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つれづれイタリア~ノ<123>突如発表された「スカイショック」 イタリアの自転車大手メディアに見る舞台裏

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 イギリスが生み出した最強ロードレースチーム、チームスカイ。2010年に電撃的なデビューを果たし、ブラッドリー・ウイギンス(イギリス)、クリストファー・フルーム(イギリス)、ゲラント・トーマス(イギリス)などを中心に、まさに「無敵」といえるまでに急成長しました。例を見ない豊富な資金に支えられ、選手の契約継続や新しいジャージも発表されたばかりにも関わらず、12月12日付で、突然公式ウェブサイトに「2019年12月31日をもってスカイグループがスポンサーから撤退する」というメッセージが公開されました。世界中に激震が走り、イタリアでも大きく報道されました。やはりこのチームの影響力は計り知れません。

激震が走った「スカイショック」。海外メディアはどう見ている? Photo : Yuzuru SUNADA

 イタリアと深い関係のあるチームスカイ。ピナレロ、カステッリ、カスク、フィジーク、エリート、スカルパなど多くのイタリアメーカーはこのチームを支えています。チームスカイの中にイタリア人選手もスタッフも大勢います。

イタリア人選手一覧

・レオナルド・バッソ(24歳、オールラウンダー)
・ジャンニ・モスコン(24歳、オールラウンダー・スプリンター)
・サルヴァトーレ・プッチョ(29歳、パンチャー)
・ディエゴ・ローザ(29歳、クライマー)

イギリスのプロジェクトとして発足

 自転車文化を通して、イギリスに健康アップ、肥満撲滅、エコ生活に対する意識の向上などを浸透させるため、2008年にイギリス自転車連盟によるプロジェクトが始まりました。プロジェクトの責任者は、当時のイギリス自転車連盟会長のデイブ・ブレイルスフォード氏。より早く成果を出すために、イギリスの自転車チームによるツール・ド・フランス制覇は絶対条件でした。そのために、世界に通じる強いチームを作る必要があったのです。

2010年1月に開催されたキャンサー・カウンシル・ヘルプライン・クラシックのチームプレゼンテーションに立つ新生チームスカイ Photo : Yuzuru SUNADA

 そのスポンサーとして集まったのが、イギリス大手有料放送局のスカイグループ、スポーツウェアのアディダス、ジャガー、そして自転車ブランドのピナレロです。

いまや「敵なし」の強さを見せるチーム スカイ Photo : Yuzuru SUNADA

 ロードレースのファンでもあるスカイグループのオーナー、ルパート・マードック氏は、世界的なイベントであるツール・ド・フランスに優勝すれば、英語圏におけるスカイの契約件数が増えると見込み、3000万ポンド(当時約48億円)を超える予算を注ぎ込んでスーパー・チームを作り上げました。予算の3分の1はスポーツ科学研究に注がれ、「マージナルゲイン(小さな改善の積み重ね)理論」に基づき、最新の科学的トレーニングを取り入れました。結果としてグランツールを中心に、「無敵」といえるほど強いチームが誕生し、未来の自転車競技の新しい道を開拓したのです。

 そんな、絶好調のチームを、なぜいまスカイグループが手放すのか。チームの未来がどうなるのかが気になるところです。イタリアのメディアの情報を見ると、悲観的な見方と楽観的な見方に分かれています。

メディア再編でチームスカイが“お荷物”に?

 多くのメディアは、経済的な理由でチームが完全に解体されてしまうと見ています。確かに40億円以上の予算を組む自転車のプロチームは他にありません(ワールドツアーチームの年間予算は20億円とされています)。メインスポンサーであるスカイグループが降りる背景には、世界のメディアをめぐる急速な再編にあると分析されています。

スカイショックを大きく報じたイタリアのスポーツ新聞「ガゼッタ・デロ・スポルト」 ©La Gazzetta dello Sport

 今年10月にスカイグループはアメリカを拠点とする情報通信、メディア・エンターテイメント会社であるコムキャストに回収されたばかりで、マードック氏がグループから去ることになりました(コムキャストは米のテレビ局、NBCやユニバーサルスタジオを所有する会社です)。一新した経営陣は体制を再編成し、チームスカイへの年間予算は高すぎると判断された模様です。(参考記事:産経新聞『コムキャスト提示が上回る 英スカイ買収、4.5兆円』

 マードック氏が降りたことで、チームを支える理由がなくなったということです。この急な展開の背景には、米ネットフリックスや英DAZN(ダゾーン)などによるインターネット動画配信の利用者の拡大があり、中国からワンダグループ(大連万達グループ)も世界に進出し始めています。既存メディアとして大きく生き残りを探る中で、チームスカイは不要な荷物になったのです。さらに出口の見えない「BREXIT」(英国によるEU離脱交渉)が、スカイグループの収益に暗い影を落としていることも否めません。

核心部分は残る可能性も

 一方、楽観的な見方を示しているメディアもあります。マードック氏の息子であるジェームズ氏(46歳)は、21世紀フォックスのCEOと米電気自動車大手会社テスラともビジネス関係にあり、サイクリストでもあります。ジェームス氏を中心に、チームマネージャーのブレイルスフォード氏はすでに水面下で動いているようです。

デイブ・ブレイルスフォード氏 Photo : Yuzuru SUNADA

 チームスカイに自転車を提供しているイタリアのバイクブランド、ピナレロは、2016年に世界最大のファッション業界大手企業体とされているフランスのVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループの傘下に入り、チームとの関係を逃すまいとしています。最終的にチーム名は変わるかもしれませんが、“コア”が残る見込みはあります。

UCIにとっても大きな打撃に

 実はチームスカイの解体の噂は今年3月からありました。クリーンで違法行為に頼らないチーム作りに相反するように、相次ぐドーピング疑惑で多くのファンを失望させていました(参考記事:Cyclist『2018年上半期に報道された“噂”を一挙公開』)。今年行われたツール・ド・フランスのチーム・プレゼンテーションでは、多くの観客がチームスカイの選手たちに向かって厳しいブーイングの嵐を浴びせていました。

 さらに今年からUCI(国際自転車競技連盟)の会長の座がイギリス人の手からフランス人に渡った瞬間、フランス人によるイギリスの毛嫌い感も相まって、チームスカイに対する風当たりは強くなる一方でした。

報道陣に囲まれるフルーム Photo : Yuzuru SUNADA

 しかし、UCIとしては世界最大手のスポンサーを失うことは決して喜ばしいことではありません。毎年のように膨らむレースカレンダーの前で、どのチームも経営に行き詰まっています。こうすることで、新規の大型スポンサーは入りにくい構図になりかねないからです。

 レースから引退したアルベルト・コンタドール(スペイン)やバーレーン・メリダのエース、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)も、「サイクリングニュース」に掲載されたコメントを見てみると冷静さを演出しています。確かに自転車業界ではスポンサーの交代は珍しくありません。プジョー、マペイ、Tモバイル、レイディオシャック、リクィガス、サクソバンク、ティンコフ、そして今年はBMC。昔から大型スポンサーは自転車業界に入ったり出たりを繰り返しています。

 しかし、スカイのようなビッグネームはしばらく出てこないだろうとの見方が一般的です。東京オリンピックが開催される2020年にどんな新チームが生まれるか、見守るしかありません。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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