリス)は難を逃れながら、総合2位をキープしたまま1週目を終えた。

 最初の本格的な山岳ステージとなった第11ステージでは、ラスト1kmでスパートをかけたトーマスがステージ優勝。更に翌日の第12ステージも連勝。トーマスは総合首位に浮上し、総合2位のフルームとのタイム差は1分39秒まで開いていた。フルームといえば、2012年ツール・ド・フランスでブラッドリー・ウィギンス(イギリス)との確執があっただけに、この日以降はフルームとトーマス、果たしてどちらがエースなのか、連日のように質問攻めにされることとなった。

 2回目の休息日。フルームとトーマスは2人仲良く記者会見に出席。トーマスが「われわれのどちらか一方が勝ちさえすれば問題ない。このレース(ツール)で勝利を収めることが最重要」と答えると、フルームも同意した上で「チーム スカイのライダーがパリの表彰台の頂点に立ちさえできれば、私は幸せだ」と語っていた。両者の雰囲気を問われた際は「いまはちょっとね…」とトーマス流のジョークで応じるなど、両者の間にわだかまりは無かった。

第17ステージ、トーマスの後ろで苦しそうな表情を浮かべるフルーム Photo : Yuzuru SUNADA

 第17ステージ、グリッドスタートが採用された65kmのショート山岳ステージで、フルームはトーマスに「今日は調子が悪い」と耳打ちした。すると、フィニッシュまで残り3km地点でフルームは失速。トーマスはステージ3位に入り、リード拡大した一方で、フルームは総合3位に転落してしまった。

 最後の山岳ステージとなった第19ステージで、フルームがトーマスのために前を引く姿が見られた。6年前に険悪な雰囲気になりながらも、ウィギンスをアシストした時以来の、ツールでアシストするフルームの姿だった。プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ロットNL・ユンボ)の独走を許した際も、フルームは積極的に集団けん引を担った。

 第20ステージの個人タイムトライアルではフルームは果敢に攻め抜き、ステージ優勝のデュムランと1秒差の2位となった。トーマスはトップから14秒差のステージ3位にまとめ、総合優勝が確定的になった。フィニッシュ後に、フルームはトーマスのもとに駆け寄ると笑顔で言葉をかけたあと、2人はがっしりと抱き合っていた。

パレード走行中にマイヨジョーヌのトーマスと乾杯するフルーム Photo : Yuzuru SUNADA

 最終ステージ、パリ・シャンゼリゼに向けてパレード走行中、スカイではもはや毎年恒例となっているチームメート全員横になってシャンパンで乾杯。トーマスのグラスをフルーム自ら片付ける姿も見られた。フルームは第17ステージを機に、最後までトーマスのアシストを全うしたのだった。

兄弟の連携で掴んだ頂点

 アダム・イェーツ(イギリス)は、2016年ツールで新人賞を獲得。イギリス自転車界の新たなスター候補として期待を集めていた。アダムと双子の兄弟であるサイモン・イェーツ(イギリス)は、トラック競技を中心に活動していたこともあり、ロードレースでの目立った実績は無かった。それでも2017年ツールでサイモンも新人賞を獲得。2年連続で兄弟で新人賞獲得という快挙を成し遂げた。

2016年ツール・ド・フランスでマイヨブランを獲得したアダム・イェーツ Photo : Yuzuru SUNADA

 2018年になると、サイモンの秘められし力が覚醒。ジロでは圧巻の登坂力を見せつけステージ3勝を飾り、総合首位を突き進んでいた。しかし、序盤から飛ばし続けたツケが回り、第3週は疲労困ぱいの状態に。第19ステージでは30分以上タイムを失い、総合優勝の夢は露と消えた。

 アダムはツールでの総合を狙って調整していた。直前のクリテリウム・デュ・ドーフィネでステージ1勝をあげ、総合でも2位となり上々の仕上がりに見せていた。しかし、肝心のツールではほとんど良いところがなく総合29位に終わる。いつの間にか通算勝利数でもサイモンの11勝に対し、アダムは7勝と水をあけられはじめていた。

 そして、ブエルタ・ア・エスパーニャには兄弟揃って出場。ジロとは打って変わって集団内で落ち着いてレースをこなすサイモンの姿があった。第9ステージで総合首位に浮上するも、第11ステージではヘスス・エラダの逃げ切りをあえて容認し、リーダージャージを明け渡した。戦略的に体力を温存しながら走っていたのだ。

第14ステージ、単独アタックを決めるサイモン・イェーツ Photo : Yuzuru SUNADA

 大会後半を迎えるにつれ、いよいよサイモンは力を開放した。第14ステージで勝利すると、勝負の最終週では積極的な走りが光り、総合首位を堅守。総合2位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスターチーム)に1分38秒差をつけて、第20ステージを迎えた。97.3kmのコースに6つのカテゴリー山岳が詰め込まれている難関ステージだった。

 4つ目のカテゴリー山岳である1級山岳の上りでは、アスタナプロチームのペースアップによってサイモンのアシストはアダム1人のみとなっていた。そうして、総合5位のミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナプロチーム)自らアタックを仕掛け、前待ちしていたチームメートと合流し、集団との差を開きにかかった。

 アダムはサイモンを守りながら一定ペースでロペスら先行集団を追走。山頂に到達する前に、ロペスを集団に引き戻した。アスタナがアシストを総動員して仕掛けた攻撃をアダム1人で打ち砕いたのだ。

写真は第17ステージでサイモンをアシストするアダムPhoto : Yuzuru SUNADA

 1級山岳の下りでは、ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスターチーム)がアタック。下って、また上りに入るとロペスが再びアタックして、先頭のキンタナにジョイン。その間もアダムはずっと集団の先頭で仕事をしていた。ロペスたちとのタイム差を最小限に食い止めながらも、アダムは限界に近づいていた。すると、サイモンがアタックを仕掛けた。総合4位のエンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ)のみが反応できて、バルベルデを完全に置き去りにすることに成功。あっという間に先頭2人に追いついた。キンタナはバルベルデを助けるために下がったため、サイモン・ロペス・マスの3人は協調しながら後ろを突き放す。

 最後の上り区間に到達すると、総合ジャンプアップを狙うロペスとマスは全開で上っていく。サイモンは逆転されない程度に力を抑えながら走り抜き、ステージ3位でフィニッシュ。初のグランツール総合優勝を決めた。サイモン自身の強さも際立っていたが、兄弟での抜群の連携が光った戦いだった。

 今は2人の実績に大きな差が生まれている。アダムは「いつかサイモンをやっつけたい!」とインタビューで語り、それにサイモンは「Mano a mano(一騎打ち)でね!」と答えていた。2人は兄弟という強固な絆で結ばれつつ、最強にして最高のライバルでもあるのだ。

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