title banner

猪野学の“坂バカ”奮闘記<30>世界の“坂バカ”頂上決戦「台湾KOMチャレンジ」開幕 3275mを上り続ける105kmの攻防リポート<前編>

  • 一覧

 いよいよ「台湾KOMチャレンジ」のレース当日! 朝4時に起床する。思いのほか眠りが深く、コンディションが良い。これは行けるかも知れない。そういう時は起きてすぐに分かる。「今日は俺の日だ!」と意気揚々とスタート地点へと移動した。スタート時間は午前6時なので早速、移動の車中で昨日買ったパスタ食べようと思った瞬間、本日一発目の悲劇が襲った。お箸がない…。

世界自然遺産のタロコ渓谷。見る余裕は全くなかった…

箸にもなる自転車ツール

 徐々に事態の深刻さを理解する。これから上る山は105km。朝食抜きなら確実にハンガーノックになる。人生初の海外レース挑戦なのに、お箸がなくてリタイアなんてシャレにならない! 慌てて思考を巡らすが、車内には強面ドライバーしかいない。彼には日本語は通じない。周囲を見渡すと、リスの餌のヒマワリの種が目に入った。しかしヒマワリの種では明らかにカロリー不足だ。箸の代わりになる物を必死で探すが、車内には自転車関連の物しかない。

箸とフォークは付いて来ないが、装飾が派手な台湾のコンビニ

 さて、ここで問題です。私は自転車関連のモノで無事にパスタを食べる事ができました。何で食べたでしょう?

 そう! 正解は六角レンチです。私は工具箱から六角レンチを取り出し、ウェットティッシュで拭き、パスタを貪り食べた。まあ、六角レンチがなくても手で食べていただろう…。それぐらい私はこのレースにかけているのだ。

プロから初級者まで700人が一斉スタート

 なんとかパスタを食べ終えてスタート地点での取材を始めていると、“山の神”こと森本誠師匠や兼松大和さん、矢部周作さん、清宮洋幸さんといった日本のトップクライマー達が現れた。なんとも誇らしく、頼もしい。日本は坂バカ密度が非常に濃い国なのだ。

 そしていよいよ6時、“化け物レース”「台湾KOMチャレンジ」の幕が切って降ろされた! 最初の18kmはパレード走行と聞いていた。パレードだから、のんびりした感じかと思っていたが、実際はとんでもなかった! まずその選手の多さだ。700人の集団が一斉に移動するのだ。ツール・ド・フランスでも200人くらいなので、その3倍以上。しかもこの700人はプロから初級者までがごちゃまぜなのだ。

見よ、このパレード走行の密度!

 みんな気合いが入っているから、少しでも前に出ようとする。前が詰まると誰かがブレーキをかける。すると皆んな一斉に「ぬぉ〜〜い!」といった変な雄叫びを上げる。

 日本で言えば「ブレーキ!」と叫ぶところだが、万国共通なのか、台湾限定なのか? 「台湾KOM」では、ただの雄叫びがあがる。「ぬぉ〜い」という雄叫びがドップラー効果のように前から後ろへとこだまする。「なんだこのパレードは!!」思わず笑ってしまうが、車間距離を長めにとり、気を引き締める。

私も及ばずながら小集団をけん引する!(この5秒後には先頭交代)

 そしてタロコ大橋を渡り、左折した所からいよいよリアルスタート! ものすごいスピードで一気に細くなる集団。集団に少し無理をしてでも喰らい付く。前方を見るとすでに中切れが起きていた。「チッ」と心で舌打ちする。やはり前の方でスタートするべきだったか─。少し脚を使ってブリッジ(合流)しながら、集団から集団を渡り走る。至る所で中切れが起き、小さな集団ができては壊れていく。実にカオスだ! 世界自然遺産のタロコ渓谷の絶景を見る余裕なんて全くない。

激流が大理石を削って生まれた「太魯閣峡谷」を縫うように走る

 ようやく脚の合う集団にまとまりだした頃に、勾配がキツくなり始め、いよいよ本格的にヒルクライムが始まった。小さな集団もパラパラと壊れ始め、いつものヒルクライムの光景になって来た。少し余裕ができたのでカメラバイクに「いま何km地点ですか?」と聞くと「ちょうど60kmです!」という答えが返って来た。

 60km!? 信じられない!もう半分以上走ったのか!? 私は自分に合う集団を見付けるのに集中し過ぎて、あっという間に化け物レースの半分を消化していたのだ。「よし!これは行けるぞ!あと45kmだ!台湾KOMなんて大した事ないではないか!」と思った。

「乗鞍4本とふじあざみライン1本」はウソだ!

ラスト5kmの激坂。九十九折れではなく、直登なのが辛い

 しかし本当の地獄はここからだった。よく台湾KOMの長さを、「乗鞍4本とふじあざみライン1本」と例えられる。ここまでですでに乗鞍を3本消化したことになる。「あと乗鞍1本とあざみ1本!何とか行けそうだ!」と思ったが、実際は違った。

 乗鞍1本は良しとする。しかしあざみライン1本というのは間違いだ。実際は「ふじあざみラインの『馬返し』(最大勾配22%の激坂区間)を3本」というのが正解だ。20%超えの激坂が次から次へと現れ、最後の最後で完全にトドメを刺される。それが台湾KOMなのだ。そして最後の激坂ではとんでもないドラマが待っていた!

 次回、台湾KOM最終章!「激坂死闘編」へと続く。

(写真提供:NHK、猪野学)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00〜18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

関連記事

この記事のタグ

ヒルクライム 猪野学の“坂バカ”奮闘記

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載