話題のウエイブワンジャージミステリー雑誌『ムー』サイクルジャージ誕生秘話、ボツにめげない女性デザイナーの情熱ウエイブワン

by 大澤昌弘 / Masahiro OSAWA
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 オカルト・ミステリー雑誌との異色の組み合わせが話題を集めた、月刊『ムー』のサイクリングジャージ(以下、「ムージャージ」)。ナスカの地上絵、シュメール人、死者の書などをモチーフにしたミステリー感がたっぷりのサイクルジャージだ。デザイン性の高さがファンの心を捉え、売れ行きも上々。コラボレーションを仕掛けたウエイブワンは笑いが止まらないが、すんなりと商品化されたわけではない。ムーの愛読者”ムー民”を自称するウエイブワンの女性デザイナーの熱意がヒット作を生み出した。

ムー関連グッズを担当したウエイブワンの太郎田能之プレス部マネージャー(左)とオーダージャージ部デザイナーのS氏 Photo: Masahiro OSAWA

ダントツに理解できない企画

 「今まで手掛けたなかで、ダントツに理解できない企画でした」。当初を語るのは、ウエイブワンのプレス部マネージャー太郎田能之氏。キャラクターやブランドなどをサイクルジャージに登場させるウエイブワンキャストの新商品として『ムー』が提案されたときに抱いた本音だった。

ダントツに理解できない企画。やるつもりはなかった語る太郎田能之氏 Photo: Masahiro OSAWA

 『ムー』は1979年10月創刊。2019年で創刊40周年を迎えるオカルト・ミステリー情報誌である。提案したのは男性かと思いきや、意外にも女性。ウエイブワンのデザイナーでムー愛読者のS氏だった。S氏は小学生の頃に『ムー』と出会い、高校生の頃は『ムー』を読むために図書館に通い詰めた。大人になって、情報・ドキュメンタリー番組『超ムーの世界』に出会い、ムー熱が再燃。ミステリーへの興味を失うことはなかった。心のどこかに、いつもムーがいた。

 そんなS氏が本気でムージャージを作ろうと思ったのが、2017年春のこと。当時のウエイブワンの営業担当が展示会に行った際、『ムー』のコラボ商品を発見したことに始まる。報告を受けたS氏は「えっ、『ムー』ってグッズにしていいの?」と衝撃を受ける。以後、マネージャーの太郎田氏を説得する日々が始まった。

 「『ムー』の話を何度もしてくるんですよ。その都度スルーしていたんですけどね」と太郎田氏。しかし、S氏はあきらめなかった。ラフ案を作り、太郎田氏に見せた。

ラフ案には採用されなかった「つちのこを自転車でふまないようにするジャージ」なども Photo: Masahiro OSAWA

 当時を振り返った太郎田氏は「最初に提出してくれたナスカの地上絵のラフはいいデザインでした。自転車に轢かれそうなツチノコも面白いアイデアでした。でも、自転車と『ムー』のつながりが見えない」とし、話を進めようとは思わなかったという。

 しかし、S氏の熱意に押され、太郎田氏は「デザインもいいし、話すにつれて次第に話を進めてみてもいいかもしれない、という気持ちにはなってきた」と振り返る。そこで、『ムー』の版元、学研プラスにコンタクトをとり、商品企画を提出した。2017年夏のことだ。ただし、この段階でも、太郎田氏は「先方がNGを出すはず」というのが本音だった。本気でやるつもりはなかった。

 しかし、先方からの返事はまさかの「OK」。かなり乗り気だったという。社内にいるノリノリのSデザイナー。ノリノリの学研プラス。その間に挟まれ、太郎田氏はマズイ状況に追い込まれつつも、なお、誰が買うのかわからず、割り切れていなかったようだ。

 そんな太郎田氏の気持ちを後押ししたのが、『ムー』のイベント。創刊40周年を記念した展示会の「ムー展」が2018年10月開催に向けて準備が進んでおり、ジャージ販売のチャンスになることがわかった。相手がサイクリストでなくともファンも取り込めれば、販売に広がりも出せると見込める。ようやく気持ちが前に進み始めた。

デザインを巡る熱い戦い

 こうして本格的なムージャージのデザインに取り掛かったウエイブワンだが、ジャージデザインで驚きもあった。それは、学研プラスから提供された素材が少なかったことだ。受け取ったのは、『ムー』の三上丈晴編集長の写真と『ムー』のロゴだけだったという。「ウエイブワンキャストは、提供素材をもとにジャージをデザインしていきますが、今回は違いました。その意味で、デザインの自由度は高かったです」(太郎田氏)

 自由度の高いことで難しい問題にもあたる。「『ムー』らしさとは何か」「何をモチーフにすれば”らしさ”が出るのか」をデザインに反映しなければならないからだ。しかし、それはS氏には無縁だった。

 S氏は、気ままにデザインしたわけではない。『ムー』はどんな雑誌なのか、と聞くと「世の中の不思議をあくまで科学的な見方で伝える雑誌」と編集方針を聞いたかのような答えがきっぱりと返ってくる。そのうえで、扱うモチーフも「ナスカの地上絵は絶対なんです」と返ってくる。『ムー』らしさ、何をモチーフにするべきかは完全に見えていた。さすがムー民である。

絶対に外せなかったというナスカの地上絵をあしらったジャージの月刊ムーナスカライン裏面 Photo: Masahiro OSAWA

 しかし、それが太郎田氏に通じるとは限らない。「ムー民 VS. 一般人」のもと、デザインを巡る戦いは熱かった。太郎田氏が戦いを振り返る。

 「大きなムーのロゴ入りジャージは見た目が怪しいから、ボツにしようとしたんですよ。でも、別のを見ている隙に(S氏が)採用案に差し込んでくるんですよ」

 「シュメール人をデザインしたジャージの件も、シュメール人が…、シュメール人が…、と騒ぐんですよ。終いには“シュメール人があるから大丈夫”とか言われて…。意味わかります? 普通の感覚で見たらどう思います? あ、シュメール人だ! とか思います?」

ジャージのポケットに描かれたシュメール人 Photo: Masahiro OSAWA

 一般的な感覚でとらえるなら、太郎田氏が指摘することはごもっとも。しかし、S氏は太郎田氏を寄り切っている。『ムー』のロゴ入りジャージも、シュメール人も反映されており、当初は理解を示さなかった三上編集長モチーフのTシャツも完成させている。

ムー展のみの限定ジャージ

 そして、太郎田氏は今や、S氏のデザインの作り込みを絶賛する。「他社製品とも見比べて、ここまで『ムー』のアートを使ってデザイン性を高められたのはうち以外にないと思います」。

 通常商品の2.5倍となる売上げに達しており、ムージャージは今や、「ムー様」と崇める存在。売上げを伸ばせたのは、自転車乗り以外に販売するために、Tシャツや半袖ジャージも揃えたところもポイントとするが、いずれも決め手はデザインだろう。その意味でムー民であるS氏が果たした役割は大きそうだ。

 ちなみに、ウエイブワンのムー関連グッズに王道の宇宙人ネタが少ないといった指摘もあるようだ。S氏は悔しがる。「本当はあるんだよ、とは言いたい。けど、ボツなんだと」。

ボツ案。ここには王道の宇宙人ネタも。復活の日は来るか Photo: Masahiro OSAWA

 今回、売り出されているのは、サイクルジャージ5点(うち1点はムー展のみの限定ジャージ)とTシャツ2点、サコッシュ2点。デザインをブラッシュアップする過程でボツネタになったものも多く存在する。ボツ案も完成度が高く、売り出されなかったことがもったいないと思えるほど。となれば気になるのが、第二弾の販売やボツ案の復活についてだ。

 第二弾販売については「うちはやりたいと思っていますが、あとは交渉次第です」と太郎田氏は話す。ボツ案の復活についても「アブダクションは完成度が高い。ボツ案をブラッシュアップして送り出すことも考えたい」という。果たしてその日はやってくるだろうか。

『ムー』三上丈晴編集長のコメント

 女性デザイナーの情熱が生み出したムージャージ。ウエイブワン視点から述べてきたが、肝心の学研プラスはどう思っているのか。最後に、今回の取材にあたり、『ムー』の三上丈晴編集長からいただいたコメントも紹介しつつ、締めくくりたい。

『ムー』三上丈晴編集長への質問と回答

『ムー』三上丈晴編集長 提供:学研プラス

−−サイクルジャージの出来をどう見ていますか?

三上氏:非常に完成度が高いのではないでしょうか。まさに、ムー度満点!! ぜひ、ご愛用のうえ、ミステリースポットへ旅してください。行く先々で何かに遭遇したら、ムー編集部へご連絡を。

−−ムーらしさはどこにありますか?

三上氏:異星人やUMA、古代文明といったミステリーアイテムの数々は『ムー』でも主要なテーマです。一見、バラバラに見えるそれらが同居するシリーズ性に、『ムー』ならではの「世界の謎と不思議」が表れています。

−−コラボアイテムには、割とポップなデザインのものがあります。シリアスに論じる『ムー』との間に違和感があるとも指摘されそうですが、このあたりをどうお考えですか。オカルト・ミステリー情報誌「ムー」の目指す方向性とのズレはありますか?

三上氏:ムー的な世界の入り口やきっかけになるならば、デザインやキャラクターの多様性は十分に、ありです。ユーモアもあるからこそ、『ムー』本誌のシリアスな論調が際立つもの。かわいい、ポップ、コミカルなどの表象から、奥深い世界へ足を踏み入れてください。しかし、まさか自分がデザインされるとは思っていませんでした。周囲からどう思われるか、責任はもてませんが(笑)、大切に着てください。

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