いつだって、彼は立ち上がった絶対王者への鎮魂歌 それでもボクはランスを信じる

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“ツール7連覇”を成し遂げるなど、サイクルロードレース界の絶対王者として君臨したランス・アームストロングが、過去の偉業のほとんどで禁止薬物を使用していたことを認め、世界中のファンに大きな失望と動揺が広がっています。「Cyclist」ではランスのファンを代表して、当サイトのコラムニスト・福光俊介さんに、ランスへのレクイエム(鎮魂歌)を寄稿していただきました。

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 とにかく必死だった。

 2003年のツール・ド・フランスで、ランスの腕に付けられていた黄色のリストバンド。これが、がん患者支援プロジェクトの一環だと知り、一般販売されるやいなやすぐにアメリカから取り寄せた。ボクだけではなく、他の人にもどうしても賛同してほしくて、何も分かっていない家族や友人にまで身に着けてもらった。いま思えば、がんで親族を失ったりしたこともあって、その苦しさや辛さ、悔しさを多くの人に味わってほしくないという願い故の行動だったのだろう。

「Livestrong」の黄色いリストバンドと、黄色をあしらったウェアやアクセサリーを身に着けて疾走するランス・アームストロング =2010年「Livestrong」の黄色いリストバンドと、黄色をあしらったウェアやアクセサリーを身に着けて疾走するランス・アームストロング =2010年

 LIVESTRONG――“強く生きる”と称したがん患者支援運動は、まさにランス・アームストロングの生き様そのものであり、我々へのメッセージでもあった。

 自転車ロードレースを観るにあたり、“強い者好き”のボクがランスを嫌いになることなんてあり得なかった。昨今のSNS文化とは違い、まだ情報の共有や伝達が手軽にはできなかった時代。他の自転車好きと話をすることもほとんど無かった。だから、誰がどの選手を好きかなど知る由もないし、ボクにとって世界はランスだけだった。1999年のツール初制覇の時から、ずっと―。

 最近の人気バラエティ番組に、「新三大○○」との企画がある。ある1つのテーマに基づいて有識者が印象的な場面をセレクトするコーナーだ。ボクはいつも、テーマが自転車ロードレースであればどんなセレクトができるだろう…と妄想を膨らませている。今となっては99.9%あり得ないが、もし「新三大ランス・アームストロング」というテーマがあって、ボクがそれをセレクトできたならば何を選ぶだろうか?

 3つすべて書き連ねるとキリが無いので、1つだけピックアップさせてほしい。
 
普通は7連覇したツールのシーンから選ぶものだろう。でも、どうやらボクは普通ではないらしい。ランスが走ったレースで真っ先に思い浮かぶのは、引退後に復帰した期間にあたる2010年のロンド・ファン・フラーンデレン。笑われるかもしれないが、本当にそうなのだ。

ロンド・ファン・フラーンデレンでパヴェ(石畳)を走るアームストロング =2010年ロンド・ファン・フラーンデレンでパヴェ(石畳)を走るアームストロング =2010年

 この年のツールの目玉は、前半ステージにパヴェ(石畳)区間が設けられていたことだった。ランスは早くからその対策に乗り出すと明言し、出場したのがロンドであった。難所・コッペンベルグでは激しい石畳と急坂にバイクを降りて走りながらクリアしたり、自ら集団の活性化を狙ってアタックするなど、彼のモチベーションがひしひしと伝わる走りだった。

 上位入賞とはいかなかったが、メイン集団でゴール。慣れない石畳もそつなく乗りこなすマルチぶりに、ファンとしては嬉しさと期待で笑いがこみ上げるような思いだった。レース後のインタビューでファビアン・カンチェッラーラが勝ったことを伝えられると、「ふ~ん、そうなんだ」と意に介さない姿もランスらしかったのである。

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 ランスの走りや存在は、ボクにとって自転車ロードレースを観戦するうえでのモチベーションであり、支えでもあった。でも、どこかで彼が薬物を使用していたのではないか、といった不安と疑いの感情を持ち合わせていたのも事実である。

ツール・ド・フランスを“初制覇”し、シャンゼリゼでポディウムに立つアームストロングツール・ド・フランスを“初制覇”し、シャンゼリゼでポディウムに立つアームストロング

 前述したように、ツール7連覇中は「世界はランス」だったこともあり、雑念など無かったが、2009年の現役復帰以降に次々と沸き上がる関係者からの告発。“お山の大将”だったランスの全盛期を支えた脇役たちの過去についての告白。1人2人が言うレベルであれば「単なるやっかみだろ」と思うところだが、どうにもこうにも事情が違う。そのどれもが具体的で、リアリティに富んだストーリーであった。

 フロイド・ランディスやタイラー・ハミルトンの告発はもちろん、かつてランスと蜜月の関係にあったジョージ・ヒンカピーやリーヴァイ・ライプハイマー、クリスチャン・ヴァンデヴェルデ、デヴィッド・ザブリスキーといった選手までもがチームぐるみでの薬物使用を認めるにいたり、いつしか「ランスのドーピング」が真実なのだと咀嚼するようになっていた。

 昨年8月、USADA(米アンチドーピング機構)がUCI(国際自転車競技連合)に提示した記録抹消に対してランスが戦う姿勢を見せなかった際、それまでの周囲の動きに疲れ切ってしまったのだろうと感じた。薬物使用を認めるでもなく、「もうどうでもいいや!」の心境なのではないかと。しかし今、過去のドーピングを自ら認めたランスは、そこに至るまでの騒々しい期間をどんな思いで過ごしていたのだろうか。ボクには想像が付かない。

米テレビ番組の対談で、薬物使用について語るアームストロング(左)米テレビ番組の対談で、薬物使用について語るアームストロング(左)

 1月17、18日に2回にわたって全米でテレビ放映されたオプラ・ウィンフリーのインタビューを、インターネットのストリーミング中継を介してリアルタイムで視聴した。率直に言えば、ドーピングに関する2人のやりとりは少し論点が浅かったのではないか。オプラに質問・指摘されると、まずはそれを認めるものの、理由については言い訳をしたり、周囲の責任にしたりとあいまいで、結局のところ自分のしてきたことを正当化している、そんな印象だ。

 これは編集者であるボクの職業病的な見方かもしれないが、オプラにはもっと深く突っ込んでほしかった。あと一押しが足りない、観ていて歯がゆさを感じるインタビューだった。数々の著名人とわたり合ってきた彼女にしては、甘さのある態度ではなかったか。

 ただ、ランスがスポンサーや家族、そして今後について触れたインタビュー後編(18日放送分)は、彼の人間味が垣間見える良い内容だったと思っている。確かにこれまで隠してきた薬物使用の重大さは計り知れないが、彼も人間だ。生活があって、家族があって、そして自分がある。やはり“ランス・アームストロング”という人間を感じさせずに今回のインタビューが終わってしまうと、観ているファンの方がスッキリしなかったように思うのだ。少なくともボクは・・・。

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 ルール違反を犯した以上、罰せられなければならない。それはランスだけに限った話ではない。問題の大きさ故、ランス1人が槍玉に挙げられているように思えてしまうが、決してそうではなく、明るみに出たものから1つ1つ事を片付けていかなければならない。この件もそのうちの1つなのである。

 もちろん時間はかかるだろう。今回明らかになったのは、いくつもある証言のほんの一握りだ。ランスが望む自転車レースやトライアスロン、マラソンへの復帰を実現させるためには、すべてをはっきりさせ、さらに「薬物使用はしていない」と語った2009年以降について立証しなければならない。これは彼に課せられた使命なのだ。

 それでもボクはランスを信じる。がんに冒され死の淵をさまよった時、2003年ツールで落車しフレームを破損しながらの戦いを強いられた時、2010年ツールでの度重なる落車で総合争いから脱落した時・・・いつだって、彼は立ち上がった。

ツール・ド・フランスでアームストロングを応援するファン =2005年ツール・ド・フランスでアームストロングを応援するファン =2005年

 どうかその影響力で、これからも世界を動かしてほしい。自分で自分を消してしまうのではなく、愛し続ける自転車競技がよりクリーンに、そしてより魅力的なスポーツとなるように。

ツール・ド・フランスで疾走するアームストロング =2010年ツール・ド・フランスで疾走するアームストロング =2010年

 ランスの思いに共感して肌身離さず腕に巻いていたLIVESTRONGバンド、ランスのようになりたくて大金を費やしたTREKのロードバイク…ボクにとって、自転車ロードレースとランスは切っても切り離せないのだ。だからもう一度、「ランスがそうするならボクも…」と思わせてほしい。自転車への思いを多くの人と共有、そして発信し続けていくために。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)
自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて数十年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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ドーピング ランス・アームストロング

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