メリット・デメリット両面から考察「スカイショック」から考える、自転車チームのスポンサー問題とは?

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 チーム スカイのメインスポンサーを務めるイギリス・スカイ社が、2019年シーズンいっぱいで同チームへのスポンサー契約を終了させることを発表した。2010年のチーム発足以来、ツール・ド・フランス6度総合優勝の最強チームですら出資する価値は無いとの判断だ。果たしてUCIワールドチームをスポンサーする価値とは何か。スカイのスポンサー問題、ひいては自転車レース界のスポンサー問題について考察していきたい。

 なお、チームスカイのスポンサー撤退に至る経緯についてはマルコ・ファヴァロさんの記事をご覧いただきたい。

2018年ツール・ド・フランス総合優勝チームに訪れた突然のスポンサー問題 Photo: Yuzuru SUNADA

スポンサーの目的は何か

 ワールドチームのスポンサーには、大きく分けて2パターンあると考えられる。一つはワールドチームの影響力を利用して、広告効果を生み出し本業の業績向上や組織の目的達成に生かす「ビジネスタイプ」だ。もう一つは情熱・道楽・大義のために、私財を投入してでもチームを持ちたいという富豪・企業・国家がスポンサーとなる「情熱タイプ」だ。

 マルコさんの記事にもある通り、スカイ社は当初は広告効果を見込んでスポンサーとなっていたが、すでにヨーロッパだけでなく世界的にも知名度を獲得した状況で、チャンネル加入者数が右肩上がりで増える状況ではなくなっていた。さらに競合サービスにも押され気味であり、ビジネスとしてチーム スカイへの投資効果は多額の出資に対して割にあっていなかった。

2012年、チーム スカイ最初のツール・ド・フランス覇者となったブラッドリー・ウィギンス(イギリス)。この時点でスカイは当初の目的は達していたと言える Photo: Yuzuru SUNADA

 それでもスカイ社のオーナーであるルパート・マードック氏とその息子のジェームズ氏の2人の情熱が後ろ盾となり、巨額スポンサーを存続できていた。それもスカイ社がコムキャスト社に買収されたことで、後ろ盾を失ったスカイ社がスポンサーを撤退することはやむを得ないことだった。

 もう一つ、チームサンウェブの例をあげたい。スポンサーを務めるサンウェブ社は、チームと無期限のスポンサー契約を結んでいる。サンウェブ社はヨーロッパ内外への旅行やスキー旅行などのサービスをオンライン経由で提供するオランダの企業だ。2017年シーズンからメインスポンサーになると、同年ポルトガルとドイツの旅行会社を買収するなどシェア拡大路線をとっている。

 サンウェブ社は世界各国を転戦するワールドチームをスポンサーすることと、世界各国への旅行を販売する本業との相乗効果が大きいと判断。長期に渡ってチームサンウェブのスポンサーを続けたい意向を持っていた。チーム側としても、継続的にチームを支援してくれるスポンサーを確保したいため、両者は無期限のスポンサー契約を結ぶに至ったのだ。

2017年ジロ・デ・イタリアで総合優勝を飾ったトム・デュムランとチームサンウェブのメンバー Photo: Yuzuru SUNADA

 スポンサーがビジネスタイプのチームとしては、他にはボーラ・ハンスグローエ、トレック・セガフレード、ロットNL・ユンボ、EFエデュケーションファースト・ドラパック、カチューシャ・アルペシンなど。情熱タイプのチームとしては、バーレーン・メリダ、BMCレーシングチーム、ミッチェルトン・スコットなどがそうだといえよう。

 もちろん「ビジネス」として出資しつつ、「情熱、道楽、大義」のためにチームのスポンサーを務める会社や国もある。クイックステップフロアーズ、UAEチーム・エミレーツ、ディメンションデータ、アスタナプロチームなどは中間タイプではないだろうか。

ビジネスタイプのメリット・デメリット

 ビジネスとしてワールドチームをスポンサーする目的の一つは、高い広告効果にある。特に述べ30億人が視聴するともいわれるツール・ド・フランスへの出場権を持っていることが大きい。

 ワールドチームの総予算はおよそ20億円程度だ。ただし、ツール・ド・フランスを勝てるようなチームづくりをするためには20億では少なく、30億円が必要ともいわれている。チーム スカイの場合は50億円かけていた。そのすべてを一社で賄っているわけではないが、ワールドチームのメインスポンサーになるためには少なくとも10億から20億円ほどの資金が必要となる。

 他の広告方法として、テレビCMとサッカーチームのスポンサーと比較してみる。

 まずはテレビCMだ。日本テレビの2018年度第1四半期のテレビCMによる収入は、約620億円だ。90日で割ると、1日あたり約7億円。2017年の日本テレビの全日平均視聴率は8.2%であるため、仮に日本の人口に掛けると約1000万人となり、最大でもこれらの人々にCMを届けるために1日あたり7億円使っているということになる。多くの人々にテレビCMを届けるためには相当な費用がかかることがわかる。

世界的な超名門クラブであるバルセロナのユニフォームには、「rakuten」のロゴマークが入っている ©FCバルセロナ

 また楽天市場でお馴染みの楽天は、サッカークラブの超強豪チームであるFCバルセロナの胸スポンサーを務めている。バルサのユニフォームに「rakuten」のロゴマークが入っているのだ。それだけのために、年間64億円といわれている大型スポンサー契約を結んでいるのだ。

 これらの広告費用と比較すると、ツール・ド・フランスに出場するワールドチームのスポンサーに20〜30億円でなれることはお得に思えてくる。広告費用として割安なことが、ワールドチームをスポンサーするメリットの一つだ。

 デメリットとしては、思ったようにチームが活躍しないと、広告効果が薄れてしまうことだ。不確実なものに何十億というお金を簡単には投入できないだろう。だからこそ、ツールでの広告効果以外に、自転車チームを持つことで本業との相乗効果を生みだすといった第2のメリットがないと出資は難しいだろう。

 チーム側にとってビジネスタイプのスポンサーはメリットよりもデメリットの方が目立つ。

 まず、広告の費用対効果が見込めなくなるとスポンサーは撤退してしまう、つまり頻繁にスポンサーが変わりやすいのだ。具体的にはEFエデュケーションファースト・ドラパックの過去のスポンサー企業をたどってみるとわかりやすい。

 メインスポンサーは2008〜2014年まではガーミン社、2015〜2017年はキャンデール社、そして2018年からEFエデュケーションファースト社が務め、現状2021年までの契約となっている。サブスポンサーに至ってはほとんど1年ごとに入れ替わっている状況だった。

 毎年のようにスポンサー探しに奔走し、チーム運営がなかなか安定しないことが問題となる。現に2014年にはかつてリクイガスだったキャノンデール・プロサイクリングチームと合併し、2017年にはメインスポンサーとの契約がこじれて、クラウドファンディングを使って存続を図るほどの状況に追い込まれていた。

EFエデュケーションファースト・ドラパックGMを務めるジョナサン・ヴォーターズ Photo: Yuzuru SUNADA

 チーム名が頻繁に変わることもデメリットだ。その度にジャージのデザインも大きく変わるため、チームへの愛着が湧きにくい。そこで、EF・ドラパックGMのジョナサン・ヴォーターズは、アーガイル(チェック)柄をチームのアイデンティティとするために、チーム名が代わってもジャージに必ずアーガイルのデザインを施していた。

 ただし、頻繁にスポンサーが変わることは一概にデメリットとはいえない。先日、ZOZOの前澤友作社長がプロ野球球団保有を断念したとのニュースが報じられたように、野球やサッカーだとチームを持ちたくてもなかなか持てないのが現状だ。ワールドチームは幸か不幸か頻繁にスポンサーが撤退するため、新たに参入するチャンスは多い。

情熱タイプのメリット・デメリット

 情熱タイプのスポンサーにとって自転車チームをスポンサーするメリットは、お金が続く限りはチームを持ち続けられることだ。前述したように、一般的にスポンサーを継続するほど、年々広告の費用対効果は減少する方向にあるので、何かしらの大義を掲げて出資を続けるケースも出てくる。

 ディメンションデータの場合、南アフリカで地域支援活動をしている団体「キュベカ」の志に賛同し、チームの活動を通じてアフリカの子供たちに自転車を贈っているのだ。自転車チームが広告塔になるという点ではビジネスタイプの手法ではあるものの、キュベカの活動を世に広めるための社会貢献活動ともいえよう。

 基本的には好きだから、大義のためにスポンサーを務めることになるので、デメリットは特にない。ただし、スポンサー費用が最終的にただのコストになりやすく、本業が不振になったり、スカイ社のように他の企業に買収されるなどにより、自転車チームに使う余剰資金が生み出せなくなったときは、スポンサーを降りざるを得なくなる可能性はある。

 チーム側のメリット・デメリットについては、BMCレーシングチームを例に説明していく。

2011年ツール・ド・フランス総合優勝を飾ったカデル・エヴァンス(右)とアンディ・リース氏(左) Photo: Yuzuru SUNADA

 BMC社のオーナーだったアンディ・リース氏は、2000年から自転車レースに関わっていた。しかし、度重なるドーピングスキャンダルにより当時のチームは解散となった。それでもリース氏の情熱は絶えることなく、2007年にコンチネンタルチームのBMCレーシングチームとして再出発。2011年にワールドチームに昇格し、カデル・エヴァンス(オーストラリア)がツール・ド・フランス総合優勝を飾るなど、チーム運営は順調で安定しているように見えていた。

 しかし、リース氏は2018年に75歳になるなど、年々影響力が低下しており、数年前からスポンサー撤退の話は出ていた。2018年4月にリース氏が亡くなったことで、スポンサー撤退は決定的となった。BMCレーシングは来季からポーランド企業のCCC社がメインスポンサーとなり、ほとんど別チームとして生まれ変わる形となったのだ。

 チーム側のメリットとしては、情熱タイプのスポンサーからは多額の資金を調達しやすく、強力なチームを築けることだ。デメリットとしては、BMC社のリース氏、スカイ社のマードック氏のように、情熱を担保していた個人の健康上の理由・経済的な事情により、突然後ろ盾がなくなるリスクを持っていることだ。突然の状況変化に対応しきれず、チームが解散に追い込まれることも少なくない。

今は改革の途上か、それとも…

 欧州サッカーのビッグクラブの収入源は大きく分けて3つである。チケット収入、放映権料、そしてファンクラブ収入だ。このファンクラブ収入の占める割合は決して小さくなく、ビッグクラブでも全体の3〜4割ほど占めているチームもある。

 自転車レースでは公道で行われるためチケット収入は見込めない。放映権料も、レース主催者の元に基本的に入る現状では、多くを望めない。最後のファンクラブ収入を増やすことができればいいのだが、前述したように頻繁にスポンサーが交代しやすい状況では、「チーム」を応援する文化が形成されにくいのだ。したがってスポンサー収入に依存するシステムになりがちである。

 また、ハンマーシリーズのようにワールドチーム自らレースの主催者となって放映権料を分配する仕組みづくりも始まっており、今は自転車レース界の収益構造の改革の途上にあるといえるかもしれないが、それで全てが解決するという問題でもない。

 そこへ、ビジネスとして広告効果を見込みつつ、チームを永続的にサポートするサンウェブ社が登場した。チーム スカイのようにスター選手を何人も抱えることは難しいものの、サンウェブ社の本業が発展しつつ、チームサンウェブが継続的に活動できれば、現在の自転車レース界においては一つの最適解といえるかもしれない。無期限スポンサー契約を結ぶ第2のサンウェブの誕生を期待したいところだ。

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