栗村修さん選出・サイクリストへお勧め図書⑮スポーツノンフィクション『エスケープ』 濃密な取材と分析から導き出される真実とドラマ

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 自転車関連のおすすめ図書を紹介していく人気連載「サイクリストへお勧め図書」2019年編、新春第2弾、栗村修さんに選んでくれたのは、佐藤喬氏著の『エスケープ』。読んだ方も、まだ読んでいない方にも楽しんでいただける魅力をたっぷり語っていただきます。

佐藤喬氏著のスポーツノンフィクション

『エスケープ』(辰巳出版)。岩手・八幡平で開かれた2014年の全日本選手権ロードレースの模様を最初から最後まで詳細に追ったノンフィクション Photo: Osamu KURIMURA

 私自身、これまで数多くの自転車関連書籍を読んできました。また、著書を始めとしていくつかの出版作業にも関わってきました。そんな私のこれまで経験の中で、良い意味で異彩を放っている一冊の書籍があります。2014年の全日本選手権ロードレースの模様を最初から最後まで詳細に追った佐藤喬氏著のスポーツノンフィクション『エスケープ』です。

「すべてのロードレーサーが渇望するタイトルである全日本選手権ロードレース。2014年の同大会にも、ナショナルチャンピオンジャージを狙う、多くの有力選手たちが集まっていた。だが、悪天候や選手たちの思惑のズレから、レースは意外な展開を見せる。選手たちの思惑と葛藤を描くスポーツノンフィクション。本書では、主要選手への取材に基づき、逃げ集団とメイン集団の中でどのようなドラマが展開されていたかを描く」(要旨より引用)

 海外のメジャーな自転車ロードレースをはじめ、多くのメジャースポーツの周辺には、「本番=試合中の情報」のほかに試合前後の情報、すなわち、推測・分析などを含んだ濃密な情報が溢れかえっています。スポーツとはむしろ試合の前後にこそ価値があるのではないか、と思えるほど、大きなスポーツイベントになればなるほど、アスリートひとりひとりが持つドラマがクローズアップされます。

 そして、自転車ロードレースというスポーツにも「レース後の答え合わせ」という、本来であれば他のスポーツ以上になくてはならない重要な作業が待ち受けています。正直、これを行わなければレースの本質を知り得ることはできない、と思えるほど重要だったりします。

 それはなぜか? このスポーツには「レース中に起こる真実を全て目撃できる人はいない」という現実があるからです。スタジアムスポーツでもない、アリーナスポーツでもない、移動しながら広域にわたってゲームが展開される特性上、全てをリアルタイムで目にできる者はいないのです。

リザルトだけでレースの本質は語れない

 また、ルール上は個人競技であるのに実態はチームスポーツであったり(公式にアシスト選手が評価される基準は定められていない/他の団体競技であれば「勝利=チームの勝利」になるが、自転車ロードレースはルール上はあくまで「勝利=個人の優勝」)、レース中に利害が一致すれば一時的に敵が味方になったり、それらをチームの監督はリアルタイムで目撃できない、などといった複雑な要素を多く含んだスポーツなのです。

レースの展開のように記されている目次 Photo: Osamu KURIMURA

 そういった意味で考えると、この自転車ロードレースは多くのミステリーに包まれており、それらが時に「真実の10%も反映されていない『リザルト』という紙切れ数枚」に集約されてしまうわけです。もちろん、「リザルトには全てが集約されている」と主張する人もいるかもしれませんが、しかし、私自身はリザルトだけでレースの本質を語れるとは思っていません。やはり、濃密な取材や分析などから導き出される真実とドラマが見えてこなければ、本当の意味でのリザルト(答え合わせ)はアウトプットできないと感じています。

 2014年の「全日本選手権ロードレース」を題材に生み出された、この素晴らしいスポーツノンフィクションは、単にこのレースを観戦していただけでは見えてこなかった“真実”を克明に描いた「真のリザルト」だといえるでしょう。

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