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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<20>世界一走行困難な“風の大地”パタゴニアの「恐風」

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 世界中でどこが一番走るのが大変だったかと聞かれたら、僕は“風の大地”パタゴニア(※)と答える。パタゴニアを走る際、山脈を越えるのとはちょっと違い、事前の計画から重要になってくる。それはパタゴニアを南下するか北上するかをまず決めなくてはならない。僕はアラスカから南下して最南端のウシュアイアを目指していたが、逆の人もいる。しかし、何も考えないでスタート地点を決めてしまうとパタゴニアで泣くことになるのだ。

世界遺産のペリトモレノ氷河。この青い氷河はパタゴニア観光のハイライトだ Photo: Gaku HIRUMA

※南アメリカ大陸、コロラド川以南の地域の総称

パタゴニアでは南に進め

 どちらがお薦めかと聞かれたら、断然南下だ。これはパタゴニアには常に西から偏西風がもたらす暴風が吹いているからだ。南下の場合、どこからパタゴニアに入るかにもよるが、大体最南端のウシュアイアまでの進路は南南東を取ることになる。一方北上になると逆に北北西の進路になるため、西風では向かい風になることが多い。

 南南東へ向かうといってもほとんど横風だ。しかしほんの少しでも東に向かうと、わずかながら後ろから吹かれるので多少は楽に走ることができる。パタゴニアの向かい風は日本で体感するそれとは全く異なり、本当に地獄だと思う。大体サイクリストの一日の走行距離の平均は100km前後を目標にする人が多いが、パタゴニアで一日向かい風の日は、一日走ってもたったの10数kmしか進めなかった、なんてことはザラらしい。

トレスラゴスからカラファテまでは完全舗装路だったが、常に向かい風で苦しんだ Photo: Gaku HIRUMA

 そして暴風とセットになって襲い掛かるのが、500km近い無人地帯だ。「手の洞窟」という古代人の残した手形が残る世界遺産の洞窟の拠点となるペリトモレノという街から、パタゴニア観光のハイライトであるペリト・モレノ氷河があるカラファテという街の手前のトレスラゴスまで。事前に手に入れた地図では水が手に入りそうな川はいくつか確認できたが、トレスラゴスがどんな街だか分からなかったので、念のためカラファテまでの620km分の水と食料を積んだ。

 ほぼ未舗装路だが、途中アスファルト区間もあるので一日約80kmは進めるだろうと計画を立てて8日分の食糧を買い込んだ。パスタ4kg、パン3kg。休憩時に食べるビスケットの枚数さえ事前に決めて、余分なものは買い足さなかった。

1時間でわずか5km

 「走る前は風が強いといっても雨が降るわけじゃないし、余裕だろ」くらいに思っていたが、正直いって風がこんなにも恐ろしいものだと思いもよらなかった。ペリトモレノを出発してから300kmは思った以上に舗装が進んでおり、予想に反して一日100kmは走れたので楽勝かと思ったが、そこから本当のパタゴニアの恐怖が始まった。

舗装路は突然終わる。大げさではなく2倍くらい自転車が重く感じる Photo: Gaku HIRUMA

 360度の荒野に吹き荒れる暴風はいとも簡単に重量級の自転車を押し倒し、1時間で5kmほどしか進めなかった。にもかかわらず、真っ直ぐなオフロードは非情にも地平線まで果てしなく伸びる。ごくたまに通っていくツーリストバスの中から拍手喝采を浴びる。そんなところだ。

遮るものが何もないので、少しでも風が避けられる窪地にテントを張る Photo: Gaku HIRUMA

 なんとか少しでも風が避けられる窪地にテントを張るが、この暴風の中テントを張るのも命がけだ。まず、テントや装備品を飛ばされないように大きい石を荒野の中から探してくることから始めなくてはならない。

 テントを張り終えても、中からテントを手で押さえてないと本当に壊れるんじゃないかと思うくらい風が一晩中轟音と共にやってくる。恐怖を通り越してノイローゼになりそうだった。明け方ほんの少しだけ風が弱くなるので、ヘッドライトを付けて走り、夕方は早めに少しでも風を避けられる場所を探して必死にテントを張った。

荒野の真っ只中にあるとは信じれらない程、カラファテはお洒落な街だった Photo: Gaku HIRUMA

 それでも一日暴風と戦って60km進むのがやっとだった。すでに半分以上来ているとはいえ、計画よりも走れないと気持ち的にとても焦る。なんとかトレスラゴスまで6日で走り切り、そこからカラファテまで160km程はアスファルトになったが、向かい風で苦しみ抜いた。

 世界遺産の拠点の町カラファテは、今までの荒野が嘘のようなツーリスティックな雰囲気漂う洒落た街だった。この街で数日かけて英気を完全に養い再び最南端のウシュアイアへ向けて荒野へ漕ぎ出していく。

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

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