シクロクロストップライダーが秘話語るスティーブ・シェネルが海外目指す織田聖へ「人生を楽しもう」 日仏「クロス」トーク開催

by 小俣雄風太 / Yufta OMATA
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 シクロクロス現フランスチャンピオンのスティーブ・シェネル(チームシャザル・キャニオン)と前U23全日本チャンピオンの織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)のトークショー「クロストーク」が12月13日、ラファ東京で開催されました。平日にもかかわらず満席の大盛況だった日仏シクロクロストップライダーのトークセッションを企画、司会進行した小俣雄風太さん(onyourmark)のリポートでお届けします。

楽しそうにinstgramで自撮りするスティーブ・シェネル(左)と織田聖 Photo: Steve Chainel

 眩しく輝かしいチャンピオンを目の前にして、感慨深いものを僕は感じていた。シクロクロスのフランスチャンピオン、スティーブ・シェネル(チームシャザル・キャニオン)は僕の知る泣き顔ではなく、どこまでも底抜けに明るく、朗らかで人好きのするナイスガイだった。

長旅の疲れも見せず、気さくなスティーブ・シェネル Photo: Koichi Kasuya, go go, Canyon Japan

 2日間にわたり開催されるUCI公認レース「宇都宮シクロクロス」に参戦するため来日したシェネルを、空港で迎えそのままトークイベント会場であるRapha Tokyoへと案内。『クロストーク』と題し、フランスのシクロクロスの第一人者であるシェネルと、日本の将来を担う若手、織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)とのトークセッションを企画しました。

本企画の趣旨は

1. シクロクロスに情熱を燃やすシェネルと彼の活動を日本のファンに知ってもらいたい

2. 今後日本を背負って立つであろう織田聖という選手を知ってもらいたい

3. シェネルの言葉から日本のシクロクロスシーンのこれからを考えたい

というものです。また僕自身もシクロクロスを楽しんでいますので、こっそり4つめのテーマとして、「少しでも速くなるためのヒントを得たい」という個人的なテーマもありつつ……。

20年目のフランスチャンピオン

 僕がシェネルに強く心を動かされたのは、今年(2018年)のフランス国内選手権をライブストリーミングで観てから。ベルギー、オランダの国内選手権は、言ってしまえばワールドカップと変わらない選手が着を争うレース。特に目新しいこともないな……とフランス選手権を視聴したのでした。

 10年ほど前にフランスに住んでいたこともあり、フランスのシクロクロス事情はそれとなく追い続けていたのですが、いよいよ前年チャンピオンのクレモン・ヴァンチュリニの時代到来か、という思いで観ていると、しかし、レースはスティーブ・シェネルとフランシス・ムレというベテラン選手2名の争いになりました。

過去の写真を振り返りながらトークしたスティーブ・シェネル(中央) Photo: Koichi Kasuya, go go, Canyon Japan
宇都宮シクロクロスのキャニオンブースで笑顔のスティーブ・シェネル Photo: Koichi Kasuya, go go, Canyon Japan
2013年、パリ~ルーべでパヴェを走るスティーブ・シェネル Photo: Yuzuru SUNADA

 ムレは9度のフランスチャンピオンに輝き、世界選手権でも表彰台に乗ったことのある大ベテラン。一方のシェネルは、国内選手権で3度の2位に留まるなど、常にムレの影に隠れてきました。そんな彼は、2015年にロードのプロ選手を引退後、自身のシクロクロスチームを立ち上げ、若手選手を支えながら競技を続けることを決意。そして2018年、ムレとの激戦を制し初のエリートカテゴリーでのフランスチャンピオンに輝きました。ジュニア時代にチャンピオンになったシェネルにとって、およそ20年越しでの悲願達成となりました。

 そのゴールシーンに笑顔はなく、泣き顔でした。そしてその破顔ぶりが、強く僕の心に残ったのでした。レース後にいくつか出た現地フランスのニュース記事のどれもが、シクロクロス専業選手としての厳しい道のりを選んだシェネルを讃えるものでした。自転車大国フランスでも、どうやらシクロクロスはメジャーではないな、と思わされたのです。

「情熱はずっとシクロクロスにある」スティーブ・シェネル

 そこで、まずシェネルにぶつけた質問は、「フランスではシクロクロスとは自転車競技の中でどんな位置づけか?」というもの。ひと呼吸置いて、「すごくいい質問だ。そして長くなるよ(笑)」と前置きをしつつ、答えてくれました。

ラファ東京には2人のトークを聞こうと大勢のファンが集まった Photo: Koichi Kasuya, go go, Canyon Japan

 曰く「フランスではシクロクロス専門の選手になるのは難しい。連盟が強化のためのお金を出してくれないから、いい選手も育たないんだ。そしてフランスのレースでは賞金も……全くない。若い選手がプロになって、競技を続けていける環境が整っていないんだ。みんなロードレースのプロを目指してしまう。そういう状況を変えたくて、若い選手がシクロクロスに集中して取り組めるように、シクロクロスチームを立ち上げたんだよ」とのこと。

 聞いているとシェネルのシクロクロスへの想いは相当に強い。ロードのプロ選手としても活躍したシェネルですが、「情熱はずっとシクロクロスにある」と語ります。

「ロードを走ることで我慢できるようになった」織田聖

シクロクロスのバイクを見せながらトークする織田聖選手 Photo: Koichi Kasuya, go go, Canyon Japan

 一方の織田聖選手。今年はロードレースにも積極的に参戦し、Jプロツアーでのシングルフィニッシュを連発。年間総合新人賞にも輝くなど大活躍のシーズンになりました。シクロクロスではJCX初戦の小貝川においてエリートレースで初優勝。その前日にもロードレースを走っているなど改めてその強さが目立ちます。

 ロードレースとシクロクロスの両立について、「たしかに疲労など大変な部分もあるんですが、ロードでは国内トップレベルの選手たちにもついていけるようになり、辛いところで我慢する耐性がつきました。シクロクロスにも活きています」と、慌ただしくも充実している様子。

シェネルが語る国内選手権の難しさ

 日本では前週に全日本選手権が開催されたばかり。U23のディフェンディングチャンピオンとして臨んだ聖選手は、雪に対応できず8位という結果に終わりました。自身もその結果に落ち込んだといいます。

全日本シクロクロス選手権U23のレースで雪に苦しんだという織田聖 Photo: Kenta SAWANO 
J PROツアーでU23のポイントランキングで首位が確定し、ピュアホワイトジャージを守った織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) Photo: Shusaku MATSUO

 3度の2位を始め、国内選手権で何度も悔しい思いをしてきたシェネルは国内選手権の難しさをこう語ります。「ある意味で世界選手権よりも国内選手権の方が難しい。なぜかというと、国内選手権は『勝たなければ意味がないレース』だから。2位3位は意味がない。そしてそれがたった1日、たった1時間のレースで決まってしまう。その難しさがある」

若い選手が世界選手権を走ることについて

 織田選手はジュニア時代から日本代表に選出され、世界選手権の経験も豊富。世界選手権ならではの難しさを聞くと、「今年(2018年)はUCIポイントもあったので、4列目スタートと、いつもより前の位置を確保できました。でも、この辺りの選手はみんな完走することに必死。スタート直後から混乱していてそこに巻き込まれてしまいました。後方のスタートだとこういう混乱を回避できるんですが、真ん中の位置でのスタートならではの難しさを感じました」

2015年の全日本選手権を制した織田聖 Photo: Ikki YONEYAMA
2015年の全日本選手権を制し  日本チャンピオンジャージを着た織田聖 Photo: Shusaku MATSUO
チームジャージを着てトークする織田聖 Photo: Koichi Kasuya, go go, Canyon Japan

 一方のシェネルは、若い選手にとって世界選手権は2つの難しさがあるといいます。「一つ目は、国の代表というプレッシャー。特に若い選手にとっては、重圧になる。自分の背後に出たくても出られなかった選手たちがいることを実感するんだ。そして二つ目は、自分の家族や友人、スポンサー、自分の活動に関係する全員が集まるということ。応援が力になるのはもちろんだけど、いい走りをしないとという責任ものしかかってくる」

シクロクロスは変化の最中にある

 世界の第一線で長いキャリアを積むシェネルにぜひ聞いてみたかったのが、シクロクロスという競技の現在について。いちファンとしても、レースやそれを取り巻く状況がこの数年だけでも大きく変わりつつあるのを感じます。日本でもUCIレースが増加していることや、レースの国際化などなどについて聞いてみました。

2011年 UCIシクロクロスワールドカップ第5戦で力走するスティーブ・シェネル Photo: Yuzuru SUNADA

 「かつてはツール・ド・フランスを勝つような選手がシクロクロスのナショナルチャピオンだったりもした。けれど、今ではすごく専門化してきている。シクロクロスは観戦しても面白くて、それこそコーナーのひとつひとつに見所があるし、1時間と短い時間に凝縮されたスペクタクルがある。ツールの平坦ステージを5時間、見続けるのよりずっと面白いよね(笑) そしてそういうことに意識的なのはアメリカ人たち。近年のアメリカのシクロクロスの盛り上がりはすごいからね。僕が日本にいるのも、宇都宮でのUCIレースを走るためだけど、いま日本にUCIレースが4つあるのもすごいことだよ。…えっ、もっとあるの!?」(2018-19シーズンは国内に8レース開催)

 「ポジティブなところでは、UCIのルールが2年前に変わったことで、シクロクロス専門チームを運営することができるようになった。2015年の夏には僕たちのチームぐらいしかフランスにはなかったけれど、今は3つのチームがある。これによって、シクロクロスに取り組みたい若い選手たちにとってちゃんと走る機会を与え、生活ができるお金を稼ぐことが可能になる。もちろん、チームの運営は大変だ。僕もシーズンの6カ月間すごく大変だけど、冬の6カ月だけだ、って言い聞かせて過ごしているよ。でも、7月くらいにはもうシクロクロスのことで頭がいっぱいになっちゃうんだけどね」

人生を楽しむこと

 シクロクロス、ロードレースにおいて世代のトップを行く聖選手の目指す先は、海外のようです。何度か、本人の口から海外で走れる選手になりたい、という言葉が聞かれました。そんな聖選手に、シェネルのアドバイスは、

 「とにかくハッピーでいてほしい。自転車を乗ることを楽しんで、人生を楽しめていればOKだよ。ひとつのことに集中しすぎて視野が狭くならないように、楽しむ気持ちを持とう」

 フランス語の常套句に、「セ・ラ・ヴィ」、というのがあります。「It’s the life、それが人生ってものだからね」、とさらりと困難を受け入れるフランス人の気質をよく表しています。シクロクロスにおいて、数々の栄光とあるいはそれ以上の辛酸を舐め続けてきた偉大なフランスのチャンピオンが発すると、その意味の深みが増します。

宇都宮シクロクロの前日試走でシケインをバニーホップでクリアするスティーブ・シェネル Photo: Koichi Kasuya, go go, Canyon Japan

 気さくでユーモアを交えながら2時間近いトークセッションを繰り広げてくれたスティーブ・シェネル。フランスのチャンピオンジャージ「マイヨ・ブル・ブラン・ルージュ」をまとい、12月15日、16日の宇都宮シクロクロスではどんな走りを我々日本のファンに見せてくれるのでしょうか?

小俣雄風太
小俣雄風太(Yufta)

Raphaプレスを経てライター /エディター。ロードサイクリングとシクロクロスレース愛好家。自身もシクロクロスではC1を走る傍ら、年に2回開催される前橋シクロクロスレースではMCを務める。

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